表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/21

戴冠式翌日(Fourth round)

 朝になった。窓の外で小鳥がチュンチュンさえずっている。朝チュンである。


「……あっははは。……そう、そういうオチなのね……」


 ベッドの上で目覚めた私は、乾いた声を上げてしまう。


 建国祭の夜、『青猫三角亭』のパーティーに参加した。そこでレクスと一緒に踊って、彼の告白を受けて……そして、また「ここ」に戻ってしまった。


 よそ行きのちょっとかわいいワンピースの胸元に、レクス手作りの招待状を入れた。ちゃんと入れた。

 でも今の私はネグリジェ姿で、招待状はどこにもない。

 今は戴冠式の翌朝で、私はまだレクスと出会ってすらいなのだから。


 私は、彼の告白への返事をすることもできず、また一ヶ月前に戻ってしまった。


「……レクス……レクス……!」


 アンネが来るまでの間だからと、私は泣いた。

 今になって気づいた、私の気持ちと願い。


 私は……私もまた、あの優しい人に恋をしていたのだ。













 戴冠式翌日も四度目となると、いろいろと諦めの境地に達してしまった。三度目はわりとバリバリ仕事をこなしていたけれど、なんだかそれも気が進まなくなってしまう。


 だって……全部無駄なんでしょう?

 婿を選ばない限り、私は建国祭の翌日を迎えることはできないんでしょう?


 頑張っても、恋をしても、ゲームの強制力からは逃げられない。

 私が好きになった人と一緒に過ごす未来は、存在しない。


 ……うん、分かった。

 いい加減、もう分かった。


 主人公は、五人の結婚候補の中から一人を選ばないといけない。そうしないと、建国祭の翌日を迎えることができないのならば……選ぶしかない。


「でも、どうせループするのなら……一度くらい、羽目を外してもいいよね?」


 どうあがこうと私は建国祭の深夜十二時を迎えた瞬間、戴冠式翌日の朝にループしてしまう。

 それなら……どうせ私が今生きているこの世界も一ヶ月足らずで消えてしまうのなら、最後にやりたいことをやっても問題ないはず。だって、全部リセットされるんだから。


 まあそうはいっても、とんでもなく非道なことをするつもりはない。余命宣告された人間がヤケを起こしてしまうということもあるそうだけど、そこまでじゃない。


 最終的に五人の中から一人を選ばないといけないのなら……いずれ消えてしまうこの世界で、本当に好きな人と結ばれたっていいよね?















 かくして私は、三度目とは大違いの不良女王になった。

 どうせ学習内容は身についているのだからと勉強からは逃げ、政治は臣下たちに丸投げ。そしてあの手この手を使って城から逃げ出し、城下町に入り浸っていた。


 入り浸る先はもちろん、『青猫三角亭』である。


「こんにちは、レクス。今日も会えて嬉しいわ」

「こ、こんにちは、ミナさん。ようこそいらっしゃいました」


 入店した私を迎えてくれたのは、レクス。


 先日このお店を初めて訪問したときのレクスは当然、初対面の私に対して丁寧に応じてくれた。

 私にとってはレクスはもう見慣れた存在だけど、今回の彼にとって私ははじめましてだというのがなんだか不思議な感じがしたし、寂しかった。


 ……でも私は、知っている。

 あの建国祭の夜に彼は、私が初めて店に来たときから好きだった……つまり一目惚れだったと言っていた。


 つまりこうして私と目を合わせた瞬間から、彼は私のことが……まずは見た目的にすごく好きになるというのが確定しているのだ。

 少し微笑んだだけで顔を赤くしたのも、自分の好みドンピシャの美女に無料スマイルを向けられたからなのだと、今では分かる。


 ……ならばループ現象が発生するあの夜まで、これでもかというほど彼に媚びを売って誘惑して好き好きアピールすれば、出会って一ヶ月足らずで両想いになることも可能なのでは?

 そして最後だからと……あれだ、「熱い夜を過ごす」みたいな展開も期待できるのでは?


 ……四度目の時間を過ごしているからか、私もだいぶおかしくなっていると自覚している。

 もしかすると、恋愛に関して肉食系だったとゲーム終盤で判明する主人公の性質を引き継いでしまったのかもしれない。


 でも、いいじゃない。

 国を建て直して、魔王を倒して、国民のために尽くしてきた。


 そんな私にたった一度のご褒美くらいくれたって、いいでしょ?


 どうせ……全部、なかったことになるのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ