9話 3歳 シャルロ兄星を振られる、エドヴィン兄初めての採取
黄金色の畑が白銀の世界に模様替えをした季節。どうも、ヘルマンです。僕は今家族全員で教会前広場にいます。時刻は昼前。他の家族も皆教会前広場に集まっています。…冒険者? 今日は村の外に追いやられています。仕方ないよね。新年祭だもの。
教会前広場には、村にこんなにも人がいたのかってくらい集まっている。300人くらいかな大人と子供合わせて、うん多分、そんくらい。教会前広場に入り切っていないから、正確には解らんけれど。て言うか、何が楽しくてこんなおしくらまんじゅう状態の中立っていなきゃいけないんだ。
まあ気持ちも解らんではないんだけどね。新年祭ということは、6歳の子供たちに才能を振り分ける星振りの儀を行う日なんだもんね。まあ、前世的に言う成人式みたいなものだ。少し、いや大分早い気はするんだけど、という訳で家族9人で新年祭に来ていますよっと。一応家も主役の家の1つだからね。長男シャルロの6歳の星振りの儀が控えている。…僕と一緒に教会に行くようになってから、神様に祈るようになったんだけど、祈りの効果はどうだろうね。農家の才能に星が振られるのはほぼ確定しているわけだけど、どれだけ振られるのか。
太陽が天の真ん中に来た頃、いよいよ星振りの儀が始まった。今回星振りの儀を受ける子供は20人程、この時間教会にいる子供たちには星が振られているはずだ。教会の鐘が10回鳴らされる。今星が10個振り分けられたのだろう。…この教会の鐘も不思議なんだ。誰かが鳴らしているわけではない。この時期この時間になると10回鳴るのだ。管理は聖職者がしている。だが何処にも鐘を鳴らすための紐も無ければ、鐘の中に鳴らせる物すらないとのことなのだ。…神の差配なのだろうな。凄いよな、神が実際にいることを如実に語っている。
さて、教会の閉じていた扉が開いた。皆笑顔で我先にと親の元に帰っていく。家のところにも長男のシャルロが帰って来た。
「やったよ父さん。農家に星を5つも振って貰ったんだ。」
「何⁉ そうか! 5つか! よくやった。流石は俺の息子だ。」
長男のシャルロが農家に星を5つ振られたことは村人皆に伝播する。誰が星5つだと⁉ アツィオの倅だそうだ。何⁉ 星5か。何年ぶりだ。21年前に星6つが出て以来じゃないか。凄いじゃないか。アツィオの所は安泰だな。
農家の星5つの話があっという間に皆に共有される。農家の星が多いことは、農民にとっては勲章ものだ。良かった、シャルロ兄が皆に受け入れられるような才能の持ち主になって。…しかしながら本当に長男に農家が遺伝するんだな。星の数が多かったのはお祈りの効果なのかまでは解らないが、お祈りをしていたから星が多かったというのも事実だ。これでエドヴィン兄が冒険者に役に立つ才能に星が多く振られたら、これは僕の錬金術師も可能性が出てくる。
他の農家も長男長女が農家の才能に星が振られたらしいが、星5つが今回は最高の出来らしい。…全く持って不思議だ。神様が見ているというのがよく解る儀式だった。僕のお祈りも届いていて欲しいな。
星振りの儀が終わったら、酒盛りの時間だ。呑みたい男どもがこの日のために作ってきたエールをがぶ飲みしている。もちろん父さんも爺さんまでもががぶ飲み中だ。全く、なんでここまで酒が好きなのかね。前世でも酒が呑めなかった僕的には何が楽しくて酒なんて飲むのか分からない。シャルロ兄すら呑まされているところを見ると、星振りの儀を終えた子供たちは皆呑まされているんだろうな。
昼間からの酒盛りは主に男どものみで、酒を呑まない女子供はすでに家に帰っている人たちもいるくらいだ。家も母さんも婆さんも姉さんたちを連れて家に帰っていった。僕? もちろん採取しに林に入っているよ。なんと今日はエドヴィン兄と一緒に採取をするのだ。普段から頑張って勉強しているからね。先に冒険者の何たるかを教えておいてあげようと思って連れてきた。
いや、付いてきたといった方がいいかな。僕ばかりずるいと言われてしまったんだよ。でも楽しいことなんて特にはない。素材を探すのは楽しいが、恐らくエドヴィン兄が思っている楽しい冒険者の姿とは違うと思う。ここは霊地だからサーガの様にかっこよく武器を振るい強敵をなぎ倒す冒険者はいない。素材を採取するのがここでの冒険者の仕事だ。
「いい、エドヴィン兄。こうやって保存瓶に10本ずつ魔力茸を入れていくんだ。魔力茸は青い傘に黄色の星型が目印だから、ここの林だと沢山見つかるよ。」
「おう、そうやって説明されると、なんとなくだけど分かる。ほらこれなんかが魔力茸ってやつなんだろ。これをこの瓶に入れれば良いんだな。」
「そうだよエドヴィン兄。そうしないと高く売れないんだ。これはできる冒険者だけが知っている方法だよ。他にも一杯覚えることがあるみたいだけど、冒険者ギルドに聞けば何をしたらいいか教えてくれるんだって。冒険者ギルドの言うとおりにしているのが、一番のお金を稼ぐ方法だからね。」
「おう! これに入れないと金が稼げねえんだろ? 俺も『エクステンドスペース』が使えるようになったからな。母さんから文字の読み書きと計算ができる様になったら林の中で採取する許可を貰ったぜ。で、ヘルマン。この瓶はどうやって手に入れるんだ?」
「この瓶は錬金術師さんから買ったんだよ。1個小銅貨2枚で売っているんだよ。…これ、この白いふわふわなキノコ。これを水の入った保存瓶に入れて売りに行くんだ。1個で大銅貨5枚で買ってくれるんだ。」
「大銅貨! 太っ腹だな錬金術師! ヘルマン先にこの保存瓶…だっけ? 先に幾つかくれよ。今日の採取物はお前にやるからさ。」
「良いよ。この場で渡しておくね。とりあえず50個あげるよ。」
「50個⁉ そんなにいいのか⁉ おまえの分が足りなくなったりしないのか?」
「いっぱい持っているから大丈夫。それよりもエドヴィン兄、今日のこのことは他の冒険者に教えちゃダメなんだよ。解ってる?」
「おお、解ってるぜ。他の冒険者に真似されたら、稼ぎが減っちまうんだろ? そうしたら俺たちの武器が買えねえじゃねえか。俺たちのパーティは魔境を目指してんだからよ。絶対にサーガに謡われるような大冒険をしてやるんだからな。」
「頑張って詩になるように努力してよね。努力なしに詩になんかならないから。」
「その辺は任せとけ! 体力づくりが必要だって父さんからも聞いたからな。文字の読み書きと計算の合間に村を走って体力をつけるように頑張ってんだぜ。」
エドヴィン兄は勤勉だし、人の話を聞く素直さもある。才能さえ振られれば立派な冒険者になるだろう。贔屓目にしても頑張って冒険者をしてほしいものだ。まあ、ここまで教えて素直に聞くんだから良い冒険者にはなるだろうな。そのまま2人で夕方まで採取をしていたので、このまま帰る時間になった。
「エドヴィン兄、そろそろ帰る時間だよ。」
「もうそんな時間なのか? 林の中って暗いから時間が分かりにくいな。」
「慣れだよ慣れ、それよりも魔力茸の特徴はもう覚えた?」
「おう完璧だぜ。青い傘に黄色い星型の模様だろ。あんなの見分けがつかない方がどうかしてるぜ。似たようなのは星の色が違うやつがあったが、あれは値段が高い魔力茸なんだろ。それ以外に似たようなのが無いから完璧完璧。」
「そうそうその調子だよ。これで立派な冒険者になれるよ。」
「おう、その辺は任せとけ。俺たちはサーガに謡われるような冒険者になるんだからよ。」
ほんと素直なんだよな、エドヴィン兄。普通、弟に教えて貰うって言うと、変なプライドが働いたりするもんなんだがな。その辺は良い冒険者への第一関門はクリアって所なのかもしれない。教会前広場で燻っている奴らはその辺のプライドを拗らせた奴だからな。
家に帰ってキノコを母さんに渡し、いつも通りの仕事をこなし、何時もの様に晩御飯、なんでだか父さんと爺さんとシャルロ兄が帰ってきていなかった。まだ飲んでんのか飲んだくれども。どうも母さん曰く、明日の夜までには帰ってくるだろうとのことだった。…今晩帰ってくるかも怪しいのか。全く、酒飲みってのはどうして加減ってものを知らんのか。どうせエールが無くなるまで帰ってこないと思った方が良いんだろうな。…去年はどうだったかな。灰色の人生を送っている気分だったからあんまり覚えていないんだよね。多分帰ってこなかったんだろうけど。ご飯を食べた後は『エクステンドスペース』を空中に出す訓練をして、寝た。
朝、寒空の下桶に水瓶から水を汲み、顔を洗って朝ご飯を食べる。終ぞ親子3人は帰ってこなかった。いつも通りの仕事をこなし、教会に向かって歩く。今日は新年祭の次の日ということで、僕一人だ。
「うわぁ…。」
教会前広場は死屍累々だった。ゾンビの様に水を求めて井戸のそばで力尽きた奴や、樽に頭を突っ込んだままの奴、果てはまだ飲んでいる呑兵衛までいる始末。アルコールの臭いが充満している教会前広場、大丈夫だよなこれ。死人出てないよな。…教会に行こう。そしてお祈りしよう。…どうか錬金術師に星を振ってくださいお願いします。…よし、採取に行こうっと。教会前広場を無視して林に入っていった。
冬の林は一層肌寒いが、雪が無いため足が濡れることがないのが良いね。藁編みの靴だからさ、濡れると冷たいんだよこれが。あったか布もあるし、寒い冬でも採取に支障はない。昨日はエドヴィン兄がいたから、あったか布を使えなかったんだよね。僕も僕だけ暖かい思いをするほど外道ではない。昨日は本当に寒かったんだからね。
特に見どころもなく夕方まで採取をした。採取に見どころなんてあってもどうかとは思うんだけど、いつも通りといえばいつも通りかな。帰る前に教会に寄っていく。これもいつも通りだ。…まだ少し酒臭いがちゃんと片付いているな。というかもう冒険者が戻ってきているのかテントが幾つも見える。そんなに困っている冒険者が多いのもどうかとは思うんだが、冒険者ギルドの方針だもんね。
きっちりとお祈りをし、自宅に帰って糞尿処理の仕事をこなし、きっちりとあったか布を外し。家の中へ。父さんも爺さんもシャルロ兄も死んだような顔で机に突っ伏している。飲んだ後の後遺症が酷いんだな。…夕飯も食べれるのかどうか解らんなこれは。星5つの大騒ぎでたらふく飲んだんだろうな。まあ、僕には関係ないが。母さんも知らんというように放っておいているし、扱いは雑でいい。という訳で、3人は薄い麦粥のみを少し食べるだけで寝にいった。僕らは干し野菜とキノコのスープも食べて暖かくなったことで眠くなり、『エクステンドスペース』の練習を寝床でやりつつ、そのまま寝沈むのだった。
面白かった面白くなかったどちらでも構いません。
評価の方を入れていただけると幸いです。
出来れば感想なんかで指摘もいただけると、
素人読み専の私も文章に反映できると思います。
…多分。