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読者の記憶負荷を考えろ ~マジックナンバー7±2の恐怖~

作者: もりゃき.xyz
掲載日:2026/07/11

■ はじめに


 これは創作論なので、基本的に小説執筆者宛に書いています。

 そのうえで今回は、あなたの小説の登場人物は多すぎないか?という論点を整理していきます。



■ マジックナンバー7±2とは?


 このマジックナンバー7±2は、人間の短期記憶が一度に扱える情報量についての『ジョージ・A・ミラー』による仮説です。


 ……と言うと難しく聞こえるかもしれませんが、想像してみてください。

 小説で、突如新しいキャラが十人増えたとき、あなたは全員の名前と性格を覚えられるでしょうか?


 少なくとも私は、名前だけでも、小説を読んでいるだけでは厳しいと感じます。


 この7人前後というのを、読者が同時に把握できる登場人物数の目安と考えてください。


 つまり、新キャラクターの名前を覚えられるのはせいぜい5人前後が限界――そのくらいに考えておいた方が安全、という話です。



■ 読者のことを考えよう


 あなたの読者は、よほどあなたとの作品に強い思い入れがない限り、普通は他の作品も複数追いかけています。


 すなわち『マジックナンバー7±2』……7人の登場人物なら覚えて貰える、そういう思考すら『甘え』になり得ます。


 世界観に凝りたい方には厳しいかもしれませんが、覚えやすい名前を使うことを意識しましょう。


 例えば、私の『Heartbeat Reject ~選ばれなかった僕は――それでも『彼女』を守りたかった~』の主人公の名前は……『リュカ』『レアナ』『チカ』と、アルファベット表記にすれば5文字に収まる名前にしています。


 さらに『ワサビ子爵』『カレー侯爵』など、極力読者の記憶負荷を低める命名を心がけています。


 正直に言えば「なんだこの名前」って笑うかもしれません。

 ですが、その違和感こそが記憶のフックになり得るのです。


 例えば『アルディオス子爵』という名前にすると、世界観は整います。

 しかし読者は、この子爵の名前を覚えなければならないのです。



■ ただし工夫によっては、記憶負荷を軽減できる


 先ほどの『アルディオス子爵』ですが、この子爵が剣士であり、かつ冒険者活動をしていたらどうでしょう。

 冒険者ギルドでは『アル』と呼ばれるかもしれませんね。


 ですから、作中でも愛称の説明をしたうえで、以降は『アル』と呼ばせるようにしましょう。


 これは『アルとはアルディオスのことだ』という、記憶のフックを読者に与える手法になります。


 ただし、これを多用しすぎると、当然ですが覚えて貰えません。


 ここで、やっと『マジックナンバー7±2』という基準が役に立ちます。

 最低限、主人公とヒロイン(あるいはヒーロー)、さらに主要なポジションを担うサブキャラくらいはいると考えると……

 新しく覚えてもらえる人物は、せいぜい4人程度が限界でしょう。


 名前が長いキャラクターは、作中では愛称ベース、名前が短ければそのまま使う。

 そうして読者の記憶負荷を、意識的に下げる工夫が必要なのです。



■ 母音のリズムにも気をつけろ


 例えば、愛称が『レイ』『カイ』『シン』『リン』だったとします。

 この場合、母音がかなり重なっています。


 作者としては「シンは男で、リンは女だからすぐに覚えられるだろう」と考えてしまいがちです。

 しかし、読者にとっては『シン』と『リン』はどちらも i の母音を持つ非常に似た名前です。

 つまり、作者が思っている以上に、識別しづらい命名になってしまいます。


 同様に「レイは魔術師、カイは剣士だからわかるだろう」という考え方も、厳しく言えば甘えです。

 たった二文字の名前で、さらに二文字目の母音まで同じであれば、読者は混乱しかねません。


 では、具体例を見てみましょう。


「レイはカイに『今だ!』と声を上げた」

「魔術師レイは剣士カイに『今だ!』と声を上げた」


 文字数は増えますが、役割(ロール)を補うことで、状況はずっと理解しやすくなります。


 あなたの作品は、厳しい言い方をすれば、数多くの作品の中の一つに過ぎません。


 だからこそ、読者が迷わない設計をすることは敗北ではなく、勝利への工夫です。


 もちろん、理想は最初から母音衝突を避けた命名をすることです。

 例えば私なら『レイ』『ガルン』『シン』『リザ』とか差別化します。


 ……子音も、ほとんど衝突してませんよね?



■ 母音と子音を意識すれば、自然とマジックナンバー7±2に近づく


 『レイ』『ガルン』『シン』『リザ』と、まずはこの想定で考えてください。


 ここで「母音衝突」さらに「子音衝突」まで考えるならば、言語的……少なくとも日本語では、そもそも衝突しない命名を大量に作ること自体が厳しくなります。


 確かに母音が多い言語はありますが……日本語では基本的に母音は5つしかありません。


 さて……元の『レイ』『カイ』『シン』『リン』と見比べてください。

 もし「少し覚えにくいかもしれない」と感じたなら、私の話は成功です。

 なぜなら今、あなた自身が読者の記憶負荷を体感したことになるからです。


 もちろん『ガルン』という名前を、例えば『ザイン』に変更することもあるでしょう。


 ですが『母音と子音をすべて使い切れば問題がない』という単純な話ではありません。


 母音も子音も、少し余裕を持たせて命名すること。


 そうすることで、自然と『マジックナンバー7±2』の範囲に収まる設計になっていきます。



■ おわりに


 当然ながら、これは主にファンタジー風の世界観での命名を想定した話です。

 日本語の名前では、ここまで単純にはいきません。


 それでもなお、作中人物の日本語名を見て


「十人くらいなら問題なく覚えられるだろう」


 と思うのであれば、どうぞ好きにしてください。


 きっと私の人の顔と名前を覚える能力が低いだけなのでしょう。

 確かに、日本人にとっては、漢字の姓の方が覚えやすい場合もあります。


 しかし、それを理由に、読者の記憶負荷を高めても構わないという話であるなら、私は断固として『否』を訴えます。


 人の記憶力は、それほど高くありません。


 あなたは、あらゆる作品の、あらゆる登場人物の名前を覚えているでしょうか?


 読者にきちんと把握してほしい人物は、やはり 『マジックナンバー7±2』程度に抑えておくのが無難だと私は考えています。

 

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