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戴冠式の夜

 さて、戴冠式は無事に終わった。普通、こういう式典って慣例に則ったとかいってだらだら長かったりするものだけれど、さくっと終えられたのでよかった。


「あー、疲れた疲れた!」

「お疲れ様です、女王陛下」


 部屋に戻ってうーん、と背伸びをした私を、アンネが気遣ってくれる。

 人前では女神の使者として、今は女王として優等生でいようと心がけているけれど、旅の仲間であるアンネの前ではうんとだらけていたし、「人前でないなら」と彼女も許容してくれた。


 なお、アンネは元々王城使用人だったけれど私の仲間として戦ったことや私の友人ポジションということもあり、私の即位を機に女官長になった。頼れるお姉さんがそばにいてくれるので、私も助かる。


「ああ、まだお召し物を脱いではなりませんよ」

「えっ。そろそろ肩が凝ってきたのに……」

「ある意味ここからが本番ですもの」


 重いガウンを脱ごうとした私を止めたアンネは、微笑んだ。


「……女王陛下には、将来の伴侶となる男性を選んでいただきます」

「……ん?」

「皆、お入りください」


 アンネの声を受けて、ドアが開いた。その先に立っているのは、五人の男性。


 彼らのことは、よく知っている。皆、私の仲間たちだ。今日は式典に参加してくれたからか五人とも礼服姿で、それぞれ意匠が違うのがまた似合っている。


 五人は横に並ぶと、揃ってお辞儀をした。


「本日はおめでとうございます、陛下」

「ヴィルヘルミナ様が即位なさる姿を見守られて、光栄でした」

「おめでとう、ヴィルヘルミナ様! 格好よかったよ!」

「本日の陛下は、いつもに増してお美しいです。おめでとうございます」

「……おめでとう、ヴィルヘルミナ様」

「……あ、ありがとう」


 口々に祝われたり褒められたりしたけれど、つい声が裏返ってしまう。

 それは……とんでもなく大事なことを今、思い出したからだ。


「皆、今後も陛下に変わらぬ忠誠と愛を誓ってくださるそうです。……ですので、女王陛下。是非ともこちらの五名の中から、伴侶をお選びください」


 アンネが、笑顔で言う。

 ……そう、そうだった。


 私、この中から婿を選ばないといけないんだー!













『女神の遣いと青の王国』には、婿候補の男性が五人いる。

 マッチョ、インテリ、子犬系、王子様、クールと人気どころの要素を各種取りそろえられている彼らとの間には好感度が設定されていて、エンディングまでに一定以上の好感度を得たキャラが結婚候補になる。


 候補者が二人以上いれば好きな人を選べるし、一人だけなら強制的にその男性と結婚エンドを迎える。誰も基準値に達していなかった場合は救済措置なのか王子様系のキャラと結婚することになる。

 つまり、バッドエンドを回避して女王になった以上、誰か一人と結婚することが確定なのだ。


 私は魔物との戦いや国作りが楽しすぎて恋愛方面はおろそかになっていたけれど、仲間との関係作りには努めたから、ちゃんと好感度は得られていたようだ。

 でも、結婚のことはすっかり忘れていたし……一つ、問題がある。


 皆のことは仲間として信頼しているけれど、五人とも私の好みとはちょっと違うんだよねー!


 いや、皆格好いいし一人一人特徴があって個性的で、仲間や部下、友だちとしては五人とも完璧だ。ゲームでも私は、王子様系キャラを選んだし。


 でも、ゲームはゲーム、現実は現実だ。

 五人の中で一番ビジュアル的にも性格的にも好みに近いのは王子様系だけど、現実でも結婚したいってわけじゃない。


 それに……である。


 このゲーム、バトルとか恋愛イベントとかはライトな描写なのに年齢制限が十五歳以上である。その所以が、結婚相手を選んだ後にかなり濃い恋愛描写があるからだった。


 つまり、あれだ、朝チュンだ。

 爽やか王子様キャラもそうだったし、攻略サイトによれば他の四人ももれなく、結婚相手として決めた日に即いただかれるらしい。


 ……うん、ちょっと、ね?

 ゲームならふんふんほうほうと見守れた朝チュン展開も、現実ではちょっと恥ずかしいです!

 残念ながら前世の私は恋愛経験がないままアル中死を迎えたので、こういうことにはちょっと躊躇いと恥じらいがあるのです!


 ゲームでの主人公は案外肉食系らしくて、年齢制限シーンでは誰に対してもガツガツいったっぽいけれど、私にはちょっと無理です……。

 これまでよき仲間、頼れる友人だと思っていた人たち相手にそうなるのは、ちょっと早いです……。


 ということで、五人勢揃いした結婚候補キャラたちを前に、私は冷や汗だくだくである。ゲームでは戴冠式の後すぐに相手を選んで翌日朝チュンだったけれど……それをやれと?


「あ、あの……アンネ?」

「はい」

「今すぐに、選ばないとだめ?」


 主人公はきれいめ系美人だけど、ここだけはと頑張ってかわいい感じに尋ねたら、アンネは笑顔のまま肩をすくめた。


「皆様もそのおつもりでいるでしょうし、今すぐが望ましいのですが……女王陛下の望まぬことを強いるのは、わたくしたちとしても本望ではございません」

「……だよね!」

「そうですね……来月には建国祭もございますし、その日までに決めていただくのはいかがでしょうか?」


 アンネが出した妥協案には、正直うっと思ってしまう。


 確かに、ちょうど一ヶ月後がブラウ王国の建国祭の日だ。私が女王になって初めての華やかなお祭りということだし、女王の伴侶を決める日としてもふさわしいかもしれない。


 でも、一ヶ月……一ヶ月かぁ。


「……分かった。それじゃあひとまず一ヶ月、考えさせてくれないかしら」


 結婚候補たちの方を窺いつつ言うと、五人ともうなずいた。


「もちろんですとも」

「ここで無理に選ばれても、我々としても嬉しくありませんからね」

「ヴィルヘルミナ様だって、即位したばかりで忙しいもんね!」

「あなたのお気持ちがまとまるまで、そしてお心の面でも落ち着くまで、我々は待ちましょう」

「……無理だけはするな」

「……ええ。ありがとう、皆」


 ひとまず一ヶ月の猶予をくれた皆に、礼を言っておいた。

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