実は
「他にも色々あるが、僕らの集団の場合大抵の説明の仕方はキリスト教系の神話に基づく」
「ケルトとかユダヤ教の神話か?」
「そうだな。所で今更だが灰皿はあるかい」
「煙草を吸わない学生の一人暮らしの家に灰皿があるとか考えるな」
そう言って、愛嬌は湯飲みを指さしました。
すまないね、洗い物はしておこうと彼は湯飲みに灰を捨てます。
「諸国にこういった集団は有るが、その説明の理論は多々に及ぶ。キリストや仏教イスラム、道教、民俗信仰、諸々の宗教であれ、科学的な検証を加えた上での理論までね。その中で自らが信仰したり、信じたり、まぁ何らかの理由でここが良いと思う団体の元につく訳だ」
「はぁ。魔術も自由主義の時代な訳か」
そうそう、とマルティンは言いました。
「信じてくれたかい」
「嫌という程ね」
そう言って、愛嬌は元の席に戻り、三人を見回して
「君らが何者かは解った。次は君らが何をしようとしているのか、そこを聞こうか」
「あぁ、私たちはキリスト教、正式にはイギリス国教会、この国で言う聖公会でしたか。まぁそこが上と言うか信仰してると言うことです。イギリス系の組織というわけですね」
佐織はそんなことを言います。
「話を逸らせようとしても無駄だよ」
愛嬌ははっきりと言い切りました。
何を目的にシスターニコラを追いかけているかと言う点について、彼らはは話たく無いというのが良く解ります。
そして皆の沈黙。話を逸らすことも許さない愛嬌の睨み。
どう考えてもこの男の顔は学生ではありません。
「君らが魔術結社というのは、まぁ解った。先ほど彼がやってくれたマジックに種が有るかは見破れなかったし、君らの話の筋も何となくは解る」
「けれど何故彼女を追うかとは別の話だ。って事だろう」
マルティンが先をとり、愛嬌は頷きます。
「僕らが彼女を追う理由は、彼女の身柄を確保するためだ。そこまでは解ってくれると思う」
「その先が、話せないことか?」
「そうなんだよ。僕も説明したいんだがね」
マルティンは言いづらそうに、根本まで燃えたタバコをくわえたまま顔を歪めます。
「フィルターも焼けるぞ」
「あぁ」
彼はそう言い、タバコを湯飲みに入れます。
じゅう、と火が消える音がしました。
ポケットからタバコの箱を取り出し、もう一本吸うか吸わないか迷うそぶりをして、その箱を机の上に置きます。
「さっき僕がなんて言ったか覚えてるだろう。訳を話せと」
「話せない。実はそれが合議の本当の結果さ」
二人は顔を見合わせました。その二人をみて、愛嬌は口を歪めます。
恐らく、彼らは
「君らは、野蛮人だな」
「なんとでも言ってくれ」
顔を歪めて、マルティンはそう言います。
彼も、彼女も、そして彼女も、この筋書きは嫌なのでしょう。
嫌で嫌で仕方がない、けれどそれをやらなきゃいけない。
「私たちも、貴方を傷つけたくない。そして巻き込みたくない」
佐織は言います。彼女の言葉は本心でしょう。
「ごめんなさい」
「すまない」
二人は謝ります。
「やっぱり、こうなってしまうのが道理だったのよ。ごめんなさい」
ニコラも、何が起こるか解りませんが、彼らがしようとしていることを理解して、そしてそれを受け入れようとしています。
その言葉と、その行動に愛嬌は、恐ろしい顔をもっと恐ろしくして
「とっくに巻き込まれてるんだよ」
そう怒鳴りつけますが、ルターはためらいもなくタバコの箱を叩きつぶします
その瞬間、閃光が皆を包みました。