(2/8)田中さんは平社員
「木村、今日、晩ごはん行こう!」
無駄に明るい同期の野村総一郎が木村浩子の傍にやって来て騒ぐ。営業部にいる野村はややうるさいが悪い奴ではない。ただ二人で食事に行くか、というと少し躊躇してしまう。富永裕子が目配せの意図を的確に汲んでくれて割り込んできてくれる。
「何々、美味しいものに行くなら私も参加。野村の奢り?」
野村はあからさまに残念な表情をするが、すぐに切り替えて、よし、三人で行こうと叫んで携帯を出しながら廊下に出る。
「浩子ぉ、あれ、店の予約を変更してる電話だね。ちょっと可哀想だから二人で行ってきたら?」
「やめてよ、二人だと気まずいから。でも三人なら楽しいかも」
「はいはい、まぁ今晩は野村に奢らせるか」
「それは駄目だよ。同期会ならワリカンにしないと」
「やっぱり、浩子は真面目だね。そこが良い所なんだけど。野村の奴も見る目があるなぁ」
「お願いだからやめて」
三人はカジュアルなイタリアン居酒屋で食事と軽いワインを取っていた。
近況とか遠い支社へ行った同期の話などしていたが、突然、野村が言った。
「確か二人の部に田中さんという人がいるはずだけど知ってる?」
木村浩子と富永裕子は思わず視線を交わしてしまう。
「知ってるけど、どうしたの?」と浩子が気になって言う。
「今度、新規の重要顧客の所に営業に行くんだが、かなり難しい案件なんで技術者に同行してもらう。で、候補に一番に挙がったのが田中さん。だからどういう人なのかな、って」
「浩子が好きな人」と富永裕子が言うと野村総一郎が「え~~っ」と叫んで立ち上がる。
慌てて否定する浩子。
「違う違う。少し気になるひとだけどそれは出来る先輩として見てるだけ」
「でも30過ぎているけど肩書なしって聞いたけど」
その野村の言い方に浩子は少しカチンときた。田中さんを軽く見れれたように感じたのだ。
「田中さんは肩書とか関係なくすごい人なの」と浩子は野村に返す。そうだ田中さんはすごいのだ。
「それ本当?」と野村は浩子の発言の意図を掴みかねて富永裕子に尋ねる。
「浩子は田中さん推しだからね」とワイン片手に笑う富永。
まだ意味が分からず心配顔の野村総一郎の肩を富永裕子がバンバン叩いている、そんな平日の夜。
こういう夜もたまにはいいものだと木村浩子は感じていた。




