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3/8

(3/8)田中さんと新プロジェクト

午後一に開催された課の会議。大曲課長が全員を見て言う。

「知ってるかもしれないが、新しい通信プロトコルが出てきたので我が社でも検討する事になった。で、新技術の難しい話なので、田中君、お願いできないかな」


難しい案件が立ち上がる時、いつも田中さんに振られる、という噂は木村浩子も聞いていた。こういうパターンなんだ。でも、いつも大変な事を田中さんばかりに振るって理不尽じゃないの、とは木村浩子も口にはしない。何より田中さん本人がどう考えているのかわからない。


田中さんは静かに言った。

「はい。わかりました」


うーん、やっぱり田中さんの考えは読めない。


大曲課長が嬉しそうに言った。

「ありがとう、助かるよ。いつも面倒なことばかり押し付けて申し訳ない」


田中さんは表情を変えない。実はこういう状況を楽しんでいるのだろうか?木村浩子は田中さん本人に聞いてみたくなった。


大曲課長が続けて言う。

「この新プロトコルの検討には若い人も入って欲しいんだけど誰か希望者はいないかな?って、普通はいないよね」

と勝手に話を進める課長に逆らいたくなった訳ではないが、気付くと木村浩子は自分から手を挙げていた。

「やります。新しい技術を勉強したいです」

田中さんがどう検討を進めるのか見てみたい、とは当然言わなかった。


木村浩子は隣の席の富永裕子が机の下でこちらに小さいガッツポーズを送って来ていたが、それは無視した。どうせ変な誤解をしているのに違いない。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


その日の夕方、小会議室で木村浩子と田中さんは打ち合わせをしていた。

田中さんは、テキパキと大まかなスケジュールと節目のポイントをホワイトボードに書いていく。表情は変わらないが楽しそうに見える。


「という感じで進めたいと思うけど木村さんどうですか?」

「はい、スケジュールは想定が難しいので田中さんの案でお願いします。少し別の質問をしてもいいですか?」

普段の疑問を聞くいい機会だ。


「はい、何でも聞いて下さい」

「田中さんって、いつも厄介事を押し付けられているように見えるのですが、イヤにならないのですか?」

田中さんは軽く頭をかきながら言う。

「イヤとか面倒とか思った事はないですね。なんか楽しくないですか。難しい事に挑戦するのは」


あぁ、田中さんはやっぱり思った通りの人だ。木村浩子はとても嬉しくなった。ついでにもう一つ聞いてみる。

「田中さんは、とんでもなく技術力が飛び抜けていると思うのですが、会社の中で正しく評価されていないと思うこと無いですか?」


田中さんは少し驚いたような表情をした。しまった、少し切り込み過ぎだったろうか。と木村浩子が反省していたそのとき田中さんは言った。


「そう見えるのは買いかぶりですよ。世の中にはもっと凄い人がたくさんいます。私なんかその他大勢の一部です」

そう言う田中さんの表情は少し寂しげであった。その表情の意味を木村浩子は1か月後に知ることになる。

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