表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

3.特訓

「鷺沢!」

 一日の訓練過程を終え寮のシャワーで汗を流した後、訓練場に戻るとそこにはすでに烏丸勇人の姿があった。

「悪い、待たせたか?」

「俺たちもちょうど来たところだ」

 そう言う烏丸の隣に二人の女子生徒、鶯谷萌花(うぐいすだにもえか)舞鶴綾(まいづるあや)が立っている。俺は一方的に彼女たちを見知っているが、ほとんど話したこともなければ向こうは俺の名前を知っているかすら怪しい。それに、そもそもこの二人は……。

 俺が不審に思っているのを察したのか、烏丸が再び口を開く。

「『(ブレード)』は俺が教えられるけど『(シールド)』や『(ヴァイン)』は専門外だから、助っ人として来てもらったんだ」

 俺がこの二人をよく知っている理由、それは俺が現在使用しているのと同じ装心具(スキルリング)の使い手であり、なおかつそれぞれトップクラスの成績を収めているからに他ならない。だが。

「俺はてっきり、今の形を捨てろと言われるんだとばかり思ってた」

 俺が模擬戦闘でさっぱり勝てないのは不利とされている近接戦で戦っているせいだ。[具現者解放戦線(E・L・F)]入団試験に合格するために、憧れを捨てて戦闘スタイルを変えることも半ば覚悟していたのだが、烏丸の見立ては俺のそれとは少し違っていた。

「いや、教官はああ言ってるが、本当の実戦で相手の出方を悠長に見ている余裕なんてない。だからその前に叩くというのは考え方として理に適っている」

 言わてみれば烏丸も自分から積極的に仕掛ける速攻型で、俺と同じ『刃』の装心具で具現化した剣を使い模擬戦闘の相手に何もさせず鮮やかに勝利する光景は何度も目にしていた。俺との違いは他の装心具の扱いも一級品であること、そして必ず勝つが故に教官も文句を付けることができないということだ。

「そして、臆することなく相手の懐に飛び込める勇気はお前の持つ大きな長所だ。だから今のスタイルを大きく変える必要はない。それぞれの装心具の扱いに習熟して実力を伸ばせば、絶対に勝てるようになるはずだ」

 烏丸の力強い言葉に思わず胸が熱くなるのを感じる。俺の憧れは、間違っていないのかもしれない。

「仕方ないから頼みを聞いてあげたけど、これで合格できなかったら絶対許さないからね!」

「萌花ちゃん……ごめんね、鷺沢くん。私も微力ながらお手伝いするから、頑張ろう」

「ああ。舞鶴も、わざわざ時間を作ってくれてありがとう」

 小柄で童顔だが気の強い鶯谷と、長身に眼鏡で真面目な雰囲気の舞鶴。一見正反対に見える二人だが気が合うらしくいつも一緒に行動している。

「それじゃあ早速始めようか。試験まで残された時間は少ない。時間を無駄にしないために、鷺沢には俺たち三人と同時に戦ってもらう」

「へ?」

 烏丸の言葉に、思わず耳を疑い聞き返す。

「俺たちの攻撃を見て、受けて装心具の使い方を身体で覚えるんだ。本気でいくから、気を抜いたら怪我するぞ。準備はいいか?」

「……おう!」

 同期の中でも成績トップの三人を相手に、果たして俺は無事に帰ることができるのだろうか。そんな不安を生唾とともに飲み込み、俺は右手に力を入れ具現化能力を発動した。


「うぐ……ぐ……」

 地獄の特訓を終え、烏丸に肩を担がれ身体を支えてもらい寮の自室へ戻った俺は、全身の痛みを堪えながらやっとの思いでシャワーを浴び着替えを済ませると、ベッドの上に腰を下ろし深くため息をついた。まさか、本当に本気で来るとは思っていなかった。ただでさえ実力に大きな差があるっていうのに、それが三人。生きて帰れただけで奇跡と言っていいんじゃないだろうか。

 途端、猛烈な睡魔に襲われ今すぐ横になって眠りたい衝動に駆られる。しかし俺はその誘惑に何とか抗い、右手首の記憶射出機構(メモグラフ)に映像投影機の接続コードを繋ぎ再生ボタンを押した。すると部屋の白い壁に、俺の視点から見た先程の特訓の様子が映し出される。

 俺の記憶を元に再生しているのだから当然覚えているのだけれど、頭の中で記憶を辿りながら思い出すのと映像として客観視するのとでは全く違う。特訓の最中は無我夢中で彼らを観察する余裕など一切無かったのだが、こうして見返してみると新たな発見がいくつもあった。

 最初に驚いたのは、具現化能力の強度という点で俺とあの三人の間に差はほぼないということだった。考えてみれば当然なのだが、訓練用に支給される装心具は安全のため一定以上の威力が出ないよう機能が制限されている。にも関わらずなぜ全く歯が立たないのか。その理由は、装心具の使い方と能力を切り替えるタイミング、つまり戦況を見極め状況に応じた最適な能力を選ぶ勝負勘にあった。

 まず『盾』の使い手である鶯谷。小柄ながら身体能力に優れる彼女は、構えた盾で全身を覆い防御を固めた状態で高速移動し、そのまま攻撃にも用いる攻防一体の戦法を得意としている。そして相手が攻撃を防がれ息切れした瞬間やシールドバッシュで体勢を崩した隙を狙って『盾』から『大槌』に持ち替え一撃のもとに叩き落とすのだ。

 舞鶴の戦い方は非常に特殊で、彼女は両端を除く三つの指に同じ『蔓』の装心具を身に付けている。そしてこの三本の蔓を巧みに操り攻撃、防御、牽制、阻害の全てを行う。蔓の操作に集中しているためほとんどその場から動かない彼女が唯一動くのはとどめを刺す時のみで、蔓で拘束し動きを止めた瞬間に『脚力強化』して飛び掛かり相手を組み伏せる様は鮮やかの一言だ。

 烏丸は俺と同じく『刃』を主な武器としているが、彼は刃を手に持って振るだけでなく投擲して遠距離攻撃にも使用する。投擲で防御を崩したところへ一気に距離を詰め、通常の刃で相手を仕留めるのだ。

 さらに今日の特訓で実際に間近で見て驚いたのは、投擲用の刃は通常よりも小さく具現化しているということだった。確かにその方が素早く正確に投げることができ、そもそも牽制が目的なら威力は必要ない。訓練用の装心具は機能が制限されているが、出力を弱める分には何の問題もなく、そのことに気付かなかった自分を恥じると同時に、そこまで考えて具現化能力を使っているのかと驚愕した。

 烏丸も他の二人も、装心具の持つ特徴を最大限に活かして相手を己のフィールドに引き込んでいるということを今日の特訓で嫌というほど実感させられた。彼らが上位の成績を挙げ続けるのは、それだけの理由がある。

 その後も身体の痛みも眠気も忘れ映像に没頭し続けた俺は翌日の訓練に危うく遅刻しかけたうえに寝不足のせいでまたしても模擬戦闘の成績がまったく振るわず、鶯谷に辛辣な言葉を浴びせられることになるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ