88話 16歳 執事の引き抜き 孤児の雇用
5日後に新年祭と教会関係者や色々な人たちが触れまわる12月ですが、いかがお過ごしでしょうか。どうも、ヘルマンです。庭を作った翌日です。太陽が眩しいです。いつもと同じ時間帯ですが、少し寝不足です。窓から丁度ベッドに光が差し込むんだよなあ。まあ、目覚ましには丁度いいんだけどさ。エイミーを起こし、2人で顔を洗ってから朝ご飯だ。顔を洗うのをエイミーもしている。僕の真似でやったら目が覚めて気持ちいいという事で毎朝一緒にやってます。メイドたちにも一応教えた。やってるかは知らないけれど。まあ、お湯が出るからお湯なんだけど。
さて、朝ご飯はメイドの3人が作っている。皆料理の才能は持っていないため、いたって普通の料理しか作れない。まだ料理人を迎えてないし、その辺はしょうがない。早く見つかるといいなあと思っている。今日はとりあえず引き抜きの件だ。さてさてどうなるのか。ご飯を食べて早速代官屋敷に向かいます。
「じゃあ、行ってくるよ。いつ頃戻るかは解らないと思っていて。夜までには戻るから。」
「はい、行ってらっしゃい。」
エイミーに行ってくることだけを伝えて代官屋敷へ。ここからだと2時間くらいは歩くんだよなあ。王都程ではないがこの領都も割と広め。20万人都市は伊達じゃない。そんな訳で駆け足。少しでも早く着いた方がいいだろう。そんな訳で、走って1時間弱ぐらい。代官屋敷に到着しました。さて、どうなったでしょうね。
「ヘルマン様ですね。領主様がお呼びです。到着次第、通すように言われております。」
「解りました。案内をお願いします。」
「かしこまりました。」
そう言われてまた奥に向かう。前に騎士爵に任命してもらった部屋だな。また領主様と会うのか。何度も何度も会うとは思っても見なかったんだがなあ。受付さんがノックをして入れと言われたので入りました。
「ヘルマンの話は聞いた。弟が面白い考えを持っていると言っていたのは嘘では無かった様だ。」
「そこまで面白かったでしょうか? 運営を任せるのですから、ある程度知っている人材を欲するのは当然の事だと思うのですが。」
「だからと言って、領主館から引き抜きできぬかと問うたのは俺が領主になってからお前さんが初めてだ。普通は現在の騎士爵の所に行って、人材を乞うものなのだ。」
「成る程、他の騎士爵の所から引き抜けば良かったのですか。しかし、領主様の方が人材を抱え込んでいるのではありませんか?」
「確かに俺の方が人材は抱え込んでいるだろうな。だが、普通は話のし易い騎士爵の方から取るのだよ。ヘルマンはこの都市に来たばかりだからどうするのかと思っていれば、俺の所に話が来たんだ。面白いと思うほかあるまい。」
「確かにこの都市の騎士爵を持つ人たちは一緒に騎士爵になった人たちしか知りませんからね。僕の中では一度目通りしている分、領主様の方が話をし易かったのかもしれません。」
「…成る程な。そう言う考え方もできるな。しかし、騎士爵になったばかりなのに貴族としての振舞いもしっかりと理解しているように見える。この秋は随分とレイドが発生したものだなあ。」
「貴族年金は平民にばら撒くための物だと思っておりますので。装備類を王都で揃えて来てしまったので、お金を使う場所がレイドくらいしか思いつかなかったというのもありますが。」
「その考えは正しい。金は世の中を回ってこそだ。金が停滞しては発展が望めん。その分、此度のレイドのおかげで冒険者が羽振りがいいのだ。領主としては礼の一つもせねばなるまいて。」
「では是非とも人材の件を、執事長かメイド長を任せたいと思っておりますので。」
「給金は幾ら払うつもりだ?」
「大白金貨10枚を考えております。見習いにも大白金貨6枚を払っておりますので。」
「うむ、金の使い方を心得ている貴族のようで何より。大金貨以下なら話を蹴っていたところだ。大白金貨10枚ならば十分だろう。リチャードを呼べ、話は通してある。」
「かしこまりました。」
隣に控えていた執事さんが部屋から出て行った。…音がしない執事さんだな。かなりできそうな感じを漂わせていたし、流石だな。
「しかし、大白金貨10枚か。中々に豪気じゃないか。執事長として迎えるなら十分な報酬だな。金をケチる貴族は碌な貴族ではない。浪費が酷い貴族も碌な者じゃ無いがな。」
「年金のことを考えれば出ていく金より入ってくる金の方が多いですから。使わないといけない金だと思っていますので。」
「それが解っていれば上等よ。ガンガン使って領都の経済を回してくれ。それくらいの年金は渡しているつもりだ。」
「税金で持って行っている金額は半分ですよね? それ以上持って行く貴族様もいるんですか?」
「ああ、いるぞ。自分で使う分には問題ない。領で使えばそれだけ平民が潤うんだからな。王都で使うやつと貯めこむやつは害悪でしかない。それでは各領が発展せん。」
「成る程、王都で使うとは一体何に使うんですか?」
「多いのはカーバンクルの宝石よ。あれに使うものが多い。色にも因るが大魔金貨30枚程するものもあるくらいだからな。」
「冒険者が貰う金額なんてほんの僅かですよ。良くて大白金貨です。」
「どんな宝石が欲しいかなんてその場の空気だからな。今年は青、大きさこそ至高などと色々よな。大体は王妃がしていたと噂される色が流行るものよ。」
「それなら自分の領で浪費した方が大分マシですね。」
「そうだな。おっと、帰って来たな。入れ!」
執事さんがリチャードさんを呼んできたんだろう。割と早かったな。…別の部屋で待機させていたか?
「リチャードをお呼びしました。」
「ダニエル様、ご用件は何でしょうか。」
「うむ。リチャードよ、今日付けにて貴様を解雇する。これまで仕えてきたこと大儀である。以後はこのヘルマンに仕えよ。良いな。」
「かしこまりました。ヘルマン様どうぞよろしくお願いします。」
「リチャードには執事長を任せます。大白金貨10枚が給金です。いいですか?」
「過分の評価、有り難く存じます。以後よろしくお願いします。」
「うむ、これで人材の目途はたったか。他にも雇うのだろう? 何処で雇うつもりだ?」
「妻の友人に声を掛けて数人は集めております。後は孤児院での雇用の許可を頂きたく。」
「ふむ、孤児院だと? 何故孤児院から雇う?」
「思い付きで申し訳ないですが、孤児の方が人に仕えるという姿勢があると考えたからです。神父様やシスターを親とは考えぬでしょうし、聖職者は神に仕えるものです。仕えるという意味を平民の誰よりも知っていると考えました。」
「成る程! 面白い! 仕える姿を見て育つ者だからこそ使いやすいときたか。解った。孤児院からの雇用を許す。俺も孤児院の運営をやっている者の1人として、そのような考え方があるとは思わなんだ。ジェラルドよ、使用人の候補に孤児も入れてみよ。使えそうなら今後も考えようではないか。」
「かしこまりました。」
「ほんに面白い男よな。思い付きで言った言い訳がそれか。納得できる物であったぞ。しかし、孤児の雇用なぞ俺に断る話でも無いだろう? 勝手に話を持って行けばどうぞと差し出してくれるだろう?」
「妻が領主様の補助を受けている家の出でして、そう言うものの雇用先を少しでも増やせればとの思いで口に出しました。どうやら補助を貰う事が裏街と関連づくらしく、肩身の狭い思いをしておるようでしたので。」
「ふむ、親がそのように見ると子もそのように育つか。成る程な。だが裏街の補助は取り消せんからな。あれは無いと困るものだからな。補助を打ち切るわけにもいかん。それで雇用先をな、それは本音か?」
「少なからず本音ではあります。後はアンデッドを忌諱しないだろうとの考えもあります。畑で使役する予定でおりますので、アンデッドに耐性のないものは仕事になりません。」
「教会はアンデッドの処理をするからな。怖いとは思わんだろうな。成る程成る程、言えば言う程に納得させうる言い訳を思いつくものだ。しかし、それも本音ではあるまい。何か私欲があると見えるぞ。」
「…神の保護した子供たちを保護することで、自分の子供たちにも良い才能を振って貰えればとの私欲もありました。」
「ははは! そうか、もう子供の心配か! それはいいことだ。しかし、神に媚びを売るか。本当に面白い奴だ。リチャード、お前の新しい仕え先はこのような所だ。付いて行けるか?」
「全霊を持って仕えさせていただく所存。」
「頑張れよ。お前は俺のところで燻る奴じゃない。全力で羽ばたいていけ。でないと置いて行かれるぞ。」
「覚悟しております。」
「うむ、面白い話であった。有意義な話も聞けたしな。ジェラルド、見送りを頼む。」
「かしこまりました。ヘルマン様、こちらへ。」
そう言って部屋を出る。あの領主様は読心の才能でもあるのか? 子供の心配の件を言わされるとは…恥ずかしいじゃないねえ。あれ以上の言い訳を思いつかなかったんだよ。孤児の雇用についての考えも本音だ。領主に断る必要があるかもしれないとも思っていたし、仕えるという意味も知っているだろうし、アンデッドに耐性があるだろう事も本音だ。…神様がいる以上、媚びを売るのも悪くないなとも思ってましたよ。本当に。顔や口には出してなかったと思ったんだがなあ。なんで読まれたんだか。それよりも。
「さて、リチャード、早速だが仕事だ。孤児の雇用に行く。最低でも2人、執事見習いとメイド見習いを雇う。メイド長となる者がいない以上、メイドの教育も頼むことになるが可能か?」
「お任せください。」
「よし、それでは行くか。」
教会は代官屋敷の隣だからねえ。直ぐに着きました。さて、この時期だからな。もうすぐ孤児たちを孤児院から出さないといけない時期だ。すでに出て行った可能性もあるが、さてどうなることやら。教会に入ると神父様が迎えてくれた。
「ようこそお越しくださいました。ご用件は何でしょうか。」
「孤児院に用があってきた。雇用の件だ。孤児から使用人を採用しようと思っている。今回の新年祭で出る予定の子供たちを引き入れたい。」
「それは大変ありがたい話です。どうぞこちらに。」
孤児院に案内される。孤児は…100人ほどか、12歳までだから1世代で8人程いるのか。とりあえず、何人来るかと、冒険者になりたい子たちが何人いるかだな。冒険者になりたいという子供たちは雇用しない。夢を奪う訳にはいかんからな。連れてこられたのは…8人か。平均的だな。
「まずは冒険者になりたいものは手を挙げなさい。」
4人の手が上がる。この4人は雇用は無しだな。
「では、手を挙げた者以外を雇用しよう。料理の才能を持っている者はいるか?」
1人手が挙がる。これは嬉しい誤算だな。料理の才能持ちがいるとは。料理人見習い決定だな。
「では君を料理人見習いとして雇おう。いいか?」
「はい! ありがとうございます。」
「他の3人も執事見習いとメイド見習いとして雇おう。いいか?」
「「「ありがとうございます。」」」
「リチャード、何かいう事はあるか?」
「言葉遣いも丁寧ですし、姿勢もいい。文句はありません。」
「神父様、この4人を雇用します。こちらで何か手続きは必要ですか?」
「いえ、代官屋敷で手続きをしてもらえればこちらとしては何も。」
「解りました。こちらは喜捨になります。お受け取りください。」
「これはこれは、ありがとうございます。あなた方に神のご加護が有らんことを。」
まじで神がいるこの世界、あって欲しいなあ、神の加護。欲望まみれの喜捨だがまあ、いいんじゃないの? これで本当に加護をくれたら有り難いんだけどな。子供たちにはいい星を振って欲しいし。さて、思いのほか大人数になったな。さて代官屋敷に再度寄っていきましょう。リチャードの税金の話はしたし、完全に二度手間だったな。まあ雇用出来ない可能性もあったんだからしょうがないか。新しい使用人見習いたちが税金の話を聞きながら時間が過ぎていくのだった。あ、そう言えばこの子らに給金は大白金貨6枚って教えてなかったな。教えたら驚かれたが、喜捨に使ってもいいんだから一杯使ってくれよ。
面白かった面白くなかったどちらでも構いません。
評価の方を入れていただけると幸いです。
出来れば感想なんかで指摘もいただけると、
素人読み専の私も文章に反映できると思います。
…多分。




