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7話

三話同時投稿の二話目です。

 馬車に揺られて数十分ほど。

 自分はアンナの肩に頭を乗せてウトウトしていた。

 最初こそガチガチに緊張していたアンナだったが、少し解れたのかちょっと恥ずかしそうにしながらも身体を預けさせてくれている。


 あー、こういうの電車通学してた学生の頃思い出すなぁ。朝が早かったあの時も友達に寄りかかって寝た事あったっけ……。


 懐かしい記憶に思いを馳せてると、何かが頭をフワッと触った。

 と思ったらサラサラと髪を、これはもしや……?


 薄眼を開けてみればアンナが恐る恐る、といった感じで自分の頭を撫でていた。


 イベントだーーーーっ!!

 これはなんか、そういうゲームだと好感度イベントとかそんな感じの奴だぞーーーっ!!


 内心興奮してる自分をよそに、アンナも髪の感触がお気に召したのか撫でるスピードが速くなってきた。


 お、おう、結構遠慮ない感じでグリグリしてくるな君。

 というか寝てる相手だったらこれ起きるからね、まぁそんな不粋な真似はしませんとも。


 美少女に頭を撫でられるなんて、これも一つの転生得点かな?なんて事を考えつつ狸寝入り……もとい眠れる美少年に徹するのだった。








「……ア、キーアっ!! キーア起きて!!」


 ――ガタタンッッ


「うわわっ!?」


 急激な揺れで目が醒める。

 いつの間にか本格的に眠りこけてたみたいだ。……よかった、涎は垂れてない。


 隣を見るとアンナが不安そうな顔で服の端を握っていた。

 さっきの揺れはアンナが自分を起こそうとして揺さぶったのか……


 ――ガタタタッッ


 ……だけじゃないよな。

 今しがたの揺れは幌馬車がクレイジータクシーよろしく、道路交通法ガン無視の走行をしていたからだった。

 これ車輪外れない? 大丈夫??


「やぁ!! キーア君起きたかい? 眠っていたところすまないね!!」


 御者台からグレッグさんの軽快な声がする。


「いえ! 自分が眠ってしまった間に何かあったんですか!?」


 幌馬車の揺れで舌を噛まないように気をつけながら聞く。

 まぁ大体の予想はつくけど……


「なぁに、ちょっと魔物に追い掛けられてるだけさ!!」

「全然だけじゃない!!」


 そらきた!! そうだろうと思ったよ!!

 そうだろうと思ったけどなんでグレッグさん余裕そうなの!?


「前にもあったから大丈夫大丈夫!! 今回も街まで振り切るさ!!」

「前も今回もお父さんが木の実を取ろうとして魔物の巣の近くに近づいて刺激したんじゃない!! もう最悪!! 食い意地張りすぎよ!!」


 アンナがグレッグさんに向かって大きい声をあげる。

 グレッグさんは大きい背中をビクリと震わせて縮こまってしまった。

 ……うん、可哀想だけどアンナの言う通りだと思います。


「それで、一体何が追い掛けて来てるんですか?」


 聞きながら幌馬車の後部に移動して後ろの様子を伺う。

 魔物の数は一、二、三体……

 子供くらいの姿形に緑色でつるりとした体表、手には木を削り出した槍っぽいものや石斧みたいなもの、これはファンタジー定番の……


「ゴブリン?」

「そう、ゴブリンさ」


 グレッグさんが答える。


「いやぁ、まだ希少種じゃないだけ助かったよ。通常種のゴブリンならまだ振り切れるから運が良かったね!」

「全然良くないわよ!! 喋ってる暇があるなら速く振り切って!!」


 アンナが一喝すると戻りかけてたグレッグさんの背中がさっきよりも小さくなった。……アンナも苦労してるんだな。


 何はともあれ今はゴブリンをなんとかしないと。グレッグさんは振り切るって言ってるけど……


「あの、このまま追い掛けられ続けるのもあれなんで、僕が倒しますよ?」

「「えっ」」


 二人が揃って声をあげ自分を見つめた。

 アンナはいいよグレッグさん前見て前。


「でもキーア、三体もいるのよ? 危ないわ」


 アンナが心配そうに言うので、安心させるように笑いながら返す。


「アンナ、ゴブリンくらいで大袈裟だよ。大丈夫、すぐ倒すから」


 そう言うとアンナはますます心配そうな顔になってしまった。

 ……うん? この世界のゴブリンってただの雑魚じゃないのか?

 なんか不安になってきたぞ……


「まぁアンナ!! キーア君がこう言ってくれているんだし、ここは任せてみようじゃないか!!」


 元気付けるように明るい声でグレッグさんが言うと、渋々といった感じでアンナが頷いた。


 まぁ、ゲーム内でもゴブリンは序盤の敵だし、多分大丈夫かな……多分


 考えながらスラリと魔剣アルニラムを抜くと、陽の光に反射して白い刃が煌めく。これがお前の初仕事だな、任せたぞアルニラム、頼りにしてるぞ。


「キーア、……危険になったらすぐ馬車に戻って。なるべく速さを落とすから……」


 そうか、剣でゴブリンを倒すには普通馬車から降りるか。でも猛スピードの馬車から飛び降りるのもな……ていうか魔法があるし。


「うーん、ここから攻撃するし大丈夫だよ」

「えっ、ここから……?」


 アンナの戸惑う声を聞きながらアルニラムに魔力を通す。よし、今回も炎にするか。

 見る見る内に白い刀身が赤く染まり、炎が舐めるように纏わりつく。

 流石レア魔剣、コモン武器より魔力の消費が少なく済むな。

 馬車や積荷に炎が燃え移らないように、慎重に魔力の量を調節する。ブラッドウルフの時の風爆発みたいなのは懲り懲りだ。


 ふと視線を感じ、周りを見るとアンナとグレッグさんがポカンと口を開けた見つめていた。魔法ってあんまり見る機会が無いのかもな。


「……お父さんっ!! 前見て前!!」

「あ、あぁっ!!」


 アンナの声にグレッグさんがハッとして前を向き手綱を握り直す。

 あんまり長引かせると事故を起こしそうだ……。


「ふっ!!」


 ゴブリンに向かって剣を横薙ぎに一閃すると、刀身に纏わりついていた炎がゴブリンに伸びて三体を同時に炎が包み込んだ。

 ……名付けてファイアウィップ、とか、どうだろう。かっこよくない?

 詠唱とかは人の目があるのでまたの機会にでも考えよう。自分は童心を忘れないのだ。


「グギャギャギェェッッ!!」


 耳障りな声をあげてゴブリンがその場でのたうち回り、馬車と距離が空く。思った通りゲームと同じ弱さだった。これなら放っておいても大丈夫そうだ。力尽きるのも時間の問題だろう。

 魔力を通すのをやめ、アルニラムを鞘に収めふぅと息をつく。

 アンナを見ると、まだポカンとした表情で自分を見つめていた。

 隣に座り笑いかける。


「ほら、大丈夫だったでしょ?」

「……す……っ」

「す?」

「…っ、すごーいっっ!! 何!? 何今の初めて見たっ!! 剣に魔法がブワーって!!」


 アンナが興奮した様子で捲し立てる。


「は、えっ……?」


「おおおっ!! 凄いなキーア君!! キーア君凄いぞっ!! 無詠唱で魔法を使うなんてまるで賢者様みたいじゃないか!!  剣に魔法を纏わせるのも見た事がない!!」


 同じ様にグレッグさんも興奮していた。もう手綱なんて握っていない。



 ……これ、もしかしてだけど、

 この世界に魔剣士って……いないんじゃないの……?

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