部活動紹介
一人暮らしをしているので当然として一人で家事をしなければならない。
使った食器を洗って、洗濯物を干して、掃除して、ゴミ出しだってそうだ。
いつも朝6時に起きて、一通りの家事を済ませてから学校へと行っている。
「ふわぁ〜、おはよー」
「おはよ、よく寝れた?」
小さなドールハウスから出てきたのは私の使い魔である、小人の蒼空。
水色の綺麗な長い髪に、ラフな格好で出てきた12cmぐらいの同居人。
このドールハウスは特注で作らせた物で、なんと電気やガスなどといった普通の家と同じ機能を携えてある優れものなのだ。
「今日もあんたは学校?」
「うん」
「あたしは今日も家でのんびりしとくわ」
蒼空は緊急時にいつでも呼び出せる為、家に居ても問題ない。
「行ってきまーす」
───5時間目。
私は教室ではなく体育館に居た。
部活動紹介をするためだ。
「緊張する……」
「大丈夫だよ。主に私が喋るんだし」
後輩の遠子ちゃんに声をかけていると、いよいよ文芸部の出番が回ってきた。
「こんにちは。
私達文芸部は、日々読書や執筆などの活動をしており──」
皆の前でこうやって話すのは今回で2回目だ。
だからかあまり緊張はしておらず、すらすらと話すことができたと思う。
「や、やっと終わった……」
「頑張ったね遠子ちゃん」
「まぁ、後は部員が増えてくれればいいんすけどね」
「そうだね」
──放課後。
私は職員室に鍵を取りに行き、部室がある別館4階へと向かった。
流石に部活体験の時に部長が不在ではいけない為だ。
階段を上り、部屋の前にたどり着いた私は鍵を開けて中に入る。
机に鞄を置き、黒板に一通り体験でやる事を書いた。
「お、流石に先輩来てるんすね」
「柚瑠君、来てないとやばいでしょ」
「そう思うんなら普段から来て欲しいんですけどね。
俺だって土日来れる日もそうそう無いし」
「そうは言いつつ結構来てくれてるよね。
……まぁ、悪いとは思ってるけど」
「思ってはいるものの来ないあたりがなんというか」
そんな風に話していると遠子ちゃんがやって来て、3人で話しながら新入生が来るのを待っていた。
「あの、ここ文芸部で合ってますか?」
「あ、うん合ってるよ」
声が低い赤茶髪のポニーテールの女の子と、後ろにもう1人男の子が居た。
「どうぞ座って」
席へと案内し、座ってもらう。
「えと、じゃあ早速だけど自己紹介するね。
私が部長の飾磨 飛鳥。
で、彼が副部長の──」
「向井 柚瑠です」
「部員の三重 遠子でーす」
「私は高畑 葉弥香っていいます」
「お、俺っちは園筋 太郎っていいます!」
「2人ともよろしくね。
まずは一通り活動内容について説明するね。
普段は平日でも土日でも、事前に言ってくれれば自由に使ってくれて構わないんだ。
現に私は普段土日しか居ないし……。
本を読んだり、小説とか詩を書いたり、絵が描けるなら挿絵を描いたり。
そんな感じかな。
質問とか、聞きたいことある?」
はい、と高畑さんが手を挙げた。
「校内新聞って、書けたりしますか?」
「校内新聞?
……確か昔は文芸部の人が書いてたりしたみたいだけど、今はちょっと先生方に許可取らないと分かんないかな」
「分かりました」
「他には?」
恐る恐るといった感じに今度は、青緑色の髪を結んだ園筋君が手を挙げる。
「あ、あの兼部とかって出来るっすかね。
美術部にも入りたいんすけど」
「美術部の人がいいって言うのならうちは構わないけど」
「そ、そうっすか!」
どこか嬉しそうな様子。
「次は実際に読んだり、書きたい人は書いてみよっか」
高畑さんは書くことを、園筋君は読むことを選んだ。
「分からない所があったらなんでも聞いてね」
シャーペンで書く音と、たまに質問の時に話す声だけが飛び交う。
「書けました」
「どれどれ見せ……て」
文章を読んで驚いた。
彼女が校内新聞を書きたがってる理由がなんとなく分かった。
「どうしたんですか、先輩?」
気になった様子の柚瑠が声をかけてきた。
「いや、なんといか……」
「正直言ってくれて構わないですよ」
「お前また余計な事書いたんじゃねーのか?」
「るっさい」
どうやらこの2人は知り合いだったようだ。
……今はそれよりも。
「しょ、正直言うと割とはっきりした文章というか……まぁ、なんていうかすごいね」
机に置くと、高畑さん以外の3人が覗き込む。
……内容はこうだ。
『学校
高畑 葉弥香
登校して、授業受けて、昼ご飯食べて清掃して、また授業を受ける。
その繰り返し。
でも、学校生活とはそう単純なものでは無い。
カーストが存在し、クラスや先生との相性、得手不得手等など。
挙げてくとキリが無い程に気を遣う事ばかりだ。
青春、とよく言うがそれは上位存在のみが謳歌し、それ以外の者達はただの監獄生活を送るばかり。
私は自分では上位でも無くそれ以外でも無く、そこからはみ出たはぐれ者だと自覚している。
存在は認知されるが、幸運にも悪口も見てる所では言われず、かといって青春を謳歌する訳でも無い。
ただ1人、そこに居るだけ。
こうやって俯瞰して見てるだけでイタイ奴って自覚はあるし、私もそれ以外の者達と同じく監獄生活を送っている1人に過ぎない。
私にとって学校とはそういうものだ』
「……なんというか」
「……またすごい子が来たね」
「そう、ですか?」
本人はあまり自覚が無い様子……なのかも分からない。
「まーたこんな事書いて」
「何、文句でもあんの?
なら一緒の部活に入らなきゃいいじゃん」
「俺っちは俺っちで入りたい理由があるんですー!」
「あっそ。
別に興味無いからいいけど」
「ムキー!!」
「2人とも落ち着いて?」
なんだかとんでもない2人が入る事になるかもしれないと、予感した。