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現実と結論②

 アンネが執務室の外に向けて、呼びかけた。

 もしや――と思ってそちらを見ると外側からドアが開かれ、衛兵に両脇を固められた恋人の姿が見えたため椅子から立ち上がってしまった。


「レクス!? どうしてここに……」

「女王陛下、やっぱりちょっと平和ボケしちゃってるでしょ」


 子犬系が小さく笑い、インテリも肩を落とした。


「本日の女王陛下の自由行動の際に、見張りをつけておりました。……ああ、さすがに店や住居の中には入っておりません」


 えっ、尾けられていたの!? 全然気づかなかったけれど、そりゃあ確かに外出禁止令が解かれた直後の元不良女王がどこに行くか、気になるわよね……。


 昼間に会ったときと同じ格好のレクスは私を見て少し悲しそうな眼差しをしてから、その場に跪いた。


「……城下町で暮らす、レクスでございます。家名はございません」

「レクス……ひどいことはされていない? 無理矢理じゃなかった?」

「はい。僕もあなたに自分の気持ちをもっとちゃんと伝えないといけないと遅れて気づいたので、望んでこちらに参りました」


 レクスがそう言うと、アンネは衛兵を部屋から出させてからレクスに前に出るように言った。


「レクス、あなたが女王陛下の想い人ということで間違いありませんね」

「おっしゃるとおりです」

「……気になってたんだけど、もしかして女王陛下ってこの人ともう、体の関係を持っちゃってるの?」


 まるで「今は何時?」くらいの気さくさできわどいことを聞くのは、子犬系男子。

 あまりにもあけすけだからかマッチョやインテリは呆れているし、王子様系とクール系は気まずそうに視線を逸らしている。


「あっ……え、ええと……」

「女王陛下の代わりにお答えさせていただきます。僕は建国祭の夜、子どもはできないように配慮しましたが、女王陛下と関係を持ちました」

「レ、レクス!?」


 私が言いにくいだろうと代返してくれたレクスは覚悟をしていたからかなめらかにしゃべっているけれど、顔は赤い。

 純朴な恋人に、恥ずかしいことを答えさせてしまった……。


 レクスの返答と私の反応を見て、アンネが「……ああ、あの夜ですか」と遠い眼差しになった。


「翌朝のご様子がおかしいとは思っていましたが……なるほど」

「おまえは、自分が抱いた女が女王陛下だと分かっていたのか?」

「いえ、女王陛下であると気づいたのは、その後に王城の厨房での臨時採用の際に陛下の姿をお見かけしたときです」


 クール系の質問にレクスが答えたので、これは私が言わねばと思って身を乗り出す。


「私がレクスに嘘をついていたのです。冒険者のミナと名乗って……。でも私は彼と……ええと……寝所を共にした翌日、彼のもとから逃げ出してしまいました。それなのにレクスは逃げた私を責めたりせず、周りの者たちにも嘘の説明をして、決して私のことを悪し様に言いませんでした」

「ほう……それは紳士的と言えよう」


 マッチョが感心したように言い、王子様系もレクスに好印象を抱いたように微笑んだ。


「女王陛下だと知らずとも誠意を尽くすあたりは、評価できます。……そういう人だからこそ、女王陛下が恋をしたのかもしれませんね」

「……確かに女王陛下の恋人としてのひととなりについては、問題ないようです。最低限の礼儀も備わっていますし、恋人に尽くす甲斐性もある」


 そこまで言ってからインテリは目を伏せ、「……一般人同士の恋であれば、何も文句はないでしょう」とつぶやいた。


「ですがあなたの恋人は、ブラウ王国至高の存在である女王陛下です。……先ほど女王陛下にも申し上げたのですが、あなたが家名を持たぬ一般人である以上、女王陛下との婚姻は認めることはできません」

「そもそも君って女王陛下と結婚したいのかなぁ、って話してたんだ」


 子犬系は歯を見せて笑い、試すようにレクスを見た。


「もしかして恋人君の方は王配になりたくないのに、女王陛下の前だから本当のことを言えないのかもなぁって」

「おい、言い過ぎだ。……だが、その可能性も十分あると思っている」


 かわいい系なのに相手の痛いところを突いてばかりの子犬系を窘め、クール系はちらっと私を見た。


「ヴィルヘルミナ様は、おまえ以外の男と添い遂げるつもりはないと言った。……では、おまえはどうだ?」

「……僕は」


 レクスは顔を伏せてしばらくの間黙ってから、さっと私を見上げた。

 その灰色の目には、決意の炎が宿っていた。


「僕は、王配にはなれません。……なる資格もないし、無理になったとしても女王陛下を不幸にするだけだと分かっております」

「レクス……」

「申し訳ございません、陛下。……僕は、あなたを愛しています。愛しているからこそ……あなたの枷にはなりたくない。僕の恋を貫いたがためにあなたが今後女王として苦しむことになるくらいなら、身を引きます」

「……」

「でもそれは、あなたを諦めるというわけではありません」


 レクスは、微笑んだ。

 あの、私の大好きな、柔らかい笑顔で。

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