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4話

 説明しよう。

『魔剣士』とは、その名の通り魔法と剣術による戦闘を得意とするクラスである。

 自分がやっていたゲームでは、初期クラスを一定レベルまで上げたら転職出来る所謂二次職として後から実装されたクラスだ。

 魔剣士への転職条件は魔法士と剣士を一定レベルまであげる事で、剣も魔法もどっちも捨てがたかった自分は今日は魔法士、次の日は剣士、という風に度々クラスを変えてプレイしていたので実装直後に転職出来た。


 魔剣士の固有スキルは『魔法付与』

 MPを消費して、自分の装備している武器に炎や水といった魔法の属性効果を付ける事が出来るのだ。


「炎を付与すればこんな事だってっ!!」


 一気に剣を振り上げると、剣先から鞭のように撓った火がブラッドウルフに襲いかかる。


「ギャウゥゥッッ!!!」


 前方左右の二匹は横に跳んで回避したが、反応の遅れた中央の一匹が炎に纏わり付かれ燃え上がった。

 地面を蹴り、一気に距離を詰め更に一突きする。

 貫いた剣へ更に魔力を込めると、深く刺さった刃から炎が溢れブラッドウルフを内から焼き尽くした。

 こいつらは自分を食い殺そうとしたが、それも生きる為に仕方の無い事なのだろう。

 めっちゃ怖かったけどな!!

 無駄に苦しませるのも可哀想なので一思いに逝かせてやろう。

 もっとも今ので恐怖を感じたりして自分の巣穴に帰ってくれたりしたら全部殺す必要は無いんだけど……


 剣を一振りし狼だった灰を払う。

 少しの期待を込めて振り向くと、そこにはあらあらなんとまぁ! さっきよりも牙剥いて殺る気満々なブラッドウルフさん方が!

 もしかしなくとも今ので闘争本能を刺激しちゃったみたいで、もうこれ食欲とかそんなんじゃなくて『とりあえずこいつだけは絶対殺す』みたいな感じだよね。


 剣を向けブラッドウルフに向き直る。


「ふっ、ならばしょうがない、一匹ずつかかって来な!」


 決まった!!

 自分の顔は見えないけど今の美少年な自分ならドヤ顔も嘸かし似合っているだろう。

 町についたら鏡でも買うか。金ないけど。

 そんな事を考えていると、今の言葉を理解したのかしてないのかブラッドウルフが牙を剥き飛び掛かって来た。

 ……残りの七匹全部で。


「うぉっとっと!!」


 瞬時に地面を蹴り後ろに跳躍する。

 ひええ俊敏重視でポイント振っといてよかった!! これ普通の人じゃ反応出来ないで今ので食われてたよね!!

 あれこれ考えてる間にもブラッドウルフの攻撃は止まず、次々とこちらに向かってくる。


「一匹ずつって言ったじゃん!! 騎士道精神はないのかよ!!」


 自分はと言うと身体が勝手に反応してくれるものの、避けたり流したりするのが精一杯で反撃出来ないでいた。


「ああもう鬱陶しい!! 峰打ち、は出来るかわからないけどそれっぽくしようとしてたのに!! そっちがその気ならもう手加減しないからな!!」


 今度は風をイメージし、剣に再度魔力を通す。刀身の周りに薄く渦巻く風の膜が作られる。


「吹き飛べっ!!!」


 飛び掛かるブラッドウルフに斬りかかる。

 その刃と爪が触れたその瞬間、間に暴力的な風が巻き起こり自分諸共ブラッドウルフを吹き飛ばした。

 空中で体勢を整え着地する。


「うえっ、砂食っちゃった……ちょっと加減難しいな」


 ゲームではコントローラのボタンを押すだけでよかったが、今現在キャラは自分自身でボタンなどどこにも無い。

 これはちょっと抑え方を練習しないといけないな……

 口に入った砂をぺぺっと吐き出し、服についた埃を払い立ち上がる。

 ブラッドウルフたちの姿を探すと、加減が出来なかったせいか先程剣に触れた一匹は上半身が吹き飛び事切れていた。うえ、スプラッタ。

 あと六匹か……と言ってもさっきの風の爆発でどのブラッドウルフも結構消耗しているみたいだ。見る感じHPあと三分の一ってところかな……。

 自分もあの爆発で少しダメージ受けちゃったけど。


「さてと、じゃあここらで大技でもいこうかな」


 風の付与を切り、闇をイメージする。

 なるべく邪悪に……なんか魔王っぽく……

 見る見るうちに刀身は黒い靄に包まれた。

 やっぱり闇はかっこいい。

 なんていうか童心に返るよね、二重人格が宿ってたあの頃を思い出すよね。

 ブラッドウルフは攻撃しようと動くもの、逃げ出そうとするもの半々か、だが一匹も逃がしてやる気はない。


「では、えーと、……な、汝、その血肉でもって我の糧となれ!! 喰らえ、ダークドレイン!!」


 剣を地面に突き立てると刀身を覆っていた黒い靄が染み出し、まるで蔦のように分かれ地中を伝う。

 ブラッドウルフたちの真下まで来ると、更に枝分かれしその身体を雁字搦めに締め上げた。

 逃げ出そうともがくブラッドウルフの体力を容赦なく奪い、自分のHPを回復する。

 ううむえげつない、だがこういうHP吸収の技って使い勝手いいんだよな。

 ちなみにゲームではボタンを押すだけで魔法が発動されたので、さっきの呪文の詠唱はぶっちゃけまったく必要無い。

 完全に気分だ。ファンタジーな世界に来たのだからこれくらいは許して欲しい。


 と、考え事してる間にHPが全快した。

 それと同時にブラッドウルフたちは体力が尽きたらしくもう動いていない。


「勝った……」


 魔法の付与をやめ、剣を鞘にしまう。

 拘束力を失ったブラッドウルフが地面に倒れると同時に立ち眩みがした。


「あ、やべ」


 自分のMPゲージを確認すると、空っぽの一歩手前まできている。


 実はこの魔法付与、全属性の効果を付けられるので使い勝手は良いように思えるが、魔法を付与している間は常時MPを消費し続けるのだ。

 MPが切れてしまったら消費はHPにまで及んでしまうので、プレイヤー間では『マゾスキル』と呼ばれていた。


「誰がマゾかっつーの……」


 初めての戦闘のせいか、はたまた調子に乗ってMPを使い過ぎたか気怠さが取れない。

 幸いここら辺に敵はいないみたいだし、ちょっと休んでMPを回復しよう。

 その場に腰を下ろそうとすると、事切れたブラッドウルフの近くでカランカラン――、と何かが落ちる音がした。

 突然の物音に警戒し剣を抜こうとしたが、よくよく見ると落ちてきたそれは複数のアイテムのようだった。


「……ドロップアイテムか、どれどれ」


 近くまで寄り、アイテム内容を確認する。

 ふむ、回復ポーションにエーテル薬……あれ? 帰還の翼に……白くて、キラキラしてる剣……これって……


「魔、剣……アルニラムぅ!?」


 予想外な事に、ドロップアイテムの中には以前黒の森のブラッドウルフに負けた時にロストしたレアアイテムも混じっていた。


「マジか……お前あの時の……」


 なんでゲームの中で無くしたアイテムをここのブラッドウルフが持っているのかわからない。

 そもそもここはやっぱりゲームの中なのか。

 なんだか急に疲れを感じて、そのまま地面に大の字になるのだった。

魔剣の名前の『アルニラム』ですが、「真珠の糸」や「真珠の帯」という意味があるそうです。

こういうのって調べ出すと止まりませんね。

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