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校外学習

今日は校外学習。

いつもより早く起き、こうして弁当を作っている。


「できた」


場所は他県で現地集合。電車で2時間程かかる。

荷物を指さし確認し、リュックのチャックを閉じる。

空は薄明るく、日は昇りかけ。

鍵を閉めて、アパートを出た。


スマホを見たり窓の景色を見ながら、揺られていると見慣れた顔が電車に乗ってきた。


「お、飛鳥!

またまた偶然だね」


「その言い方だと怪しく聞こえる」


「ほんとに偶然だってば。

せっかくだし一緒に行こ」


「別にいいけどさ」


まさか伊保さんと出会うとは。

彼女の家の方向と、集合時間を考えれば同じ時間帯になるのは想像がつく。

けれど同じ車両になるとまでは考えがつくまい。


朝日が出てきたのか、眩しく車内を照らす。


「なんだかワクワクしてこない?

こんな早朝から電車乗って、しかも遠くに行くなんて」


「そう、かな?

私はなんとも思わないけど」


「えぇーそれは絶対嘘だ。

何かすこーしだけでも思ったことがあるはず」


「うーんと、そうだな。

……緊張、してるかも。

普段遠くに行くことってそうそう無いし」


「緊張か。

わかるなぁ、それ。

今も心臓バクバクいってる」


「そうは見えないけど」


「そう見えないだけ」


そうしてお互いくすりと笑い出す。

そんな感じで話していると、乗り換えの駅に着いた。


「えーっと……どっちに行けばいいんだっけ?」


「こっちだよ」


伊保さんを連れ、歩いていく。


「早く、この電車に乗らなきゃ」


「え、うん!」


なんとか電車に乗ることが出来た。


「……飛鳥ってさ、すごいね。

私なんかロクに調べずになんとかなるかなぁって」


「実際私のおかげでなんとかなったしね」


「もう」


待ち合わせ場所に着くと、既に数人の生徒が集まっていた。


「早く着いた方なのかな?」


「余裕持って出てきたからね。

あと20分待たなきゃいけないけど」


「えぇーそれくらいすぐ過ぎるよ」


「なんでそう言いきれるの?」


「だって飛鳥と話してるとあっという間に時間過ぎるんだもん」


「……!」


恥ずかしい事を正面から言われ、言葉が詰まる。


「ん?どした飛鳥?」


「な、なんでもない」



「───全員集まってるかー」


担任兼部活の顧問でもある空野先生が点呼をとる。


「それじゃあグループに分かれて行動するように」


「私は……」


集まったのは高砂さんと、ヒラヒラした制服を着ていわゆる地雷系メイクをした烏丸(からすま) 瑠璃(るり)さん。

活動休止中のアイドル、綺麗な金髪を頭の横に結びお洒落な制服を着た、何をやっても完璧にこなすという安治川(あじがわ) 詩織(しおり)さん。


「あれ、もう1人は?」


「休みだって、先生が言ってたよ」


私の言葉に返答したのは安治川さんだった。

それに続くように烏丸さんが口を開く。


「あの娘いっつも休んでるし、何も珍しい事じゃないでしょ」


「………」


烏丸 瑠璃。

もしかしたらって思ってたけど……やっぱりそうだった。

この娘、きっと私の正体を知ってこのグループを選んだんだ。


「……そういえば伊保さんはどうしてこのグループに?」


「む……そろそろ名前で呼んでくれてもよくない?」


「う……は、恥ずかしいし」


「恥ずかしがらなくていいのに〜。

私は純粋に飛鳥と組みたかったからだよ。

そういうしおりんは?皆組みたがってたじゃん」


「あたし?

あー、誰も選べないから選ばなかったらこうなった?」


「はいはーい、瑠璃はぁ飛鳥っちと組みたくてここに来ました〜」


「………」


私はグループ決めの時保健室でサボっていた。

意図せずにこうなったのは私だけ。

皆狙って余り者達が集まるグループに来たのだ。


「てか、飛鳥ちゃん人気だねぇ。

あたしも気になってきちゃったなぁ〜」


「あ、あはは……そんな大層な人物じゃないよ」


「ここで喋ってても何だし、歩きながら話そ☆」


「あ、瑠璃ちゃんずるい〜!」


左腕に烏丸さん、右腕に伊保さんが腕を絡めてきた。

歩きづらさと恥ずかしさとでごちゃごちゃになりながら、校外学習が始まった。


昔ながらの街並みを話しながら歩いていた。

まぁ、私は皆の話を黙って聞いていたんだけど。

時間までに目的地に着いておけば、それまでは自由行動。

私たちはまず、城に向かっていた。


「この道を真っ直ぐ行けばいいみたい」


伊保さんが地図を見ながら言った。


「一気に現代になったね」


烏丸さんがさっきコンビニで買った飲み物片手に言った。

烏丸さんの言う通り、現代的なビルが立ち並び車通りも多い。

道なりに進んでいくと目的地である城に着いた。


「入場料800円だって。

いけそう?」


「私は大丈夫」


「うちもー」


「しおりんもばっちしだよ☆」


入場料を払い、いざ城へ。

敷地内は広く、平日だというのに人がちらほらみえた。


「ほえーよそ見してたははぐれちゃいそうだね」


「そう言いながらキョロキョロよそ見してんじゃん」


「えへへ」


軽口を叩き合う烏丸さんと安治川さんを後ろで見てると、伊保さんが隣を歩く。


「楽しい?」


「え、まぁ………うん」


「そっか、なら良かった」


城の階段は急で、油断したら転んでしまわないか少し怖かった。

けれど、その分窓から見た眺めは綺麗だった。


「映え写真撮らなきゃ」


景色と自撮りを撮る烏丸さん。


「え〜折角ならカメラ越しじゃなくて肉眼で見なきゃ」


「見てるよーちゃんと。

それにこれが瑠璃の楽しみ方だもん」


「そっか。

ならこれ以上言えないなぁ」


烏丸さんと目が合う。

にっと笑う烏丸さんに、ぎこちなく笑い返す事しか出来なかった。


「次はどこ行く?」


「神社とかどう?皆でお揃いのお守り買っちゃったりしてさぁ」


「いいねーそれ!瑠璃それやりたーい!」


伊保さんの問いかけに安治川さんが反応し、烏丸さんが喜んでいる。

黙っていた私に皆の視線が集中する。


「うん、私もそれでいいよ」


「やったぁ!じゃ、決まりだね☆」


神社までの道のりはいつもより早く感じた。

いつも校外学習の時の移動は長く感じていた。

好きでも嫌いでもない特に親しくも無い人達と行動するのは、見る景色までもつまらなくさせた。

それが今では楽しく、景色がキラキラして見えた。

人が違うだけでここまで変わるなんて。

本当に不思議だ。


「着いたー☆

皆で神社をバックに写真撮ろうよー」


「いいね、それ」


安治川さんに続いて烏丸さんが駆け寄る。


「あたしたちも入ろ?」


「……うん!」


伊保さんに手を引かれるままに、写真を撮った。



「……皆、何お願いした?」


「えぇーそれは内緒でしょ」


「あたしは皆幸せになりますようにって願ったよ?」


「お人好しか」


「てへへ。

飛鳥は?」


「私は……内緒」


皆でお揃いのお守りを買い、神社を出る。

こんな素敵な思い出を貰っていいのだろうか、とそんな思考が頭を過ぎった。


「お腹空いたし、そろそろどっかでお昼ご飯食べない?」


「あたし、現地で食べようと思っててさ。

皆は?」


昼ご飯は自由のため、現地で食べても弁当を食べてもどちらでも良い。

私は節約のためお弁当にした。


「私はお弁当持ってきてて」


「奇遇だね!瑠璃もだよ」


「そっか。

じゃ、一旦別れて食べ終えたらここで集合って事で」


じゃあね、と手を振り伊保さんと安治川さんは去っていった。


「瑠璃達も近くの公園で食べよ?」


「う、うん」


5分もせずにあっさりと公園は見つかり、ベンチに座る。


「いただきまぁーす」


「いただき、ます」


手を合わせて、弁当箱の蓋を開ける。


「わぁ、飛鳥っちの弁当美味しそう〜。

一つ具交換しようよ」


「……いいよ」


烏丸さんが卵焼きを取り、私はりんごを取った。


「本題に入らせて貰うんだけどさ。

単刀直入に言うね。

───烏丸さん『魔女』、だよね?

私に何の用があって近づいてきたの?」


「あらら、バレちゃってたかぁ。

て、そんなの当たり前か。

近づいた理由ねぇ……そんなの、同じ仲間だから。

で、良くない?」


「本当にそれだけが理由?」


「本当だってば」


「………」


正直言うとまだ信じられない。

他の目的があるんじゃないかとか、疑う余地はたくさんある。


「ちなみに何の魔女なのか聞いてもいい?」


「えーと……それはぁ………」


「……言いたく、ない?」


「うん……まぁ、そんな感じかなぁ」


今の質問を答えなければ、信用は得られないと烏丸さんも分かってるはず。

そんなに言いたくない程、自信が無いのだろうか。


「ま、いいけどさ」



弁当を食べ終え伊保さん達と合流し、目的地へと向かっていた。

空が白く曇り、街中を歩いている。


「なんか嬉しそうだね、伊保さん」


「そりゃね。

今、こうして皆とわいわいしてるのがすごく幸せ」


そう言ってにこっと笑う姿はどこか眩しく、けれど屈託の無いその笑顔に何故だか嬉しさが込み上げてくる。


「私も、同じ気持ち」


「なになに、2人して何話してるの?」


安治川さんがこちらに顔を向け話しかける。


「別に〜」


「えぇー教えてよぉ」


伊保さんがはぐらかす。

目的地までは、皆でわいわいしていたせいかあっという間にも感じられた。


着くと集まった生徒が沢山居た。

伊保さんが先生に報告し、しばらくすると先生が話し始めた。

帰りに羽目を外しすぎるなと、5分もせずに終わり解散となった。


「帰ろっか」


「え、う、うん」


「何その反応」


「いや、まさかそう言われるとは思わなかったから」


「あたしらも方向一緒だから途中までかもしんないけど帰ろ」


「うん」


「やった☆」


こうしてクラスメイトと帰ることになったのだった。

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