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3話

「いやいやいや、聞いてないって!!」


 ただいま自分は全力疾走で森の中を駆け抜けていた……後ろに食う気満々の狼を四匹引っ連れて。


「なんでここでこいつらが出てくんの……!!」


 そう、この狼たちには見覚えがあった。生前やってたゲームに出てくる魔物だ。

 名前はブラッドウルフ……そこ安直とか言わない。

 ブラッドウルフは名前の通り、血のように濁った赤い目、血のように赤黒い毛皮、血に染まったような赤い牙、という血のオンパレードな見た目をしている狼だ。

 勿論大好物は血液、特に人間の。

 捕らえた獲物を爪で引き裂き、牙で噛み千切り、生きたまま血を啜るのだ。

 狼のくせに肉は食べないので、ブラッドウルフの食事風景は血を吸い尽くされたスプラッタな死体が辺りに散らばる……という設定だった。

 ちなみにブラッドウルフのゲームでの出現場所は『黒の森』と言って、真昼間でもなぜかそこだけは真っ赤な月が出ているという中レベル帯向けのフィールドだった。


 決してこんな明るい、いかにも『はじまりの森』みたいな所で出てきていい魔物ではない。


「なんで人のトラウマチョイスしてくんのかなっ……!!」


 しかも自分はゲームの中で一度、興味本位で入った実装直後の黒の森でブラッドウルフに負けている。

 黒の森に立ち入る前に手に入れたレアアイテムを、ブラッドウルフのせいで全ロストしたトラウマがあるのだ。

 流石にスプラッタ死体にはならずに、近くの町にリスポンしたが……


 ここはゲームの中では無い。

 否、ゲームの世界かもしれないが自分にとっては紛れもなく現実だ。

 ブラッドウルフに追いつかれればスプラッタ直行だろう。


「こんな所で、美少年がっ、死んでっ、たまるかっ!!!」


 気合いを入れ直して走る。

 幸い今の身体が高スペックなのでブラッドウルフに追いつかれずに済んでいる。

 ……というか、なんで追いつかれないんだろう。

 片や人間で、片や狼。いくらこちらの運動神経が良くなっても追いつかれない方がおかしいと思う。


「これは……もしかしたらこのまま逃げられるかも……!」


 希望が見えてきた。

 俺、街に着いたら異世界の美味しい物いっぱい食べるんだ。一文無しだけど。

 まだ見ぬ異世界グルメに思いを馳せた瞬間、頭に今まで体験した事の無い衝撃が走った。


「痛っ……!」


 いきなり襲った頭が割れそうな痛みに、走るのをやめてその場でうずくまる。

 あぁ、せっかく引き離してたのに追いつかれてしまう……! と思ったが、自分をずっと追いかけていた気配も止まった。

 ブラッドウルフたちも突然止まった自分に警戒し、こちらの様子を伺っているみたいだ。

 よかった……そのまま警戒しててくれよ良い子だから!

 今襲われたらいくら高スペック美少年と言えどもすぐにスプラッタの仲間入りに……て、あれあれ? これは? これはこれはもしや?


「ふっ……ふふふっ…」


 笑いが込み上げてきた。

 突然の自分の変化に、ブラッドウルフが威嚇の唸り声をあげるが関係無い。


「時間差かよ……意地が悪いな神様は!」


 うずくまるのをやめ、周りを見回す。

 前に三匹、後ろに三匹、そして左右に一匹ずつ、おおー囲まれてるしなんか増えてない?


「でもまぁ、このくらいの数なら大丈夫かな」


 端から見れば絶望的な状況だが、今の自分にはなんの問題も無い。



 なぜなら、さっき全てを思い出したのだから。


 ショック療法とでも言えばいいのだろうか。

 今しがた襲った頭の割れるような痛みのおかげか、受け継がれていないと思っていたステータスを、ゲーム内で習得した剣技や魔法を、その他スキルに今現在の自分のレベルまで全てを把握出来るようになっていた。

 今なら自分の全てが手に取るようにわかる。

 この身体は今までの経験をちゃんと覚えていたのだ。


「さぁて、ブラッドウルフよ。生前の恨み、今ここで晴らさせてもらおうか!」


 無論、ゲーム内で負けたブラッドウルフとは別人……否、別狼だろうがちょうどいい、あの時のトラウマを克服させてもらう事にする。


 そうと決まれば剣を抜く。

 あ、そういえば異世界に来て初めて剣抜いた。うん、様になってんじゃん。是非とも今の姿を姿見で見たい。その為にも早くこいつらを倒して町かどっかに行かなくては。


「異世界と言ったらやっぱ魔法だよね……っ!」


 剣を持った右手に魔力を通す。

 腕から指先に向かって何かが抜けていく感覚がし、刀身から湧き出すように炎が生まれる。

 この身体がいくら強くてもちゃんと出来るか少し不安だったが、何も問題なかったみたいだ。

 魔力のイメージは炎。付与するのは剣。

 そう、このキャラの――今は自分自身だが――のクラスは、魔剣士である。

主人公はテンションが上がってナルシスト気味になっています。

あと名前が出てくるのはもう少し先かも。

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