二日目
愛嬌自宅にて
「何してんの」
「朝から人の家に上がり込んで何してるはないだろうが」
「居間で寝てる男に対してかける言葉で有るだろうよ」
男、つまりは愛嬌はむくりと起きあがり、背伸びをします。
「誰か遊びに来てたのか?珍しい、訳でもないかこの家なら」
「どういう意味だ?」
愛嬌の家に勝手に上がり込んだ男は、そう言いながら卓袱台の前に座ります。
「あんたは何だかんだいって人望があるという事さ」
「そいつは有り難い言葉だが、何でそう思ったんだ」
「なんでって」
愛嬌の言葉に、男は彼を指さしました。
正確には、彼ではなくて彼の背中にかけてある毛布。客用の物ですが、わざわざ探してきたのでしょう。
「わざわざ居間で寝る趣味はないだろう」
「無いな。コーヒーでも飲むか」
「僕は紅茶派だ」
男の言葉を鼻で笑い、台所に愛嬌は向かいます。
台所には、昨日の晩飯の洗い物が残って居ませんでした。
「なぁ」
「何?」
「お前、人の家に上がり込んで洗い物をする趣味とか有るか?」
「無いな」
洗い物は綺麗に洗って食器棚に片づけてありました。その中には昨日出した湯飲みが4つ。
「なぁ」
「茶菓子の好みは特にない。何でも食べる良い子だからな僕は」
「連休って来週だよな」
「そうだけど」
「仕事、頼んで良いか?即急で、どうもファンタジーな仕事だけど」
そんな言葉を、片づけられた洗い物をみながら言います。
こんな顔でも、こんな顔だからこそでしょうか?彼は義理堅い人間です。
天使と違い悪魔というのは、利益を約束された契約は確実に叶える物です。
「まずは、朝飯食おうぜ。お前さんは学校だろう」
あと、紅茶な、と彼はすかさず付け加えました。