66話 13歳 5月10日 ゼミの日、金余りの豊穣会、錬金術でパンが焼けました、寮のあれこれ
5番棟0304号室からおはようございます。5月10日、今日はゼミの日ですよ。どうも、ヘルマンです。あの後も色々考えたんだけど、アイディアも何も出てこなかった。まあ、こういうときもある。とりあえず今回はパンの報告をしないといけないからな。このびっくりふわふわパン、錬金術の産物なのか、普通に焼いてもできるのかは知らないが、とりあえずスライム燃料から作った粉で膨らんだんだから焼いてもいけるんじゃないかな。知らんけど。さて、いつも通りセレナさんが最後にやってきて豊穣会がスタートしました。
「さて、時間だな。豊穣会を始める。まず私から前回の案件を総務部に大至急という名目で出した。すでに王家からの報告も来ている。法衣貴族家の1つに村5つを与えてルールーテルヒを作らせるそうだ。砂糖の品質と量、需要次第で他領にも広げるとの事だった。まあ、他領で栽培できるのは、早くても5年後だろう。先に王家が一儲けしてからだな。それから開発者には大魔金貨100枚を贈呈するとのことで貰ってきてある。セレナ女史が50枚、豊穣会に50枚でよろしいでしょうか?」
「ええ、いいわよー。でもそろそろ何に使っていいか困って来たのよねー。何か使い道はないかしら?」
「…まだまだ寿命というには種族的に早いので、大人しく貰っていただけると。」
「わかってるわよー。」
…ドライアドって短くても5000年って言われているからな。セレナさんは3000歳と少し。まだまだ生きるよな。少なくとも僕が死ぬまでに死ぬことはないだろう。僕が不老不死にでもならない限り無理だ。
「豊穣会にも予算が溜まっているので、各々使いたいときは遠慮なく申請してくれ。」
「っつってもなあ。中々金の掛かる事をしないゼミだからなあ。皆安上がりで。」
「そうだな。大抵食物の種を手に入れるくらいだからな。治水の方が費用が掛かるか?」
「治水は実験場所さえあれば後は魔石や魔力茸で事足りるのである。費用の問題よりも実験場所の確保の方が重要なのである。確保には金よりもコネの方が大きい故に、金は余り必要でないのである。」
「現状、毎年入るゼミ交付金内で済んでしまっていて溜まっていく一方だ。…無理にとは言わないので何かあれば連絡するように。」
「「「「「「はーい(おう)。」」」」」」
「次の報告者はいるか?」
「誰もいないなら私から。北方の方から――――――」
種が欲しいから取り寄せて欲しいとか。治水の場所がどうのこうのとか話がどんどんと進んでいく。…食物の名前を聞いてもピンと来ないし、治水は難しすぎて解らないことが多い。前世の知識ではダムがどうのこうのというくらいしか知識がないのでどうしようもない。水車とかも考えたが、錬金術のある世界。動力だけならアンデッドでも良いし、水を上に揚げるならそういうゴーレムを作れば何とでもなってしまいそうだし、中々前世の知識も活用する機会がない。何かないかなとは考えているんだけどなあ。
「では、次に報告のある物はいるか?」
すでに3時間位話をして遂に話題が無くなったかな。漸く僕の番かな?
「じゃあ僕からいいですか?」
「ヘルマン君か、どうぞ。」
「錬金術でパンが焼けましたのでその報告を。」
「「「「パン?」」」」
「ちょっと待て、パンってあの食べるパンか?」
「はいそうです。そのパンです。」
「…実物はあるか? 少し食べてみたいんだが。」
「私も、錬金術で食べ物自体を作ることが余りないから。」
「いえ、皆さん錬金術で作った物を食べてますよ? 僕がもってきたお茶請け用の食べ物の半分は錬金術で作ってますから。」
「…そう言えばマヒジュの種のチーズも作っていたな。パンもできるとは思わなかったが。」
「ちょっと待って、マヒジュの種のチーズって何よ?」
「あーあの時は女組は顔に塗るもんの方に話がいってたからな。チーズはそん時でた食べもんの事だ。あー、辺境伯とこの秘匿技術だったか?」
「そんな事も言ってたな。その後の話のせいでチーズの話が飛んでた。」
「まあ、とりあえず実物を見てみましょうよ。話はそれからでもいいんじゃない?」
「そうねー。お茶を淹れるわねー。」
「これが錬金術で作った普通のパンです。こっちがふわふわのパンです。」
「ふわふわのパンって何よ? パンは堅いものでしょう? 最近少しは柔らかくなったみたいだけど。麦の粉が作用してるんじゃないの?」
「そっちは普通のパンの方ですね。ふわふわのパンはふわふわなんですよ。」
「…うわー。確かにふわふわです。柔らかいです。」
「ふわっふわです。…味は普通みたいですが。」
「そうね。味は変わらないのね。…っで、何を混ぜたのかしら。」
「スライム燃料を錬金したらできる粉です。」
「蒸発粉? あれは錬金武器に使うんじゃなかったか?」
「ああ、錬金武器に使うあれだな。…あれを混ぜたのか。何時混ぜたんだ?」
「パンの生地を練る段階で混ぜました。普通のパン生地で錬金釜に一緒に蒸発粉を入れたときは失敗したので生地に練らないと意味がないみたいです。」
「下準備が必要な錬金アイテムという事か。…パンを錬金アイテムと言っていいのか解らんが。」
「パンは…パンじゃないですかね。」
「まあ、食いもん自体ができるのも不思議だが、出来ない訳じゃ無いからな。」
「まあ、今までの物の事を考えれば大人しいんじゃないかな。」
「ヘルマンは美容方面ばかりだったが、本質は食文化の方だったな。…錬金術師しか作れないものでは無いから何とも言えない発見だが、ともかく錬金術で料理ができるのは解った。」
「僕としては十分な成果だと思うんですよね。堅いよりもふわふわな方が好きですし。」
「ふむ、食文化の発展を願っているのであったな。これはまず第一歩といったところであるな。そのうちまた何か作りそうなのである。」
「そうね、…もう何か作ってそうな気がするけど。他に何もないの? 本当に何もないかしら?」
「…何で念を押したんですか?」
「メラニーとこの間一緒にお茶会に出ていたからね。その時に注目を浴びまくってね。あれはいい気分だったわ。敵対ゼミのあいつの顔が忘れられないんでしょうね。」
「…お前たち、自重はしなかったのか?」
「手加減抜きで行ったわよ? 肌もつやつや、髪の毛も輝く様にサラサラだったし、色爪液も付けて行ったもの。楽しかったわ。向こうが羨む様な目で見ていたもの。お茶菓子の味もしなかったんじゃないかしら?」
「…こりゃあ手紙でユガルヒの種油の生産をなるべく早く急がした方がいいな。一つでも手にはいりゃ少しは荒れるのに待ったが掛かるだろう。」
「だな。ケビン急げよ。女の嫉妬は怖いぞ。…呑まれる前に流行らせてくれ。」
「解っとる! ったく、仕事が増えやがった。」
「それでこれ以上に何かないかと思ってヘルマンに期待していた訳だ。…本当に何もないのか?」
「作ったといえばそれだけですが…あー、シャワーヘッドは作りましたが。」
「シャワーヘッド? 何それ?」
「水浴び用の道具…ですかね。多分、お湯が出れば一番いいんですけど。」
「お湯は寮でも蛇口から出るわよね?」
「それは貴族の方と涼風寮だけですよ。平民寮は水だけしか出てきませんよ。」
「であるな。涼風寮に移った時に驚いたのである。熱いお湯と水を混ぜろと言われたときは加減が難しかったのである。しかし、お湯が使えるというのは事実である。」
「涼風寮だけ違うんですか?」
「ああ、涼風寮は主にこの錬金学術院に残った者が使う寮だ。あそこだけ寮が大きいだろう? 気付かなかったか?」
「いえ、確かに大きいとは思っていましたが、地下にも大きいんですか?」
「ああ、あそこだけは10万人位は住めるんじゃなかったか?」
「そんなに住めましたっけ? 多くとも倍の6万くらいでは?」
「いや、10万位で合っているはずである。その分部屋が狭くなるのである。涼風寮以外の貴族の部屋は平民の倍ほどあるのである。」
「そうね、涼風寮に行ったら随分と狭くなったと思ったもの。錬金術の最低限さえ出来ればいいって部屋よね、あれは。」
「鉄迎派なんかは外に家を持っているものも多いわよ。…というか世帯持ちは外に出されるのよね。ここはマークとアルベルト、デボラとガブリエラだけだっけ? 世帯持ちは。」
「そうねー、相手も見つけないといけないんだけど、中々ねー。」
「…ドライアドはそもそも数が余りいないから選べないのでは?」
「まあ、各々の結婚事情はいい。心に傷を負ったものもいることだしな。」
「…そうね。それよりもヘルマンが作ったってものよ。出して見なさいな。」
「寮に置きっぱなしなのでもう1個作ってもいいですか? 土だけ有れば作れるんで。―――出来ました。」
「これをどう使うの?」
「これをこれを使って蛇口に固定するんです。」
「オークの腸ね。…強化はしてあるのね。ここの蛇口で実験してもいいかしら?」
「いいわよー。」
僕の返事じゃなくてセレナさんの返事でホースが固定される。そんで水を流すとシャワーになって出てくる。当然の動作な訳だが。
「これは、いいわね。髪を洗い流すのに便利そうね。髪洗液と一緒に流行りそうね。…穴の開け方で色々と変わりそうなのが面白いわね。」
「そうね。確かにこれだとお湯で浴びたいわね。水だとまだ今の時期だと寒いわね。」
「…男は別に良さそうだな。水を桶で浴びるのと一緒だ。」
「だな、それに家にはお湯を出る様にしていないからな。有っても余り意味がない。」
「まあ僕も目を覚ますために水浴びしてる感じですから、あれで十分なんですよね。」
結局、受けて欲しかったパンよりもシャワーヘッドの方が受けたわけだが、まあこれはこれで良しとしよう。次は何を作ってみようかな。ガラスで何か作ってみたいんだけど、何か面白いものはないだろうか。そんなヒントを探しながら、シャワーヘッドで騒いでいる女性組を見ながら思案するのであった。
面白かった面白くなかったどちらでも構いません。
評価の方を入れていただけると幸いです。
出来れば感想なんかで指摘もいただけると、
素人読み専の私も文章に反映できると思います。
…多分。




