2話
「……状況を整理してみよう」
一頻り騒ぎまくって落ち着いたので、今自分が置かれている状況を考えてみる事にした。
「まず、私は転生した。これは間違いない」
死んだ、という実感が湧かないが仕方ない。
現にこうやって息をして生きているんだから……体は変わっちゃったけど。
原因はきっとあの日の雷だろう。なんかドコドコ煩かったし家にでも落ちたのかもしれない。驚きの命中率だ。
もしかしたら今の状態が寝たきり状態で見ている夢のようなものなんじゃないかと少し思ったが、考え過ぎると怖くなってきたのでやめておく。
「んで、転生した先が……ゲームの中……なの? ここ?」
周りをざっと見回したが、まぁ見事に木しかない。
森のフィールドなんて、生前やってたMMORPGではごまんとあったので、仮に転生先が実際にゲームの中だったとしても現在地がわからない。
目に付く特徴的なオブジェなどが見つかれば別だが。
「こういう時って転生物ラノベならマップとかステータスとか見れるはずなんだけどなぁ」
呟きながら念じてみるも、それらしき物は視界に映らない。
先ほど興奮している時に、ゲーム内で覚えさせた技名を一通り叫んでみたのだが、実際に何か起こる事などなかった。
……目覚めた場所が森の中で、誰にも見られてなくて本当に良かったと思う。
「ていう事は、だ。転生したけどチートの類はない……と」
言って残念な気持ちになった。
間違いなく生前の自分より運動神経は良くなっているので、もしかしたら元になったキャラのステータスもそのまま受け継いでいるんじゃないかと思ったが……それはなかったみたいだ。
だがまぁ最近読んだ小説では人間どころかクリーチャーに転生した! なんて事があるみたいだし、人間の、しかも理想のキングオブ美少年に転生出来ただけで良しとしよう。
というかそれだけで九割は満足だ。残りの一割は頑張って習得した剣技や魔法が消え去った事だ。
「ここがどこだかわからないけど、とりあえず人がいる場所に行かないとなぁ」
なんだかお腹も減ってきた気がするが、当然のようにゲーム内で持っていたアイテム類は、腰に下げている剣以外消えていたので川の水で我慢した。
早急に、暗くなる前に森を抜けて人里までたどり着くか、もしくは食料や眠れる場所を確保しなくては。
幸い川を最初に見つけたので飲み水の心配はないだろう。
人に会ったとしても言葉が通じるのか、所持金もないのに食料はどうするのか、などという色々な悩みが頭に浮かんだが、とりあえず先の事は考えなきゃいけなくなったときに考えようと、持ち前の楽観的な思考(面倒臭がりとも言う)で川下に向かって足を動かした。
「あー……暇だー……」
かれこれ二時間程歩いただろうか。高かった日も傾きかけている。体内時計からして今はおやつ時だろうか。
さっきからお腹は空いているのだが。
しかしまぁ、高スペックな身体のおかげで疲れはほとんど感じないが、いかんせん超暇だ。
暇とか言ってる場合じゃないがこればっかりは仕方ない。
道中やる事がなさすぎて、好きだったアニメソングを口ずさんでみたらあらびっくり! 女だった頃より高い声が綺麗に出るし、さらに上手いという嬉しい発見をした。
自分に敗北感を感じるという不思議な体験をしたが、下手よりは良いだろうと思っておく事にした。
「それにしても動物とか……いないなぁ」
しばらく歩いて気付いたが、人間は勿論の事動物を見かけない。
それどころかさっきまで聞こえていたはずの鳥のさえずりも、いつの間にか消えていた。
風が木を揺らす音や、水が流れる音だけが辺りに響く。
「なんか……おかしく、ない……?」
そう思った瞬間、ゾワリと全身に鳥肌がたった。
どうして気付かなかったのか不思議なくらいだ。
後方から痛いくらいの視線と、
殺意を、感じる。
……帯剣している片手剣の柄を握り締め、恐る恐る、振り返ってみた。
――いた。
そう遠くない茂みの隙間から光る目玉が、一、二、三、四……
「ちょっ、多すぎだって!!!」
確認するや否や自分は逃げる為走り出したのだった。