七夕『この竹に吊るされた短冊に書かれた願い事のうち、少なくとも一つは願い事が叶う竹』
『竹と人の心の直ぐなのは少ない』という言葉があります。
竹は意外と真っ直ぐな物が少なく、人も心が曲がらず正直な者は少ないって意味らしいです。
とある竹を売ることを生業としている男がいた。
「親方! 大変です! なろう動物園のパンダが死んじまったそうです!」
そこに彼の弟子が悲報を持ってくる。
「なにぃ!? チーチーとレムレムが!? どうすんだよ……このままじゃうちの竹が大量に余っちまうぞ……。このままじゃ竹の子生活だぞ」
親方がその報せを聞いて苦悩する。彼の竹の売り先は、ほぼ全てなろう動物園だった。
このままでは金がつき、彼とその弟子はパンダと同じようになるだろう。
「親方! こうなれば竹を食べて食いつなぎましょう!」
どうやら金がつきなくともパンダと同じようになるようだ。
弟子が初手で出すのにはあまりにも愚かな案を出す。本来、飢え死にしそうなときに頭がストライキを起こしていなければ出てこないであろう案だ。
「ん!? そうだな! パンダだってバリバリ食ってんだ。それにメンマは美味いし、いけるだろう。いっちょ食ってみるか! 案外、そのままでも美味いかも知れないしな」
しかし駄目な意味でチャレンジ精神のある親方がその案に乗る。
「草餅とか美味いですよね!」
「そうだな! 緑色だし、似たようなもんだろう!」
その理論だとトリコデルマなどのカビやら、子供番組に生息する赤い雪男と一緒のステゴザウルスなども美味しく食べられることになる。
「「いっただーきまーす」」
親方の頭頂部の毛よりも細い一条の光を胸に、二人は生の竹に噛り付いた。
「くそ! 無理だ! 文字通り歯が立たねー!」
無理だった。
噛んでしまった反動で歯茎が血まみれになった親方は諦観の境地に至った。
「もう少しでいけそうだったんですけどね。……パンダは凄いですね」
弟子がパンダを称賛する。
なお、弟子は血が出ていない。親方ほど全力でいかなかったからだ。
あと、全然いけそうではなかった。
「これは食うの無理だな。他の案を考えよう。竹って食べる以外なんか利用できるか?」
「……竹馬とか竹とんぼとかの玩具とかいけますね」
「そうだな! 作るか」
親方達の新たなる挑戦が始まる!
竹をそのまま生で食べるより遥かにマシだろう。
「全然売れねーな!」
しかし売れなかった。子どもにとって、それらはもう人気がなかった。
「親方! 今の時代もう竹馬とか売れないみたいです! 皆家にこもってゲームでさ!」
「なーにー!? どうして先にそれを言わねー!?」
親方は重要なことを隠していた弟子に怒った。
「すんません! 自分、竹馬とか好きなんで売れるって思ってました!」
「……なら仕方ねーな!」
親方は弟子を許してやることにした。親方は優しい。
「さっすが親方! デコと一緒で心が広い!」
「次、デコのこと言ったら竹刀で口を封じるからな」
「あ、はい」
優しい親方でもハゲのことをいじられるのは我慢できなかった。
「……そ、そうだ親方! 調べてみたんですが、今、なんたらの刃って漫画が流行ってましてね! そこに乗った商品作りましょう!」
弟子がもはや漬物になっていそうな鮮度の情報を親方に提供する。
「おー、流行りに乗っかるのか。すぐに売れなくなりそうだが、少しでも売れれば儲けものか……。よし、どうする?」
「口枷作りましょう!」
弟子は漫画の主人公の妹がつけていた物を再現しようとした。
「今そんなの流行ってるの!? それどんな作品!? 口枷を七つ集めると願いが叶うとかか?」
親方は龍玉で漫画の知識が止まっていた。憧れて金髪にしたことによる頭皮のダメージが今になって襲い掛かってきていた。
「そういうんじゃねーです」
「まあいい。取りあえず口枷作ればいいんだな?」
「はい!」
二人の苦し紛れの挑戦が始まる!
口枷は少し売れた。
「……売れたの!?」
親方は驚いた。本当に売れるとは思ってなかったからだ。まさか口枷が売れるとは夢にも思ってなかった。
「はい。爺さん婆さんに孫世代に人気って言ったら売れました」
詐欺まがいな売り方をしていた。
「すげーな。流行りに乗っかるって……すげーな」
親方が砂漠の氷のごとく儚い語彙力を披露する。
「はい! どんどん乗りましょう!」
「でも竹で作れるのってそんなにあるか?」
「うーん。逆に竹で何なら作れます?」
「……爪楊枝とか?」
「それです! 刀の形をしたの売ればいけますよ!」
「え? でもそれ難しくないか?」
「大丈夫です! 自分、手先器用ですし、前々からこういう小さいの作るの趣味だったんで!」
「じゃあ……やってみるか!」
「はい!」
二人は刀の形をした竹の爪楊枝を売ることにした。
少し売れた。
「おい、マジで売れたよ」
親方は驚いた。刀の形をした使いにくい爪楊枝が売れるとは思ってなかった。試しに自分で使ってみたが、歯茎が血まみれになった。
「やりましたね! 『全集中』とか、『竹の呼吸』って書いてるだけの使いにくい爪楊枝なのに売れましたね」
弟子は親方より賢いので歯茎は血まみれにならなかった。
「ああ。要するに、実際に良いものかじゃなくて、どんだけ使ってみたくなるかが大事なんだな」
親方は駄目な商売の方法を学んだ。
「じゃあ次だ! テキトーに竹で作れるものを、良い感じの謳い文句で売るぞ!」
「おー!」
二人は話し合いの末、竹でできた抱き枕を売ることにした。
二人の迷走が始まる!
ほぼ売れなかった。
「ちっくしょー!」
親方はあらぶっていた。
「親方! 大変です!」
「どうした!?」
「商品にクレームが来ました」
そこに弟子が悲報を持ってくる。
「マジか」
「はい。やっぱ『この竹のおかげで夫人ができました』って書いて売るのは詐欺くさかったようですね」
「いやいや。でも竹の抱き枕を竹夫人って言うしな?」
「さすがに勘違いされそう過ぎるってのが駄目だったんでしょうね」
「そうか」
二人は反省した。
「次回はもっと巧妙にいきましょう」
「そうだな! ……さて次は何を作ろうか」
その反省を駄目な方向に活かすことにした。
「そう言えば、もうそろそろ七夕ですね」
弟子が言う。
「それだ。いけるぞ!」
親方はもう乗れるものならなんでも乗る気だった。
「待ってください。七夕は昨日今日の流行りじゃありません。これまでの経験からただ作るだけでは売れません。何か売れるポイントを作らないと」
謳い文句を工夫するにも限度がある。
「それもそうだな。なんかド派手に塗るか? 映えるとか言うんだろう?」
「それは今までの業者に一日の長がありそうですぜ。もっと捻らないと」
「う~ん。ならやっぱ七夕に引っ掛けた捻りがいいよな。……七夕は、なんか竹に願い事を書いた短冊吊るすんだよな?」
「そうですね。首吊り死体みたいな感じで、ぶら下げます」
「例えが縁起悪すぎだな! 全然願い叶いそうにない」
せめて、てるてる坊主なら親方も受け入れることができたのだが。
「じゃあ、願いが叶いそうな謳い文句で売ったらどうでしょう?」
発想としては詐欺の初歩だ。そして、願いが叶うは常套句だ。
「お、そうだな! それでいこう」
「で、どう売るんです?」
「んー。……そうだ! 『この竹に吊るされた短冊に書かれた願い事のうち、少なくとも一つは願い事が叶う竹』と言って売ろう!」
親方は少し考えると、案を出す。
「ちょっとちょっと親方! そんな詐欺まがいな謳い文句は、またクレームを山ほどもらいますよ?」
「大丈夫だ。なぜなら欠片も嘘じゃないからだ!」
親方がドヤ顔で言い張る。
「いやいや。そんな都合よく願いが叶うなんてあるわけないじゃないですか」
「心配すんな! いいか? この竹に、あらかじめ『この竹に吊るされた短冊に書かれた願い事のうち、この短冊に書かれた願い事以外の願い事が一つも叶いませんように』って書いた短冊を吊るしておくんだ!」
あらかじめ他人の不幸を願っておくと言う最低のことを言う親方。
「なるほど! それなら、あらかじめ吊るしておいた短冊以外の願いが叶えば良し。叶わなければ、あらかじめ吊るしておいた短冊の願いが叶ったってことだから、少なくとも一つは願いが叶ってますね」
「そうだ!」
「……ん? でもですよ、親方。もし、誰も短冊を吊るさなかったら、願いが叶ってないやつがいると言えませんよね?」
「……お、本当だ! お前賢いな! 弟子!」
「へへっ。ありがとうございます」
弟子は親方に褒められて喜ぶ。
「じゃあ、同じ短冊をもう一つ吊るしとくか。そうすりゃ大丈夫だろう」
「……それ大丈夫ですかい?」
「ん? 最初の短冊を甲、次のを乙とすると、甲が叶ってるならそれで良し。叶ってないなら乙が叶うことになるから問題ないだろう?」
結局どちらかは叶っていることになる。
「でもですよ。甲乙以外の短冊の願い事が叶わなかったとしてですね、甲が叶ってないって判断するには、乙が叶ってないかを確認しないといけませんよね?」
「……そうだな」
「んで、乙が叶ってないかを判断するには、甲が叶ってないのを確認しないといけませんよね? なんか堂々巡りじゃないですかい?」
「あれ? 本当だ? なんでだ? ……でもどっちかは必ず叶ってるんだからいいだろう」
「でも、甲乙のどっちが叶ってるんだ? その根拠はなんだ? ってクレームつけられると面倒ですぜ?」
「うーん。じゃあ甲乙吊るすのは無しにして、なんかテキトーに願い事書いた短冊吊るしとくか」
親方は混乱してきたので、投げやりに対処をすることにした。
「そうですね。それなら大丈夫でしょう。あ、せっかくなんで自分達も願い事しましょうよ!」
「ん? そうだな。飾っとく方が売れるだろうしな。弟子はなんて書くんだ?」
「秘密です。プライベートなことなので」
弟子は仕事とプライベートをしっかり分ける派だったようだ。
「なんかいきなり冷たくない!?」
「そんなことないです」
こうして願いが少なくとも一つは叶う竹が発売された。
七夕用の竹はかなり売れた。
「ひゃーっははは! 笑いが止まらんね!」
「大変です! 親方!」
「どうした、弟子!?」
「クレームです!」
いい気分の親方のところに弟子が残念な報せを持ってくる。
「何!? 対策は完璧なはずなのに……どんなクレームだ!?」
「危惧していたクレームです! どうやら、新たに自分で『この竹に吊るされた短冊に書かれた願い事のうち、この短冊に書かれた願い事以外の願い事が一つも叶いませんように』って書いた短冊を吊るした客がいるようで、もともとの短冊とどっちが叶ってるんだ? っとクレームが来てます!」
「なんだそのクレームをするためだけに吊るされた願いは!?」
親方は引いた。まさかクレームをするために、自分の願い事を使う者がいるとは思ってなかった。
「やられましたね。おそらくクレームをするために生きてるような客の仕業でしょう」
厄介な客である。
「くそ! だがこんなに売れるんだ。こんなクレームで七夕用の竹を諦めるなんてしたくねー。もっと他の方法で願いが叶うとか言い張れないかを考えるぞ!」
「へい、親方!」
二人はうんうん唸って考えるがいい案はなかなか思いつかない。
「うーむ。意外と難しいな」
「まあ、簡単に思いつくなら他の人がやってそうですけどね」
「いや、ヒット商品は難しいことじゃなくて、『なんで思いつかなかったんだ!』って思うようなのもあるから、希望はあるぞ」
というより、そんな商品でない限り、親方の技術が追いつかない。
「でもそれが思いつかないんですよね」
「んー! そうだ! 発想を変えるんだ! 今までは客が短冊を吊るして初めて叶う願いを書いてたから、変なことされて失敗したんだ!」
「そうですね」
「なら初めから、客の願いなんて関係なく叶ってる願いを書いておけばいいんだ!」
「なるほど! それなら、もうどうやっても願い叶ってるから大丈夫ですね! それでいきましょう!」
こうして『この短冊が吊るされている竹が買われますように』と書かれた短冊が吊るされた竹が販売された。
売れた。
「いーっひっひっひっひっひ! 笑いが止まらねー」
「大変です! 親方!」
親方が変な声で笑っていると、弟子が慌ててやってきた。
「どうした!?」
「願いが叶ってないとクレームです! 前に『この竹に吊るされた短冊に書かれた願い事のうち、この短冊に書かれた願い事以外の願い事が一つも叶いませんように』って自分で願い事したクレーマーからです!」
「なんで?」
論理的に考えて、もうすでに願いが叶っているのだから、そんなことは起きないはずであった。
「売れ残りに対するクレームです。売れてない竹は叶ってないじゃないかって」
「え? でもそいつその竹は買ってないんだよな?」
「はい。でも不良品が紛れていたのを教えてやった、と言い張ってます」
どんなものであろうとクレームをつける。クレーマーの鑑のような存在だ。
「くそ! 手ごわいな。……売れ残りは出るからな。他の手を考えるか」
「へい」
「じゃあ新しいの考えるんだが……なんかあるか?」
親方もそろそろネタ切れしてきた。
「んー。そもそもなんでこんな必死になって考えてるんです?」
「あん? そりゃお前、クレームこないようにするためだろうが」
「そうですよね? なら……こういうのはどうです?」
弟子が自分の案を話す。
「……ふむふむ。お前天才だな! 弟子!」
「へい!」
弟子は親方に褒められて嬉しそうにする。
こうして、あらかじめ『お客様からクレームが来ますように』と書かれた短冊が吊るされた竹が販売された。
これならば、他の願いが叶わずにクレームが来た時点で願いが叶ったことになるのでクレームができない。
売れた。
「げーっへへへへへ! 笑いが止まらんな!」
親方の笑いがさらに変になる。
「親方! クレームが来ました!」
そこにお馴染みの悲報を携えて弟子がくる。
「なん……だと……」
親方は信じられなかった。来るはずがなかったからだ。
「一体、どういうことだ? どんな内容だ?」
「いつもの人から、願いが叶わない……と」
「おいおい、とうとう頭いかれたのか? そいつがクレーム入れてきた時点で願い叶ってるじゃねーか」
「いえ、盲点だったんですが、そいつ竹買ってないらしいです?」
「あん?」
「竹を買ったのはそいつの友人です。なので自分は買ってないので客ではない、とのことです」
「そのクレーマーに友人いるの!?」
親方は天地がひっくり返ったような気分だった。クレームがきたことよりも、そのクレーマーに友人がいたという驚天動地の大事件が大変に衝撃的だった。
「まあ、蓼食う虫も好き好きと言いますし」
「弟子、さらっと酷いこと言うな? するってーと、そいつはわざわざ買ってない商品にクレームつけてきたと?」
「へい」
「……やべーな」
親方は引いた。まさかそのような常軌を逸した者がいるとは考えられなかった。そしてそんなやつに友人がいるということが、未だに受け入れられなかった。
「まあ、でも短冊の内容を『クレームがきますように』にすれば解決ですね」
「なるほど。前は変に客からって言葉を入れたから問題だったのか。……これで完璧だな!」
「へい!」
竹の発売……開始!
「…………」
親方は黙っていた。完璧なはずだが、なんだかクレームがきそうな気がしたからだ。
「親方! クレームきました!」
案の定きた。
「くそ! やっぱりか! 完璧だったはずだろう!?」
「いつものやつからクレームです」
「だろうな! それで、内容は?」
「ありません!」
「あん?」
「竹に吊るされた短冊に『クレームがきますように』って書いてたから、クレーム入れた、とのことです」
クレーマーから意地でもクレームを入れてやると意気込みを感じる。
「んんんもおおおおお! どうすりゃいいんだよ!」
親方はそろそろ限界だった。
「落ち着いてください。こうなれば本当に叶いそうな願いを書いて吊るしておきましょう。そしてそれが叶うようにすればいいんです。これならクレームがきても大丈夫です」
それを見た弟子が案を出す。今までに比べると確実とは言えないが、成功すれば確かにクレームはこないであろう。
「うーん。でも難しくないか?」
しかし親方は二の足を踏む。願いが叶う困難さは理解していた。
「大丈夫です。調べてみたんですが、七夕は願い事何個でもオッケーみたいです。なので願い事たくさん吊るしたら、なんかいけますって。叶う叶わない関係なく取りあえず書いてみてくださいよ!」
弟子が笑顔で勧める。
「マジか。……なら、取りあえず書いてみるか」
親方は自分の願いを色々書いた。
『金持ちになれますように』『健康でいられますように』などなど。
そのうちの一つを弟子が注視する。
「親方……結婚したいんですか? 誰か思い人でも?」
親方の願いの一つに『結婚できますように』とあった。
「あん? いや、思い人なんていないけど、一応は結婚したいんだよ。でもさすがにこれは難しいって分かってるぞ? こんな、今にも食っていけなくなりそうなおっさんを相手に選んでくれるのがいるとは思えないからな」
親方が苦笑いしながら答える。
それを聞いて弟子がにんまりと笑い、言う。
「大丈夫です! 自分と結婚しましょう!」
「はあ!? は!? はああああ!?」
親方(男)は弟子(女)の突然のプロポーズに驚く。
「え? お前、俺のこと好きだったの?」
「はい! 最初に作った七夕の竹にも『親方と付き合えますように』って書いてましたよ?」
「あ、だから秘密にされたんだ」
親方は安堵した。弟子に嫌われてるんじゃないかと不安だったのだ。
まあ、プロポーズされている時点で杞憂だったが。
「さあ!」
「いや、でも将来がな……。苦労かけたくないし」
親方は竹の売れ行きが不安定なので将来が心配だった。
「大丈夫です。自分金持ちになってるんで」
弟子の口から、ある意味プロポーズよりも衝撃的な事実が発される。
「なんで!?」
自分と多くの時間一緒にいた弟子が金持ちになっているとは、親方は露ほども思っていなかった。
「竹を使ったカプセルトイで、竹の中から美少女が出てくる『KAGUYA』って商品作ったらバカ売れでして。そりゃもう、破竹の勢いで売れまして。今度、スマホでゲームも出します」
「バカ売れしてんな!? てか、なんで、そんなの作れてんだ!?」
「前に『自分、手先器用ですし、前々からこういう小さいの作るの趣味だったんで!』って言いましたよね?」
「ああ、爪楊枝のときな」
「その趣味って美少女フィギュアのことでして……試しにやってみたら大当たりです」
「お前スゲーな!」
「これで万が一のときの貯金もできましたし、安心ですね!」
「おう……その……本当にいいか?」
「はい! 蓼食う虫も好き好きって言いますしね」
「その台詞ここで言わないでほしかったな!」
「それで……お返事は? 自分、竹のように首を長くして待ってますよ?」
「……よろしくお願いします」
親方は承諾した。
「はい! そしてこれで七夕の竹のクレーム対策も万全ですね」
「……おう」
二人は七夕用の竹を売り出す。
そこにはあらかじめ『結婚できますように』と書かれた短冊が吊るされていた。
クレーム対策は万全だ。
まあ、曲がってても根が腐ってなければ、いいですよね。