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ヲタッキーズ86 痛車Go!Go!Go!

作者: ヘンリィ

ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!

異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!


秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。

彼女が率いる"ヲタッキーズ"がヲタクの平和を護り抜く。


ヲトナのジュブナイル第86話"痛車Go!Go!Go!" 。さて今回はレース中の痛車がメイドカフェに突っ込む大惨事w


混乱の現場でメイドが蹴り殺され、犯人に迫るヲタッキーズの前に3年前のひき逃げ事故を引きずる痛車レーサーの影…


お楽しみいただければ幸いです。

第1章 メイドカフェクラッシュ


「おかえりなさいませ、患者様!」


首相官邸肝入りの"コロナ全員検査パッケージ等特別定着事業"が本格化、アキバに無料検査のメイドカフェが乱立w

パーツ通りの"PCR検査カフェΟ(オミクロン)"もその1つで、昨日までは女忍者のコスだったメイドが無料検査を呼びかけてるw


「コロナの無料検査でーす!」

「待ち時間は最長で5分!」

「ウチはドクター常駐だょ(コスプレだけどw)!」


と、ソコへ!


「きゃー!危ない!」

「うわっ!わわわっ!」

「使徒、襲来?」


PCR検査を待つ行列をヤタラと女体曲線を強調したプラグスーツ女子が押し潰して逝く…ん?痛車なのか?

フルスロットルのままドリフトして突っ込んだ痛スポコンには"SM新世紀ヲヴァンゲリオン"のキャラ絵w


あ、SMは…シングルマザーだょ念のため。

アラサーSMが人型兵器に乗り戦うアニメ←


「あぅ、あああぁ」

「…助けてぇ」

「そのメイド、もう死んでる!」


地獄だ!


毎分7000回転、トルク1200ft/lb、420馬力エンジンの痛車が突っ込んだ古い雑居ビルは大きく傾くw

1Fの路面店は瞬時に瓦礫の山。噴煙が立ち込める中、ヨロめく人影、悲鳴と絶叫、そしてススリ泣き←


「救急車を!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


御屋敷(メイドバー)のバックヤードをスチームパンク風に改装したら、ヤタラ居心地が良くて常連(僕も含むw)が溜まって困ってる。


「あれ?マリレ、荷物整理?」

「うん。テリィたんは宇宙発電所からいつ戻ったの?」

「昨日」


僕は、第3新東京電力のサラリーマンで、会社初の宇宙発電所長をやっている。

マリレは、ノイズバーのメイド長で、何やら私物の詰まった段ボールを物色中。


「SATOから返却された私物の中身を確認してるの」

「モノが片付いてうらやましいな」

「…やっぱり足りないわ」


溜め息つくマリレ。あ、彼女はいつもメイド服だ。


「何かなくなってるの?」

「はい、ミユリ姉様。私がベルリン時代に使ってたカチューシャが見つからなくて」

「え。カチューシャはメイドの命…」


僕の推しミユリさんが、カウンターの中から声をかける。

彼女は、この御屋敷のメイド長なので、当然メイド服だ。


さらに3人目のメイド服が飛び込んで来るw


「姉様。万世橋(アキバポリス)から車両事故の指揮をとってくれと言って来ました!」

「ヲタッキーズに?エアリ、だってソレ、交通事故でしょ?」

「"アチラ側"のパーツを使った盗難車による事故だそうです。死亡1名。負傷8名。ドライバーは"blood type BLUE"。リクエストは、SATO経由です」


南秋葉原条約機構(SATO)は、アキバに開いた"リアルの裂け目"からヲタクを守るための防衛組織だ。

"BLUE"は異次元人反応で異次元人絡みの場合、自動的に万世橋(アキバポリス)とSATOの合同捜査となる。


因みにヲタッキーズはSATO傘下の民間軍事会社(PMC)だ。


「あらあら。せっかくテリィ様が御帰宅されたのに」

「推しゴトじゃ仕方ないさ。御座敷がかかる内が華だょ。逝ってらっしゃいませ、メイド長」

「はーい。ヲタッキーズ、お出掛けょ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ヲタッキーズの3人のメイド長は、空から規制テープの中へ舞い降りる。

流線形のイスやテーブルが散乱、ガラスの破片が散らばり、火花が飛ぶ。


「ミユリ姉様、大事故ですね」

「"BLUE"反応のドライバーは?」

「カエラ・クレパ。17才。意識不明の重体です」

「流行りの"痛車レース"かしら?」

「図太いタイヤに低い車高。間違いありません」

「痛車は、何処で手に入れたの?」

「未登録車なので不明です。盗難部品を使用している模様。ドライバーのカエラは未だ仮免で、夜の運転は禁止されてます。万世橋(アキバポリス)が聞き込み中です…」


制服警官の聞き込みに積極的に応じているのは、シングルマザー、カフェのバリスタ、地元の遊び人オヤジの3人組だ。


「私、事故の瞬間は見てないから!」

「とにかく、ものスゴいスピードで突っ込んで来たね」

「デリバリー便が来た直後に、痛車が次々と人をなぎ倒して逝った!」


その時、砕けたガラスの破片を踏んでユックリ近づく足音。


「気をつけてね、メイドさん達」

「あ。ラギィ警部、ヒドい事故だわ。事故分析は?SATOの方でやる?」

「そぉね。ウチは事故原因の捜査からかな。でも、タイヤ痕から辿るのは難しそうょ」


天を仰ぐ万世橋警察署ラギィ警部に、ミユリさんは微笑む。


「ルイナの出番ね」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


"外神田ER"のベッドに横たわる異次元人の少女。


「リアルに娘が運転してたのでしょうか?あ、妻が"次元難民"なモノで娘にも異次元の血が流れています。しかし、ウチの娘に限って…」

「痛車はカエラさんのですか?最近何か悩んでいたとか?」

「まさか…娘が故意に事故を起こしたとでも?」


ヲタッキーズがお見舞いに逝くと、初老の父親が応対。


「とにかく、カエラを誤解しないでください。生まれは"裂け目"の向こうでしたが、リアル秋葉原に来てからは、明るい性格なので友達も多い。仕事もしてます」

「カエラさんのお父様?主治医のリンデです。検査結果が出ましたが、もう少々お待ちください。ヲタッキーズと話がありますので」

「え。そーなの?じゃ失礼します」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


"外神田ER"のリンデ女医とミユリさんは顔馴染みだ。


「ミユリ。あの子、地下レースクイーンだから」

「痛車レーサーって聞いてたけど」

「え。あのコスで運転したのかしら?スンゴいタイトなミニスカなの。着替えさせたけど、見る?」

「…で、彼女。意識は戻るの?」

「ソレが実は何とも。もしかしたら、厳しいカモね。しかも彼女、2種類の怪我を負ってるのょ」

「2種類?」

「鎖骨と肋骨の骨折。確かにタイヘンな怪我だけど、まぁコレは交通事故によるモノだと思う。問題はコッチ。今はミイラ(マミー)みたいに包帯でグルグル巻きにしてアルけど、ウチに運び込まれた時の画像がコレ。左顔面と頭部にヒドい損傷がアル」


確かに、どんな乙女も台無しの甚大な損傷だ。しかも…


「あら。リンデ、コレは何?もしかして靴跡?」

「YES。思い切り蹴られて靴底の形に(アザ)が出来てる」

「…蹴られたのは、事故の前?」


リンデ女医は、首を横に振る。


「多分、後だわ。あの損傷では車の運転は無理ょ」

「事故現場の被害者がリンチしたとか?」

「ソレを調べるのは、貴女の推しゴトでしょ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


早速、万世橋(アキバポリス)に捜査本部が立ち上がる。


「みんな!異次元人絡みナンで今回もヲタッキーズと合同捜査ょ。よろしくね」

「うーす。ラギィ警部、聞き込みでは、現場でドライバーをリンチしたとの目撃証言はありませんでした」

「誰かが襲撃者をかばってるのカモ。中華な国じゃ、子供を轢いたドライバーを人民がリンチして殺した事件もあるわ」

「ソレが、誰に聞いてもカエラは清楚で真面目な委員長タイプらしくて」

「ソンな子が何で痛車でカフェに突っ込むの?」

「レースをしてたとか?」

「でも、突っ込んだ車は1台。レース相手の目撃情報もナイ」

「もう1台には気づかなかっただけでは?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その頃、僕は"潜り酒場(スピークイージー)"でノンビリしてる。


「テリィたん。マリレの今後の待遇は?」

「実は、市ヶ谷(ぼうえいしょう)の宇宙作戦群から破格のオファが来てる」

「スゴい!今や英雄(ヒーロー)だモノね」


僕の独り言じゃナイょ!モニターにはルイナの画像。

SATOラボにいる彼女と"オンラインお茶"の最中←


「まぁ女子だから、ヒーローじゃなくヒロインだけどな」

「マデラ司令官代理に聞いたら、SATOもマリレを表彰したいみたい。ってか、ヲタッキーズを卒業させてSATOのメンバーにしたいみたいょ」

「good news!でも、マリレ自身がアキバに残りたがってルンだょな」


すると、ルイナは鋭く切り込んで来るw


「居場所はあるの?今のヲタッキーズに」

「確かに、妙な感じさ。仲間と思ってたマリレにズッと監視されてたンだから」

「お互いに任務をこなしただけでしょ?」


マリレは、官邸に潜むスパイ組織を壊滅させた3重スパイだったが、その過程では、僕達全員も容疑者扱いされたのだ。


「あれ?ルイナ。何?ラブレター?」

「え。あ?コレ?私の論文"友情の数理的解析"だけど、本にしたいって出版社からメールが…自己啓発本として」←

「スゴいな!」

「でもね、テリィたん。実は…」

「作者の水着グラビアが出版の条件とか?」

「私のビキニ、見たいの?」

「あのシフォン袖が外せる奴かっ?!」

「え。何で知ってるの…聞いて!科学嫌いな読者も対象にスルから、平易な表現に変えて欲しいって」

「水着は、究極の平易な表現だと思うけどな」←

「だ・か・ら!…私は、学会誌に載せたかったの!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「ラギィ警部。事故のあったパーツ通りは、最近"痛車レース"が盛んだそうです」

「"痛車レース"?あの萌えキャラの絵を載せた車でレースをスルの?」

「最近は企業のスポンサーもついて盛り上がってるそうで…界隈の"痛車レーサー"を当たってみます」


ヲタッキーズの妖精担当エアリがラギィに進言。相棒でヲタッキーズではロケットガールのマリレがすかさず反応スル。


「手伝うわ、エアリ」

「そうね。2人で聞き込み、よろしく」

「はい」


ところが、返事と裏腹にスタスタ歩き去るエアリ。

残されたマリレの肩をポンポンと叩くラギィ警部w


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


6月8日は、アキバのヲタクにとって特別な日だ。この日、中央通りには献花台が置かれ交差点に向かい手を合わせる。


そして、今年はパーツ通りにも。


「今でも信じられないわ。サリルが死ぬなんて」

「メイド仲間以上の存在だった?」

「毎日チラシ配りで顔が会えば、自然と絆も深まるわ」


折からの小雨が降る中、事故現場の献花台で手を合わせる私服女子に、声をかけるメイド服は…ヲタッキーズのエアリ。


「亡くなったメイドさんのお友達?事故直後の話を聞かせてくれない?私、ヲタッキーズのエアリ」

「えっ?ヲタッキーズ?ええ。何でも聞いて」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その後、お腹の空いた僕は"マチガイダ・サンドウィッチズ"へと移動。ココのチリドッグ(だけw)は恐ろしく美味い。


「まるで、山奥から下りてきた老賢者ね」


またまたルイナだょ。マチガイダのモニターをハッキングして"追いかけて"来る。天才ハッカーの子分がいるからなw


「あのな、ルイナ。僕が降りて来たのは山ではなくて、宇宙だ。ソレに、老いてはいない…かもしれない、よーな気もスル。どーしたの?何か行き詰まってる?」

「実は、レキス博士のフェルミオン質量の変則性の論文を読んでたら頭がウニになっちゃって」

「心を無にする方法を教えて欲しい?素敵な僧院を知ってた。僕はルイナのせいで破門されたけど」

「私のせい?私の護衛ヘリのせいでしょ(同じだw)?実は、ラギィから頼まれた"痛車レース"の事故分析ナンだけど行き詰まってて…力を貸して欲しいな」


僕は、大きくため息をつく。


「今日の午後は、久しぶりに神田駅前の石鹸の国で…あわわ!えっと?交通事故だょね?レイン・グラセに聞けば?話を通しとくょ」

「レイン・グラセ?新進気鋭の工学博士?」

「え?SATOのメカニックじゃナイの?機械工学専攻の」

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆


レインは白衣にツインテの理系ヲタク(博士だったとはw)。


「ルイナ?テリィたんから話は聞いてるわ。技術者は、機械が不具合だと怒る。でも、私は不具合の原因を探るのが趣味なの。中華な国の火星探査車が砂嵐でコケた時も、私がリモートで修理して再起動させたのょ」

「またまた、私の知らない女だわ。その手管でテリィたんを今もリモートで…と、とにかく、調べて欲しいのは地球上の事故なの」

「OK!機械工学は、物質とエネルギーの芸術。複雑なほど美しいわ」

「先ず、事故が故意か過失かを、現場に残されたタイヤの軌跡から評価して欲しいの」

「私の分析アプリを使えば可能ょ。じゃシステムをセットアップするわね」


モニターの向こうでレイン博士が何か操作スルと別のモニターに写っていた火星探査車が"ヲヴァ"の痛車に早変わりw


「素敵。貴女も敷波レイ派なの?」

「名前がレインだから」

「やっぱりメインキャラは赤目でなきゃ!ねぇ今度、コス合わせスル(一緒にコスプレする)?」


2人は気が合いそうだ…ココでレイン博士は声を落とすw


「で。貴女もテリィたんの元カノなの?」


第2章 痛車レースと地下レースクイーン


その夜の捜査本部。


「エアリ。パーツ通りの"痛車レーサー"のリストょ。ソレからコレを見て。パーツ通りのスピードカメラが6回も壊されてる」

「…全部、事故現場の近くね」

「そーなのょ。いつも丑三つ時に壊されてルンだけど、今宵張り込みしてみない?」


マリレは、最近シックリ逝かナイ相棒に探りを入れる。


「今宵は、資料の読み込みがアルわ。恐らく徹夜」

「(あちゃあフラれたかw)…マリレ。僕と逝くか?エアリは、今宵は帰って休めょ。寝てないだろ?」

「じゃテリィたん、お願い。私、帰るわ」


マリレのリストを僕に放り投げるエアリw


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ラギィから借りた覆面PC(パトカー)の中でコーヒーを飲む僕達。


「スピードカメラの発明者ってレーサーだってね」

「はい」

「おいおい。1晩中、双眼鏡を覗いてる気か?少し話そうょ」


やっと双眼鏡を離し、コッチを見て微笑むマリレ。

メイド服で十分カワイイけど、ミユリさんの勝ち←


「宇宙作戦群の仕事を受けるか、実は悩んでるの」

「マリレの望みは?」

「過去に戻って、全てををやり直したい。3重スパイではなく、普通のスーパーヒロインとして」


気持ちはワカル…ん?普通のスーパーヒロインって?笑


「でも、マリレ自身は"普通のスーパーヒロイン"で満足出来るのか?」

「スパイになりたくて秋葉原に来たワケじゃないわ」

「確かに潜入捜査自体は、別に珍しくナイ業界だけどな」

「あぁ!ヲタッキーズに戻りたい。ソレだけなの!」

「シッ!誰か来た?」


双眼鏡を覗くと萌え絵の"痛チャリ"の上に載って、電柱のスピードカメラをイジる人影だwマリレが引きずり降ろす。


「じゃましないでょ!…あら?メイドさん?」

「そーゆー貴女はレースクイーン?私はヲタッキーズょ。両手を後に。名前は?」

「アニィ・フラァ」


フィット感抜群のチェックパンツに真っ赤なトップだw


「アニィ。今宵はレースなの?免許証を見せて」

「え。私は地下レースクイーンょ?レーサーじゃないわ!」

「トボけないで。ホラ。お仲間が集まって来たわ。スピードカメラを壊すの失敗したのでしょ?今宵のレースはお流れにしたら?」


エンジンの空吹かしが吠え、続々と痛車が集まって来るw


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


アニィ・フラァを万世橋(アキバポリス)に連行。RQ(レースクイーン)お持ち帰りだ←


「何ょ?この前、事故にあったガキの画像ナンか見せて」

「あら。カエラ・クレパを知ってるの?地下レースクイーン仲間?」

「顔だけね」


ウソぶくアニィ。僕が突っ込む。


「あの日、アニィは何を見た?レースの参加者は?レースクイーンはいた?」

「私みたいな地下レースクイーンはたくさんいた。でも、私が1番カワイかったけど…とにかく!私は家で痛チャリをいじってたから、良くわかんない」

「事故現場にいたのね?」←

「だ・か・ら!痛チャリが故障中で行けなかったの。友達に聞いてょ」

「レースの主催者は?」


話を遮り、痛車がビルに突っ込む画像を流すマリレ。


「コレ、地下レースクイーン仲間のカエラの車でしょ?」

「わ、わからないわ。痛車の売り買いナンてしょっちゅうだし、ホントに知らないの。車が盗難車かどうかもわからない」

「盗難車?知ってる痛車レーサーの名前を教えて」


マリレは、テーブルに座り、アニィの肩に手をかける。


「ねぇ亡くなったメイドは、赤ん坊を守るために命を投げ出した。痛車レーサーの1000人に50人が毎年事故死スル。ソレも無関係の人を巻き込んでね。だから、参加者の名前を教えるの。Right Now!」

「…わかったわ。教えるけど、とにかく、私は地下レースクイーン。痛車レーサーじゃないから!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ルイナのラボ。画像で急カーブを切る車のポリゾン画像。


「うーん泣けるコーナリングね。でも、未だ今回の事故を再現出来てるとは言い難いわ…あ!テリィたん!」

「ルイナ、僕の電工ナイフを見なかったか…げ。レイン?現場じゃなかったのか?」

「電工ナイフ?テリィたんって電気工事士だったの?シビれる趣味だわ!」


激マズ!DIYのナイフを探してたらレインに見つかるw


「だ、だってDIYなら安上がりで安心だろ?」

「奥深い常識のあるヲタクなのね!」

「(遠い目でw)ありがとう。ところで、このポリゾン。光と白線にしか見えないけど」

「ヒドい。コレでも3Dモデルょプンプン」


ヲコなのはスピア。ストリート育ちの天才ハッカーだ。


「今、現実の世界を数理的に再現してるの。ニュートンは、実際に重力を観察して、その現象をもとに、数理モデルを算出した。惑星の軌道の動きと銀河系の構造を推測したのょ」

「ふーん。僕の電工ナイフを見なかったか?」

「でも…私の計算では、事故が起きないのょね。摩擦円を見ると完璧なのに」

「摩擦円理論なら、設計士も地盤傾斜の分析とかに普通に使ってる。建築現場でさ」


素直にうなずくレイン。こーゆートコロ、みんな見習えw


「車の場合も同じょ、テリィたん。摩擦はグリップを生む。でも、事故では摩擦が消えてた。とゆーコトは、報告よりも車が早かったか、重かったかのどちらかなの」


PCでパラメータを操作しながらレインが解説してくれる。


「レイン。もし重かったとして何kgぐらい?」

「計算上は約120kg」

「その120kgは、事故の後で何処に消えたのかな?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その夜の"潜り酒場(スピークイージー)"。


「マリレの元カレからもらったカチューシャ、未だ見つからないの?」

「はい、姉様。SATOに不要と思われ廃棄されたのカモ」

「元カレの好きだったカチューシャを?1945年の陥落寸前だったベルリンからタイムマシンで、マリレと一緒に現代のアキバに逃げて来た思い出のカチューシャでしょ?簡単に諦めちゃダメ」


カウンターの中からマリレを励ますミユリさん。

傍目にはメイド服を励ますメイド服。眼福だーw


「ねぇ問題発生」


モニターから声がスル。ルイナかと思ったらレイン。


「みんな。彼女は、レイン・グラセ博士。中華な国の火星探査車(マーズローバー)をアキバからリモートで直した人だ。今回の事件では、分析を手伝ってくれる」

「こんにちわ。レイレイって呼んで。仲良くしてね。テリィたんの元カノでーす!」

「え。貴女"元カノ登録"が未だでしょ?」


突っ込むスピアは、自称元カノ会の会長w


「元カノって登録がいるの?フラれただけじゃダメなのかしら…とにかく!私の計算だと、事故当時、車は約120kg重かったハズなの」

「何の重さ?デブが乗ってたの?」

「ソレは不明だけど…誰か同乗者がいたのカモ」

「体重にしては重いけど、可能性は否定出来ない。ソレに、同乗者がいるなら何か目撃してるカモ」

「或いは、そのデブが運転手で、カエラが同乗者だったとか」

「トランクに死体が入ってるってのも、お約束だな!そして、事故後に立ち去った!」

「死体が立ち去るの?テリィたん、最高ね!愉快な人」

「タダの思いつきさ。あはは」←


爽やかに笑う僕達を横目にルイナのつぶやき。


「私の元カレょ。手を出さないで、レイレイ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋警察署のガレージ。


「レイレイ!何かあったかい?」

「テリィたん!大発見ょ!カフェに突っ込んだ痛車だけど、フロントグリルに溶接の痕があるわ」

「グリルを交換したってコト?」


フロントグリルは、ボンネット前面の格子の部分だ。


「YES。因みに、隙間には毛髪と血痕が付着してた。でも、今回のモノではなく3年前のモノだった。未解決のひき逃げ事故があり、その被害者と一致したわ」


近くのモニターに被害者である中年夫婦の画像が写る。


「被害者のカウフ夫妻。3年前の写真だけど、ひき逃げ事故の貴重な証拠となるわ。因みにカエラ・クレパは、当時は14才でひき逃げ犯の線はナイ」

「うーん。でも、3年前の事故車のグリルが今回の事故車についていたのは、決して偶然じゃナイな」

「3年前もレースをしてたとか」

「そして、レースに事故はつきもの?特に痛車レースだと?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ソコへ、ラギィ警部が話に加わる。


「ラギィ。レイレイ博士だ」

「こんにちわ、警部。グリスを撒き散らす前に説明させて。

テリィたん、コレは何?」

「デフギアだ」


目を丸くするレイレイ。メチャクチャ驚いてるw


「OK。カーブでタイヤに回転差が生じるのは知ってるわょね?その理由は、求心力ょ。車は、カーブで弧を描く。円の中心から遠いほど距離は長い。回転木馬も同じで、外側が早いのは、内側より回る距離が長いから。車も曲がる時は、内輪より外輪を早く回さないと、上手く曲がれない。つまり、デフギアがないと歩道に突っ込んでしまうの」

「コレは違うのか?」

「LSDょ」

「東秋葉原で売ってる奴?」

「いいえ。痛車レースで使う、リミテッド・スリップ・デフ。高速でカーブに入り、ドリフトさせて曲がるの。でも、

このウルトラロックULは、あまり売ってないのょ」

「でも、レイレイは売ってる店を知ってルンだろ?」


レイレイ、真っ赤になってテレる。

初々し過ぎるょ!みんな、見習え←


第3章 ドリフトに消えた命


首都高上野線の高架下。真っ赤な痛車が爆音を立てグルグルとドリフトしてる。そのママ蔵前橋通りへ出ようとスルと…


キキッー!


イカにも走り屋風のVIPカーが突っ込んで来て、衝突寸前で急ブレーキ。ドアが開き涼しい顔で出て来る僕とレイレイ←


クールだ←


「フラン!今日は燃料噴射装置を見せてょ」

「秋葉原じゃソレは違法だょ知ってるだろ?センセ」

「2way ULは?」


修理車の下から出て来たメカニックは、油まみれの作業着←

どうやらレイレイとは顔馴染みらしい。ココは闇の車検場。


「センセ、2wayが国内で流通してるハズねぇだろ?頼むょ」

「そ?どうやら店を間違えたようだわ。私に恥をかかせるナンて…さよなら」

「わ、わ、わかった!ULは買えなくもない」


帰りかけたレイレイを必死に呼び止めるメカニック。


「実は今日、特別に手に入ルンだょセンセ」

「だって。どーする?テリィたん」

「アンタ、センセのイロか?ソレを早く言え。実は、在庫がアルんだ。待ってろ!」


ドサクサ紛れに腕を組んで来るレイレイを振り解き、僕がメカニックに謎の東洋人みたいに曖昧に微笑むと、次の瞬間!


「待つのはお前だ!万世橋警察署(アキバP.D.)!手を上げろ!バカ野郎、両手だ!」


赤色灯グルグルにサイレンを短く1発鳴らし、万世橋(アキバポリス)の覆面PC(パトカー)が高架下に突っ込んで来て制服警官がバラバラ降りる。


「おいっマジかょ?激ヤバ!」

「すまないが激マジだ」

「センセ!俺はマジメに働いてるだけだ!ソレに…俺を逮捕しても無駄だ」

「あら。どうして?」

「秋葉原中に卸してる売人がいるんだ」

「この画像を見て。この子にULを売った?」


メカニックは、取り押さえられながらレイレイを見上げる。

レイレイは、メカニックを見下ろしてユックリとうなずく。


「あぁ。3週間前に売ったょ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


"外神田ER"にカエラの父親を訪ねるミユリさん。


「カエラさんは、地下レースクイーンでした。また、痛車レース用の部品も購入されてます」

「ウソだ!ウチの娘に限って…あの夜は、映画を見て友達の家に行くと言っていた。(パパ)は、ソレを信じてる」

「お気の毒です。確かな供述が得られました」

「何かの間違いだ。ソンなコトより、事故原因はわかったのか?カエラは、殺されかけた上に、意識が戻らず反論も出来ナイんだ!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


SATO司令部のルイナのラボ。


「あら?ネットに衝突事故の動画が上がったわ。ねぇルイナ。コレ、見て。テリィたんも」


スピアは、ストリート育ちの天才ハッカーで、ルイナと気の合う仲。ラボのモニターに、激しくクラッシュしてカフェに突っ込む痛車の画像。既に10万単位の"いいネ"をゲットw


「この射角だと恐らく事故現場の8m以内ね。編集してあるから、元の動画はもっと尺が長い」

「誰が撮ったの?」

「"ダイナマイトののか"」

「追って!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


裏メイド通りのオープンエアの席で"メイドカフェクラッシュ"の画像を自慢げに見せびらかしてるアラサー女がいるw


「Hi。貴女が"ダイナマイトののか"?」

「え。え?え?アンタは?」

「nice camerawork!その動画、うまく撮れてるわ」


メイド服のヲタッキーズに囲まれる"ののか"。


「でしょ?運良く目の前で起きたから…」

「呆れたわ。目の前で殺傷事件が起きて負傷者が苦しんでるのに。ソレを助けもせズに撮影スルなんて」

「貴女。秋葉原でヲタクを名乗る資格ナイから」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


"メイドカフェクラッシュ"の動画が流れる捜査本部。


「スゲェ!マジしんじらんない!」

「こら、何を撮ってる?」

「助けて…」


地獄絵図から阿鼻叫喚の音声。その画像の片隅に人影。


「カエラ・クレパ?」

「トランクから転げ落ちた?カエラは、運転してたんじゃなくてトランクに入れられてたの?でも、何で?」

「通過儀式だわ。痛車レーサーとして認められるための儀式。トランクの次は助手席、そして、やっと1人前のドライバーとして認められる…」


ヤタラ詳しいレイレイ。もしかして、女暴走族だった疑惑←


「ソレにカエラは120kgもないわ。他に同乗者、というかドライバーがいたワケね?」

「ソイツと合わせて合計120kgか」

「コイツだ!見てください!」


刑事が捜査本部のモニターを指差す。


「しかし、決定的瞬間を捉えてるな!こりゃ"ダイナマイトののか"には金一封だろ。え?厳重注意?画像は無償で没収?何で?」

「で、その画像、も少しクリアに出来る?ルイナ、見てる?」

「はい。電子データを送って。いて座A(ブラックホール)の画像処理演算で使ったアプリでドライバーの顔をスッピンにしてみる」


捜査本部とSATO司令部は、会議アプリで常にオンライン。

ただ、応答スルのはルイナではなく天才ハッカーのスピア。


「現場の聞き込みでは、目撃情報はなかったのに」

「事故後の混乱に紛れて逃げたのね…スピア、どう?」

「はい、ただいま。コレでバッチリ見えるハズ。知ってる顔だと良いけれど」


やたらクリアな男の画像がUPされ、捜査本部にドヨめきw


「フラン・フィツだ。首都高の高架下にある闇パーツ店のメカニックです!」

「しめた!まだ拘留中ね?」

「すみません、警部。今朝釈放しました」←


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その頃、会議アプリの"裏チャンネル"で話し込む2人。


「ルイナ。お宅のストリート育ちのハッカー、なかなか良い腕ナンだけど、コーナリングの3D画像が…うーんスカンジナビアンフリックでもダメね」

「レイレイ。またレース用語?」

「あ。ごめん、惰性ドリフトの別名。カーブでハンドルを逆に切り車体を後方にドリフトさせて曲がる技ょ」

「事故の夜、ドライバーはフランだった。彼の体重は64kgなのに、私達の計算では120kgと出たわ。誤差にしても大き過ぎる」

「56kgも違うわ」

「重さじゃなくて力じゃないかしら」

「え。フォース?May the FORCE be with you」

「ちゃいまんねん。痛車レースなら、別の痛車も走っていたハズょ。接触したとか」

「そっか。重さで振れたんじゃなく、2台が接触したのカモ」


僕がルイナのラボに入って来たのは、このタイミングだ。


「どう?分析ははかどってる?」

「テリィたん!今、レイレイからドリフトを教わったトコロょ」

「ソレは良かったね。ココで見ててもOK?」

「大OK。楽しんで」


何やら解析中のスピアの肩を叩き、傍らに腰を下ろす。

ルイナが話そうとスル機先を制しレイレイが割り込む。


「数千年前、石や棒を使っていた幼い人類は、今や半導体や宇宙船を持つまでになった。万物を理解し、交わろうとスルのが人間の性、つまり、人類の本質はヲタクなのょね」

「そうさ。萌えは人が万物と交わるための手段に過ぎない」

「素敵。ねぇテリィたん。来週始まる機械工学の私の講義に出てくれない?」

「学生ならン10年前に卒業したばかりだ」

「私は、アラサーから学問を始めたの。そうょ!ミユリさんだって、アラサーから痛いスーパーヒロインを始めたじゃない!」


大丈夫か。ソンなコト逝ってw


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「ラギィ警部、フラン・フィツを発見しました!外堀通りを妻恋坂方面へ盗難車で逃走中!」

「追って!え…何ょ?立て込んだルンだけど」

「"外神田ER"のリンデ先生から…」


ラギィ警部にメモが回る。


「カエラ・クレパの意識が戻った?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


"外神田ER"のカエラの病室。


「痛車レーサーになりたかった…レーサーがダメなら、せめて地下レースクイーンに」

「次はレースクイーン専門にしてくれ。何でトランクに入ってたんだ?」

「パパ、ごめんなさい。ホンの遊びのつもりで…」


駆けつけたラギィが尋ねる。


「レースには、誰と出たの?」

「フラン・フィツと…あ、地下レースクイーン仲間のアニィもいたわ。でも、彼女は痛チャリだったから、痛車には乗らなかった。ヘンな子」

「アニィ・フラァね?で、事故の原因は?」

「ワカラナイ。ずっとトランクだったし。でも、痛車に乗ったコトは一途に後悔してる」

「日本語、怪しいけど後遺症?事故の後、誰に襲われたのかワカル?」

「え?」


カエラは、自分の頭にグルグル巻きにされた包帯に触れる。


「事故じゃなかったの?この包帯は何?パパ!」

「お前は、襲われたらしいょカエラ」

「襲われた?私が?」


明らかに混乱し、狼狽するカエラ。


「なぜ?私、運転してないのに」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


フラン・フィツの追跡で全員出払った捜査本部。

共にメイド服のヲタッキーズのマリレとエアリ。


「仲睦まじい夫婦だったのね。画像を見てるとワカル」

「続けてハネられたらしいわ。ムゴ過ぎる」

「ひき逃げか…この夫婦には、近親者がいなかったのね」

「だから、再捜査も要求されなかった…」

「…あのね、エアリ。私、貨物船に捕らえられてた時に思ったわ。ココで死んだら終わり。真実は闇の中って。きっと、この夫婦も同じね」

「当時、フラン・フィツがひき逃げした可能性は?」

「アリバイがアル。事故の日は別の痛車レースに参加していたわ」


頭をヒネるヲタッキーズ。


「いずれにせよ、エンジングリルが鍵ね」

「それから、亡くなった夫婦のお墓だけど、命日には必ずお花が置かれてるそうょ」

「誰かが何処かで罪の意識を持って生きている」

「しかも…事故の直後、夫婦の教会宛に匿名で700万円の寄付があったンだって」


第4章 開幕!スーパー地下グランプリ


パーツ通りに向かって、大きく口を開けた地下駐車場。


中では、ドライバーにまとわりつくハイヒールの地下レースクイーン。

ポップアップ式ライトを上げ下げしながら明滅させキスを交わす男女。


初期のメイドカフェ的な手作り感が溢れ何故か微笑ましい。


「ガス欠じゃドリフトできねえょ」

「全く良く考えろアホか」

「…現れました。フラン・フィツです。警部」


スモークガラスの中から指差す先に逃走中のメカニック。


「何だと?ヤル気か?」

「ふざけんな!」

「あらあら。警察の目の前でケンカしちゃダメでしょ?…いくわょ!全車、突入!フラン・フィツを検挙!」

「alright!Go!Go!Go!」


広い地下駐車場のアチコチに隠れてた覆面パトカーが一斉に赤色灯を回転させサイレンを鳴らし飛び出す!現場はパニック!


「万世橋の手入れだ!やべぇ!」

「逃げろ!俺の車に乗れ!」

「フランは"ヲヴァンゲリヲン"の痛車よっ!逃すな!」


地下の駐車場で、激しくドリフトしながら逃げ出す痛車!

ラギィのSUVに真正面からChicken Raceを挑んでくるw


「危ない!」


正面衝突寸前でハンドルを切ったSUVは、激しくスピン!

勝ったフランはさらにアクセルを噴かし地上へ飛び出すw


「イーヤッホー!」


歓声を上げ夜のアキバに姿を消すw


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その頃、未だ天才同士のチャットが続いてるw


「…ココでもう1台、恐らく軽車両(じてんしゃ)が事故車に接触。制御不能になった事故車がビルの路面店に激突って感じ?」

「ソレ、ピットマヌーバーだわ」

「海外ドラマで見る奴?パトカーが犯人を追跡スル時に使ってるょね」

「ソンなのTVでやってるの?」

「サブスク。見ないの?」

「ネットでね。変数さえ決まれば、シミュレーション通りだわ」

「はい、ビンゴ…あら?誰もいないわ。みんなは何処?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の取調室。


「アニィ・フラァ。フラン・フィツとレースをしてたんでしょ」

「勝手に決めつけないで。証拠は無いハズょ。フランに逃げられたからって八つ当たりしないで」

「ぐっ」


思わず言葉に詰まるラギィに助け船を出す僕。


「まぁコレを見ろ」

「何、コレ?」

「黙って見てろ」


僕が開いたパトカーには痛車と痛チャリのコーナリング3D画像。


「な、何ょコレ?"メイドカフェクラッシュ"に3D画像があるの?」

「ソンなコトは、どうでも良い。問題は、事故原因は貴女の痛チャリだってコト」

「でも、ワザとぶつけたんじゃない。フランは友達ょ!」

「フラン・フィツは、どこにいるの?」

「知らないわ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ルイナのラボに、ぶらり顔を出す。


「テリィたん!宇宙勤務から戻るといつも行かされてたお寺の修業はお休みなの?」

「お坊さんに安らぎを授けたのさ。ルイナも瞑想してる?」

「ソレが…捜査に気を取られて難しいの」


車椅子の上で溜め息をつく悩めるゴスロリ、ルイナ。


「実は、僕も心の平安をかき乱されてルンだ。乙女の顔面についた靴跡が気になって…うわ!こりゃヒドいなw」

「でしょ?しかも、靴跡が部分的で照合が難しいの」

「確か英国の大学で、特殊なアルゴリズムを使って靴跡の一部からキッカーの姿勢まで推測するってのをやってたな」

「素晴らしい。さすが、イギリスね」


捜査本部とオンライン接続の画像から興奮を押し殺した声w


「今度こそフラン・フィツを発見」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


車椅子のルイナがトイレから戻るとラボにマリレがいる。


「マリレ、ピンで来るのはレアね。何?」

「見て欲しいモノがあるの」

「誰にも言えない3重スパイの秘密とか?」


何気ない軽口だったがマリレに睨まれるw


「ジョークよっ!ジョークだからっ!何?」

「3年前のひき逃げ痛車のグリルが"メイドカフェクラッシュ"の痛車についてたの」

「奇遇ね。何か関連性があるのかしら」

「事故車のエンジングリルを偶然フラン・フィツが拾ったとも思えない。そんな可能性を考えるのはヘンかな」

「ホッジ予想もヤン-ミルズ方程式もヘンな可能性から人生を賭けた取り組みが為されてるわ」

「3年前のひき逃げ事件に"メイドカフェクラッシュ"の秘密が隠されてると思うの」

「統合理論ね。私の大好物だわ」

「3年前のグリル付き痛車レースと痛車レーサーのリストなんだけど」

「すごぉい。マリレの独自捜査?」

「YES。一応、私なりに照合済みだけど、超天才のルイナが見れば、別の何かに気づくかもしれないと思って」

「OK。やってみる。あのね。こーゆーのって照合データが増えれば増えるホド何かが出て来るの。例えば、痛車や痛車オーナー以外の情報とかね。間接的な関係者でも何でも良いの。友人や家族や親戚、お隣に住んでる人、事件の目撃者…」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


黄色い規制テープが貼られた殺人現場からエアリが電話。


「フラン・フィツが死体で見つかりました。顔を蹴られています。しかも、傷は新しい…はい、恐らく同じ靴でしょう」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の捜査本部。


「防御創が無いから、顔見知りの犯行カモしれない」

「とりあえず、アニィ・フラァに心当たりを聞いて頂戴。他に新情報はあるか?」

「靴跡は分析中です。コレから目撃者に会いに行きます」

「マリレは?」

「3年前のひき逃げ事件との接点を当たってます」

「ソレ、続けさせて」

「でも、まるで関連がナイ可能性もありますょ警部」


しかし、ラギィに躊躇いはナイ。


「ううん。絶対関連してるわ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その頃、僕は人生初ダーツに挑戦してる。


「手にしたダーツを雛鳥だと思うの。軽く持って!巣に帰す感じで投げる…そぅよ!素晴らしい!テリィたん、天才!」


だが、僕が投げたダーツは明後日の方へ…笑


「ダメだょレイレイ。僕の鳥は、異次元に巣があるようだ」

「テリィたんの愛車は?未だ、あの半分キャタピラの…」

「ケッテンクラートだ。ネッカーズルム工場の試験型。最初の500台の内の1台だ」

「ナイス。ソレはゼヒ見たいな。中央通りをトバそう?私を乗せて!」

「うん。そのうちね…」


おぉ良い雰囲気だ…で、全てをブチ壊すハデな咳払い!


「エッヘン!ゴッホン!ウッフン!全く人がちょっと量子コンピュータールームに行ってる間に!テリィたん!泥棒猫から離れて!」

「誰が泥棒猫?そーゆールイナも泥棒猫でしょ!」

「まぁまぁ。部分的とは言え、2つ目の靴跡があって良かったじゃない?」


ルイナと一緒にラボに戻ったマリレが間に入る。


「亡くなったのはお気の毒だけど…お陰で結果が出たわ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


同時刻。万世橋(アキバポリス)の取調室。


「ZEROコーク?マズそー」

「じゃ飲まなくて良いわ」

「飲むょ!」

「もう遅いわ」


ペットボトルに口をつけ美味しそうに飲むラギィ。


「あのね、警部さん。フラン・フィツには痛車レーサーの知り合いが多いのょ」

「カスタム痛車のエンジングリルの入手先は?」

「いくらでもあるわ。本人を探して聞けば?」

「フラン・フィツなら見つけたわ」


ラギィは、椅子の背をまたいで座る。


「遺体でね」

「え。…事故ったの?」

「殺されてた。恐らく、犯人はカエラ・クレパを襲った人と同一人物。"メイドカフェクラッシュ"の現場に、彼女の知り合いはいたかしら?」

「カモしれない。フランは、いつも痛車レースを自慢したいって言ってたから」

「誰に?」

「オツムが弱くてパンツ丸出しの私の地下レースクイーン仲間。あとフランの"古い友人"」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


パーツ通りの事故現場。崩れかけたビルの前の献花台。

死んだメイドの遺影に花を添え手を合わせる男がいる。


「ヲタッキーズのエアリです。お話を伺っても?」

「何か?」

「"メイドカフェクラッシュ"の時の様子ですが、貴方が事故車に近づく姿がビデオに映っていました」

「痛車のドライバーを確認しただけだけど」

「その時、ドライバーに暴行を働いていませんか?例えば…蹴るとか」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その同時刻。SATO司令部のルイナのラボ。


「サリルとフランの顔面についた2件の靴跡を重ねてみるね。ホラ、ピッタリ」

「やっぱり同じブーツなのね」

「靴のサイズは30センチ」

「あら。デカイのね」


意味なくウレしそうなレイレイw


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋の取調室でアニィ・フラァ。


「フランの"古い友人"は、昔、痛車レースに参加してた人ナンだけど、ナゼかモメてた。フランは、ワザと"彼"の前でエンジンを噴かしたり、大声で喚いてたりしたわ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


引き続き"メイドカフェクラッシュ"の現場。


「俺は、あの事故で唯一死亡したメイドのTO(トップヲタク)です。俺の推しサリルは、痛車が突っ込んで来た時、咄嗟にベビーカーの前に身を投げ出しベイビーの命を救った。彼女は、生涯俺の自慢の推しです」

「…事故時、貴方も"Ο(オミクロン)"に御帰宅してた。そうょね?」

「YES」

「つまり、貴方は"メイドカフェクラッシュ"の痛車ドライバーを誰が襲ったのかを知っていますね?貴方は見たのでしょ?」

「ソレは…」

「貴方が見たコトを教えナイなら…捜査妨害で逮捕ょ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


SATO司令部のルイナのラボ。


「おかしいわ。あのエンジングリル、12年型日本車のモノだったンだけど…同型の所有者は"メイドカフェクラッシュ"の現場にいたけどレースには不参加だわ」

「もしかして…ソレがアニィから話してた"古い友人"かしら」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


"メイドカフェクラッシュ"の現場。


「エアリです。はい、姉様。現場です。ええ、現場ですけど…わかりました。ねぇいつもの社員さんは?サリルのTOなら知ってるでしょ?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


僧院。祭壇の前に立ち、神の赦しを乞う男。


「彼は、毎日来てるそうです」

「でしょうね…ロバト・ラエル。ヲタッキーズょ」


ミユリさんが肩に手を置くと、男はゆっくりと振り返る。


「覚悟は出来ている」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


男は、万世橋(アキバポリス)の取調室に連行される。


「3年前、痛車レースに参加して2人をひき殺した。今でも毎晩彼らの顔が浮かぶ。事故の直前、恐怖に怯え、大きく目を見開く顔が。事故車はバラしてパーツ毎に売った」

「エンジングリルはフラン・フィツに売ったのね?」

「売った金は、あの教会に寄付した」

「お墓の花も?」


ミユリさんが尋ねると、彼は心を開いたのか、うなずく。


「"メイドカフェクラッシュ"の時の様子を教えて」

「騒然となった。一瞬で地獄になった。サリルが倒れてて、他にトランクから這い出て来る地下レースクイーンもいた。トランクのレースクイーンは通過儀礼だから、てっきりサリルが大惨事を起こした痛車のドライバーだと思い、怒りに我を忘れてしまった…」

「でも、痛車のドライバーは別人だったのょ」

「ソレをフラン・フィツから聞いた。私は、別人を殺してしまったのだ。そのフランは、俺に見せつけるためにパーツ通りを走った。そうと知り、カッとなって殴り倒し…そのママ殴り続けてしまった」


取調室を出て、ミユリさんはラギィにささやく。


「ラギィ。誰かが止めないと」

「とりあえず、自殺予防の監視をつけるわ」

「そうして」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


さて、今回も大団円?だけど、例によって、ミユリさんは最後にチョロって出て来て美味しいトコロをさらって逝く頃…


「マリレ。コーヒーいるか?SATOの薄いパーコレーターのコーヒー、僕は大好きナンだけど」

「いただくわ、テリィたん…宇宙作戦群のお仕事、お断りしようと思います」

「え。」


SATOのギャレーでマリレの紙コップにコーヒーを注ぐ僕。


「で。これからどうする?」

「出来れば、ヲタッキーズに残って働きたい。でも、ソレを決めるのはCEOのテリィたんょね?」

「僕は、お飾りのCEOだ。全てミユリさん、と逝うか、ムーンライトセレナーダー次第だけど、この人手不足の昨今、経験者は高給優遇だな」


すると、僕の大好きなロケットガールはニッコリ微笑む。


「ありがとうございます、CEO」

「あ。マリレ」

「はい?」

「コレを渡してくれって。エアリから。忘れ物じゃないか?」


ソレは、ベルリン時代の元カレから渡されたカチューシャ。

エアリがSATOから取り返したンだけど僕は知らないフリ←


「エアリから?」

「うん。マリレのカチューシャだろ?忘れ物かな?」

「忘れ物…えぇ確かに忘れかけていたモノです」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その夜の"潜り酒場(スピークイージー)"。


「私が偶然の一致を主張するのはレアだけど、今回は初めから全部繋がってると思ったわ」

「あら、リモートで爆弾発言ね。ルイナ」

「しかし、3年前の無謀な運転が全ての元凶だったナンて信じられないな…ルイナ、出版の準備は?」

「後は序文を書いて注釈を加えるだけょ。ゲラ刷を読みたいの?テリィたん!」

「いや、別にそーゆーワケでは…出版を瞑想して待つょ」

「あのね、ルイナ」

「何ょレイレイ」

「テリィたんは、私の聴講生になったのょ。今日の講義は、機械工学の基礎」

「えええっ?!私が何年も科学の魅力を解いてきたのに。レイレイ、じゃなかった、機械工学ナンかに浮気?」

「講師で選んだのょね?テリィたん。リーマン予想とロボット制作ならドッチが楽しい?」

「うーんロボットかな」

「男の子だモンね」

「待って!テリィたん、代数、幾何、エルゴード理論、保形形式。どれも楽しいわ。知らヌは一生の恥…じゃなかった、損ょ?」

「うーん多少損でも楽しく暮らせれば良いや」

「マジ?学位でも取るつもりなの?」

「いやヲタクのタシナミさ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


私に教えてくれた名前

あの夜迷いの無い自由な瞳

ココは監獄じゃない私は救われた

私は祈り続ける


これからは貴女のためにも

崇めているのではなくて憧れてる

一緒においで

きっとなれるよ


純粋な妄想の世界へ

見てごらん

目の前に広がる

君の妄想の世界へと


こんな人生知らない

コレほどまでに

純粋な妄想の世界を

そこで生きれば

みんな自由になれる


本気でそう願うなら

その世界にいられるよ



おしまい

今回は、海外ドラマによく登場する"路上レース"をテーマに、地下レースクイーン、事故現場で蹴り殺されたメイド、闇パーツ店員、痛チャリ乗り、痛車レース専門の盗撮屋、名前を改名した"外神田ER"女医、超天才の恋仇となる工学博士、犯人を追うヲタッキーズや敏腕警部などが登場しました。


さらに、ヲタッキーズ内の不和と再生、超天才と新たなる恋仇の恋の鞘当てなどもサイドストーリー的に描いてみました。


海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、海外客の迎え入れ準備の整った?秋葉原に当てはめて展開してみました。


秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。

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