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それ

日曜深夜から、月曜明朝にかけて

「なんで貴方がここにいるの」

 ニコラは隅から立ち上がり、その男に話しかけました。

「頼まれた事はやる主義でしてね」

 愛嬌はそう言い、ベットに腰掛けました。

「全くね。アホな男だ。金になるかも解らないのに、わざわざ外国まで出張しようなんて」

「出張?」

「この仕事が成功したら、まぁ気が向いたときにお話ししましょう」

 ニコラは、愛嬌のとなりに腰掛けえます。

「そういって、話した事はあったかな?」

「さぁ。忘れっぽい性格なんだ」

「お前がそうなら、世界の殆どの人間は痴呆症だ」

 探偵は部屋を見渡し、仕方ないと行った感じで扉の前に座り込みました。

「それで」

 ニコラは、二人に問いかけます。

「計画の仕込みです。率直に言いましょう」

 愛嬌は、ニコラを見て言います。

「貴方の魔術、どのような物なんですか」

 ニコラは、納得したような顔で、一回頷きました。

「それは、あなた方に理解できるかどうか」

「理解で着ようが出来なかろうが良い。取りあえず話せ」

 探偵の厳しい言葉です。そして、それは二人の総意でもありました。


「私の魔術は、簡単に言えば人間の意識を書き換える、いやこれも簡単じゃないかしら」

 ニコラは話し出します二人は、ただ沈黙を守り彼女の話に続きを促します。

「そもそも信仰、ってなにかわかる?」

「そりゃ、神様を信じる事だろ?」

 探偵は、答えます。

「そう。そうだけど、それはどうして神様を信仰するのか、って事」

「キリスト教じゃ、救世主からの救いや、神からの救い、って事だったかな」

「仏教じゃ悟りだろ?それがどういう事なのか、って聞かれても答えられはしないけどな」

「輪廻転生ってサイクルから外れる事、これも難しいか、まぁ死後の世界で救われる事、って事にしとこう。これも真面目な坊主に言えば怒られる解釈だけどね」

 二人の言い分は、まぁ確かにニコラの問から外れているわけではありません。宗教にも諸派があり、その中にも様々な信仰目的がありますが、キリスト教はキリストが人間の罪を背負って十字架にかけられた、と言う信仰ですし、仏教は悟りを開く事での輪廻転生からの解脱、が目的と大抵の解説書などには書かれます。しかし

「そうじゃない。いやそう言う事なんだけど、もっと大きな本質、信仰の目的って何、って言われたら答えられる人は少ないと思うの」

「まぁそりゃ、なぁ。興味ない奴はないだろうし、ある奴でもそんなこと考えもしないだろうしなぁ」

「一般論、と言うか、学説の中の一つだと」

 愛嬌は、探偵のぼやきもニコラの返しを聞いてるのかどうか解らない返しで答えます。

「信仰は、救済を伴う信仰、だったかな。信じる物は救われる、」

「はぁ?」

「念仏も聖句も結局自分が救われたいから唱えるわけだろ。イスラムだってそうだし、密教、僕の神道だってそうだ。結局自分が救われたいから神に縋る」

 愛嬌は、すらすらと語ります。そんな事語れる学生は彼くらいでしょう。

「そう、信仰の本質は自らが救われたいって言う願い。その願いの需要を満たして神は存在する」

「宗教者の言い分じゃないな」

「お互い様でしょう。資本主義が世界を覆う前からそう言う考えはあった。だからこそ教会も貧民を助け、貧民は教会に縋った」

「信仰じゃ腹はふくれないと思うけどね。共産主義も結局民衆の腹がふくれないから潰れたんだ。資本主義も腹だとふくれるのか?ってきかれりゃそれは違うと言うのが僕の意見だけどね」

「彼はマルキストか何かなの?」

「逆説と珍説をもてあそぶ暇人さ。それより続きを」

探偵のつぶやきに、愛嬌は簡単にいってしまえば彼は変人だ。と言い切りました。ニコラは愛嬌に、言葉の続きを促され、どう切り出そうか迷いながら、言葉を選びながら語り出します。

「信仰の本質は、救済を伴う信心、いや、自らを救って欲しいと救世主にすがる気持ち、そう言う物でしょう。それに答えるために神様は現世に形を表すし、誰も求めない神は神として認められない。それは悪魔や悪霊だって一緒。そこに居て欲しいから存在するの」

「現世に現れる神様は、みんな誰かが望んだから、そこに居るわけか」

 探偵は合いの手を入れるように途中に言葉を挟みます。彼等二人の関係あるか無いか解らないような言葉は、無駄にも見えますが、その無駄がニコラにとって話しやすい間となります。

 彼等はそこまで考えているのでしょうか。それは誰にも解りません。

「そう。そうだから、逆に言ってしまえば、みんなが神様を求めるとき、そこに神が現れるの」

「世紀末や世の中が暗くなると、宗教が流行るってのは確かだな」

 世紀末や、王朝終了の時期、そして世の中が不安定になると、新宗教や宗教ともテロリストとも判別がつかない集団、そして秘密結社、その他諸々の有耶無耶な集団が大量に現れるのは歴史のお約束事でもあります。

「そう。そして邪教や悪魔だって猛威を振るう事は出来るの。それは大衆が望んだ物だから」

「大衆はそれを受け入れるか。でも、極論じゃないか?全人類皆同じ心構えだ。なんて時代はとっくに昔だ」

 大衆が待ち望む物、それは自らの変化であり、普遍であり、正統であり、異端であり、正反対であって、正しいものでもあるのです。

 そして、その中でもっとも力を持った集団が、歴史が掲げる正義となるのです。

「確かに、学校だとか会社、国家、集団、ここの秘密結社、そう言う括り程度ならある程度はあるだろうけど、それだって有耶無耶なのが今の時代だ。自由主義、誰が何考えても問題ない、それが今、あぁ」

 愛嬌は、長い台詞の途中で気づいたようです。

「何か気づいたのか?」

 探偵はまだ気づきません。

 ニコラは、もう解った物として、正解を述べ出しました

「そう言う括り関係なし、大衆、人間と言う括りのなかで意識を書き換える事が出来たら。それはただ一つでも良い。全員じゃなくても良い。絶対的な意識を多くの人間に植え付ける事が出来て、それが伝染病のように広がるのであれば。それは親から子に受け継がれて、子から孫に受け継がれて、そして常識になる。私が知っている魔術の本質はそう言う物なの」

 ニコラは言い切りました。それが自分の本質であると。

 そうして、三人に沈黙が訪れます。聞こえる音は外の蛍光灯に集る蛾が燃える音だけでした。

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