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01召喚された先

今、身長が高くて見上げなくてはいけない男に両脇を詰められている。


その眼光は悪いことをしたのはこちらと言わんばかりだ。


「おれは肉を買ってこいと言ったんだが?」


白衣を来ていて、黒ぶち眼鏡をかけている。


「勘弁してください。お肉は高いんです」


「だから金を渡しただろ」


「そのお金が勿体なくて」


押し問答はいつも負けるので結局どうなるかなど行く末は決まっている。


「だから買えって言ってんだろ。買ってこい」


「でも、でも」


なんとか考えを改めさせようとすると喋らせないように指先を頬にするりと滑らせ、唇へそっと爪を当てる。


その色気の放出に効果抜群過ぎて口を開けなくなる。


「つべこべ言わずさっさと買ってこい」


「う、はいぃ」


情けない声をあげてとぼとぼと歩きだそうとする。


が、まだ両側の通行止めは解除されず。


離さないのかと上を見上げると目元がいつもだるそうな視線とかち合う。


「拐いてェ」


「……ん、え?」


掠れた声でなにかを言うが、己の耳はそこまで頑張ってくれなかった。


「ほら、行け」


「あ、はい」


とっとと足を動かして彼から遠ざかった。




***




ことの起こりは一つの質の悪い召喚という名のただの拉致である。


エノカとて普通に生きていたのだから普通に老後を過ごすのだろうと道をいつもの通り歩いていた。


そこに中学生の子供達がわらわらとやってきて微笑ましく思っていると急に地面が光って目を再び開けると魔方陣の中に居て、男達が召喚出来たぞと興奮していた。


なんだなんだとわけが分からない間に目の前を歩いていた14歳くらいの子達が一人一人、と連れていかれて、嫌な予感がしたので紛れて城内へ逃走した。


そうして出会ったのは白衣の姿をした黒い眼鏡をかけた男。


(あの時はさすがに命の危機を感じた)


最初は勿論警戒したが、行くあてもなく、取り敢えず男の働く魔法研究所へ連れていかれた。


そこで助手をしろと言われて雑用をするようになったのが経緯だ。


彼はヴェナンと名乗り、研究所も狭いが一人だけで使っているという待遇っぷり。


ここにいたら食いっぱぐれないなと目を輝かせたものだ。


何とか手探りでやっていったな。


思っていた通り、順調に雑用としてやってきた。


今日もヴェナンに頼まれた肉購入。


夜ご飯になる予定なのだが鶏肉が良かった。


しかも、高いのを買いたがるというお坊っちゃまのような思考をしている。


もうすぐ一年になるな、ここに来て。


ぽてぽてと肉屋に行きお望みの肉を買い、研究所へ戻る。


が、何故かヴェナンもおらず部屋も藻抜けの空になっていた。


「なんでっ」


唖然とした。


なんの書き置きもない。


こんなんじゃ、これからどう生きれば良いのだと手を強く握り込む。


ここから早く出なければ、と思ってはいるが出てどうするんだと自問する。


なりふり構わず外へ出て大声で叫びたい気持ちになるが、我慢。


「っていうか、置いてかれたんじゃ」


様子の可笑しいところなんてなかったのに。


何度思い出しても全く分からないこと。


力なく座り込むと肉だけは腐らせたくないので晩餐の一品として食べた。


その後はひっそりここに住むことにした。


行くところもなければ、戦う力もない。


知っている人はヴェナンだけだったのだ。


「寂しい……帰ってきてよ」


小さくもらす。


一週間たっても変わらず一人で黙々と作業をしていた。


その結果、一つの可能性を考えてみた。


ヴェナンがこの城に来たのはなんらかの行為をするためだ、と。


いくらなんでも藻抜けの空過ぎる。


それに、色々謎だ。


彼が他の人と話しているところを見たこともない。


エノカは召喚されたものだと知られないようにあまり部屋から出ない。


だが、それでも人との交流の形跡もなかった。


ならばなにが目的だったのかと考えたがこれも考察するには色々穴抜けだ。


それに、考えても考えても無駄。


どうせ、陰謀だろうとスケールの大きさに膝をかかえた。


──ガン!


膝を抱えたまま蝶番を壊された扉を見つめ、そこには銀色のメイル達がぞろぞろとやってきてここを取り囲む。


取り囲まれる覚えもないのにあたふたしていると弁解する前に拘束されてカビ臭い牢屋にぶちこまれた。


笑えない笑えない笑えない笑えない。


あの子達は手厚く保護されたのにエノカが拘束されるなど馬鹿げている。


罪状も知らされぬまま放り込まれた床にべたんと座る。


「私だけこんなんばっか」


膝を再び抱えるポーズを取り、ふてくされる。


「ヴェナンさんの馬鹿。置いていくなよ。黒眼鏡。研究とか嘘ばっかり。無駄に色仕掛け使うな」


牢屋よりもヴェナンに置いていかれた方が辛い。


そうやってぶつぶつストレスを発散させているとまた牢屋に繋がる道から足音が聞こえてくる。


ここの門番はサボっているのか飯を差し入れするときぐらいしか見たことがない。


今は時間も分からないが、もうごはんなのか。


ここのご飯は不味い。


「またこんなことになってんのか」


暗闇ほどではないが蝋燭という心もとない道具に照らされている。


顔は分からないが、声は聞き覚えがあるような。


「もしかして、夜逃げしたヴェナンさん?」


「逃げたのは昼だ」


逃げたことは否定しないようだ。

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