あなただけの女王
ひとまず話が終わったので、今日はもう夜遅いので解散しよう、ということになったのだけれど。
「では、レクス殿。女王陛下のこと、頼みましたよ」
「えっ?」
「女王陛下、夜だろうと構わずに脱走されるからねー。でもレクス君がいたら、おとなしくしてくれるんじゃない?」
インテリや子犬系に言われたので私たちはつい顔を見合わせてしまったけれど、アンネが小さく噴き出した。
「お二人揃って、そんな表情をなさって。……せっかくレクス殿がいらっしゃったのですから、今晩は女王陛下のお部屋で休まれるとよろしいでしょう」
「アンネ!?」
思わず彼女の顔を見ると、すすっと寄ってきたアンネは私にしか聞こえない声で耳打ちをした。
「……ここでレクス殿を帰らせても、よろしいのですか? せっかく明日の午前は、急ぎの用事もありませんのに」
「え、えと……」
「わたくしも皆も、女王陛下の幸せを一番に願っております。あなた方が皆様も認める仲になった今晩を、初夜とするのがぴったりだと思いませんか?」
アンネはそう言って、片目をつぶった。そこからは彼女の茶目っ気が感じられて、恥ずかしいけれどその気遣いと優しさが嬉しかった。
「……ええ、そうするわ。ありがとう、アンネ」
「翌朝は起こしに参りませんので、どうぞごゆっくり」
アンネはふふっと笑って付け加えてから、部屋を出た。元結婚候補の五人も、「ではまた明日!」「よい夢を」と言って皆出ていった。
執務室には、私とレクスだけが残された。彼は女王の仕事部屋にいるのが落ち着かないようなので、そわそわする彼の手をそっと握って引っ張った。
「それじゃあ……アンネもああ言っていたし、今日はここに、泊まっていく? その……ほら、初夜みたいなものだし」
「ミナ……」
レクスは灰色の目を少し潤ませると、空いている方の腕を伸ばして私の体をぎゅっと抱き寄せた。
「……改めて、ありがとうございます、ミナ。僕、あなたを幸せにします。あなたの夫にはなれなくても……恋人として、あなたをこの国一番の幸せな女性にします」
「……ふふ、ありがとう。それじゃあ私も、あなたのことをこの国で一番幸せな男性にするわ。……私はあなたの奥さんにはなれないけれど、私はあなたとずっと一緒にいたいし……あなたの子どもも、産みたい。子どもが生まれたら、この人があなたのお父様よ、と教えたい」
「ミナ……!」
レクスは声を震わせて私の名を呼んでから、唇を寄せてきた。
仕事部屋でのキスは、なんだかちょっと背徳感がある。
とてつもなくいけないことをした気分になるけれど、これもまた快感に思われて……私って結構きわどい性格をしていたのかな。それともこれも、ヴィルヘルミナの影響なのかな。
「……部屋に、案内していただけますか」
唇が離れたところでレクスに囁かれたため、うなずいてから彼の首の後ろに腕を回し、背の高い彼の頭を引き寄せてちゅっとキスをする。
「もちろんよ。……愛しているわ、レクス」
「僕も、あなたを愛しています、ミナ――僕だけの、女王陛下」
そう、私は元女神の使者でありブラウ王国の女王であるれど、私の心はあなただけにある。
ずっと、あなたと一緒に。
新制ブラウ王国の初代女王であるヴィルヘルミナは、国民たちからの圧倒的な人気を誇りながらも、生涯独身を貫いた。
彼女は「私は、国のために生涯を捧げます」と宣言し、その愛国心に溢れた姿勢は国民たちの支持を一層厚くし、また他国からも豊かな発想力を持つ賢王として好意的に受け止められた。
女王は結婚こそしないが愛する人はいたとされ、多くの子宝に恵まれた。子どもたちの父親の名は公表されなかったが、「たった一人の、女王が愛情を捧げた男性」であると言われていた。
噂好きな者が女王の恋人の正体を暴こうとしたが、その実態は不思議なほど掴めなかったという。
女王の子どもたちもまた、公の場では父親の名を絶対に口にしなかった。
そんな子どもたちだが、「お母様は、お父様の作ったオムライスをとてもおいしそうに召し上がる」と、ごく親しい人にだけ教えていたという。
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