68話 13歳 6月13日 ゼミの日、ヘルマンが臭い、3つ目の秘匿技術漏洩、酒好きの悩み
誤字を報告してくれている方。本当に感謝しております。
PVが増えてくれてるのはうれしいことだけど、その分沢山見つかる誤字。
見直してるはずなんだけどなあ。
5番棟0304号室からおはようございます。6月の13日、ゼミの日ですよ。どうも、ヘルマンです。あれから高濃度アルコールについて考えたんですが、考えが纏まりませんでした。出来たら香水とか作れたのに残念です。でも、髪洗液に混ぜると多分ですが香り付きになると思います。…精油を作るのに4時間も掛かるわけですが。手間よりも香りを取るような気がします。…蒸留器も一応持ってきた。説明には必須だと思ったので。もう1個作れと言われてもいらないからなあ。精油を商売していくなら沢山必要なんですが、販売する予定は無いからな。
待っている間、獣人組から視線を感じる。…匂いが強すぎるんだろうか。快命草の濃縮された匂いが染み付いてしまっているのだろう。…ちょっとの間、我慢をお願いします。人間にはそこまで強い匂いじゃ無いんだけどな。近づけたら凄い強い匂いがするけど、離れていればそうでも無いと思うんですよね。…僕の鼻が快命草の匂いに慣れ過ぎてしまっているのかもしれないが。
そんな訳でセレナさんが最後にやってきて時間になりました。今月の豊穣会がスタートです。
「さて、今月の豊穣会を始める。俺の方からは特にはないが、ルールーテルヒの件に探りを入れてみたが、まともな貴族家があてがわれていたから問題はないだろう。順調に行くと思う。…材料が漏れるのは少し後になりそうだがな。」
「順調なら問題ないのよー。もう私たちの手から離れたんですものー。」
「そうですね。…では他に何かある者はいるか。」
「はい!」
「ケリーか、なんだ?」
「ヘルマン君の快命草の匂いが異常に強いです。何かあったんじゃないかと思います。」
「…快命草の匂いは誰でもするんじゃないのか? 少なくともお前らも初級ポーションと上級ポーションの納品義務があるだろう?」
「そんな優しい匂いじゃないんです! 快命草を鼻にねじ込まれて擦り込まれた様な匂いがします!」
「…そこまで強い匂いなの? 人間の私には普通の快命草の匂いに感じるわ。ローラとマーサはどうなの? 同じ獣人族でしょう?」
「確かに強い匂いはしますよ。何かあったとは思います。ここまで強い匂いは永明派でもしませんよ。」
「ですねえ。嫌な臭いでは無いですけど。快命草の匂いは良い匂いですから。でもここまで強い匂いはしないものです。」
「そう、良い匂いなのは人間も同じね。…んで? 匂いの元のヘルマン君は何か言いたいことがあって?」
「ええ、まあ。快命草から油を蒸し取ったんです。これが実物です。」
精油のポーション瓶を机の上に出す。それをメラニーさんが掻っ攫っていき、ポーション瓶の蓋を開ける。濃縮された快命草の匂いがこの距離でもする。…人間にはそうでも無いと思うんだけど、獣人族には違ったようで。
「⁉ もっと濃い匂いです! ヘルマン君の何倍も匂いがきついです!」
「鼻水が出そうです。良い匂いではあるんですが、濃厚過ぎます。」
「鼻をつまんでも匂いがします。」
…僕が臭いみたいに言わないで欲しいんですが。まあ、嗅覚が人間の何倍も強い獣人族にはきつすぎるのか。人間でも直に嗅げばきつい匂いだからなあ。
「んー、そこまでいう程? 確かに匂いが強いけど…。獣人族との差なのかしら。」
「私は好きな匂いよー。お部屋にもこれくらい匂いがあってもいいくらいかもー?」
「ドライアドには丁度よいのでしょうか? 獣人族にはきついと思います。ここまで匂いがきついと他の人の匂いが解りません。」
「…なあヘルマンよ。また女性用の錬金アイテムか?」
「いえ、あれは錬金術は使ってないです。…器具を作るのには使いましたが、あれは快命草の匂いの素を濃縮させたものです。油として取り出しました。」
「道具を作ったのであるか? どのような道具であるか?」
「ここの机の上に出してもいいですか? ―――これがその道具です。」
「…また変なもん作りやがったな。何がどう作用するのか解らん。1から説明してくれ。」
「そうですね。ここに水を入れてここに匂いを取り出したいものを入れるんです。今回でいえば快命草の花ですね。それを詰め込みまして、ここからスライム燃料で加熱するんです。んで蒸気と一緒に匂いの油が蒸気になって上に行きます。そうするとここのタンクに水を入れておくとこの細い管に沿って蒸気が入って行って冷やされます。そうすると水と油がこっちに流れてくるわけです。そしてここで水と油を受け取るわけです。水と油は混ざりませんから、油の方が浮きますね。なのでこれで下の水を抜いて行くんです。」
「成る程な。…大きさはどうにかならなかったのか? かなり大きいが。」
「大きさは何とかなると思うんですよね。ここの水を入れるところもスライム燃料で加熱するには多すぎるので小さくできると思います。後はこっちの水のタンクですね。こっちも細い管をもう少し太くして螺旋の大きさを小さくすれば横幅が小さくなると思います。匂いを取り出したいものの空間も小さくは出来ますが、すると今度は効率が悪くなりそうなんですよね。」
「大きさと効率は今後の課題か。…しかし、匂いを取り出したいものは何でもいいのか?」
「それは解りません。全く油がないものはそもそも取れないと思いますが、匂いのきついものは何かしら油が含まれていると思います。…魔石は試しましたが駄目でした。匂いのないものは無理だと思いますが、大量に消費しても痛くないものが快命草しか無かったので。」
「ポーション瓶1本分でどのくらいの快命草の花が必要なの?」
「大体2000本位です。花だけなので、茎はポーションに使えましたし、花も染料になりました。錬金術と違って花は残るので染料としては使えます。色爪液にもなりましたし。」
「成る程ね。…それで、この匂いの油、名前はなんていうの?」
「とりあえず、精製した油、精油と名付けました。」
「それでそれで、なんでこれを作ったの?」
「作れそうだったから作っただけで、特に何かに使おうとは考えて無かったんですよ。…髪洗液に混ぜれば髪を洗えば匂いが髪に付くと思うんですが。」
「髪から快命草の香りがするようになるのね? それはどうなのかしら?」
「獣人には向かないです。体中から快命草の匂いがするようになるです。」
「他の花から作った方がいいかもしれませんよ? 僕はとりあえず快命草が手軽だったので快命草で作りましたが。」
「他の花ね。…良い匂いと言えばローゼルかしら?」
「髪の毛からローゼルの香りがするのですか。…良いかもしれませんね。」
「…無臭の方が良さそうですね。獣人族としては色んな人から色んな香りがするようになるのはあまりうれしくありません。」
「…ただでさえ区別の付かない人間が余計に区別が難しくなりそうです。」
「獣人は大変そうねー。私は森の香りがするようにしたいわー。そうすると色々混ぜた方がいいのかしら?」
「取り出してから混ぜてはどうですか? 流石に混ぜるのは後の方がいいと思いますけど。」
「なあ、これはまた女性陣が長いこと掛かりそうな奴じゃないか?」
「…であるな。それよりも装置の方が気になるのである。これで取り出せるのは匂いの素、精油だけなのであるか?」
「一応、酒の素も取り出せると思います。強い酒になるとは思いますが。」
「酒か! 酒は良いな。しかも強いってのが良い。ヘルマン、酒は何処に入れるんだ?」
「強い酒を作るんならこの匂いの素を入れる部分はいりませんね。ここになみなみと入れて貰えれば、こっちに強い酒ができると思います。…強い酒って無いんですか? 匂いや味の付いていない強い酒が欲しかったんですが…。」
「酒は麦から作るエールと果物から作るワインがある。…強い酒といえば北の辺境伯んとこにある火酒っていう火がつく酒があるとは聞いたことがあるが…あれも秘匿技術だったはずだ。」
「火酒をどう作ってるかは知りませんが、これを使えば火がつく酒は作れると思いますよ?」
「また秘匿技術が漏れるのか…。お前が持ってくるのはややこしいことになってばかりだな。」
「…すみません。」
「別に謝ることでは無いけどな。ここだけの話にしておけばいい。」
「そうだそうだ。火酒なんて王都では手に入らんのだ。少しくらい造ったってバレやしねえよ。」
「ケビンさんってお酒が好きなんですか?」
「おうよ。というかドワーフが皆酒好きだな。嫌いな奴もいるんだろうが、大抵酒飲みだ。俺は嫌いだってやつは知らねえ。」
「鱗竜人も酒好きが多いであるな。まあ、酒くらいしか楽しみが無いと言った方がいいのである。芝居や吟遊詩人にしても見飽きた聞き飽きたものが多いのである。この辺りは長寿種たちの悩みでもあるのである。」
「まあ、この器具はとりあえず秘匿だな。辺境伯とやり合う訳にもいかんだろ。」
「だろうな。…個人で楽しむくらいにはいいだろ?」
「いいんじゃないか。漏らさなければ。」
「さて、我はもう少し大きく作ってみるのである。酒の量が多い方が良いであろう。」
「ふむ、俺も作るか。大きさはどうしようか。」
「大きさよりも数を作った方が良いかもしれませんね。酒ごとに味が変わると思いますよ。」
「何⁉ …数か。俺も外に家を構えるか?」
「酒のために家を構えるのか…。酒蔵でも作るのか?」
「酒蔵か…しかし、放置するわけにもいかんからな。しかし人を雇うと秘密が…、むむむ…。」
「酒でそこまで悩むのかねえ。」
「人の楽しみはそれぞれだからな。」
男衆が酒の話、女衆が精油の話をしているが、僕はどっちにも混ざれない。お酒は飲まないと固く誓ったし、精油もなあ。香水を作れるほどのアルコールは無いという事が解ってしまったし、医療用アルコールなんてものはポーションのせいで無いからな。文明が違うと文化も違う。生産物も違う訳で。あって欲しいものが都合よくなかったりするんだよな。とりあえず、酒の文化は進んでいないことが解っただけで良しとしましょう。特段話題も無いのか誰もこの話を止めないし、今日はそんなに報告の無い日だったのかな。まあ、こんな日もあるよね。
面白かった面白くなかったどちらでも構いません。
評価の方を入れていただけると幸いです。
出来れば感想なんかで指摘もいただけると、
素人読み専の私も文章に反映できると思います。
…多分。