7話 2歳 もしかして、冒険者の質って低すぎ
夏も真っ盛りな今日この頃ですが、ご機嫌麗しゅうございましょうか。僕、ヘルマンは大変涼しい思いをしながら採取の日々でございます。いやー、林の中は太陽の光が殆ど差し込まないから涼しくてね。快適に採取をしておりますとも。家に帰った方が暑いんだもの、採取が捗る捗る。
それに最近は日が長くなってきたこともあって、春先よりも沢山の量を確保できている。…そろそろ錬金術師の行商人が誰かしら来ないかなー。素材を沢山持っている状態って、在庫を抱えているかのようで落ち着かないんだよね。前回からの試算だと、中金貨4枚って所だと思うんだよね。なかなかに採取しているだろう?
それと最近母さんからの指令の元、素材にはなるが効果の薄いキノコ類の採取もしている。林で採取をしてくるならば、食べられるものも採ってきて頂戴とのご下命を受け取ってしまったので、売りに出さないキノコも採取している。まあそっちは保存瓶に入れる手間がないので、適当に『エクステンドスペース』に放り込むだけだから楽でいいが。おかげで最近の我が家の食卓にはキノコ類が増えた。食生活が華やかになるのは大変良いことである。毒キノコが生えない霊地で本当に良かったと思っている。間違えたら大変なことになるもんね。
後は、そうだな、普通の行商人なら何人か来ていたって所かな。一応、錬金術師の行商人以外にも素材を売ってみようと思ったんだ。一緒位の値段で買ってくれるならそれでも良かったからね。…でも、試みは失敗。ある行商人には買い叩かれそうになったし、他の行商人には、そもそも価値が判らないからって断られた。やっぱり錬金術師の行商人じゃないとダメみたい。覚えればいい商売のタネだろうに、もったいない。
早く錬金術師の行商人が来ないだろうか。ジュディさん曰く、季節に1人は来るらしいので、そろそろだと思うんだけどなあ。…というか錬金術師で行商人ってのもどうなんだって思うんだが、なんと結構な人気の職業なんだそうだ。ルート取りをどうするかが一番のポイントだそうだが、幾つかの霊地と錬金術師のお店や王都にある錬金学術院を回っていけば、余程下手な事をしない限り平和に黒字を稼げるのだそうだ。
それに、町の代官や領都のお抱えの行商人になれば食いっぱぐれることもなく、安定的に稼げるのだからそういう契約を交わしている商人も多いのだとか。もっとも、それは錬金術師の行商人に限ったことではないが。物流が滞ったり、金の回りが無くなってしまうと、領として衰退の道しか残されていないからね。行商人にはある一定の需要があるのだ。
ただまあ、一番の行商人の取扱品は塩なんだが。この王国は海に面しているらしく、そこで取れた塩を領内にいき渡らせるのが領持ちの貴族の務めみたいなものなので、貴族は行商人を多く抱え込んでいる。金を貯めこんで悪逆の限りを尽くすといった貴族は居ない。居れば領が酷いことになるし、王だって黙っているはずもなし。即刻貴族の入れ替えが起こるわけだ。そんな訳でこの国は比較的内政は落ち着いていると言ってもいいらしい。…ジュディさんの完全な受け売りだがね。
錬金術師にも色々あると再確認した僕だったが、僕はどんな錬金術師になるのだろうか。錬金術師になりたいのは本当だ。今も教会にお祈りは欠かしていないし、お金稼ぎだって欠かしていない。ただ、錬金術師の行商人になりたいかと言われれば、否と答えるだろう。もっとこう、魔法チックな錬金術を堪能したいといいますか。錬金アイテムを作っていく生活がしたい訳で。将来はどちらかというとお店を構えて、錬金術をしたいと思っている。学術院に残り続け、研究三昧ってのも悪くはないんだが、どちらかといえば、なんか違うような気がする。曖昧なんだけど、これじゃない感がするんだよね。まあ、まだ派閥も何も知らない身ですから、どう転ぶかは判らないけれど。
将来の話といえば、家の次男のエドヴィン兄が冒険者になるんだと、棒を振り回し始めたという。なんでもどうせ追い出されることが決まっているどこかの次男君が、吟遊詩人のサーガを聞いて冒険者になるんだと言い始めたのが切っ掛けらしい。その影響でというか仲間内で冒険者パーティを結成してサーガに謡われるような冒険をするのだと息まいているのだ。
僕の中の冒険者は教会前広場に集まっている、小汚い連中の集まりとしか認識がない。しかし、兄弟なのだからそんな風になって欲しいとは思わない訳で。そんな訳でエドヴィン兄には教会でお祈りと文字の読み書きと計算の勉強をするように母さんから伝えさせるようにした。そうすれば才能だって貰えるかもしれないし、僕のための実験にもなる。
読み書き計算だって出来ないと流石に冒険者にはなれないだろう。依頼票も読めない奴らが冒険者になれるのか? …多分いっぱいいるんだろうな。文字の読み書きも出来ない冒険者。でも、真実なんて知らないエドヴィン兄には関係ない。冒険者になるのならばと母から極意ということにして伝えられれば真に受けてしまうのが子供という訳だ。今は仲間たちと一緒に教会で頑張ってお勉強中という訳だ。
ついでにということで、全兄姉が教会に行かされて勉強中である。今の教会は幼稚園さながら忙しい毎日を送っているだろう。…父さんも母さんも文字の読み書きは出来ないと言っていたが、農民には別に必要のない技能だものね。できれば便利なんだろうけど、別に出来なくても農家は出来る。例外的に、村長宅の子供たちは読み書きができないと仕事ができないのと同じなので、文字の読み書きは必須技能ではあるらしい。…この事態にこれ幸いと子供を勉強会に送り込んだところを見ると、なかなかにしたたかである。1人での勉強は捗るけど寂しいもんね。子供では続かないだろうから。
教会も文字を教えることは、実は業務の一環でもあるのだとか。僕も文字の読み書きはジュディさんではなく教会に行けって言われたしね。何でも、文字を教える過程で神の何たるかを説くことによって聖職者を増やしていくのが教会らしい。一定数は必要なんだよね、聖職者って。でないと星振りの儀も行えなくなってしまう。村のあぶれ者の行先は冒険者だけではなく、教会にも行先はあったわけだ。
…もしかしてあぶれ者の中で、文字の読み書きが出来る奴は教会に入って、それ以外の奴が冒険者になってたりはしていないよな。そうなると必然的に冒険者の質が下がることになるんだが、案外冒険者の質が低いのもその所為なのかもしれない。もちろんそうで無い冒険者も沢山…少しはいるだろう。
さて、色んな事を考えている間に採取の終わりの時間がやってきた。今日も沢山採りましたとも。主に魔力茸だけど、一番数が揃うのが魔力茸なんだもんな。値段も小銀貨2枚と入りもいい。文句なしの商品ですとも。おっ、馬型のゴーレムがいる幌馬車がある。ってことは錬金術師の行商人が来ているのか。漸くと来てくれたか。在庫が貯まって嬉しいんだかって状態だったからな。金にできるときにしておきたい。
さて先に教会のお祈りを済ませてから行商人の元へ、久々の大商いだぞ。
「すみません、素材を売りたいんですけど、明日の朝の方がいいですか?」
「いらっしゃい。明日の朝にはここを出ていくから売るなら今日中にしておくれ。乗合馬車も兼ねているから停まっている時間が少ないんだ。」
「わかりました。…えっと、時間がかかりそうなので、夜でもいいですか? 先に家族とご飯を食べたいので。」
「いいよ。常識外れの時間じゃなければ起きているから。」
「ありがとうございます。ではまた。」
今日中にという指定だったので、先に母さんの許可をもぎ取っておかなければ。それに晩御飯になるキノコも届けないといけないからね。そんな訳で今日の収穫物を渡し、許可を貰い、いつもの自分の仕事をこなし、夕飯を食べる。本当にここのキノコはおいしいなあ。さてとご飯を食べたら行ってきますと両親に声をかけ、錬金術師の行商人の元へ。
「こんばんは。」
「はいこんばんは。ささ、幌馬車に入って入って。」
そう言われ、幌馬車に入ると、また嘘を吐くと色が変わるアイテムを首に掛けられて、いざ収穫物を売っていくぞ。まずは一番多い魔力茸から順番に出していく。5行×2列の10個づつ。ふっふっふ、手を使わずとも取り出せるようになっているのだよ。少しずつだけど成長しているんだからね。1瓶に10個ずつ入っていると説明しながら、採取物をどんどん出していく。あっちもさっさと仕舞って次も仕舞ってとさくさくだ。出しては消え出しては消えを繰り返し、全部の品を簡単に検品しながら1時間弱で終わった。前の時は手で出し入れだったからものすごい時間がかかったからね。
「ふう、これでおわりです。」
「そうかそうか。なら金額は中金貨4枚と小金貨9枚って所だろうね。それにしてもよくちゃんと勉強している。ちゃんと保存瓶にも入っているし、数も一定にしてくれてる。文句なしの値段設定だと思うよ。大銀貨以下は切り上げておいたからね。」
「保存瓶に入れないバカもいるんですか?」
そう聞くと、錬金術師の行商人は目が点になった後に大笑いをし、おなかが痛いと抱え込んでいる。…そこまで変なことを言った覚えは無いんだけど。
「ひーおなか痛い。ああ、確かに素材を保存瓶に入れない奴はバカだ。だが殆どの冒険者がそのバカなんだ。物の区別もついていなく、保存瓶にも入れていない。ましてや種類別に分けてもいない。そんな冒険者からの買取査定はうんざりなんだ。だからこれだけの素材をちゃんと保存瓶に入れてある、特に雲母茸はちゃんと水に浸けてあるしね。そんな買取ができた、運がいいね俺は。この幌馬車は王都まで行く予定だから、この素材もきっと高く買ってくれるね。いやー良い素材といい笑わせてもらったしでいいことずくめだ。…ここでの買い取りのことは他の冒険者に言わない方がいいよ。彼らのプライドを変にえぐるだけだから。君が来るまでの他の連中の素材はまあ酷かったからね。」
「わかりました。僕も恨まれたくないので言いません。」
「よろしい。ではまた元気で。次ここを通るときも君がいてくれると俺も嬉しいが、依頼によって色々なところに行くからね。次は何年後だろうか。」
そう言われつつ、錬金術師の行商人の幌馬車から出た。…もしかして、幌馬車に入るのは他の人たちに幾ら稼いだのか見せない聞かせない為なのかな。前の時も幌馬車に入ったんだよなあ。なんでなんだと思っていたら、査定金額を知らせないためなのかもしれない。
でも、普通の行商人は幌馬車なんて持っていないんだよな。基本『エクステンドスペース』があるから徒歩移動だし、盗賊なんかもいないし。怖いのは魔物だけ、でも基本は魔物になんて遭遇しない、森や林からほんの偶に出てくるくらいだ。魔境付近ならあり得るけれど。もしかして、金の有無が関係してんのかな。幌馬車なんて維持費がかかるしな。それ故素材の取引にも応じられないと。ふむ、その線が濃厚かな。
それよりもだ。冒険者が保存瓶すら使っていないことに驚きを隠せないでいる。『エクステンドスペース』に保存瓶なんて沢山入るし、入れるのだって手間とまでは言わないだろう。それに何より、素材の区別がついていないというのが意味が解らなかった。
そりゃあジュディさんからの冒険者の評判が悪いはずだ。素材のことを碌に理解もしていないぼんくらばかりだという事じゃないか。いったい彼らは何をしにこの霊地に来ているのだろうか。まともに素材を扱わずに、そもそも区別すらつかずに、一体何のための霊地採取なのか分かりゃしない。そりゃあ小汚いはずだ。まともな冒険者ならばもう少しまともな物を着れるはずだもの。それならいっその事魔境にでも行って戦闘をこなして素材や魔鉄を採った方が有用な冒険者だろうさ。
これはエドヴィン兄が冒険者になるんだったら言っておいてあげよう。できる冒険者ややり手の冒険者はみんなそうしているとでも言っておけば信じるだろう。まあ恐らく事実だろうし。多少羽振りが良かったり、身なりを気にすることができる冒険者は稼いでいる証拠だ。簡単に稼ぐには魔境に入るか霊地に入るかだからな。魔境も霊地も無い所の冒険者の仕事は恐らくお使いのようなものしかないだろう。それか遠い地まで採取に行くかだよな。
エドヴィン兄たちは流石に初めはこの近くの町で冒険者をするだろうしな。霊地のまともな素材を卸す冒険者として有名になればいいさ。まあ、それもまだ何年か先のことだろうが。精々まともな冒険者になってくれよ。
そんなことを思いつつ、すっかりと暗くなってしまった道を多少利く夜目を頼りに帰るのだった。なお、『エクステンドスペース』を空中に出す訓練の成果はまだのもよう。
面白かった面白くなかったどちらでも構いません。
評価の方を入れていただけると幸いです。
出来れば感想なんかで指摘もいただけると、
素人読み専の私も文章に反映できると思います。
…多分。