4、どうにでもしやがれ・・・!
4、どうにでもしやがれ・・・!
高科が、戻って来た。
例によって、サーラは姿を消す。便利なヤツだ。
高科は、ケージの中の僕を見て言った。
「 美味しい? チャーリー 」
陶器製の車の中で、タネを無心でかじり続ける僕。 高科は、クスッと笑うと、制服のスカーフを、シュルッと抜いた。
「 ・・・・・ 」
タネをかじりながら、高科を凝視する僕。 高科は、両手の袖口と、胸当てのホックを外し、脇のファスナーを上げると、制服を脱ぎ始めた。
「 ・・・・・ 」
こっ、これは・・・!
左腰のフックを外し、スカートを下げる。
( あわ、あわ、あわ・・・! )
見てはいけない、という心理と、頂きま~す!、という心理が葛藤し、わずかに後者が勝つ。 僕の目は、キャミソール姿の高科に、クギ付けになった。 おそらく、愛らしい僕の黒目は、ヒクヒクと痙攣している事だろう。 多分、涙目になっているかもしれない。 キャミソールの裾から、わずかにのぞく、高科の薄いブルーのパンツ・・・!
・・・ハ・・ハハ、ハムスター、万歳・・・!
キャミソールを脱ぐ、高科。 ベッドの上にあったトレーナーを取る為、向こう向きになったので、魅惑の胸は拝謁賜る事は出来なかったが、きゃしゃな背中とブラのヒモは、僕の想像意欲をかき立てるのに充分なインパクトがあった。 くいっと、くびれた腰。 意外にも、むっちりしたオシリに、薄いブルーのボーダーパンツ・・・!
僕は、タネをかじる事すら忘れ、高科のあられもない姿に目を奪われていた。
( さ・・ さすが、俺がホレた女だぜ。 心臓、ハレツしそうだ )
やがて高科は、手に取った白いトレーナーを着ると、デニムのミニスカートを履いた。 私服姿の高科は、初めて見る。 結構、かわいい・・・
トレーナーの中に入っていた髪を、両手の甲で、ついっと後に振るように出す。 メガネを外すと、つるをたたみ、机の上に置いた。
・・・そう。 高科は、メガネを外すと、美人なのだ。 もっとも、メガネもよく似合っているのだが、外すと、とても大人びた顔立ちになる。 一度、昼の休憩時間の時だったか、メガネを外し、ハンカチでレンズを拭いていた高科を見た事がある。 その時から、僕の胸は、ときめくようになったのだ。
クラスの誰も知らない、高科の素顔・・・ 今日は、オマケに、その魅力的な肢体をも見れた。 実に、満足である。 ヒマワリのタネも、美味しいし。
着替えを済ませ、また高科が、僕の入っているケージの前まで来た。
「 眠い? チャーリー 」
んなワケ、ねえっす・・! 目、ギンギンに覚めてます。
鼻をヒクヒクさせ、高科を見る僕。 高科は、ニコニコしながら天井のフタを開け、言った。
「 遊ぼ 」
はぁ~い ♪
今度は、躊躇する事無く、高科の掌に乗る。 高科は、僕をケージから出すと、優しく両手で掴み、僕の背中辺りのフサフサな体毛に、頬擦りした。
ああ~、高科・・・! 何て、いいニオイなんだ。 くそう、コレが人間の姿だったらなぁ~・・・!
高科は、またベッドに仰向けに寝転がると、僕を、胸の上で解放した。 右の人指し指で、僕の鼻先を突付く。 僕は、後ろ足で立ち上がり、前足で高科の指先を抱えた。 上下に指を振る、高科。 僕の体も、上下に揺れる。 高科が、クスッと笑う。 今度は、僕の右前足を人差し指と親指で掴み、軽く揺する。 僕は、左前足で、高科の親指を抱き抱え、その指先を軽く噛んだ。
「 あはは、チャーリー。 あたしの指は、食べられないよ? 」
何度も場所を替え、軽く高科の指先を噛む、僕。 高科の、よく手入れされた、健康的なピンクのツメ・・・
僕は、鼻をヒクヒクさせながら、近くにある中指・薬指にじゃれ付いた。 高科は、ニコニコしながら、しばし、胸の上で僕を遊ばせていた。
・・・幸せな、ひと時・・・
気兼ね無く、こうして高科と遊んでいられるのなら、ネズミ・・ じゃない、ハムスターでもイイかな? 試験勉強、しなくても済むし。
やがて、横になっていた高科は、いつの間にか、ウトウトし始めた。 きっと、試験勉強の疲れが出たのだろう。
僕は、高科の胸の上で、後ろ足で立ち上がると、彼女の寝顔を眺めた。
やや、右に傾けた顔、上品な口元・・柔らかそうな唇・・・
( きっ・・ キキキ、キス、したろかな・・・? )
小動物のクセに、大それた発案である。 ・・でも、ヤメておいた。 何か、卑怯な行動だと思えたからだ。 ナリは違っても、僕はオス・・ じゃない、男だ。 正々堂々と、正面から告って、お互いに認めた上で『 経験 』したい。
僕は、『行動』を中止し、高科の胸の上にうずくまった。 ふと、横を見ると、半円形の小高い丘があった。
( 見晴らしが、良いかもな )
丘に、よじ登る。 頂上に着いた僕は、また後ろ足で立ち上がり、周りを見渡した。
・・・サーラが、いた。
「 おっぱいの頂上に乗って、何してるんですかぁ~? 」
何っ? ココは、高科のチチの上だったんかっ? すんげ~、柔らかいじゃねえか。
僕は言った。
「 勝手に出て来たりすんじゃねえよ、お前! 高科が起きたら、どうすんだよ! 」
「 今、時空を止めてます。 動けるのは私たちだけですから、心配いりません 」
・・・便利に、してんじゃねえかよ。 大した芸当だな。 どうやるんだ、それ。 ちょっと教えろや。
サーラは続けた。
「 今、教官に相談して来たんですが、ちょっと、困ったコトになっちゃって・・・ 」
僕の方が、もっと困っとる。 見て分からんか? お前。
僕は言った。
「 何だ? 時空が捻れて、帰れなくなっちまった、とか? 」
「 そんなの、大したコトじゃないんですけど・・・ 」
・・・そうなの? 僕、メッチャ、大変だと思うんだけど? キミ、ホント、危機感ないね。
サーラは答えた。
「 実は、私の国で、クーデターが起きちゃいまして・・・ えへへっ! 参りましたよね、ホント 」
・・・お前、他人事か? それ、ものすげ~大変な事だと思うぞ?
サーラは続けた。
「 貴族院の長老、レスター議長が、私兵の軍を蜂起させ、皇帝陛下を軟禁しちゃったんです 」
・・・ふ~ん。 それ、ドコの映画の話し? 監督は? 邦画だったらイイのに。 最近の邦画は、つまらん。 もっと企業が資金提供して、クドカン辺りに監督させえ。
僕は、話半分で答えた。
「 よく分からんが・・ ソレと、僕の事態収拾と、どう関係すんの? 」
サーラが言った。
「 試験は、中止。 受験者は、すみやかに帰投せよ、って指令なんです 」
「 フザけんなッ! このまま、ヤリっ放しかよ! 」
僕は、両前足でトレーナーの生地を引っ張り、ゆさゆさと揺すりながら叫んだ。 高科の小高い胸が、ぽよんぽよん、と揺れる。
サーラは言った。
「 とにかく・・ 私では、元に戻せないんです。 申し訳ありませんが 」
「 誰か、出来るヤツを連れて来いよ! これじゃ、希望を叶えたとは言えないぞ? 俺は、元に戻る事を希望してんだからな 」
「 う~ん・・・ 2級を持っている先輩たちは、もう国に帰っちゃったし・・ 1級精霊士になった先輩たちは、皆、王宮に仕えてますし・・・ 王宮は、今や、レスター議長の私兵長、ハインリッヒ将軍の部下たちが占拠しているんです。 とてもじゃないですが、近付けません 」
僕は、提案した。
「 サーラの教官、てのは、出来んのか? 」
「 デボラ教官ですか? 」
・・・知らんっつ~の。
「 そうだよ。 その・・ デブか、イバラか知らんが、そいつなら出来んだろが? 何てったって、教官なんだからさ 」
「 デボラ教官は、学科担当なんです。 実技は、全く出来ません。 前に、惑星を1個、破壊しちゃって・・・ 」
・・・ナンで、そんなマヌケが、試験を牛耳っとる? しかも、惑星を破壊した、ってのは、どういうこっちゃ? お前らの国、メッチャンコだな。
サーラが、気付いたように言った。
「 ・・あ、衛兵連隊の隊長だった、クインシーなら出来るかも! 確か、1級を持っていたはずです 」
「 衛兵連隊って、王宮にいるんじゃないの? レクスター教授・・ じゃない、レスター議長とやらの兵隊たちに、幽閉されてるんじゃないのか? 」
「 クインシーは、定年で今年、退職したんです。 城下の下町に住んでいます 」
・・・ボケて、使いモンにならないかもな。
サーラが言った。
「 私と一緒に、来て頂けますか? 直接、クインシーに会って頂いた方が良さそうだし・・ 」
う~ん・・・ どうも、サーラの国ってのが、イマイチ不安だ。 でも、このまま戻って来なかったら、僕は間違いなく、一生このままだ。 あても無く、待ち続けるよりは、精神的にもマシなのかもしれない。
僕は尋ねた。
「 後で、旅費を請求されるんじゃないだろうな? 」
「 ワリカンにしましょうか? 」
やっぱ、取るつもりだったんかい、てめえっ! 病人のフトンを剥ぐような請求だぞ、コラ!
サーラが弁解する。
「 時空を越えるのって、教官の助けがいるんです。 1回、5ペインも、お金が掛かるんですよぉ~・・・! 」
そんな通貨単位、知らんわ。 タイ語で『 ペイン 』は、『 高い(料金が) 』だが・・・
ともかく僕は、サーラと国とやらへ、同行する事にしたのだった。