8話 2歳 農家背中で語る、まともな冒険者との邂逅、魔械時計買いました
麦が首を垂れ、一面が黄金色となった秋頃、現在僕は家の農地で落ち穂拾いの真っ最中である。現在麦の収穫期、父さんと母さんが大鎌を振るい、『エクステンドスペース』で回収している後を、その取りこぼしを拾っているのである。といっても殆ど回収漏れなどないのだが、農家とは何たるかを見せるためにやっている恒例行事みたいなものだ。真面目にやっているのは家を継ぐ長男と、農家の結婚相手か教会に入るだろう長女と次女であって、次男のエドヴィン兄と僕はまあ、付いていくだけ。どうあったって農家にはならないんだからどうだっていいことだからな。
しかしながら、星付きの才能は本当に凄いな。幾らちゃんと研いである大鎌であっても、ああも綺麗に切れるものなのかと思う。というか鎌の可動範囲外も切れているのは気のせいではないはずだ。確か長女のリュドミラ姉も農家に星を振られたって言ってたから、父さんや母さんみたいに刈れるんだろうな。才能ってほんと理不尽。
しかし、父さんや母さんの『エクステンドスペース』の使いこなし様には感嘆を覚える。刈った瞬間には『エクステンドスペース』に麦を収める姿は見ていて恐ろしいものだ。僕なんかよりも自由自在に『エクステンドスペース』を使っている。農家舐めんなと背中が語っているようにも見えるからな。最近は僕も手を使わない出し入れがスムーズになってきていたが、少し天狗になっていたようだ。父さんや母さんの領域にはまだまだ達していない。
それはそうと、久しぶりに採取を休んだ気がするな。最近はめっきり雨が降らなくなっていたからね。神様が農家に刈り取りやすいようにと天気を弄っていましたと言わんばかりの晴ればかりだったからな。おかげで採取も捗りました。ありがとうございます。
東京ドームが多分7,8個入るであろう農地を昼までに10分の1以上刈り取って見せる農家の才能を眺めつつ、他の家の畑を見渡す。どこもかしこも絶賛収穫中なわけだが、1か所だけ異様に早い場所があるんだよな。恐らくそれが才能の差というものなのだろう。農家星5とか6とか振られているんだろうな。はっきり言ってコンバインも涙目な効率だもの。機械なんて流行りませんとも。
午後からは母さんからリュドミラ姉に交代して刈り取っていく。効率的には母さんの5分の1か6分の1だな。その分父さんがスピードアップしたがマジで在り得ねえ速度で進んでいく。若干小走りで麦を刈っていくのを追いかける。リュドミラ姉はまだ大鎌を振りなれていないからなかなか進まない。それに回収は母さん任せだ。まだ『エクステンドスペース』の併用ができない。『エクステンドスペース』自体は使えるようになっている。ただ、僕と同じように空中には出せないし、吸い込むように少し遠くの場所の物も回収できない。今回は大鎌の振り方の練習に徹するようだ。
ただ、『エクステンドスペース』をリュドミラ姉が使えるようになった時には一家内で一波乱あった。僕も私も使いたい症候群が発症したのだ。まあ皆ちゃんと勉強してるからっていうことで1回ずつ教えて貰っていた。…一応僕も使えない体になっているので、一応教えて貰いました。皆教え方は一緒なのかな? 両手を持ってその手と手の間に『エクステンドスペース』を発動させていた。誰かが提唱したんだろうな、そのやり方。
あっという間に刈り取りが終わって夕方。まだまだ麦畑は残っているが、男どもはエールづくりに精を出している。去年の余った麦を有効活用という名の呑みたいだけの連中だ。農民の特権という所だろうか。町ではどうか知らないが、村だと冬の間くらいしか飲めないんだよね、貴重品ってわけじゃない。ゆっくり飲めば年中飲めるのだが、新年祭であっという間に無くなるだけだ。収穫した麦も大半は売ってしまうからね。税+食う麦+α位しか残さないのだ。基本的に残りは金に換える。そして塩を買う。残りは貯金だ。大鎌の整備費や独り立ちする子供の独立資金に充てるのだ。食うことに特化しているのが農家というものなのだ。
今日の晩御飯はいつもよりも粒が多い麦粥だ。中にはキノコもたっぷりと入っている。後は焼き野菜のサラダと焼きキノコ。基本的に火が通っているものを食べる。生は怖いからね。食卓にキノコが上ることも普通になったものだ。美味しいしおなかが膨れるしでいいことずくめなんだが。キノコは猟師の家位しか食わないみたいなんだよな。手伝い以下の子供にキノコ狩りをさせれば皆も食卓が豊かになるのに。…僕みたいな子供はかなり稀有な例だろうけど。
おなかが一杯になり夜。『エクステンドスペース』を自慢するリュドミラ姉、練習する兄弟たち。僕も交じって空中に出す訓練をしている。まあ、これもいつも通りになってしまった。こっそりする必要が無くなっただけだ。…まあ、まだ使えないことになってるんだけど。練習に疲れて皆でぐっすりとおやすみなさい。
朝、いつも通りの朝ご飯を食べて、いつもの仕事、そして教会にお祈りに行く。僕はもう落ち穂拾いから解放された。そして、その時に錬金術師の行商人がいないか確認する。この時期は冒険者も多いけど、行商人の数も増える。麦の買い付けだ。どの行商人に売るかは農家次第なので、少しでも身なりを良くして心証を上げようとする行商人が多い。多分、よほどひどくなければ無駄な努力に終わりそうな準備だが、多少は違うんだろうか。
見る限り錬金術師の行商人はいない。幌馬車がそもそもないし、シンボルのゴーレムもいない。というかまだ他の行商人も少ない。他の村の収穫から回ってこようと考えているのだろう。逆にここの村で買い付けようとしている連中はここが終わったら次の村に行こうとしている奴らなんだが。この時期は麦の買い付け合戦が激しい。麦は確実に売れる商品だからね。塩と共に人気の商売品だ。今からどの村を回ろうかと考えて舌なめずりしていることだろう。
まあ、錬金術師の行商人がいないのならば、僕には関係ないことだ。さっさと教会に行ってお祈りをした後に採取に向かおう。今日も一日採取を頑張る予定です。なので錬金術師の才能に星を振ってください。…よし、さあ採取に行こう。
他の冒険者が来ないように林の奥で採取をしている。絡まれるの面倒だし、なってない冒険者共を相手にするだけ時間がもったいない。保存瓶すら使わない冒険者の情報なんぞたかが知れているというもんだ。本当は冒険者の情報も欲しいのだ。他の魔境や霊地の情報、素材の売り先や使っている錬金アイテムの情報が欲しいのだ。だが、そんな情報をぼんくら冒険者たちが持っているとは到底思い難い。だから絡まれない様に奥にいるし、絡まれても威嚇して奥に逃げるようにしている。
だが、今回絡んできた冒険者はそこらのぼんくらとは少し、いや大分違っていた。
「おい坊主、随分深いところで遊んでいるようだが、帰り道は大丈夫か? そろそろ日が暮れるぞ。」
時間を心配してくれているのは、30に満たないだろう青年1人、確かに今日はそろそろ上がりかなとは思っていたがそんなタイミングで声を掛けられたのは初めてだ。いつも通り水を満杯まで入れた保存瓶を持って威嚇すると、男は驚いたようにこちらを見たが、感心するように頷いた。
「おお⁉ っと水の入った保存瓶か。なんだ”しっかりとした”同業者か。まあ警戒すんなよ。俺だってこういうもんだ。」
そう言うと男は水を満杯まで入れた保存瓶、しかも雲母茸の入っているものを見せてきた。…どうやらまともな冒険者らしい。ならばとこちらも警戒を解いて話の態勢に入ろう。優秀な冒険者との接点はこちらとて欲しかったのだ。
「ご用件は何でしょうか?」
「おっおう。いやこんなとこまで入ってきて帰りは大丈夫なのかと思ってな。俺は方角が大体わかっているから帰るのには問題ねえが、迷子と会っちゃあ見過ごせねえ。だから日暮れの時間そろそろなのにまだこんな中にいるのが困ってるんじゃないかと思ったんだが、…どうやら違うようだな。」
「はい、そうですね。迷子ではないです。採取もそろそろ切り上げようかと思っていたところにあなたから声が掛かったので警戒しました。すみません。」
「ああいい、迷子でないんならそれでいいんだ。…んで? 迷子でないならどうやって帰るんだ?」
「…これを使って帰っています。」
「魔道具か? それとも錬金アイテム?」
「錬金アイテムです。指方魔石晶の首飾りと言います。魔力を流すと対になる首飾りの方に魔石晶が動く仕組みになっています。片方は家にいる母さんが持っています。」
「なるほどな。そう言ったアイテムもあるのか。…この林の素材で作れるものか?」
「はい、僕の時は網目蔓茸か黄鐘茸を合計で3つと土竜の爪草2つで作ってもらいました。」
「…どれもこの林で採れるものだな。坊主は良い冒険者になりそうだな。素材のことをよく知っている。それにこの村に錬金術師がいるんだな。」
「ありがとうございます。でも僕は錬金術師になりたいんです。…錬金術師さんなら村の外れ、西側にいます。」
「そうか。俺もその首飾りが欲しいから近いうちに作って貰いに行くか。…そろそろ暗くなる時間だな。歩きながら話そう。」
そう言われ首飾りに魔力を流し、若干首飾りとはずれた西に向かいつつ、男の持っているアイテムに目をやった。あれは何だろうか。
「すみません。その手のものは何ですか?」
「これか? これは魔械時計っていう錬金アイテムだ。世界に満ちる魔素から時間を刻む道具だ。正確な時間を刻んでくれるから、こういう日暮れの分かりづらい霊地や魔境では便利なんだ。素材は土属性の物とそれ以外の属性の物、それと魔力茸だな。数は忘れてしまったが、この林の素材で十分作れるはずだ。」
なるほど、素材自体はジュディさんに聞けば分かるだろう。作れるならば作って貰おう。今まで時間は感覚だったからな。林の木の隙間に太陽が消えればそろそろ帰る時間って計っていただけだからな。時間が正確に計れる錬金アイテムがあるのならばぜひ作っておきたい。
「わかりました。錬金術師さんに聞いてみます。」
「ああ、そうした方がいいな。時間は正確な方が、冒険者にしても錬金術師にしても喜ばれるからな。もちろん、俺もそう思ったし、先輩冒険者からもそう教えられたからな。」
「…あの、批判覚悟で聞くんですけど、どうして冒険者の中には、その、保存瓶の存在すら知らない人たちが多くいるんですか?」
「…ああ、冒険者ギルドがな、情報を絞っているってのもあるが、理由は冒険者ギルドや先輩冒険者の話を聞かない奴が多すぎるんだよ。まずは文字の読み書きができる様になるのが第一関門だ。…それすらしない奴には、どんな情報を与えたって無駄だってのが冒険者ギルドの方針だからな。俺だって、必死になって文字を覚えたし、計算できるようにもなった。そうすると冒険者ギルドの方から事情を話されるってわけだ。それ以外の冒険者にはまずは文字の読み書きをできるようになれと言ってやってくれと。厳しいのかも知れねえが、文字の価値を、情報の価値を判らない奴らは大成しないよ。…魔境で戦闘だけで食っていくなら別だけどな。」
なるほど、冒険者ギルドはそのような方針なのか。変に口伝にしない様にしてるんだろうな。ジュディさんに見せてもらったヨルクの林の図鑑だって、文字が読めないと意味がない。しかし、文字が読めれば宝物に早変わりだ。文字の意味、文字の価値は大きい。才能の星がモノをいう世界で、文字を読むスキルを磨く、星なんか関係なくてもできることは沢山あるのだ。
「さてそろそろ、林の出口だな。またな坊主。坊主も碌でもない冒険者たちは放っておいてやってくれ。自分たちが気が付かないと意味がないんだ。冒険者ギルドもその方針だしな。…難しい話をして悪かったな。難しかったら忘れてくれ。そのうち分かるときが来るからよ。」
俺と一緒にいなかった体にした方がいいと、走って林を出て行った。儲かっている冒険者って認識が周りにもあるんだろうな。…なんで儲かっているのかを考えない冒険者は大成しない、当然だな。僕だって錬金術師になりたいから、錬金術師の、ジュディさんのいうことを聞いて努力したのだ。努力もしていない奴らに儲け話を教えてやるわけもなし。まあ、エドヴィン兄には多少教えてあげよう。まずは文字の読み書きからだけどな。僕が言ったことはある意味正しかったようだ。
僕も林から出て、いつもよりも少し遅いお祈りをして、自宅に帰って、いつも通りの仕事をし、夕飯を食べて、『エクステンドスペース』の練習を皆でして、皆で寝た。今日の成果も特になしである。
朝、いつも通りのごちゃっとした寝床から這い出るように起き、水瓶から桶で水を掬い顔を洗う。自分の顔がどんななのか詳しくは知らないが、水面に映る顔は少なくとも不細工ではない。イケメンかと問われてもまだわからんとしか言いようがない。少なくともある程度には整った顔をしているとは思う。まあ、この世界、顔じゃなくて才能なんだが。
農家であれば農家の才能に星が振られるほどモテる。この村で一番モテたという男性は小柄でポチャッとした愛され系草食男子って感じなんだが、農家の才能に6つも星を振られたそうだ。農家に6つとかもう農家以外にあり得ないって感じなんだが、農家の後継ぎには最高の才能だ。少なくとも5つの家から娘を嫁にどうだと言われたらしい。そして女のモテるモテないも才能なのだ。農家には農家の才能に振られていないと娘を嫁にと言いにくいらしいし、言い寄ることも出来ないのだとか。その点リュドミラ姉はちゃんと農家に才能を振られたらしい。一応聞いたところによると星2つなのだそうだ。父さんは星3つ、母さんは星2つだそうだ。
そして、才能はある程度遺伝する可能性があることを僕は知った。何でも、長男と長女には、親と同じくらいの才能になる可能性が非常に高いらしい。本当かどうかは知らないが、農家の生まれからは長男長女が農家の才能を持って生まれて来なかったことが、この村では無いらしい。まあ、村での口伝なので、本当なのかは定かではないが、農家の数が減ってないことを考えるとある程度真実なのだろう。
そしてまた、次男次女以下には、才能は全くと言っていいほど遺伝しないという。これもなんでなのかは全くわからない。ただ、父さんも母さんもそれぞれが農家の長男長女なんだとか。偶に次女には農家の才能が遺伝することがあるのだが、次男が農家の才能を持って生まれることはほぼほぼ無いのだとか。僕にとっては嬉しい情報だし、錬金術師への道がさらに開けたからいいのだが。才能は不思議だ。
顔が遺伝するのはまあ、分かる。才能が遺伝するしないは訳が分からない。だって、星振りの儀で初めて才能が振られるのに、親と同じようになるとか何がどうなっているのか。神が差配していると言われたらそれまでなんだが、なんとなく納得がいかない。でも、納得がいかなくても、僕は錬金術師になりたいので、どうか神様才能を振ってください、お願いします。
才能の理不尽について考察を廻らせながら、飛び跳ねた寝癖を一生懸命に直す。癖っ毛じゃないだけ直すのも簡単だが、朝起きると爆発しているのは大変なのだ。この時期になってくると少し肌寒くなってくるので、水を被る訳にもいかない。せこせことまともに見えるくらいには髪の毛を揃える。トリートメントなんてないこんな世の中、髪がごわついて何とかならんかねえ。
時間をかけて顔を洗った後は、食卓に座るだけ。長女と次女は料理のお手伝いだ。男どもは邪魔なので退いていてくれと言われているので、大人しく待つのみだ。世が世なら男尊女卑だなんだとうるさいが、ここでは、我が家では母さんがルールだ。邪魔だと言われればとっとと逃げ出すしかないのである。
さて今日も麦粥に焼き野菜、焼きキノコの簡単なメニューで腹を膨らまし、自分の仕事の糞尿処理を終わらせたら、みんなで仲良く教会へ、朝のお祈りを済ませると兄姉は学友どもとお勉強の時間だ。ああ、リュドミラ姉とシャルロ兄はまた落ち穂拾いに戻ったけどね。で、僕だけはジュディノアにこのまま移動する。初めは僕も一緒に勉強させられたんだよ。でもね、僕だけできると周りからずるいと言われる理不尽。早々に追い出され、採取の生活に戻ったのだ。さて、今日は保存瓶の発注と魔械時計の作製のお願いだ。後はいつもの雲母茸の売却。その後はまた採取、だからさくさく行きましょう。お店の扉を開けていつもの一言。
「ごめんください。」
「ちょっと待っとくれ!」
いつも通りの返事を貰い、いつもの指定席へ。この椅子ちょっと低くてよじ登って座れるくらいなんだよね。小さい僕に優しい椅子だったりする。そしてしばらく待つと、ジュディさんが奥から出てくる。
「何だい、もう瓶の追加かい? 少し早いんじゃないかい?」
採取のペースがすでに把握されているのは、しょうがないよね。毎度毎度保存瓶を頼みに来るんだもんね。
「はい。いつも通り1000個追加で。あと、魔械時計を作って欲しいんです。」
「ん? ははーん。さては見て欲しくなったんだろ。あれはあれば便利だからね。解った、材料を言うから出しな。網目蔓茸か黄鐘茸をどっちかを3つ、雲母茸を8つ、それと魔力茸を12個だよ。それから料金はいつも通り雲母茸の方から引いておくから、雲母茸も出しなさいな。」
言われてサクッと素材を出す。そこから網目蔓茸3つと雲母茸8つ、魔力茸12個を選り分けて置く。これで魔械時計もばっちり出来上がるだろう。
「さて、どうする? このまま魔械時計の作製を待つかい? これはちょっと時間がかかるからおすすめは明日保存瓶と一緒に渡すことだけど、どうする?」
「明日一緒に貰います。今日もこれから採取に行くんで。」
「そうかい。んじゃ、また明日ね。準備しておくから。―――はいこれ、雲母茸の代金ね。」
代金を貰ってジュディノアを出た。さて、今日も元気に採取だ採取。張り切っていこう。僕は林の中に入っていった。
林の中からこんにちは。林の中は大分肌寒くなってきております。よって今日から少し早いかもしれないけど、あったか布を装着します。首元を二重にし、残った布を前と後ろの服の中へ。こうすれば全身あったかになるからね。少し移動を阻害するが、そんな程度では全く問題なし。いつも通りサクサク採取できております。
秋だからかなあ、なんか最近冒険者の数が増えているような気がするんだよね。夏に増えるのはなんか分かる気がするんだよね。林の中って涼しいから。でもなんで秋に増えるんだろうか。キノコの量は、年中一緒よこの林。そう聞いているんだけど。素材に関しても秋の方がいいとかも聞かないし。というか、素材の良し悪しで来る冒険者なんて殆どいないから、何かしらの理由があるんだろうけど。…収穫祭も、冒険者までには振舞わないしな。というかお祭りするのは新年祭だけだ。収穫祭は祭りという名のエールの仕込みの事だからな。お祭り騒ぎはするけれど、決して祭りではない。決して。
じゃあなんで冒険者が増えるのか。考えても解らない。行商人が増えるのはまあ分かる。麦の買い付けのためだもの。何処からどのように買い付けるかのルートは行商人独自に持っているだろうから。…それに麦の買い付けにも限界がある。エクステンドスペースを麦で一杯にするだけで、他には何にもできなくなっちゃうからね。さっさと粉物問屋に卸しにいかないといけないから。僕だと多分今の『エクステンドスペース』の容量的には1農家が限界かな。大分容量も増えたとは思うんだけどね、それでも大人の量には負けますわ。
話を戻して冒険者。春頃から増えだして、秋がピーク…だと思う。冬の間はまだ知らないから。でも、ピークは秋だと思うんだよね。春頃からしか見ていないけど、春より今の方が圧倒的に冒険者の数が多いからね。流石に教会に行くまで苦労するくらい冒険者がいれば、幾ら余裕のなかった春先だって気付くはずだ。
それに空気も悪い。なんだかピリピリとしているんだもの。なんと言ったらいいのか、こう、生きるために生きています、感がね。死臭とまでは言わないが、それに近い感覚があるんだよ。繁忙期、残業200時間超、給料出ない、法律違反、うっ、頭が。なんか前世の記憶がフラッシュバックしたけど、ともかく生者の匂いがしない。
冒険者のことを聞くには冒険者、なんだが昨日会った人が近くにいないかな。昨日も少し奥まで来ていたから今日もいるんじゃないかとは思うんだけど、…多分あれかな。少し近づいて声をかける。
「あの、…えっと、こんにちは。」
「ヒューイだ。よう坊主、昨日ぶりだな。」
「はい、えっと、ヘルマンです。あの、ちょっとヒューイさんに質問がありまして。」
「ん、俺にか? なんだ?」
名前が解らなかったので、声を掛けた際、少しどもってしまったが、察してくれたように名前を教えてくれた。ついでに自己紹介もしてしまったが、多分ずっと坊主呼びだろうな。
「はい、冒険者の方々が教会前広場に増えてきたので何かあるのかと、思いまして。」
「…ああ、あれは冬越しの準備に入った冒険者たちだな。ここは霊地だから一年中キノコや野草が生えているだろう? それらを収穫して火を通す。そして『エクステンドスペース』に保存しておくんだ。そうすることで、仕事が少なくなった冬場をしのぐんだよ。宿も大部屋で詰め合いながら過ごすといった感じでな。…ああはなりたくないもんさ。冒険者の仕事も冬場はぐっと少なくなるんだ。魔境はまた別なんだが、魔境も激しくなる季節なんかがあるからな。春夏秋冬どこかにピークがあるんだ、その季節以外は魔境も他の冬場と同じ感じかな。そんでここは霊地なわけだ。普段から稼げていない冒険者だ。貯えなんてありもしねえ。急遽貯えを作る必要がある。そんな冒険者には、ここのキノコが生きるための糧になるわけだ。食う分のキノコを確保して、宿代に充てる役にも立たない素材を採取して。酷い奴なんかは霊地のここで冬を越す奴もいる。勉強をしなかった、いい先輩から学ばなかった奴らの末路だよ、あれは。」
「冒険者って、酷い職業ですね。」
「ああ、そうさ。だが皆が皆酷い訳じゃないさ。俺なんかは、冬場は宿屋でゆっくり温かいものでも食べながらってのができるからな。それに霊地に採取にだってこれる。俺が拠点にしている場所から一番近い霊地がここだからな。冬場だって素材は必要なところには必要だ。むしろ冬場の方が高い素材だってあるわけだ。素材採取でやっていける俺にはあいつらとは無縁だよ。…言いたくはないが、努力をしなかった奴らが、あいつらだ。そのツケを払っている最中なんだよ奴らはな。もうそろそろしたら雪が降る。そうしたらあそこにいる冒険者も4分の1にはなるはずだ。4分の1はここで皆で凍えながら採取をして生きながらえるしかないのさ。…坊主みたいに知恵があれば、その首巻はあったか布だろ? それがありゃあ奴らも凍えずに済むんだろうにな。」
「それでも助けないのが冒険者ギルドの方針なんですよね。」
「そうだ。何から何まで自己責任、それが冒険者だ。才能の有無が物を言うのなんてのは魔境だけだ。才能以外のスキルを身に着けないといけない。知識を貯えないといけない。それが良い冒険者だ。それができない奴らは悪い冒険者だ。どっちも冒険者なんだ。生き残らなきゃどっちにしろだ。…まあ、坊主は錬金術師志望なわけだが、なれなかった場合は、良い冒険者になるだろうさ。」
「ありがとうございます。教えてくれて。」
「なーに、先達の教えを乞うのは良い冒険者としての第一歩だ。ここにいる彼らにもいい先達やギルドの助言があったはずなんだがな。妙なプライドが邪魔してるんだろうさ。プライドじゃあ飯は食っていけないってのによお。」
そういうヒューイは少し悲しそうな顔をしてはいたが、どこか諦めのような言葉のように思える。冒険者ってここまでひどい状況だったのか。エドヴィン兄に文字を覚えろと促したのは正解だったな。せめてまともな食事を食べられるような冒険者になって欲しいものだ。
ヒューイとの会話はそれだけで、お互いに違う方向に採取に向かっていった。ある意味冒険者の醜態を聞いただけだったが、それでも意味のない会話ではなかった。少しだが魔境の話や、霊地の話、素材についての話と少しずつだが、得たものもあった。…そう考えないとやるせない感が強すぎる会話だったのは否定しないが。
日暮れいっぱいまでで採取を終え、自宅に向かって帰る。その帰り道に教会により、錬金術師に星を振ってくれるようにお願いし、錬金術師の行商人が来ていないかを確認し、家族の元へと帰った。帰ったら帰ったで自分の仕事、糞尿処理を行い、…あったか布をしっかりと外して、家の中に入る。今日は湿っぽい感情が自分の中に蔓延しているが、しょうがないよね。完全に冒険者の闇を垣間見た日だったもの。冒険者業はどう考えたって、最低ライン以下の生活をしている人たちが多すぎる。霊地のここはもしかしたらまだいい方かもしれない。年中採取物があり食べられるものがあるんだから。
まあ、僕はそんな生活はごめんである。絶対に普通の、世間一般的に言う普通の生活を送ることをここに宣言しよう。僕は絶対に最低ラインの生活水準になんかしない。絶対にだ。そんな宣言はさておき、キノコ色豊かな夕飯をいただきつつ、『エクステンドスペース』の練習をして寝た。
朝、いつも通り顔を洗い、いつも通りの食事をとる。そしていつも通りの糞尿処理を行い、皆の仕事が終わったことを確認し、皆で教会に向かう。…この教会広場の何人がこの冬を越せるのだろうか。エドヴィン兄たちと共に勉強を半日でもすればいいのにと思うのは、このテント群の人たちを可哀想と思う対象になっているという事なんだろう。残念な人たちを尻目に教会に入りお祈りをする。リュドミラ姉はもうお祈りしても無意味なんだが、皆がやるからとお祈りをしている。錬金術師に才能の星を振ってくださいお願いします。
教会でお祈りをした後、ジュディノアに寄っていく。保存瓶の回収と魔械時計を貰いに行くのだ。ふっふっふ、時計は良いよね。正確な時間を知れるのは大変ありがたい。待ち合わせの時間や予定のやりくりができやすくなるからね。何時に何々をするからね。みたいな連絡もできるのは、やっぱり便利だよね。時計は文明の利器だよ。時を刻む素敵アイテムだと思っている。ジュディノアに着いていつも通りに。
「ごめんください。」
「ちょっと待っとくれ!」
いつも通りの返事が帰ってくるが、床に積み上げられた保存瓶を何回かに分けて回収していく。出すだけじゃなくて回収も手を使わないで、範囲を持って回収できるようになっているのだよ。後は空中に浮かすことだけなんだけど、どうしてもそれが上手くいかない。なんでか分からないけど、空中に魔力が固定できないんだよなあ。
カウンター前を占領していた分の保存瓶を回収し終えてから少しして、ジュディさんが顔を見せた。場所を占領していたのは500個程、それ以外は店の場所全てを埋め尽くしてしまう。だからもう500個受け取らないといけない訳だ。ジュディさんは面倒じゃない。500個一度に出せるだけの技量がある。対して僕は500個全てを一度に仕舞う技量がない。まあ、手でやるよりも圧倒的に早いんだけどね。50個ずつくらいは片付けられるから。
「もう少し精進だねえ。…はいこれ、頼まれていた魔械時計よ。」
「ありがとうございます。」
魔械時計を受け取り、時間を確認する。…この世界も24時間制みたいなんだよなあ。前世の記憶と混濁しないのは有り難いけど。因みに1日24時間、1か月30日、1年12か月360日だ。少しだけ前世と違うがまあ、誤差だよね。1か月30日の方が数えやすくて覚えやすいから今世の方が便利なんだよね。まあ、前世ではしっかりと確立した理論に則って時間を設定しているんだから良いんだけど。因みに1週間という単位は無いのである。農家に休みの日などない。
冒険者は普段は休みすぎなんだよね。幾ら安い素材の売り買いにしたって沢山あれば、この冬越しみたいなのもしなくてもいいのに。それに、普段から食材を貯めておけば、秋になってから急いで貯めなくたって冬場を凌げるだろう。まあそもそも、ちゃんと勉強すれば問題無い訳だ。勤勉勤労ならばこんなに困っていないだろう。
魔械時計を手に入れ、気分よく採取に出向く。何が変わるわけではないが、なんとなく気分がいい。時間が分かるだけなんだが、なんと日の出日の入りの時間も分かるのだ。前世と違い、魔械時計は1周24時間なんだが、太陽が出ている時間は明るく、出ていない時間は暗くなっている。…季節で日の出日の入りの時間は変わると思うんだけど、それも調整されるみたいだ。魔素も不思議なもんだよな。
まあ、太陽を気にせず時間で帰れるようになったのは大きいよな。採取の効率が上がる。時間は魔械時計をみれば一発だし。日の入りもわかるし。あったか布であったかいし。効率が落ちる要素が無いんだよね。そうなるように準備はしてきたから当然だけど、魔械時計はお買い得だった。
魔械時計で時間を確認しつつ、時間いっぱいまで採取をし、教会前広場に帰って来た。…おっ、ゴーレム馬車が停まってる。素材の売却祭りだわっしょい。今日これで売ったら目標である大金貨1枚を超えることは確実だ。思えば長かった…いや、短いな大分。春に錬金術師を志し、勉強に費やした日々、そこから今日まで素材を集めに集めた。いや、これからも集め続けるんだけどさ。
大金貨って言っても通貨の最上位じゃないんだよな。通貨って沢山あるんだよ。一番小さいのは鉄貨、これが最小の通貨、そこから小中大とある銅貨、銀貨、金貨、白金貨、魔銀貨、魔金貨とこれだけある。貴族なんて生き物は魔金貨で殴り合うんだぜ、意味が解らない。成り上がりものなんかもよくあるパターンだとかであるけどさ。必死にためた大金貨の億倍のところで戦ってるんだもの。所詮は平民なのだ。
平民から貴族にはなり得ない。…と思った方、それが違うんだよ。爵位って言っても色々ある。ジュディさんに拠れば騎士爵、魔導爵という貴族位があるらしい。これは平民からなれる最低位の爵位で、魔境で腕をならした冒険者が叙爵することがある。魔境で戦っている冒険者の中で一握りの奴らは、魔金貨まで届くような成果を上げる奴らがいるらしい。魔金貨が出るような魔物、所謂ドラゴン系統だ。貴族が箔をつけるために竜鱗の鎧なんかを着こむらしく、素材の値段が超高騰しているのだ。
まあ、結局は竜、ドラゴンを倒せる才能がないと無理ってなことなんだけどね。武器系統の才能が星6以上が必要なんだと、それか魔法系統ね。英雄クラスは星8とか9とかもいるんだとか。…因みに英雄の才能なんかもあるんだぜい。後、剣でも剣士と剣術があったりする。特に差は無いみたいなんだけど、なんでそんな似たような才能があるんだろうか。細部では違うんだろうけど、そのあたりの研究は専門の研究者がいることだろう。
まあ、雑談はともかく、錬金術師の行商人が来ていることは確定なので、教会でお祈りをした後に寄って今日と明日の予定を聞かないといけない。夏みたいに乗合馬車として来ていたら、明日には出ちゃうからね。気を付けないと。しっかりと錬金術師に星を振ってくれと祈りを捧げてから錬金術師の行商人の元へと向かう。…なんか順番待ちなのかな、凄く並んでるんだけど。
「てめぇいい加減にしやがれ! 素材の質が悪いっつってんだろうがこらぁ! こちとらそんな素材でも買ってやるって言ってんだろ! 高く買い取って貰いたきゃもっといい状態の素材を持ってきやがれ!」
幌馬車の意味が無い程の怒号が飛んでいる。今回の錬金術師の行商人は過激だなあ。…でもこの分だと僕まで回ってくるのかこれ。ちょっと横割りだけど声を掛けて予定を聞こう。
「すみませーん。明日もいますかー?」
「あぁ? 明日もいるよ! しばらくいる予定だ!」
「ありがとうございまーす。」
これは明日だな、うん。多分ここの人たち今晩ずっと並びそうだもの。…保存瓶使ってないものは何時売ったって一緒の様に買い叩かれるだけだよ。新鮮採れたて? 半日も経ってるんだよ。魔力もその分飛んでっちゃってるんだから。そんな言い訳、錬金術師の行商人には響きませんとも。二束三文で買い取って貰えるだけ有情だよ。この後保存瓶に入れたって素材の質は半分以下だ。
錬金術ギルドに売るにしたって利益が出ているのかどうかも解らないもんな。錬金術ギルドの査定は全品魔道具を通すらしいからな。その査定を受けて結果赤字なんてこともあるだろうね。だからこその叩き買いなんだし。トントンで十分。黒字なら儲けもの位で買い叩くんだろうな。
ちゃんとした魔力茸なら行商人価格小銀貨2枚でも、錬金術ギルドに売るなら小銀貨3枚で売れる。錬金術ギルドから買うなら小銀貨5枚からで売ってくれるぞ。魔力の薄いものなら二束三文で買えるけど、素材としての価値は二束三文で足りているかどうか。…今回は僕とヒューイさんが居るおかげで錬金術師の行商人さんは黒字だろうけど。ヒューイさんは並んでないから売るかどうかは知らんけど。売らなくても、僕だけで十分に黒字だろうけどね。
そんな有象無象を放っておいて、家に帰る。そして糞尿処理の仕事をこなし、あったか布を外して、今日の収穫物を母さんに渡し、晩御飯を食べる。そして、兄弟姉妹で『エクステンドスペース』の訓練をこなし、皆で寝る。今年も寒くなって来たし、一緒に寝ると暖かいから良いよね。
朝、いつも通り顔を洗い、いつも通りの食事をとる。そしていつも通りの糞尿処理を行い、皆の仕事を終わったことを確認し、皆で教会に向かう。…冒険者の多くがキノコ鍋を作っている最中だ。至る所でキノコの匂いが漂っている。ここからも分かるよなあ。
もう農民の僕たちは動き出している。なのに冒険者はまだ食事もしていない。そうすれば採取開始時間も遅くなる。…自動的に活動時間が短くなる。できない人間は何でも遅くなってしまうんだろうな。農民よりも早く起きろ活動しろとは言わないが、同じ時間位に活動する勤勉な人たちは多分、文字の読み書きもできるんだろうな。
教会に入って、いつも通りお祈りをし、兄姉は勉強に、僕は素材を売りに行く錬金術師の行商人ももうすでに行動しているらしく、幌馬車がごとごとと揺れている。活動しているなら問題ないだろう。
「すいませーん。今から素材の買い取りいいですかー。」
「いいぜぇ、入ってきな!」
「すみませーん。階段が無いと幌馬車に登れないでーす。」
「あぁ⁉ ハーフリングか⁉ ちょっと待ってろ!」
ちょっと待っていると、梯子が降ろされる。よし、これで幌馬車に入っていける。
「あぁ⁉ 子供じゃねえか! ハーフリングにしたっても少し身長があらぁ!」
「すみません、人間の子供です。でも素材はちゃんとしてますので。」
そう言って保存瓶に入った魔力茸を見せる。侮りの入った目から商人の目に変わった。
「いいねぇ、この村にもちゃんとした奴がいるじゃねえか。よっしゃまずは魔力茸からだ。出してきな。」
そう言われたので、魔力茸から10瓶ずつ出していく。言葉は荒いが検品は丁寧にしていると思ったら、始めの10瓶以外は検品なしに仕舞っていく。それに噓を吐くと色がつくアイテムを使っていないのだが良いのだろうか。土竜の爪草も検品は始めの10瓶だけ、その次もその次も始めの10瓶しか検品しない。思い切りのいい人だな。こっちは楽でいいが。だが、そろばんみたいなのは何か弾いている。
「――――――これで、全部です。」
「よっし、じゃあ査定だが、品質良好、数も問題なしだ。全部で中金貨6枚と小金貨4枚大銀貨4枚だ、中銀貨以下は切り上げにしといてやらぁ。」
「ありがとうございます。」
「ああ、これでここの商売も足が出ねぇで済む。…ここんところの冒険者はひでぇもんだったからな。1人以外なっちゃいなかった。お前さんで2人目だよ、まともなのは。もちっとどうにかならんもんかねぇ。」
「冒険者ギルドの方針らしいですよ。勉強もまともにしない奴には情報もやらないって。」
「しってらぁ。だから大した利益にもならねぇのに買い取ってやってるんだ。感謝してほしいもんだよこっちはよぉ」
「…ですね。では、僕はこれで。」
「ああ、良い取引だったぜぇ。」
馬車から出ていき、そのまま教会広場を突っ切ってヨルクの林に入ろうとする。テント群をよけて林の方へ向かおうとしていると、冒険者から話しかけられる。
「お前も買い叩かれたんだろ? 湿気てやがるよなあ! 錬金術師様もよお!」
僕に話しかけているように言っているが、むしろ錬金術師の行商人に聞こえるように言っているようだ。…小さい奴だな。少しでも勉強してから出直してこい。レベルの低いいちゃもんは無視するに限る。僕は何事もなかったかのようにテント群を抜けた。「おいっ!」という声も無視して林に入る。僕の金稼ぎはまだ終わっちゃいないのだ。
目標額には達したが、まだまだ足りないと思ってみて良いだろう。入学できるであろう最低限の金額のはずなのだ。この辺はジュディさんも知らなかった。親が払ってくれたから詳しくは知らないと言われてしまったのだ。まあ、大金貨もあれば足りるだろう。その言葉くらいなのだ、特になんの確証もない。それに錬金術を覚えるためには書籍なんかも買わないといけない。そうすれば金貨なんてあっという間に溶けるだろう。
商家の生まれでもない、農民の子供が錬金術師として一旗揚げようとしているのだ。金なんてあると思ってはいけない。錬金学術院に入ったはいいが苦学生してます、なんて絶対に嫌だ。金は稼げるうちに稼げるだけ稼いでおくものだ。僕にとっては大金かもしれないが、錬金術師としては大金とはとてもいえない。今日来ていた錬金術師の行商人だってそうだった。保存瓶に半分ほど入るくらいの中金貨を持っていたのだ。それが全財産なんてありえない。大金貨を、それ以上の貨幣を保存瓶単位で持っているかもしれない。錬金術師になりたい。これを夢で終わらせるつもりはない。そう再び決意をし、林の中に入っていくのだった。
面白かった面白くなかったどちらでも構いません。
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素人読み専の私も文章に反映できると思います。
…多分。