76話 13歳 10月13日 ゼミの日、授業のおさらい、永明派の刑、幽明派からのお客さん
5番棟0304号室からおはようございます。今日は10月の13日、ゼミの日ですよ。どうも、ヘルマンです。10月の授業も順調に終わりまして、やっとこさゼミの時間ですよ。今回は幽明派からのお客さんを迎えての豊穣会です。…僕のせいですね、すみません。お忙しい中ありがとうございます。
授業の方はまあ、普通…でしたよ? 永明派の授業は治療学基礎。ポーションの効果がどれくらいあるかという実験でした。犯罪行為をしたという事で死刑囚を連れてこられての授業。嫌な予感しかしませんでしたが、まあ大体の事はこれで解ったんじゃ無いですかね。死刑囚を切り刻んでの回復。骨を折っては回復。この程度なら初級ポーションで済みます。ここまで行くと中級ポーションが必要になります。こうなってしまっては上級ポーション以上を使いましょうね。と聞こえる先生の声と、死刑囚の絶叫を聞きながらの授業。倫理的にどうよ? やばくない? この授業ってまだ基礎なんだよね。応用はどうすんの? 腕くらい落としそうよね。死刑囚なのか? 永明派の刑って名前じゃないの? まあ、必要だとは思うけどさ。中級ポーション以上の怪我は負いたくないもの。
鉄迎派の授業は武器錬金の心得。魔杖で武器を復元させる方法ですね。…うん、戦闘中にやる予定だったみたいよ? どんだけ戦うのよ。普通にサブ武器持っとけよ、大人しくさあ。そんな訳で魔杖の魔力操作で武器の形にして魔力茸で固めて終わり。…これを実戦中にやれと? 狂ってるって。しかも僕の武器は切れ味重視の武器。鈍器に近い大剣とかならいいけど、レイピアとか復元させても研がないと意味なし。そんな訳で、この技術はお蔵入り。
造命派の授業は骨格入り4足歩行ゴーレムの作成。9月のゴーレムに骨格を入れましたよ。大きくなると骨格を入れないと整備回数が増えるんだと。11月に作る予定の馬車用ゴーレムの維持費として魔力茸と魔石の消費が半端なく増えるから大人しく入れておくようにとのことだ。馬車用ゴーレムは2体作る予定なのでこれはしっかり考えながら骨格を作りました。少しでも効率のいい方がいいもんね。前世の僕の知識の球体関節というのがもの凄く役に立ちました。錬金術で作るから前世の球体関節よりも凄いよ? なんたって半球も覆っていないのにくっつくからな。土属性の魔石を余分に使ったけど、お試しには十分でした。僕の馬車用ゴーレムの効率を見て驚くがいい。
黎明派の授業は魔布・刺繍糸の作成だ。刺繍糸はすでに作りましたね。…大分前に思えるけど、まだ1年経ってないんよなあ。まあ、これは自分用ではなくて新入生用なんだけどさ。もう少ししたら後輩ができるんだよ。感慨深いね。…会わないだろうけど。
最後に幽明派はスケルトンの改造その2。魔鉄をスケルトンにメッキしますよ。これも強化されるのは耐久性のみ。力と頭脳は強化されません。でもこの後だと他の魔物を使っての強化が出来なくなるんだってさ。因みに魔金のメッキが一番強くなるみたいです。…耐久面だけだけど。戦力じゃなくて動力だからなあ。力が上がってくれないとあんまりなんだよね。
そんな訳で、授業の方はまあ、永明派の授業が一番有用だったかな。一番狂気じみてたけど。まだ応用が残ってるけど。造命派の授業はこれから素材が鬼のように減っていくからな。魔石の在庫はたくさん抱えているけど減るのは一瞬、なんだかなあ。まあ、気を取り直して豊穣会だ。…まだセレナさんが来ていないけれど、幽明派からは2人来ている。1人は男性。何とダークエルフだと思われる。肌の色が黒茶色い。初めて関係を持つダークエルフさんですよ。別にエルフとは喧嘩をしていないし、そう言う種族だからってだけなんだけど、ダークエルフの方が寿命が長いって言われてる。殆ど誤差らしいんだけど、100年くらい違うのよ? 誤差で片付けていいとは思いません。…人間は長くて100年なんだから。
もう1人は女性。ハーフリングらしく小さい。…小さい人間の可能性もあるけど、デボラさんの知り合いだから多分ハーフリング。同じ髪色髪型してるけど、艶がなあ。やっぱり髪洗液の効果は爆発的で艶やかしい。…爆発してるのは今回来ているハーフリングの人の方なんだけどさ。姿見は無いにしても、その寝癖は直そうよ。5,6か所飛び跳ねてるよ? もうちょっと気にしようよ。男の僕だって多少気にしてるのに。ずぼらなんだろうか。…ダークエルフの男性が気にかけてない当たり、いつも通りなんだろうな。さて、セレナさんがいつも通りにやってきて豊穣会がスタート。
「時間だな。今月の豊穣会を開始する。まずは今日はお客が来ている。幽明派の方から来てもらった。自己紹介をお願いしたい。」
「解った。俺はラッセル=イートンだ、見ての通りダークエルフ。幽明派のゼミ、環命従臓館のゼミ長をやっている。よろしく頼む。」
「私はナンシーです。ハーフリングです。よろしくお願いします。」
「私がゼミ長のブルース=キャンベルだ。来てもらって早速だが、この報告書に目を通して貰いたい。」
「ふむ、―――――――――成る程、―――――――――そう言うことで呼ばれたのか。ナンシーも見てみなさい。」
「はい。―――――――――え⁉ 作れたんですか⁉ 不浄の魔石が⁉」
「そうだ。不浄の魔石は召喚したアンデッドを倒した際に極稀に残る魔石だとこちらでは認識しているが、合っているか?」
「ああ、合っている。詳しく言うと闇属性の魔力の残滓が残った魔石だな。…この報告書を見るに闇属性以外でも残滓が残っていれば不浄の魔石になりそうではあるな。このゴブリンを作ってみたがゴブリンゾンビになったというのは不浄の魔石を使ったときに起こるアンデッド化だ。間違いなく不浄の魔石が出来ている証拠だ。」
「因みにこれが現物です。そしてこっちがその造魔です。」
「…間違いなく不浄の魔石だ。魔力を通した時に属性があるような手ごたえがあるが、引き出せないというのが不浄の魔石の特徴だからな。」
「なあ、不浄の魔石ってのは、一体何なんだ? アンデッドができるってことは幽明派が1枚噛んでいてもおかしくねえってことで呼んでんだがよう。」
「ふむ、先ほども説明はしたが、属性の魔力のカスが残った魔石なのだ。錬金術では普通は不純物は取り除くから出来んだけだな。闇属性の素材を使って召喚を行うことで素材の中の闇属性が使い切った状態で魔石に封入されたのが召喚でできる不浄の魔石という訳だ。この報告書の結果も考察に入れたが、恐らくは間違っていないはずだ。…数が揃わんので中々研究が進んでいないのだ。」
「そうなんですよね。これまでは数が揃わなかったので碌に実験が出来ていなかったんです。10年に一度手に入るかどうかの代物でしたからね。」
「恐らくだが、アンデッドの強化に繋がると構想はあったんだがな、数が揃わんから数々の実験が滞っている所だったんだ。不浄の魔石では召喚には向かんことは解っているが、後はてんで駄目だ。数の制限のせいで碌に研究が進んでいない。これはどのゼミでもそうだろう。」
「召喚に向かないのはなんでなんだ?」
「召喚に必要なのはあくまでも闇属性の魔力だからだ。魔石にしてもいいが、素材の方が召喚に向いているという事は解っている。それに不浄の魔石はあくまでも属性の残滓だからな。闇属性ではないのだよ。言うなれば無属性と言ってもいい。」
「純粋な魔石と不浄の魔石は何が違うんだ?」
「不浄の魔石から無属性の魔力を取り除いたものと表現するのが良いかもしれんな。不浄の魔石はあくまでも特性は属性魔石よりなのだ。…浄化できる事から聖属性の対になる属性だとは思うんだがな。良い表現がないのだ。」
「聖属性と対になるとは、邪なる物なのか?」
「邪属性とも言えなくも無いな。もう少し特性を研究してみない事には本当に邪な物なのかが解らんが、認識としては間違っていないとは思う。アンデッドの強化に使えるというのも、邪な特性があるからだな。解らん事が多すぎてまだまだ研究の最中なのだ。」
「要するに数が揃っていないせいで特性が解ってはおらぬが、新たな属性と考えても良いという事であるか?」
「いや、新たな属性は言いすぎだ。あくまでも不純物、不浄なだけなのだ。聖属性の魔法も光属性に程々近い事から闇属性に近いものと思っていたのだが、この報告書を見るに無属性という属性にもならぬ属性という方が正しいのかもしれんが。」
「では、今後の研究次第では大きく変わってくる可能性のある物という認識でいいのか?」
「だろうなあ、恐らく次々と新しい認識が出てくると思われる。これを公開してもらえたおかげで研究が捗るであろうからな。」
「ふむ、長い研究になりそうであるな。」
「俺じゃあ寿命が足りんな。…不老不死を求めるゼミとは違うが、これを追うなら不老不死にもなりたいと思うものだ。」
「造命派の方もネバネバとスライムは公開制限は無いとのことを聞いているので公開するつもりではいるが、幽明派としては公開した方がいいんだな?」
「ああ、是非にとも公開してくれ。最近は幻玄派が活性化したせいか、幽明派も何かないかと引っ張られていてな。不浄の魔石が大量に手に入るのなら嬉しいことだ。」
「そうですね。アンデッドも今の強化以上に強化できる様になると思います。…ラッセルさん、今回は制御できるものにしておいてくださいね。」
「それは約束できんな。実験には犠牲が付き物だ。鉄迎派を呼んでおけばよかろう。」
「…制御できないんですか?」
「ハイレヴナントは制御に失敗してしまった。テイマーの才能持ちも集めてみたんだがなあ。てんで駄目だった。アンデッドを使役できてもおかしくないとは思ったんだがなあ。エルダーリッチや自我を持つ者も制御できればいいんだが。不浄の魔石で強化していけば自我を持つアンデッドが生まれる可能性もあるから、実験はどうなるのかは解らんからこその実験なのだ。」
「…不浄の魔石から生み出したゴブリンゾンビの残骸が残っているんですが、必要ですか? あとこのネバネバも。」
「おお、貰えるというのなら貰おう。これからもどんどんと生み出していくだろうが、資料は多い方がいいからな。ナンシー君が貰っておきなよ。一緒に実験するだろうがね。」
「いいんですか? 貰います。ありがとうございます。」
「不浄の魔石も貰って貰いなさいな。どうせ使わないでしょう?」
「…ですね。あ、失敗物も良かったらどうぞ。」
「ありがとうございます。いただきます。…しかし、そんなに失敗するものですか? 才能がある程度教えてくれますよね?」
「ネバネバやスライムみたいに才能が反応しないものも混ぜてるんですよ。…殆ど成功しませんが。」
「これはちょっと生き急いでるだけよ。普通は失敗するような錬金はしないもの。」
「だな。今回巻き込んだのもこいつだからな。まだ1年なんだ。」
「ほう、1年の内から盛況であるな。失敗することもまた勉強だ。何事も無駄にはならん。幽明派の授業も受けているか? アンデッドは便利だぞ。」
「全部しっかりと受けています。スケルトンには今後もお世話になる予定です。」
「となると無限に動くものが欲しいのだな。まあよくあることだ。不浄の魔石があれば力の強いスケルトンもできるかもしれんからな。」
「出来たら是非公開してほしいですね。無限の動力は良いものです。」
「うむうむ、解っているではないか。ゴーレムは力は強いが維持費がかかるからな。」
そんなこんなと幽明派との話し合いは終わった。どうせ次は鉄迎派当たりを巻き込むんだろう。解ってる解ってる。そう言う星の元に生まれてきてしまったんだ。…でも鉄迎派ってどう巻き込むんだろうね? 新しい剣技でも開発するか? …僕は教えて貰う側だろうなあ。飛剣以外にも色々あるみたいだし。でもそれだと戦闘系統で錬金術じゃないな。…鉄迎派が錬金術師っていうのもなんか半分おかしいような気もするが。まあ、気にせず生きていれば巻き込むだろう。色々実験していれば何かしらできるんだから。そんな訳で今日は終わりです。お疲れさまでした。
面白かった面白くなかったどちらでも構いません。
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素人読み専の私も文章に反映できると思います。
…多分。