某日
メモリーの中に転がっていた小説です。
影響された元ネタがよくわかりますね。
それは葡萄ではなく、禁断の果実。
ぶら下げられていた間は酸っぱいけれど、手に入れば甘くなる。
イブは、禁断の果実をアダムに渡してしまった。
そして彼女は蛇にすがる
「そう言う話だったんだ」
「どういう話なんだよ」
ここに二人の人間が居ます。
一人は男、一人は女。
都合が良すぎるんじゃ無いかって言われるかもしれないが、まぁ都合の良い話なのだからしょうがない。
これはそういう都合の良い話なのだから。
「だから私は追われてるの」
「まぁそこまでは理解しよう。それで僕の家の屋根に逃げ込んだ。そこまでもまぁわからんでもない話だ」
理解できるかは別として、と男は言います。
「でだ、何に追われていたかと言えば魔術を信仰する秘密結社、なんだそれは、オカルトブームの欧羅巴なら信じてやれん事もないレベルの嘘だ」
「そう言われたら返しようがない」
そう言って女は笑った。キリスト教カトリックにおける女性修行者、ようは修道女の格好だ。修道女とは、「貞潔」「清貧」「従順」の三つを誓願したキリスト教の修道士、ないしは修道司祭を指す言葉である。
プロテスタントには修道会はない、だからシスターとはカトリック系、ないしは比較的古くに別れた伝統的な宗派に分けられる。ただ新教の中でも新興、言ってしまえば最近出来たプロテスタントの本道からはずれた新宗教なら無い訳ではありませんが。
まぁ彼女がどちらに所属しているにしろ、魔術結社なんて胡散臭い話です。
「その集団はクリスチャン・ローゼンクロイツが教祖と言い出すなよ」
「薔薇十時団じゃないよ。あそこは今はなんだかんだで真面目にやってるし」
「じゃぁシオン修道会か?地獄の火クラブか?なんでも良いがそんな良く解らない連中に追われてるなら警察に行けばいい」
逃げ回った挙げ句、屋根から落ちて人の家の縁側で倒れる事なんかせずに、と男は続けます。
「そんなインチキ結社じゃない。もっと真面目なところ」
本人の業績よりもパンに具を挟んだ食べ物の名前の由来としての方が有名なサンドウィッチ伯爵も所属していた地獄の火クラブ(Hellfire Club)創設者がインサイダー取引で捕まり、ねつ造もばれたシオン修道会。
まぁ不真面目な、科学が幅をきかせてるこの時代に魔術を信仰してる時点で真面目も糞も有るのかと言いたくなりますが、結社ではなくは真面目にやっていると言うことらしいです。
「大体、警察はこんな与太話に耳を貸してくれないよ」
「自分で与太話と言えるなら上等だよ。見ず知らずの人に追われていて怖い、って言えば警察は動くさ。道が解らないというなら警察くらいまでなら連れて行ってやるよ」
「そこまで恩はないよ。それに恩を返せる立場でもない」
こうしてる内にも貴方に危険が迫ってるかもしれないんだ。と女は言う。
「そんな物は感じなくても良い。同じ宗教者として縁だ」
そう言ったら、女は笑って返した。
「クリスチャンに縁なんて通じないよ。って貴方お坊さん?髪の毛生えてるけど」
縁とは縁起思想から来た仏教の言葉だ。修道女だって、日本にいるなら俗語としての縁は通じるだろうとも思うが、まぁ冗談で返したと思っておきましょう。
「違う。それに坊主が坊主頭じゃないといけない理由はない」
明治初期に行われた法改正で、女人禁制や肉食の自由と同時に坊主の髪型も自由となりました。法の前には人は皆平等ということです。
「僕は神主だ。修行もしてなきゃ神社庁の系譜にも入ってない、祝詞の一つもあげやしない、いい加減な神社のいい加減な神主だけどね」
「へぇ、始めて見たよ」
まぁ何にしても恩は返せないから行くよ、と女は席を立ちました
その時、玄関からチャイムの音が。