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ドラゴンキラーはおよびでない  作者: 坪倉凛
1章 竜殺しは修行中
11/23

10 これからのこと

途中で視点移動があります

「Dランクかー。どーしよこれ」


 日も暮れ始めた頃、俺は探索者ギルドから薦められた宿屋をとった。その宿で夕食を摂った後、俺とゲイルは今後の方針を話し合っていた。


 探索者登録した後すぐに、とりあえず道中手に入れた素材を売り払った(明らかにレベルの違う、大断絶より内側にあったものを除いて)。

 手に入れたものの質と量から、俺たちの実力は十分にDランクに達していることがわかる。しかし、いかんせん相手は探索者ギルド。とにかくデカい組織だ。実力を認められても、それですぐにランクアップ出来る訳じゃない。


 所属する組織が大きければ大きい程、例外というのは簡単には認められないのだ。

 ……いやまあ、素材売っただけで例外認めろや、なんて傲慢なのは分かってるけどね。


 なので、明日からはランク上げを頑張んなきゃいけない。


「はあー。めんどくさいなー」

「何を溜息なんてついているんだ。カナタにとって、Dランクに上げることが、それほど困難なのか?」


 俺の部屋に来ていたゲイルが、そんなことを聞いてきた。

 ちなみに俺とゲイルは別々の部屋だ。当たり前だ。相手が竜だからって女性と同室するなんてできるかよ。


「ゲイル……分かってて聞いているだろう」

「君は勇者のことを気にしすぎだ。いくら勇者でも、向こうはカナタのことを知らないのだ。気付かれはしないだろう」

「同じ勇者同士、なんかこう感知したりとかあるかもしれないだろ」

「聞いたことがない話だ」


 ちょっと呆れ顔なゲイルだった。

 わかっている。俺が心配し過ぎなのは。


 万が一、召喚されなかった勇者だとバレたらどうしよう。


 そんなこと、起こる訳が無い。けれど、もし何かの間違いで、勇者と思われたら……この劣化した能力で、魔族との戦争に赴かねばならない。

 それを徹底して避けたかったのに、まさかDランクに満たないと船に乗れなくなってるとは。


「そんなに気になるのなら、私が他の大陸まで運んでやるが」

「……いや、もう探索者ギルドに登録してしまった。ランクを上げずに他の大陸に行くと、面倒なことになる」

「Dランクに満たないやつが、どうやってミストラル大陸を出たのか、ってことか。面倒なことだな」

「まあ、いいさ。この不自由が、この世界での俺の身分を保証するんだからな」


 しかし、ランク上げだ。

 シェリアに詳しく聞いたところ、FランクからEランクへの上げ方は簡単で、Fランクの依頼を10回達成することだった。

 Dランクへの上げ方はさらに簡単で、筆記、戦闘、技能の三種の試験を受け、合格すればいいとのこと。

 Dランクは三つの合計点、もしくは一つだけでも突出して良いものがあれば合格となる。

 なので、筆記や技能は低レベルでも何とかなる。戦闘で点数を稼げばいいだけだ。

 ちなみに探索者ギルドに色んな施設が併設されていたのは、これらの技術を身に付けさせるためらしい。


「けど、さすがに10個は、厳しいよなー」


 一週間後が勇者のお披露目だ。依頼は普通、一日に三つも四つも受けられはしない。

 その後で、Dランク昇格のテストを受けなきゃならない。

 かなり厳しいわな。

 ……まーやるだけやるかな。考えが無い訳じゃないし。


「明日から依頼を受けていくけど、いいか?」

「私は構わないさ。君と旅が出来れば、勇者だろうが魔族だろうが、何が来ようと関係ないさ」

「……そういうことを他の人の前で話すなよ?」

「嘘は言ってないのだが」

「だからなんだけどね」


 苦笑する。

 彼女のそれは、自分が強くなるためのものでしかない。けれどその発言だけ聞くと、俺のことを慕っているようにも取れる。

 ……無いわー。


「それじゃあ、私はもう休ませてもらうよ」

「ああ、わかったよ、また明日」


 ゲイルが出て行くのを見送る。

 ……ま、どうにもならないことは仕方ない。目をつけられない事を祈っておこう。

 さっさと寝るとするか。



《ゲイル視点》



 部屋に帰ってきて、私は小さく息を吐いた。


「仕方のない奴だ」

 

 勇者から逃げたいという気持ちは、分からなくはない。誰かに強制させられる戦いというのは、決して楽しくはない。

 それに彼は、戦闘そのものに楽しみを見出してるわけではない。

 彼は、ある程度の不自由が社会に属する証だと言っていた。けれど、きっと彼にとって「勇者」という不自由は、荷が重すぎるのだろう。

 彼がこの世界に来る前に「大切なものを失った」と言っていた。そして「あんまり人間は信じられないかもしれない」とも。

 そんな彼に、人の期待を背負う勇者は、魅力には感じないはずだ。


「……まあ、なるようにしかならないか」


 ここのところ、カナタのことばかり考えている。

 彼は強い。竜に対してだけではない。単純に強い。地道に努力を続けるという、一番難しいことを当たり前にこなしている。それも、好きでもない戦いに関して。

 私は戦いが好きだ。だから続けられる。だけど、好きでもないことを続けられるとは、到底思えない。


 だからこそ、彼と一緒にいれば、自分の足りないものが見えてくるかもしれない。もっと強く変われるかもしれない。

 そして何よりも、彼のスキル『竜殺し』が、一体何のスキルの劣化版なのか。とても、気になる。

 彼は一体、どんなスキルを持って、この世界の勇者となるはずだったのか。

 彼は一体、何の為に、この世界に喚ばれたのか。


 あの日、負けた時から、私の心の中にカナタがいる。

 今までの誰よりも、強く。


「本当に、君のことは気になって仕方ないよ」


 うっすらと微笑し、私はベッドへと潜り込んだ。

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