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やめて下さい、そういう趣味はないんです 前篇

「はあ……」


 ぼふり。私は制服のままベッドに転がり込んでいた。この数日、気が休まる暇がない。授業中だったら睦月君に教科書を見せてあげたりノートを写させてあげたりできるし、移動授業だったらまだ手を出して来ないけど。

 休み時間ごとにふー兄とよっちゃんが見に来る。ふー兄も部活があるから昼休みと放課後は流石に来ないけれど、放課後になって睦月君に話しかけようとする絶妙なタイミングで「りっちゃーん、さっちゃーん、一緒に帰ろー」と言って手を振って来るのだ。

 断りきれる? 可愛いよっちゃんが迎えに来てくれて手を振って来てくれたら断りきれる? もしこれがふー兄だったら「恥ずかしいからやめて」って言えるけれど。よっちゃんが自分を全身武器にしてくるのがものすごく怖い。

 休み時間は休み時間でふー兄がちょくちょくと顔を出すもんだから、睦月君と話ができない。

 そして明らかに警戒心マックスでうちの兄弟にロックされている睦月君はと言うと。


「おお、春待女。兄弟に愛されてるなあ。大事にしてやれヨー」


 そんな具合で全く気にしてないみたい。

 私は恥ずかしいし話ができないから嫌なんです、なんて。睦月君の屈託ない顔で言われてしまったら何も言えなくなってしまう。私、乙女ゲームは書くのが専門で、ゲームとしてプレイした経験は実は結構少ないんです。おまけにリアル恋愛経験だって前世含めても本当に乏しいんです。だから、兄弟をどうやったら出しぬけるのかなんて全然分からないし、さっちゃんはさっちゃんで、全く気にしてない感じなんだから、さっちゃんだけは私の味方だと思ってたのにぃ、なんて思ってしまう。


「大丈夫じゃないかなあ。顔見せ位。それで睦月君が嫌がってる訳じゃないんでしょ? むしろ何だかりっちゃんと睦月君、いい雰囲気だよ?」


 そう言われてしまったら、私も「え、一体どこが?」としか言えない。私が本気で分からないでいると、さっちゃんはクスクスと笑う。


「年頃の男の子ってさ、同性の兄弟は皆ライバルだし、男女の兄妹なんて言うのはそこまで互いの事干渉しないから、一緒に住んでる年の近い同居人みたいになってるから。だからりっちゃん家みたいに皆仲がいいのなんて稀。だから春待兄妹は有名人なんだし、案外皆が羨ましかったりするポイントなんだと思うよ?」

「……てっきり、兄弟が美形だから有名人なんだとばかり思ってたんだけど」

「そりゃ皆、テレビ合わせないと見れない美形より、近くで見れる美形を見るから、それももちろん合ってるとは思うけどね。あ、もちろんそれはりっちゃんも含まれてるのよ?」

「いや、違うと思うけど」

「違わないよー」


 うん、中身はこんなんだけれど、確かに六花はちょっと目が釣ってるだけで可愛いとは思うからね。ロリータ服とかばっちり似合う程度にはね。

 そうは言われてもなあ……。睦月君は相変わらず授業中に歌詞を考えたり、時折「ちょーっとだけうるさくしていいー?」と教室で聞いてギター弾いて楽譜を書き始めたりしている程度で、さっちゃんが言う程私に興味持ってくれているかが分からない。

 分からないから聞いてみたいと思っているのに、うちの兄弟が、邪魔するから……!!

 ……はあ、どうすればいいんだろう。さっちゃんが言うみたいに気楽にしてればいいの? それとも何? 何か考えればいいの? わっかんないなあ……。私がごろごろして、とりあえず服を着替えようかとタンスから私服を引っ張り出している所で。ドアがこんこんと鳴った。


「はあーい、何?」

「りつ、大丈夫か?」

「あれ、三樹。どうかした?」


 開けてきたのは三樹だった。珍しい。私はタンスからサマーワンピースとレースのカーディガンを引っ張り出しつつ首を傾げた。三樹は基本的に私に関しては不干渉なのだ。

 三樹は少しだけ困ったような顔をして、私を見る。

 とりあえず部屋に上げてあげると、とんとベッドの上に座った。私もとりあえず隣にちょこんと座ってみる。何だろう、普段から自己解決ばっかりする奴がわざわざ私に悩み相談なんて、珍しいにも程がある。


「なあ、りつ。お前は花に詳しいか?」

「花? 花言葉とかだったらまあ、詳しいかなあ……」


 乙女ゲームのために延々花言葉を調べて覚えて書いていたんだからねえ。前世では駄目女子力だと思ったけれど、今じゃそこそこ活躍してくれているような気がする。気のせいかもしれないけれど。

 でも堅物三樹が何で花なんか気にするかなあと、私は首を捻る。


「でも何よ、花なんてさ」

「……いや、ちょっと知り合いに渡そうと思って」

「ええ? 普通に花屋さんに聞けばいいじゃない、そんなの」

「いや……年頃の女の子に花を渡すとかなんて、誤解されかねないからさ……だからちょっとりつに付き合って欲しくって」


 私は頭いっぱいにクエスチョンマークを飛ばす。三樹が言いたい事はおぼつかないけれど、要は私位の女の子に花をあげたいけれど、誤解を招きたくないから私に相談するって言うのが、よく分からない。

 花をあげたい子に誤解されたくないって言う、そう言う話?

 しかしますますもって分からないと思うのは、三樹が花を渡したいって言う相手だ。


「えー、三樹。一体誰にあげたいの? その花」

「……クラスメイトが、今年の春からずっと入院しててさ。ようやく退院できそうだから、お祝いに」

「優しいねえ」

「……だから、やっぱり、その。誤解されたくないから、きっちりしたいと思って」


 何で三樹がこうも顔を赤くするのかなあと私は思う。そして、もしや……と言う考えが瞬く。三樹にまさか好きな子ができたんじゃ、なんて。ゲームの正史ルートってされている三樹ルートも、三樹は自分の気持ちに鈍過ぎて、全然自分の気持ちに気付かないもんだから、読んだプロデューサーに「もだもだして頭をかち割りたくなる」って言わしめる程度だから、この堅物は本当にとことん、指摘しないと気付かないんだ。

 私は思わず口を緩めて三樹を見る。


「いいよ。付き合ってあげる」

「……そ、そうか。よろしく、な」

「何でそんなにかしこまるのよ、いいじゃない。従兄妹のよしみで面倒見てあげる」

「……ああ。じゃあ今度の日曜退院なんだ。その日に花を買いたいから」

「でもそれだったらさ、数日前に花屋に行って予約しといた方がいいよ? 当日だったら時間かかっちゃうもの」

「む、そんなもんなのか?」

「うん」

「じゃあ土曜か……分かった。土曜日、一緒に出かけよう」

「うん、いいよー」


 こうして私達は土曜日にその子の花を買いに行く約束をして、三樹は部屋を出て行った。

 従兄弟同士だったら何かと出かける事もないもんねえ。それにしても。三樹の気持ちを射止めた子は一体どんな子なんだろう。わざわざ花を選びたい相手って言うのも。三樹は堅物が過ぎて、不器用だ。だから誰かがそれを分かってあげないといけない。主人公だったら彼が不器用なだけで偏屈って訳でもないって言うのが分かるんだろうけど、いないんだからしょうがない。

 ……睦月君とは、きっとこういう風には出かけられないんだろうなあ。そう思ってしゅんと切なくなってしまう。あっちはメジャーデビューを控えたロッカーだし、私は今は兄弟にひたすら過保護な扱いを受けている訳だし。

 一応クラスメイトのよしみで、メールアドレスだって交換している。でも。どんなメールを送ればいいのか分からず、未だにメールをした事がない。もしファンの子の一人みたいな扱いをされたら死んじゃう。と言うより死ぬ。私の心が。

 もだもだごろんごろんと一人でベッドを転がりながら、ようやく私は着替える事に決めた。

 うん、三樹の好きな子のために、一肌脱ぎますか。

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