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読んでも読まなくてもどっちでもいい

甘い毒薬

作者: 阿部千代

 あらゆる作品には毒が塗り込められている。もちろん毒にも薬にもならないと思えるような作品だってあるにはあるが、それは個人がそう思うだけであって、違う個人にとってのその作品には、蠱惑的な毒がむわっと匂い立つくらい毒々しくあるのだった。

 毒は人を狂わし、人生を狂わす。でもそれは一面的な見方に過ぎないのであって、あくまで大多数の人間からするとそう見えるだけで、当人からしてみると、甘い夢の中で甘い快感に身を任せているだけの、夢のような生活なのかもしれない。働き者の父からしたら、それは無残な悪夢であり、こんな筈ではなかったと、力無く頭を垂れることだった。

 人は究極的には分かり合えないし、分かり合うつもりもないし、分かり合うべきでもない。

 個人として適当に歩いてゆくしかないのだ。それを辛いと思うか、なんでもないと思うかはその時の気分次第。いずれどこかで倒れるでしょう。来たるべきその時まで、まあ適当に。気張らず行きましょう。


 あなたはテクノロジーの進化に置いていかれない自信はおありかな。仮想現実、AI、ロボット。これらのテックから窺えるのは、もはや人間の身体性というものに、人類はなにも期待していないのではないか。ということです。そして人類は、本気で神を、目に見える形で神を、作り出そうとしているのではないでしょうか。

 その未来はある意味でとても幸せです。私たちを可愛がってくれる上位者がいて、私たちはただ寝たい時に寝て、遊びたい時に遊んで、甘えたい時に甘えればいい。上位者はそんな私たちが可愛くて可愛くてたまらないのです。素敵だと思いませんか。そんな未来、いますぐ来て欲しいと思いませんか。

 想像を働かせましょう。未来はすぐそこに、あなたの手の中に。あなたはこの世界に必要な存在。だってすっごく可愛いんだもん。


 おそらく近い将来、ロゴスとミュトスが融合するでしょう。テクノロジーがそれを可能にします。神話世界がご近所物語になり、天使が天使なんかじゃないと言い張ります。人類はマリンブルーの風に抱かれて、蛹となり、下弦の月に揺られながら、NANAの月の間、夢を見続ける。目覚めの一発は、王子さま、あるいはお姫さまから、あなたに捧げるParadise Kiss。

 人類はついに蝶となり、虹色の鱗粉を撒き散らしながら、花から花へと飛びまわり、甘い甘い蜜を吸い続けるのです。脳みそがとろけるくらいの甘い蜜。

 あなたたちは狂ったように、狂って、吸って、狂って、吸って。いいんです。お馬鹿さんになれば。だってお隣のオリュンポスさん家には、12柱の神々たちが、あなたたちを見守ってくれているし、横浜スタジアムではヘラクレスがシーズンホームラン記録を大幅に塗り替える80号本塁打をかっ飛ばしました。ゼウスお父さん大喜び。ヘラさんちょっと不満げ。でもこのふたりはいつもこんな感じなんです。

 ぼくのお家の壊れたお風呂は、ヘパイストスさんが直してくれたから、とてもいい湯加減です。お隣がオリュンポスさんで本当に良かったなあ。お父さんがそう言ってました。

 そんな未来が待っています。


 でもたぶんいま生きているわたしたちは、こんな夢のような世界を経験することなく、死んでいくのだと思います。だからまあ適当に。やっていきましょう。頑張りましょう。いずれどこかで倒れるんだから。

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