表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

相田早夜、吠える!(※挿絵有)

挿絵(By みてみん)



「部長! ひょっとして新聞部をつぶす気なんですかー!?」


 そう叫ぶしかない事案だった。目の前でのん気にキュッキュと眼鏡を拭いている新聞部部長・あさひ先輩が、今日いきなり差し出してきた「文化祭企画」は。


「校内全部活の、()()()()にインタビューを敢行しろと! 各人に一ページ、最低四百字以上の紹介文と数点の写真を割り当て、部誌として発行すると!」


「そういうことだ。相田あいだ部員、きみの働きに期待しているぞ」


 なにしれっと有能司令官ぶってんだ、この眼鏡男!


「『部長』って校内に何人いるか知ってます? 運動部十九・文化部二十五。あほ眼鏡を含めて計四十四人もいるんですが! そして文化祭まで、あと一週間しかないのですが!」


「それならば問題ない。なぜなら、この知的眼鏡こと旭と相田部員には、たぐいまれなる取材能力と人脈と体力フガッ!」


 わたしは憎たらしい口に企画書を突っ込んだ。


「だったらその人脈とやらで人手をください今すぐください。病んでる眼鏡と相田以外の、三人目の新聞部員を召喚する魔法陣でも描いてみせてください」


「ブハッ、三人目の部員は無理だが、部長四十四人を四十人に減らす魔法なら知ってるぞ」


「ひとりなら今すぐ抹殺できますが。そこ、消毒しといてくださいよ」


 部長の口から吐き出された、汚い企画書が机に投げ出されるさまをジト目でにらむ。除菌剤、どこしまったっけ。


「そのためには相田部員、きみの彼氏に今すぐ連絡を取ることだ」


「わたしの彼氏ぃ? そんな生物、この時空には存在しませんけど」


「ならば呼称を変えよう。きみの幼なじみ兼サッカー部員、岩永いわなが拓海たくみをこの企画に巻き込むことだ。彼の協力なくしてこのミッションの成功はありえぬからな」


「成功も何も、部長が急にこんな奇怪な提案なんかしてこなければ、例年通り無難に……」


 旭部長は「ああっ……」などと悲劇のヒロインよろしく大きく嘆息し、いかにも力尽きた風に机に両手をついた。もうこいつ丸ごと消毒したくなってきた。


「すまない、勝手なことを言っているのはわかってる! しかし俺には、この企画の成功がどうしても必要なんだ……!」


 理由をツッコんでほしいんだろうなあ……。聞いたところで、しょうもない答えが返ってくるに決まってるけど。


 そんなことより、拓海タクがこの企画にどう関わってくるのかが気になる。


 土曜の午後。普段なら、サッカー部の練習に出ているはず。


 わたしはスマホを取り出し、試しにひとつメッセージを入れてみた。



  ◇ ◇ ◇



「よー、早夜さよ! お疲れっす」


 その男、わたしの幼なじみにしてとなりの家の住人・拓海タクは「映像研究部」部室にいた。すかさずわたしのツッコミが砲撃を開始。


「なんでこんなとこに。サッカー部はどうした」


「今文化祭準備で忙しいじゃん。サッカー部(あっち)は模擬店やんだけど、俺はこっちを進めないとマズいからさ」


「こっちってなに」


「映像研究部。いちおうー部長なの、俺」


「はあ!? 聞いてないし!!」


 あっけにとられつつも、わたしの脳が視覚情報を理解しようとせわしなく動く。狭い部室に、一応それっぽく積まれたレコーダーやらモニターやらの電子機器類、散乱したケーブル類にディスク類、ヒマそうにスマホをいじってる四人の男子部員類――とは別に、タクの正面には見知った顔があった。


甲斐かいセンパイ、またこのおバカの付き添いで?」


「うん、まーね。俺、副部長なんだって」


 いかにも人のよさそうな顔で、頭をかきながら苦笑する茶髪男子。


 タクと甲斐センパイは、ともに二年一組で、一年のときからの親友どうし。いつも騒々しくあほなことを率先してやりたがるタクと違って、甲斐センパイは控えめに気を遣うタイプ。明るめの茶髪は染めてない、地毛だって本人は言い張ってるけど、なかなか信じてもらえず、しょっちゅう先生や風紀委員に捕まってる。


「タク。わたし、タクが映像いじりに詳しいなんて一度も聞いたことないんだけど」


「だよなあ、俺も聞いたことねーわ」


「それがなぜ部長。なめとんのか」


「しゃーねーんだよ、こいつらだけじゃろくな案が出てこなくてさー。文化祭くらい楽しいことやりたいじゃん? で、あれこれ案出してるうちにいつの間にか部長になってた、あはは」


「あははじゃなーい! 甲斐センパイまで巻き込むなー!」


 ツッコミ射撃を続けながら、思い出したくもないあほ眼鏡の言葉を思い出した。確か、タクの協力で取材すべき部長の数が減ると。


「一応聞いとくけど。まさか、ほかにもあんたが部長やってる部があるなんてことは……」


「あー、あるよ。確か文芸部と、コンピューターゲーム部、アニメーション部……あとなんだっけ? 甲斐」


「漫画研究部。自分で引き受けといて忘れるなよ」


 頭痛くなってきた……。


 これは取材対象が減ったと喜ぶべきなのか、それとも部誌のうち五ページもタク(こいつ)の写真や紹介文を貼り続けなきゃならない苦行を嘆くべきなのか。


 あほ眼鏡の企画書によると、部誌に載せるのは学校ホームページでも見られるような部活紹介や大会実績のたぐいではなく、あくまで「部長個人」の紹介であるべきとのこと。できれば部活に対する思いや取り組みだけでなく、学校での部活外の様子や、私生活にまで踏み込めればなおいい、らしい。その部長のファン以外誰も喜ばない。旭先輩やタクのページに至っては破り捨てられる危険すらある。


「んで、俺にインタビューしてくれんの? いやーまいったなー、なに話そーか。とりあえずラノベへの熱き想いなんかを……」


 あ、タクにしては建設的なことを言う。


「確かに、持ちページが五ページもあるんだから、一ページくらいラノベ紹介とかに使ってもいいかもね。あんた自身のこと書くよりよっぽどいいわ。その調子で、あと四ページ何書くか考えといて」


「じゃあ一ページは副部長・甲斐の紹介にすっか」


「俺はいいよ! また髪のこととかいろいろ言われたら嫌だし。それよりさー……」


 二人があーだこーだ言ってるのを横目に、わたしは他の部員たちを見てため息をついた。この人たち、いったい何やってるんだろう。


「あのー、ずっとスマホいじってるみたいだけど、部活しないんですか? あと一週間しかないのに、見た感じ文化祭準備が進んでるようには……」


「わかってますよ……でも、ダメなんです……!」


 四人の部員のうちのひとりが、すがるような目でわたしを見上げた。


「いったい何を撮ればいいのか……! 今年に限って、どういうわけか何も思い浮かばないんです! スマホでなんとかネタを拾おうとしてるんだけど、どうしても見つからない……!」


 四人全員が、一様にしゅんとうなだれる。それでいいのか映研部!


「あーもう情けない! 自分の足で動かずしてネタなんか見つかるかー! こんな狭い部室なんか出て、カメラ持って外走りなよ! それでも見つかんなきゃ、走ってる部員の姿でも撮っとけー!」


「――それだ!」


 突然部員のひとりが勢いよく立ち上がった!


「わ、なに!」


「相田さん! これから全部活のインタビューに向かうんですよね? 僕たちに、相田さんの活動を追うドキュメンタリーを撮らせてください!」


「はーーーー!?」


「あ、いいじゃんそれ。下手なドラマとかを無理やり撮るより面白いわ」


 無責任にカラカラ笑うあほタクと、さらに困った顔で苦笑する甲斐センパイと、水を得た魚のようにピチピチと輝きだしてしまった映研部員たち。


「こっちは超忙しいんだー! 男子ども、頼むから邪魔すんなー!」


 JK新聞部員・相田早夜の戦いはまだまだ続く!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ