表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/6

04お風呂

お風呂から上がって用意されていた服を着て、髪が濡れたまま浴室を出た。


扉を開けたすぐ横にヴェナンが居た。


「ヴェナンさんっ、お風呂入りました!」


「髪が濡れてる」


「乾かすのは出来ませんから」


「それならやってやる」


濡れた髪に男は指先をスッと入れて呪文を唱えた。


そうすると、髪がふわりと浮いてさらさらとした乾いた状態に変化した。


「ありがとうございます」


指先で触って確かめると礼を言う。


指先はまだ離れず髪をくるりと揺らし、ヴェナンはニヤッと悪い方向の笑みを向けてくる。


「礼は言葉だけじゃねェだろ」


「え、あ」


それを言われてそれなら、と彼の髪を触っている手を掴んで手の甲に唇を寄せた。


「えっと、これでいいですか」


見てみるとヴェナンには笑顔がなくなり、ぽかんとしていた。


研究室に置いてあった本にある、謝礼だと思いながら読んでいたのだが。


あまりにも呆けているので間違ったのかなと焦る。


「なにか間違ってましたか?」


「……男がやるものだそれは」


「これしか知らなくて」


ヴェナンは手を返せと仕草で伝えてきて手を離す。


しかし、彼の本来の手の位置に戻らず掴んでいた手をするりと掴まれ自然な動作で手の甲へ唇を落とされる。


終わりだと思ったが更に爪にもするのでばきりと体が固まった。


「お礼と言うより挨拶だな」


薄目にしてヴェナンはちらりとこちらを見た。


「結構恥ずかしいですね」


手を取り替えそうともういいです、と動かすが話してもらえず。


「あの?手を」


「このままでいとけ。案内する」


手を握ったまま、引っ張られて歩かされる。


「ヴェナンさん疲れてないんですか」


「お前よりタフだ」


ひょいひょい鳥に乗っていたから、それは知っているが。


「確かにヴェナンさんって、筋肉質ですね」


抱き抱えられていたので、実感していた。


「お前は食べなさすぎだけどな」


あれは体が小さめなので、平均な摂取量だ。


「節約になるしいいです別に」


さっきヴェナンの仲間を見たが、皆背が高かった。


お城の人達も、威圧感が凄くて怖かったのだ。


「もっとむちむちになれ」


「むちむち……?」


あまり歓迎出来ない擬音語だ。


部屋を出るとヴェナンは恐らく、自室から出て淀みのない歩調で進む。


「ヴェナンさんの部屋、建物の中にあるんですね」


「いつでもここに居られるし、都合がいい」


「私はどこで寝れば?」


「暫くはおれの部屋だ。ベッドは用意してある」


「え!嬉しいですっ」


離れ離れは嫌だったので、跳び跳ねたくなる。


「枕投げしましょう枕投げ」


「枕は二つしかないしおれには絶対当てられねェぞ」


「当てる。当ててみせる」


「なんなんだその熱意は」


ため息を吐きそうなほどの温度差に、気にせず夜を楽しみにした。


連れていかれたのは厨房だった。


コックはのんびりしていたところにヴェナンが来たので、びっくりして立ち上がる。


「お、女!?」


エノカにびっくりしたらしい。


「こいつに簡単なものを作ってやれ」


変なの。


凄く偉そうだ。


そのことが不思議で堪らない。


しかし、コックはゆるりと厨房へ戻りそそくさと用意し始めた。


手伝わなきゃと厨房へ入ろうとしたが、ヴェナンが引っ張ったので入ることなく、離れていく。


「あ、あの、手伝わなきゃ」


「お前はそんなことしなくていい」


「じゃあ、私はなんでここに居るの」


「おれのものだから」


「でも、なにか……しないと」


居る意味がない。


「おれのものになったんだから、引っ付いてろ」


「お風呂の時も?」


軽くジャンプしてみた。


「止めはしないが、そうすると洗わせるが」


ごしごしと洗うのを想像するが、ヴェナンは違うのだろうな。


「流石に前は洗ってもらいます」


「手でしっかりやってもらう」


では、役に立てそうにない。


「意地悪」


「意地悪上等」


気にせず返す男に口で負けてしまう。


ヴェナンは食堂の席に見える部屋へ連れてきた。


「ヴェナンさんも食べる?」


「食う」


「食うじゃなくて食べる、ね」


「食うつってるだろ」


食う食う言うヴェナンはまるで動物のように鳴いている風に見える。


「ほら、座れ」


「ヴェナンさんは隣だから絶対」


「決めるなと、何度言えば分かる」


「じゃあ、私からの緊急クエスト」


「破産するから無理だな」


言いながらも、隣に座ってくれる。


にまにましそうになるが、真面目な顔をしておく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ