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偶然

ある日の放課後、私は図書室で本を探していた。

綺麗に並べられた本の背表紙に書かれたタイトルを一つ一つ見ていき、目当てのものを探す。

この時間がたまらなく楽しくて、ワクワクする。

そして見つけた時、やったと嬉しくなるのだ。


「無いかと思ってたからあってよかった〜」


「それ探してたんだ!

見つかって良かったね」


「うわっ、びっくりした……って、伊保さんどうしたの?」


「ん?今日は部活が休みだからって友達に本の返却を頼まれてさ。

でも頼まれて良かった。こうして会えたんだもん」


「私に会うってそんな嬉しい事かな?」


「嬉しい事だよ。だって仲良くなりたい子がここに居たんだよ。

なんか運命感じない?」


面と向かってこんな恥ずかしい事を言われると、どうしていいのか分からなくなる。


「で、この後どうするの?」


「借りて帰るつもりだけど……」


「ふっふーん」


伊保さんが不敵な笑みを浮かべる。

なんだか嫌な予感が……。


「家寄ってもいい?」


「え、いや、いいっちゃいいけど……」


「やった!」


「あ、でも私DVD借りに店に行くけど……」


「いいじゃん行こ行こ!」


本を借り、乗り気な伊保さんを連れ校門を出る。

坂道を下り、その先の道を真っ直ぐ東に進んだ所にレンタルビデオ屋さんがある。


「で、何を借りるの?」


「借りてたアニメの続きを」


「なるほどなるほど」


「伊保さんってアニメとか見る?」


「うーん基本的にテレビはバラエティとかしか見ないかな。

なんかオススメとかあるのなら、借りて見ようかな」


「初心者にオススメなのは───」


それぞれアニメを借りた私たちは店を後にし、いざ私の家へと向かう。


「アパートなんだ」


「うん。ここの2階に住んでる」


ボロくも高そうでもない、青いタイルのごく普通のアパート。

その2階の一番端の部屋が私の住んでいる部屋だ。


「自分から言ってなんだけど、急に来て家の人大丈夫かな」


「大丈夫だよ。

だって私一人暮らしだから」


「え、飛鳥って一人暮らしなの!?

すごいね」


「……っ、急な名前呼び」


いつそんなに仲良くなったのか、それとも自然に零れ出たことなのか。

恐らく後者なのだろう。


鍵を開けて、扉を開く。


「どうぞ」


「お邪魔しまーす」


中に入り、リビングへと案内する。


「適当に座って待ってて。

飲み物お茶かジュースかどっちがいい?」


「ジュース!」


「分かった入れてくるね」


コップを2つ用意し、ジュースを注いでいく。


「はい」


「ありがとね」


隣に座り、ジュースを一口。


「………」


「何しよっか?」


「えーっと……あ、ゲームとかどう?

2人で出来るものとかあるけど」


「いいね、それしよ!」


私はゲーム機を取り出し、セットする。

ゲーム内容は車やバイクでレースをするものだ。


「私そんなに上手くないと思うけど……何故か無性に負けたくない」


「あたしは自信あるよ〜。

あ、始まる!」


ぎゅっとコントローラーを握りしめる手に自然と力が入る。

───スタートし、一斉に走り出す。


「うわ、ちょっとミスったな」


伊保さんが一人呟く中、私は一位を走っていた。


「上手くないっていうの嘘じゃん」


「嘘じゃないよ。

周りがNPCだからそう見えるだけ。

対戦だとそんなだし」


「ほんとに〜?」


「む、そんな事言ってるから負けてるんだよ私に」


「何を〜!」


ゲームをする事1時間。

結果は───


「ぜぇ……はぁ……か、勝ったぁ〜〜~!!!」


嬉しそうな笑みでガッツポーズをする伊保さん。


「嬉しそうだね」


「そりゃ、やっっと勝てたんだもん」


そう、勝った数では私の方が上だが、最後の最後でやっと私に勝つことが出来たのだ。


「って、もうこんな時間かぁ」


「だね」


ゲーム機を片付け、ソファに座る。

伊保さんは勝った余韻に浸っているのか、上の方を見ている。

私はスマホを手に取り、イヤホンを付ける。


「この曲、いい曲だから聞いてみて」


「ん、どれどれ」


半ば強引に伊保さんの片耳にイヤホンを付け、曲を流した。


「───確かにいい曲だね。

なんで、今聞かせてくれたの?」


「この曲ね、私にとって特別な曲をなんだ。

……その勝ったご褒美じゃないけど、なんとなくかな」


「とっても素敵なご褒美貰っちゃったね。

ありがと」


にこっと眩しい笑顔を向けられる。

曲が終わるまで互いに無言のまま不思議と心地いい時間を過ごした。


「送ってくれなくてもいいのに」


「いいの。

私がそうしたいだけだから」


「そっか。なら、お言葉に甘えて」


私は自転車を押しながら、伊保さんの後ろを歩いていく。

少しして、カラオケ屋さんがあるのが見えた。


「………」


「………」


「ねぇ、よ──」


「寄らない」


「な、なんで分かったの!?」


「だってあからさますぎるもん」


「マジか〜、視線とか動きに出ちゃってたか。

……あたしの奢りだからさ、付き合ってくれる?」


「悪いよ。

それに一応お金ちゃんと持ってるし、行くとしたら割り勘で──」


「じゃ、決定〜」


「ちょ、ちょっと……まだいいって何も」


私の言葉を聞いているのかいないのか、我先にと店に行く伊保さんの後を仕方なくついて行き、私は自転車を止めるのだった。

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