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戴冠式の前

※注意※

物語全体を通してR15な雰囲気があります

朝がチュンなやつが出てきます(露骨な表現はありません)

そのたびに警告文を入れたりはしませんので、ご了承ください

『青の都』と呼ばれる、ブラウ王国王都。

 城下町の街並みを一望できる位置にそびえる王城は、この国を治める若き女王の住まいでもある。


 金色の髪をなびかせる、青い目を持った美しい女性。魔物の被害で疲弊したブラウ王国を救うべく、女神によって遣わされたという彼女の名は、ヴィルヘルミナ。


 圧倒的な魔力をもって魔物たちを倒し、驚くべき知識と発想力によって崩壊寸前だった王国を建て直した麗しの女王陛下は、王国民にとって救世主であり、憧れの的でもあった。


 ……そんな女王の部屋に、朝が訪れた。


「なんでっ……! なんで今回に限って、ループしないのよぉ!」


 ベッドの上で上半身を起こし、豊かな金髪をぼさぼさにして叫ぶのは、我らが女王陛下ヴィルヘルミナ。


 美しい見た目を台無しにするかのような叫びに、窓辺に留まっていた小鳥たちが慌てて飛び去っていったのだった。













 前世の私の名前は、高田美奈。日本で暮らす、ごく普通の女性だった。


 前世、ということでお分かりのように、高田美奈だった頃の私は死んでいる。嫌々参加した仕事の飲み会で度数の高いお酒を何杯も飲まされた後の記憶がないから、急性アルコール中毒で死んでしまったのかもしれない。

 私の家族が、無理矢理お酒を飲ませてきたパワハラ上司を訴えて地獄に落としてくれていることを願っている。


 さて、こうして二十数年の人生に幕を下ろしたはずの私だけど、どうやら前世の記憶を所持したまま転生することになったらしい。

 といっても、赤ん坊として生まれたわけでも誰か別の人間の体を乗っ取ったわけでもない。


『おお……あなたこそ、女神ユイリアの使者様ですか!』


 もうお酒はこりごりだわーと思いながら目を覚ましたと思ったら、私は神殿のような場所の台座に寝ており、ファンタジックな衣装の人たちに囲まれていた。

 皆は私を見て感涙を流したり歓喜の声を上げたりしていたものだから、これがエイリアンに拉致された人間の気持ちか……なんて思ってしまった。まだ酔っ払っていたのかもしれない。


 でも、今の私の姿は黒髪黒目一重の平凡な女ではなくて、金髪に青い目の絶世の美女だった。出るところはしっかり出ていてなおかつ性的すぎない絶妙な体型に、びっくりするほど整った顔。

 差し出された手鏡をのぞき込んだときには、「これが、私……?」なんてお決まりのコメントを吐いてしまったくらい。


 どうやら私は、異世界――前世プレイしたゲームの世界に転生していたようだと分かった。それも、主人公として。


『女神の遣いと青の王国』は、女性向けのゲームだ。年齢制限マークはC――十五歳以上対象で、恋愛要素がある。


 物語の舞台は、魔物による崩壊が進むブラウ王国。困窮した人々が女神にすがった結果、女神は自分の遣いである主人公を送り込む。

 この主人公は人間に限りなく近い女神の眷属として造られた存在とのことで、見た目年齢は二十代前半だけど年齢不詳となっている。


 主人公が仲間と共に魔物を倒し、国を復興させるというのが目的で、城下町に施設を建てたり新しい料理を編み出したりして、自分の好きなように国を作ることができる。


 メインストーリーの最後で、主人公は好感度が高い男性キャラから一人を選んで結婚して、ハッピーエンドを迎えることになる。このときにどんな国作りをしたか、どれくらい魔物を倒したかなどでエンディング後の後日談がかなり細かく変わった。


 ……ということで、私はなぜか『女神の遣いと青の王国』の主人公であるヴィルヘルミナとして生まれ変わっていた。ヴィルヘルミナというのは、ゲームでのデフォルトネームだ。語尾が前世の名前である美奈と同じということもあり、私はこの名前でプレイしていた。


 ええっ、私がヴィルヘルミナ!? 魔物と戦うなんて! 国作りなんて! と最初は困ったけれど、高田美奈としての記憶と女神の眷属としての能力の両方を持つからか、案外すんなりとストーリーを進められた。


 魔物と戦うのも戸惑ったのは最初だけで次第に魔法でバシバシなぎ倒せるようになったし、国作りに関しても「こんなものがあればいいな」「あんな食べ物を再現できないかな」というのを仲間に提案して素材を集めて……ってやっていれば、うまくいった。


 ブラウ王国は元々ヨーロッパ風の街並みだけど、温泉街があったりたこ焼きが売られていたりお掃除ロボットが利用されていたりするのは、私のせいである。かなりやりたい放題させてもらった。


 そうして、この世界に転生して二年ほど経った先日、ついに私はラスボスである魔王を倒した。

 ……このゲームはどちらかというと恋愛とクラフトに重きを置いているから、ラスボスといえどそれほど強くなかった。

 小学生が修学旅行先で買うキーホルダーみたいなオリジナル剣を錬成してそれを振り回していたら、勝てた。すごいなドラゴンソード。


 ゲームでは国作りのときに「兵力」「文化」「衣食住」などテーマを選べたけれど、私が重視したのは「衣食住」。

 そういうことでエンディングを迎えて凱旋した私たちがパレードした城下町は、たくさんの家屋が建ち並び異国情緒溢れる食べ物が溢れ下水道が完備した、大変過ごしやすい場所になっていた。


 ゲームでのプレイ状況に応じて国民からの人気度数とかが変わったけれど、どうやら今の私は国民から大人気を誇っているようだ、と教えてくれたのは、旅の仲間であるアンネマリー、通称アンネだ。


「今日の戴冠式で女王陛下の姿を一目でも見ようと、国民たちが地方からも押しかけているそうです。それほど、ヴィルヘルミナ様は民からの人気を集めてらっしゃるのですよ」

「全くそんな自覚はないけれどね」

「そういう謙虚なところがまた、皆に慕われる理由になるのですよ」


 アンネはそう言って微笑んだ。ゲームでのサポートキャラだったアンネは、二十代後半の落ち着いた感じの女性だ。


 ゲーム開始時点ではブラウ王国に王族がおらず、魔王を倒した私は皆の支持を得て女王に即位することになった。

 ちなみにゲームであまりにもひどいプレイをしていると、魔王を倒しても支持者がいないのでひっそりと女神のもとに帰った……というバッドエンドを迎える。


 かくして国を救った私はもうすぐ、女王になる。

 女神の使者だった頃の私は軽めの鎧を着て剣を腰から下げていたけれど、今の私は金色の髪を結ってたくさんの宝石や生花で飾り、深い青色の式典用ドレスを着ている。今日の戴冠式で国王の冠を授かったら、女王ヴィルヘルミナの誕生だ。


 ……ここからは、ゲームにはないストーリーだ。


 女神によって作られてブラウ王国を救うために遣わされた私は魔王討伐後、「これからは一人の人間の女性として、あなたの望むように生きなさい」と女神に言われた。そうして女神の使者としての力の大半を失う代わりに、人間としての体を手に入れた。

 元々人間に限りなく近い存在だったけれど年を取らず月のものもなかったけれど、これからは本当に人間として生きていけるみたいだ。

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