第6話 『言ってはいけないこと』
「条件はそれ以外にないの?」
ゼルはどうしても行きたくない。まだ、セリア以外の女の人なら嫌でもなんとか我慢できる。だが、この女と一緒にショッピングに行くことは絶対に嫌だ。例えば、セリアと一緒にショッピングか1日給料無しかどっちか選べと言われたら、絶対に迷わず後者を選ぶ。それほど彼女のショッピングはとても時間がかかるのだ。
「うーん、ないわね。まぁ、この条件が飲めないというならラウズのハゲに言うだけだだから気にしなくていいわよ。」
「いや、よくねーよ。逆にそっちの方が嫌だよ。あっ!でもラウズがハゲなのは認める。」
セリアの発言にツッコまずにはいられないゼル。でも、ラウズがハゲなのは両方認めている。その証に2人とも親指を立てて笑っている。だが、後ろからやってくる恐ろしいハゲの存在をこの時は気づいていなかった。
「へぇ~、ハゲに言われたくないことって何だろうな」
2人の顔から冷や汗がたくさん出てくる。なぜなら、この声があのラウズによく似ている。いや、似すぎている。あまりにも恐ろしくて2人とも両方の顔を見る。
「(おい、どうすんだよこの状況!」
「(知らないわよ。そもそもこんな状況作ったのはあなたでしょ!)」
「(そうだけどよ、おまえにも原因があるだろ。)」
2人は口が開いていないのに、今の状況では会話成立するぐらい同じ気持ちなのだ。ただ、会話と言ってもどちらに濡れ衣を着せるかの話しかしてない。
「まず、誰から言い始めたんだ?」
さっきとは裏腹に声が優しい。逆に優しいから怖い。そいて、セリアとゼルは想い出した。人のやさしさほど怖いものはないと。
『......』
2人は俯きながら黙っている。そして、時が過ぎればいいやという考えしか思いつかないほど混乱している。また、今の状況は絶望に近い。
「じゃあ分かった。今ここで正直に言えば今月の給料増やす。」
この条件なら正直に言いたいところだろうだが、これだけなら全然釣り合わない。なぜなら、ラウズの怒りはまるでドランゴンのように恐ろしいからだ。
『......』
「うーん、休みをやる。」
これも釣り合わない。釣り合わなければ黙り続ける。
「これならどうだ!今月の給料2倍!」
『......』
昨日までの俺なら正直に言ってしまうところだが、魔導書の高さに絶望したからまだ言えない。
「しょうがない、ゼルを貸してやるから言ってくれ。」
「はぁ?何で俺なんだよ。」
驚きの発言でゼルは顔を上げた。目の前にはラウズが立っていた。ただ、いつものラウズとは違って殺気があふれ出ている。また、さっきの発言では誰も言わないだろうとゼルは思っていたがそれは間違いだった。
「ラウズをハゲ呼ばわりしたのは、ゼルです。」
セリアがそういった。理由は分からないがそういったのと同時に、ゼルは絶望した。