73話 13歳 8月12日 ゼミの日、造命派からのお客さん、お酒談義
5番棟0304号室からおはようございます。今日は8月の12日、ゼミの日ですよ。どうも、ヘルマンです。今日はお客さんが来ている。2人来てますね。ドワーフの女性とエルフの女性。エルフの方はこの前言っていたアリソンさんだろう。で、ドワーフの方はゼミ長とかなんじゃないかな。友達って感じの雰囲気よりも上司と部下って感じの空気だし、結構な年齢差があるんじゃないだろうか。…エルフもドワーフも年齢が解らんのよなあ。獣人はそもそも区別が付きにくい。鱗竜人は…トカゲ顔を区別できる人間がいるなら教えてください。髪の毛は生えるらしいんだが、鱗の間から生えるんだと。殆どの鱗竜人が剃っているそうだ。なのでスキンが多いんだって。その所為で余計に解らないんだけど。
後は知っているのはドライアドとハーフリング。ハーフエルフはエルフ枠。殆ど変わらないからね。ドライアドはそもそも個体数がもの凄く少ないらしい。…その分長生きなんだけど。姿形は人間と変わらんのよなあ。逆に何処が違うかって言ったら足なんだよね。足が木の根が巻いた様な足をしている。それ以外に区別の付けようが無いから長ズボンを履かれるとほぼ人間と変わらない。…後は髪の毛が必ず緑系統の色をしているくらいなんだってさ。そんなの人間でも沢山いるよ?
ハーフリングはただ小さい人間なんだよね。…でも大きいハーフリングは身長170㎝程あるらしい。ハーフリングらしさどこ行ったって感じなんだが、デボラさんの旦那は180㎝程あるらしい。…本当にハーフリングか? 偽って無いだろうな。僕とそんなに変わらんぞ。因みに僕の身長は187㎝になりまして、止まりました。平均よりも少し大きいくらいです。巻き尺をピンと伸ばして測っただけだから誤差があるかもしれないが、とりあえず187㎝が公称値という事で。
貴族陣も今日は普通に早めに来てるし、来てないのはセレナさんだけだ。…マイペースよね、セレナさん。まあ、3000歳強だからね。時間の流れが違うんだろうと思う。僕だと発狂しそう。そんなに長く生きてると。…まあ、人間でも生き急いでる方だと思うからなあ。人間の寿命でも何処かで息継ぎすると思います。とりあえず、今は走れるところまで走り続けますが。そして、時間丁度にセレナさんが来て、豊穣会が始まりました。
「時間だな。今月の豊穣会を開始する。まずは今日はお客が来ている。造命派の方から来てもらった。自己紹介をお願いしたい。」
「解った。私はクリスタル=ガーサイド、見ての通りドワーフだ。造命派のゼミ、合命会のゼミ長をやっている。」
「私はアリソンです。エルフです。合命会の一員です。よろしくお願いします。」
「私がゼミ長のブルース=キャンベルだ。来てもらって早速だが、この報告書に目を通して貰いたい。」
「ああ、黎明派が何を作ったのか、拝見しよう。」
そうして報告書の方を見てもらう。まあネバネバの報告書ですが、ネバネバ同士を混ぜる錬金術が今まであったのかとか色々気になる事が沢山あるからね。クリスタルさんは見終わったようで、アリソンさんに報告書を渡す。アリソンさんはクリスタルさんと違って驚いたらしく。
「そんな⁉ ネバネバ同士をかけ合わせたんですか⁉」
「ああ、私も驚いている。これは教えているが、一応は造命派の技の領域だ。様々な素材でネバネバなんかは作りつくしたかと思っていたが、まさか素材でもないものを混ぜるなんてね。」
「そこに関しては豊穣会では日常でな。農作物や香辛料を専門に扱っているものもいるし、後は治水に力を入れているんだ。その過程では農作物なんかを混ぜることは日常的にあることなんだ。」
「成る程ねえ。それでこんなもんにまで農作物を混ぜたのかい。しかもネバネバ同士を混ぜるのは造命派でもやったところは少ないと思うな。快命草のネバネバを作ったところまでは解る。造命派の誰もが一度やっているはずだからね。それを他のネバネバと混ぜるのは…才能が反応しないはずなんだがね。」
「ああ、そこは確かに反応しなかった。失敗の未来しか見えなかった。…しかし、現に出来たもんはここにある。」
「報告書には嘘偽りは無いって事かい。…しかしまあ、よくもこんなものを見せてくれたね。これだけでも一財産になりそうな研究だよ。」
「言いたいことは解る。俺も今回でネバネバを見直したところがあったからな。テオと協力して色々と混ぜて見たが大体は酒になることが解った。酒にならないものも幾つかあったが、液体を吐き出すものなら取り合えずは酒になる。…味はまちまちだが、いけるのも結構あった。」
「であるな。その中でも格別に美味かったものはドードー芋であるな。あのえぐみの強い芋が中々の味の酒になるのである。」
「今回呼ばせて貰ったのはこれを公開しても良いものかを確認したかった。造命派の技に近いものだ。これを公開するのに枷があるのかどうかだな。黎明派の一員としては公開してしまいたいと思っている。酒好きには堪らないネバネバみたいだしな。」
「これを公開するのかい…。確かに技に違いないが、枷は無かったよ。これ以上になってくると複数のゼミで公開するかどうかの議決になるが、ネバネバとスライムは例外にされていたよ。…こんなものができるなんて思っても見てなかった結果だろうがね。」
「我々も同じであるな。まさかネバネバが酒を作り出すとは思ってもみなかったのである。」
「そこの所は黎明派の新しい風のおかげかね。そこにいる1年が作った物だからね。」
「…成る程、1年が。これなら1年にも材料が買えるものだね。手が届く範囲が広くなってきたから、足元の物に目がいっていなかったって訳かい。」
「まあ、ヘルマン君は特別なのよー。月に惹かれてしまっているのよー。」
「⁉ なるほど、月にね。それは面白い人材を見つけたもんだ。」
「月に惹かれるとはなんですか?」
「帰ったらブランドンに聞いてみな。鱗竜人の昔話にあったはずだよ。」
「その通りであるな。月に惹かれるとは簡単に言えば太陽神以外の神から星を振られた者の事である。大罪とは違い、善神に才能を振られているのであるな。」
「…詳しくは帰ってから聞いてみます。面白そうな話ですし。」
「そこの1年は本当に特別面白いのに惹かれているようでね、最近の幻玄派の発見にも絡んでるようだよ。」
「おーおーあれかい。あれにも絡んでいるなら間違いなく何か変なのに惹かれているんだね。」
変なのとは失敬な。…もっと特異個体なんです。なんせ前世の知識が頭の中に初めから入っていましたからね。この前世は一体何をした人なのかも解らないんですよね。サラリーマンという職業だったらしいですが。
「しかし、酒ってのが良い発見だ。こいつを広めるのは大賛成だよ。これで楽しみが増えるってもんさね。」
「おっ、流石ドワーフだ。酒に食いついたな。こいつはいいぞ。毎日違う酒が飲めるからな。」
「エールにワインにと飽きてきたところさね。ドードー芋の奴が美味いって話だし、私も早速作ってみるかねえ。」
「おいブルース、酒好きに悪い奴はいねえ。あれも教えちまって良いだろう?」
「…まあ、良いだろう。余り広げるなよ。程々にしておかないとヘルマン君の首がかかってるんだからな。」
「そこまで言うのには何かあるのかい?」
「火酒は知っているだろう?」
「ああ、北の辺境伯んとこの秘匿技術のだろう? 飲んだことがあるから知ってるよ。強い酒でねえ。それはそれは良かった。」
「飲んだことがあるのか⁉ それは良いことを聞いたぜ。どれが辺境伯んとこの火酒か教えて貰おうじゃねえか。」
「なんだい、火酒が他にも沢山ある様に聞こえるが…」
「あるんだよ、沢山の火酒が。なあ?」
「うむ、酒ごとに火酒は存在するのである。豊穣会では辺境伯の所の火酒の製法とは違うかもしれぬが、製法はあるのである。」
「ああ、蒸留器って奴を公開したんだ。ブルース、もう総務には出したんだろう?」
「ああ。まだ報奨金は出ていないが、1か月前に公開したばかりだな。」
「そいつで酒を蒸留するんだ。本来は精油っつう匂いの素を取り出す奴なんだがな。そいつにかかれば酒の素も取り出せるっていうしろもんだ。」
「その通りである。酒には酒の素が含まれているのである。それを濃縮抽出したものが火酒であると結論付けたのである。」
「なんだいなんだい、いい話じゃないか。見えてきたよ。今回この酒を作る造魔が出される。それをその蒸留器に掛ければ火酒ができる。1つの酒ごとに1つの火酒ありという訳だね?」
「いや、まだだ。火酒はさらに蒸留できる。風味は飛ぶがその分もっと強い酒になる。1つの酒に2つ3つの酒が隠されているわけだ。」
「その通りである。我らの派閥は農作物や香辛料に特化した派閥である。なればこそ、酒の種類は無限大と言っていいのである。その先の火酒は言うに及ばず。」
「成る程、成る程。それはいい未来だねえ。…しかし、それは造命派の私にゃ相伴にあずかれんのじゃないのかい?」
「そいつは…」
「ところが、そうでもないんですよ。」
「ヘルマン⁉」
「…どういうことだい?」
「まだ僕たちは牛の乳を試していないんですよ。」
「牛の乳は牛がいないと駄目だからねえ。」
「ええそうです。ところでその造魔、牛の乳でも出来そうじゃ無いですか?」
「…できるかできないかと言われれば出来るだろうね。」
「ところで、造命派は牛の様に乳が出せる動物をどれ程作れますか? 味は? 風味は?」
「…成る程、畜産に力を入れろってのかい。」
「ええ、肥えた畑から取れる野菜は美味しいんですよ。では、良い牛からは良い乳が取れると思いませんか?」
「…はっは! 成る程! 確かに可能性は無限大だ。別に乳を出すのは牛じゃなきゃいけない訳でもないってこったね。」
「そう言う訳です。ヤギでも羊でも、造魔でもいいんです。乳さえ出れば。取れるものが有ればそれこそなんだって。」
「―――ヘルマン君、この報告書はなんだ?」
「新しい調味料を出すネバネバです。とりあえず、マヒジュの種とマヒジュの種のチーズ、その2つと麦と快命草のネバネバ、4種類のネバネバを混ぜた時にできるネバネバです。名前も付けました。酢、醤油、味噌を作り出すネバネバです。」
「チーズ⁉ 東の辺境伯んとこの秘匿技術じゃないかい。…ここのゼミは秘匿技術をなんだと思ってるんだい?」
「それは心外よー。秘匿技術を惜しげもなく暴くのはヘルマン君だけよー。」
「…それは毎度申し訳なく思っているところです、はい。」
「毎度毎度持ってくるものに秘匿技術が隠れているものね。」
「今の所、爪紅にチーズ、火酒…3つか? もっとあったような気がしたんだがな。」
「ヘルマン君が理由なのが最近多いのは確かよー。砂糖もそうだもの。」
「あ、あー。言えねえが髪の毛のあれも肌のあれもそうだったな。…精油はもう話しちまったからいいだろ?」
「なんだいなんだい、最低でも3つの秘匿技術が漏れてんのかい。それはそれで異常だよ。それに砂糖は輸入品だろう? あれも作ったのかい?」
「それに髪の毛の艶については平民の私でも解ります。サラサラなのに艶めいてますから。」
「その辺もかい。ってえとこのローゼルの香りもそうかい?」
「その香りは精油だな。蒸留器を正しく使えば匂いの素が作れるんだ。ローゼルの香りはそれだな。」
「こりゃあ造命派も負けてはいられないね。このネバネバの件だけでも形にはして見せるさ。まずはどんな造魔がいいか構想を練らないとね。」
「楽しくなりそうですね。」
「そうだねえ。合命会もここ50年位は停滞していたからね。これで巻き返すわよ。」
「私たちも25年程停滞してたのよー。面白い風が吹いてきたところなのよー。」
「確かにこれは大嵐だねえ。月に惹かれるものは色々荒らすからねえ。」
「そうなのよー。でもそれも楽しいのよねえー。」
「っはっは! 違いない。間違いなくこの3年は荒れるよ。この1年が荒らしまわるんだろうね。」
「幻玄派も黎明派も、この度造命派まで巻き込んだからな。次はどの派閥を巻き込むんだろうな。」
「…僕だって巻き込みたくて巻き込んだわけでは無いんですよ?」
「そこは月に惹かれたもの、諦めるのである。」
「だねえ。月に惹かれるものは色々と生き急ぐものなんだ。この勢いだと永明派以外は巻き込みそうだねえ。」
「? 永明派は巻き込まないんですか?」
「あそこは嵐の中心地だからねえ。荒らす前に荒れてんのさ。」
「そうよー。後は不老不死の薬だけだものー。あそこを荒らせたらヘルマン君は本物よ。」
「…本物も何も荒らすつもりは全くないんですが。」
「そこは月に惹かれたものとして諦めな。」
「ちゃんと切り取ってあげるから、安心して暴れまわっていいわよー。」
あんまり安心できないんですが、そう言う星の元、月に惹かれたものとして諦めないといけないのでしょうか。…前世の記憶は月で済むのか分からないが、多分今後も引っ掻き回すんでしょうね。次は鉄迎派か幽明派か。…どっちなんでしょうかね? でもまあ、酒を作るネバネバは公開しても良さそうですし、これはこれで良かったんでしょう。ついでに新しい調味料のネバネバも出してしまいましたが、あれも使える調味料ですからね。後は料理の才能持ちに任せるさ。しかし、酒飲みの会話はまだ終わらないようで。…今回はこれ目的の豊穣会だからいいんですがね。日が暮れるまで楽しくお話ししましょうね。
面白かった面白くなかったどちらでも構いません。
評価の方を入れていただけると幸いです。
出来れば感想なんかで指摘もいただけると、
素人読み専の私も文章に反映できると思います。
…多分。




