05 崇め奉る会(仮)
暫く離していると緊張した面持ちのさっきのコックがお盆を手に近寄ってきた。
すかさず礼をする。
「ありがとうございます!」
すると、目を丸くしてしげしげと見られニカッと笑いかけてきた。
「おう!」
それだけ言うと直ぐに去っていく。
「早く食え」
「半分こしましょ」
「一口で良い」
ちらちらとヴェナンの顔を見ながらご飯を食べ始めた。
「美味しい!です!」
「これも飲め」
くんくんと嗅ぐと果実水のようだ。
こきゅこきゅと喉を通る甘味に見悶える。
「獄中ごはんだったから美味しいです」
「比べる方が間違ってんな」
一品一品味わって食べた。
「ヴェナンさんは明日も一日居ますか」
「暫く休むから居る」
「一緒に居れる?」
「デスクワークだからな」
「休むって、それ休んでないです」
「仕事が溜まってるって言われてな」
「手伝います!」
「やれるもんあったか?」
ヴェナンは眉間をきゅう、と寄せて考えたが望みは薄そうだ。
まずここがどこかを知らねば。
「ここ、なんて名前の場所なんですか?」
「当ててみろ」
「無理です」
「だろうな」
ヒントなんてない。
ヴェナンの仲間ならなにかを知っているかもしれないが、いきなりやってきた女にぺらぺら話すとは思えない。
「口についてる」
ふきんで拭いて、むう、と唸る。
「ヴェナンさんはあの国とは別の人ですよね?」
「ああ」
観察されて、楽しんでらっしゃる。
「かなり人脈を避けていたので隠れてなにかをしていた、ことくらいしか分かりません」
「妥当ってとこか」
この世界のことを知らないので推理など不可能だ。
「ヴェナンさんを崇め奉る会です!」
あの慕われ具合、これは正解だ!
「ちが……いや。やっぱり違う」
ヴェナンにも思い当たる節があったのか渋い。
「じゃあここはヴェナンさんを崇め奉る会(仮)で良いです」
「全く違う」
かと言って強く変更を求めてこないので半分正解かもしれない。
どや顔も辞さない。
「腹の立つ顔をするな」
ヴェナンは崇められるのが嫌いなのかも。
それだったのならお城の中で一人で活動していたのも納得する。
「食べました」
全てお腹に入ると得意気に容器を見る。
お腹が痛くて食べられるか不安だったが少な目にされていたので完食出来た。
牢屋生活で痩せた、わけではないが不衛生な環境により精神面がごりごり削れていた。
食も細くなるわけだ。
ヴェナンは食べ終わった食器を見て立ち上がる。
エノカにも立つように足し、手をまた握られて連れていかれる。
食器をコックに返さなきゃと言うと勝手に持っていくと言うので、ずんずん進むヴェナンにそれ以上言えない。
戻って持っていくにしても説き伏せることは難しそうだし。
連れてこられたのはまたヴェナンの部屋だった。
どうやらご飯を食べさせるためだけに食堂へ案内してくれたのだと今さら気付く。
その然り気無い優しさに心を打たれた。
くらくらしそうなくらいのスーパー具合だ。
強いのに頭も切れるし、欠点を探して見つかるのかも心配になってしまう。
助けてくれた人として、己の存在を浮かばせる人の傍にこれからも居たい。
それにしても、思い出したことがある。
ご飯を食べて思ったのが、召喚された国はご飯があまり美味しくなかったなと。