戴冠式翌日(Third round)
朝になった。窓の外で小鳥がチュンチュンさえずっている。朝チュンである。
「……ここ、私の部屋だ」
昨夜通りがかった食堂で爆竹を鳴らして遊ぶ夢から目覚めた私の目の前に広がるのは、見慣れた天井。
ここは、王城にある私の部屋。昨夜城下町の高級宿に宿泊したのに、目が覚めたら自分の部屋に戻っていた。
うん、これは間違いなく、ループだ。
「おはようございます、女王陛下」
ぼけーっとする私に、アンネが声をかけた。入室してきた彼女がベッドの周りのカーテンを引いたので、私は彼女に笑顔を向ける。
「おはよう、アンネ。……ええと、昨日の戴冠式、ご苦労様」
「おはようございます。もったいないお言葉です。女王陛下も、さぞお疲れだったでしょう。今日は急ぎの公務もございませんので、ゆっくり過ごしましょうね」
アンネがいつもと変わらない笑顔で言ったことで、ああ、本当にループしているんだ、と思い知らされたのだった。
まさかの、ループ二回目である。
「す、すごいですね、陛下! もうこれだけの量を……」
「ふふ、ちょうど私にも分かる分野だったというだけよ」
女王教育の一環として歴史書を読んでいた私は、教師を驚かせていた。
謎のループ現象を起こしている私だけど、幸いこれまでの出来事や経験は全て記憶している。よって、この歴史書を読むのももう三回目なので内容は全て頭に入っているし、その他の公務も、謁見とか現地に足を運ばなければならない系などでなければ、ぐっと時間短縮して終えることができた。
「女王陛下の手際には、敬服するばかりです」
私の日程管理も担当するアンネが、そう言ってスケジュール帳を閉じた。
「……女王陛下は即位なさってからずっと、公務と勉強ばかりでした。建国祭の準備も順調に進んでおりますし、お休みを取られても大丈夫ですよ」
「本当!? 私、城下町に行きたいのだけれど」
このアンネの提案は一度目と二度目では存在しなかったので、がっと食いついてしまう。
そんな私に、アンネは「そうですね」と首を傾げた。
「女王陛下の城下町散策となれば、護衛をつけねばなりませんね」
「そういうのは結構よ! 私、女王ではなくて一般人として散策したいの」
「それは……」
「私、この国で一番強いのよ?」
そう、女神の使者としてきちんと訓練を受けた私は間違いなく、この国で一番強い。
能力の大半を失ったとはいえ元々主人公補正もあって力も魔力も強いし、さらに例のオリジナルドラゴンソードがあれば、敵は存在しない。ドラゴンソードは普段城に置いているけれどいつでも召喚可能だから、問題ない。
アンネも私の強さはよく分かっているからか、「それもそうですね」とわりとあっさりと外出許可を出してくれた。
ただし、女王であることがばれると後でいろいろ面倒なので、絶対にばれないようにと釘は刺された。
ということで私はいつもは下ろしている髪をざっとまとめて、アンネが用意してくれた素朴なワンピースに着替えた。
女神の使者時代は鎧、女王時代はドレスであることがほとんどだったからか、変装した私が街に降りても「女王陛下!?」など言われることはなかった。
ただ、それなりに人目は集まった。
女性向けゲームの主人公にふさわしいきれいめ系美人な顔立ちは、多少髪型や服装を変えたくらいでは野暮ったくはならなかったようだ。とはいえ「きれいめなお嬢さん」くらいの認識だったようだし、私の国作りのおかげか治安もよくて国民性も穏やかなので、ナンパしてくるような者もいない。
ただのお嬢さんとして、街をぶらぶら歩く。
これ、これこそが私のしたかったことなのよー! そりゃあキラキラ王城お姫様生活だって悪くはないけれど、王城にいるとこの開放感は経験できない。
軍資金も十分あるから、買い食いもウインドウショッピングも何でもできる。
さて、まずはどこから行こうか……と思って真っ先に思いついたのは、二度目の建国祭の夜に近くを通りがかった食堂だ。
建国祭の夜、あの食堂ではダンスパーティーが行われているようだった。どんちゃん騒ぎの店内がとても温かく楽しそうに見えて、ちょっと寂しいと感じてしまったものだ。
……あのお店、昼間でもやっているのかな。
もうすぐ昼食の時間だし、行ってみよう。