61話 13歳 4月12日 顔の件、2つ目の秘匿技術、月に惹かれる昔話、秘密にする意味
書いていて楽しかったのは前回と今回だったり。
世界観がもろに出る話ですからね。
始めに設定を考えて書き始めたらこんな感じになりました。
…後は77話とかかな。割と書いてて楽しかったのは。
豊穣会より続きですよ。どうも、ヘルマンです。さて、裁判の被告席に座っている僕は何を作って報告させられようとしているんでしょうか。昨日は散々失敗作を量産しただけの日々だった…訳ではありませんが、報告を迫られるようなものは作っていません。基本的に今まで作った物しか作りませんでした。パンとかドーナツとかね。
最近間食に凝ってるんです。ミートソースをパンに塗った物にチーズをかけてスライム燃料で炙った物や、パンの中にミートソースを入れたものなんかを作って食べております。錬金術と料理が合体して素晴らしいと僕は思っているのでこの喜びを分かち合おうと、ふかふかパンのレシピを公開しようかとは思っていましたが、はて。それらが彼女らの琴線に触れたわけではあるまい。どちらかといえば獣人族の方が鼻で解るでしょう。でも女性に関係ある物なんて作りましたっけ?
…あー、思い出しました。前世の僕に検索掛けたら確かに作ってました。顔に塗るクリーム、あれの効果が今一つ解らなくてとりあえず寝る前に惰性で塗って朝シャンするときに溶けてしまっていたので、記憶にありませんでしたが、水に映った僕を見ても何も無かったですよ? お肌によいと前世の僕が言っていたほどの効果があったのかといえば解らんところなんですよね。…聞いてみましょう。
「顔の件で合ってますか?」
「そう! 顔の件よ!」
「は? 顔だあ? …別にヘルマンの顔が変わったか? おいブルース、何か解るか?」
「…いや、前回見たときと同じ顔をしていると思うが、ローラ、獣人族だと解らんのか? 同じ女性だろう?」
「獣人族と人間を一緒にされたら困るわよ。基本的には顔の区別はつけづらいのよ人間もエルフもドワーフもだけど。基本的に匂いで識別するもの。…この前とは違ってトマトとお肉系統の良い匂いがするとは思うけど、顔は解らないわ。」
「です。美味しそうな匂いはしますが、顔と言われても。」
「同じくです。」
「全然違うわよ! つやが良いもの。」
「そうよねー。照りが違うわ。」
「…テオ、解るか?」
「我に聞かれても困るぞ。」
「とりあえず顔の件なのは理解しました。…そんなに違いますか? 姿見を持ってないので解らないんですよね。」
「違うかどうかで言ったら全然違うわ。」
「何を使ったらそうなるのか白状しなさい。」
「とりあえず使ったのはこれです。寝る前にこのクリームを付けて寝てたらこうなりました。」
「…なんなのこれ?」
「とりあえずある物で作った錬金アイテムです。こちら報告書です。」
「―――…ねえ、豆粉ってなに?」
「これです。名前が解らなかったのでとりあえずで付けました。」
「それはマヒジュの種ね。そんなもので作ったのね。…それを粉にしたの?」
「いえ、錬金術で作ったら汁と粉に分離したので。その粉の方を使いました。これがそっちの方の報告書です。」
「―――…2つの物ができるなんて珍しいわね。なんで2つの物になったのかしら。」
「一応事例はあるわよ? 使い道がないものばかりだったけど。」
「2つできるときは魔力の少ないものを錬金した時が多い。だから使えないものも多くある。」
「マヒジュの種と水と水流草だからな。魔力が少ないというのも解るわね。」
「錬金術にそんな特性もあったんですね。私も知りませんでした。」
「マヒジュの種自体は村で普通に作られているものだよな?」
「昔私が錬金術で作った物よー。年中とれる様になっているわー。余り美味しくないって理由で余り流行らなかったのよねー。炒ると美味しいのよ?」
「素材自体はウーゼ塩湖で採れる物のようね。これも量産可能な錬金アイテムっぽいわね。」
「数が揃うのは良いことよ。それよりも汁の方の使い道は無いの? 汁は捨てるしか無いのかしら。」
「あ、汁は食べ物になります。」
「「「食べ物?」」」
「因みにこれが食べ物です。」
「見たことない食べ物ね。…このまま食べるの?」
「このままでも食べられますが、僕はこうして食べています。」
そう言って普通のパンのスライスしたものの上にミートソースを掛けてそれに豆乳チーズを振り掛けスライム燃料で炙った物を出す。
「ああ、これの匂いよ。美味しそうな匂いは。」
「そうですね。ヘルマン君からしてた匂いです。」
「味見しても良いですか?」
「良いですよ。皆さんの分もありますので。」
「じゃあお茶を淹れるわねー。」
お茶を淹れ始めるセレナさん。食う気満々の獣人の方々に、クリーム…前世の僕が保湿クリームと名付けた物を手に取りながらレシピを見て何がどう作用しているのか考えている女性陣。そして、男性陣はチーズの方に気があるようで少し気にしている。特にブルースさんが気にしているのは珍しいんでないかな。チーズをそのまま食べて味を吟味している。そしてこちらに向かって言ってきた。
「ヘルマン君、これは恐らくチーズだな。材料が違うが、味や風味がそれと大差ない。これはマヒジュのチーズと言って過言ではない。」
「チーズ…てえとあれか。辺境伯んとこで作られているっていう食べもんだろ? 確かぁ東の辺境伯が作って王家にも献上してたよな? これがそうなのか?」
「因みに平民の俺は知らんぞ。一応東の方の出だが…元の材料も知らん。」
「あれも辺境伯家の秘匿技術だったはずだが、材料は解っている。ヤギの乳だ。牛の乳でもできるという話だが、基本的にはヤギの乳でできていたはずだ。かなり昔だが、食べたことはある。保存にも向いていて長期の保存ができる食べ物のようだ。製法は知らんが余り大量にはできんみたいだな。…まあヤギの乳もそんなに取れるほどの酪農をやってないと土台無理な話なんだが、…東の辺境伯は酪農に力を入れていたからな。その産物らしい。」
「また秘匿技術か⁉ これで2つ目だぞ。しかも今度は食べ物か。…食べ物の何種かは錬金術でできるのは知っていたが、食べ物自体を錬金術で作る奴なんていたか? 俺は知らんぞ。」
「芋なんかは食べ物よー。だから食べ物が出来ても不思議じゃ無いわよー。はい、お茶ねー。」
「…そう言えば芋はそのまま食べられたな。しかしなんでまた食べ物なんかを作ったんだ?」
「僕の目標は食事を豊かにすることですから。チーズもその一環で作った感じですね。」
「…ヘルマン君はマヒジュの種がチーズになると解っていて錬金術で作ったわけか?」
「まあ、なんとなくそうなるだろうなとは思っていました。…本当に思ったものが作れるかは作ってみないと解りませんでしたが。」
「そうなるとヘルマン君は本当に料理の月に惹かれている可能性が出てきたな。」
「おいブルース。なんだそれは? 月に惹かれる? 初めて聞いたぞ。」
「月に惹かれるとは、星の他に才能らしき物を有するものである。鱗竜人の昔話にも出てくるのである。…実在したのかは知らんが。」
「おいテオ、その辺を詳しく話してくれ。」
「む、とはいうものの昔話である故に詳しいことは知らぬ。昔の鱗竜人たちは才能以外の所でも活躍するものとしないものがいることを不思議に思ったのである。故に太陽神が振る星以外にも、他の神が才能を振ることがあるのではないかと考察したのである。」
「そうねー。多分ドライアドもそこに居たんだと思うわー。星以外にも才能らしきものを持つ者を月に惹かれたもの、そう表現するようになったのよ。例なんて幾らでもあるわよ。」
「そんな例なんぞそこらへんに転がっているのか?」
「うむ、鉄迎派であるな。かの派閥を見れば解ること。星の無い戦士たちにも得手不得手がある。時には星を1つ貰った者と渡り合うものさえいる。それを思えば星を太陽神以外が振っていてもおかしくないと思うものである。」
「あー、また鉄迎派が出てくんのか。なんかあの派閥は真理を追求する派閥でもあるのか? なんか話の端々に出てくる気がするんだが。」
「伊達に錬金術師の技に一番近いと言われていないのである。…しかし、料理の月に惹かれたというのは初めて聞いたのである。」
「そうねー。この学術院にいるのは珍しいのかもしれないわー。ここにいる大抵の月に惹かれた者たちは不老不死を求める月に惹かれた者たちだもの。月に惹かれれば惹かれるほどに生き急ぐものなのよ。早死にかどうかまでは知らないけれど。」
「永明派などを見ていれば解るのである。あれらは月に魅入られ過ぎたのである。毎年の如く予算を食いつぶすような実験を行う長寿種なぞ、他にいないのである。」
「生き急ぐねえ。…確かに永明派の連中はそう思うことがあるが、それは不老不死の月に惹かれてるって事なのか? それ以外にも月に惹かれることはあんだろ?」
「あるわよー。…でも、知らないのが殆どだと思うのよー。自分が月に惹かれているなんて誰も思わないもの。才能が自分を振り回す事は無いでしょう? でも、才能に左右されて生きてしまうものなのよ。それが見えないから厄介なだけで。」
「太陽神の星は自覚が出来ているから振り回されぬだけで、他の神の才能は見えぬから振り回される。我らの始祖はそう考えたのである。故に月に惹かれたものはそのままにしておいた方がいいのである。月と引きはがしても結局はまた惹かれていくのである。自覚して離れたいのであれば離れられるのである。結果良いものも悪いものも生み出してきたのである。」
「悪の月に惹かれるってのが昔話なのよー。悪人になりたくて悪人になる人はいないのよー。それは悪の月に惹かれたものなのよーってものがドライアドに伝わる昔話よー。」
「鱗竜人の昔話も一緒であるな。しかし、他の人間種にも似た話があるのである。」
「あ? …そんな話があったか? マーク、お前も貴族だったんだろ? 何か知らんのか? 俺も貴族だったが、人間とは違う可能性もある。」
「…って言われてもなあ、ぱっとは俺も思いつかねえ。アルベルトはどうだ? 平民の方が知っていたりしないのか?」
「…思い当たる節はないな。そんな話があったか? …もしかして大罪の話か?」
「うむ、大罪の話である。人は誰もが大罪に惹かれ魅入られるものである。傲慢、強欲、嫉妬、憤怒、色欲、暴食、怠惰。この7つであったな。これに惹かれる事が月に惹かれるということと同じであると我は思うのである。不老不死に魅入られた者たちは傲慢と強欲、嫉妬に堕ちるとよく言うのである。」
「あーってことは、ヘルマンの奴は暴食にでも惹かれているって考えた方が良いのか?」
「暴食かは解らないのよー。悪の月が大きく分けてその7つだってだけで他にも月はあると思うのよ。善の月があってもいいとは思わない?」
「その通りであるな。7つの大罪とは惹かれてはいけない月の代表格というだけで、惹かれても良い月も存在するのである。体系化はされてはおらぬが、惹かれてもよいものとはすなわち他の神が振ったであろう才能の事である。この場合ヘルマン殿は料理もしくは食事、美食その辺りに才能を振られたと思っていいのである。暴食になる可能性も無いとは言えぬ故、気を付けた方がいいとは思うのである。」
「そうなのよねー。暴食に惹かれるのは貴族に多いんだけど、平民にもいないとは言えないもの。」
「成る程、7つの大罪も種族が違えば色々と違うんだな。平民は基本的には教会で文字の読み書きを習う際に一緒に習うからな。余りに当たり前になりすぎていて忘れていたな。」
「貴族はその家ごとに教えるからなあ。俺んとこは大分後から聞いた話だったからなあ。」
「…私の所もそうだったな。7つの大罪を知ったのはこのゼミに入ってからだ。今はもういない先達に教わった。」
「そう言えば7つの大罪に呑まれかけた時に色々と教えて貰って、錬金術師の上にいる人たちの大半が呑まれていると言われたんですが、本当なんですか?」
「悲しいことに本当であるな。一番多いのが永明派である。悪い月、大罪であるな。それらに惹かれたものも授業はちゃんとしているのである。そのうち見ると思われる。」
「呑まれた奴の授業は忙しいったらねえぞ。…今の時期だと初級ポーションの作り方だな。やったか? 平凡に終われば10本かそこら作ったら終わりだったはずだ。それくらいしか持ち込むやつが居ねえからな。」
「あー、3時間みっちり作らされましたね。あれが呑まれてるんですか。」
「おっと、ここにも被害者がいたか。永明派の授業は当たり外れが大きいんだ。素材を用意してそれで終わりか、素材が支給されるがめいっぱい作らされるかのどちらかだ。まあ、外れを引いたからってくよくよするなよ。見方によっては当たりだからな。」
「さよう。初級ポーション位は手早く作れることに越したことは無いのである。」
「まあ、黎明派の授業は遅いからな。それに早く終わるし。10月からは来年の為の準備だ。練習としてより学術院の運営に関わってくるから誰かしら受けてくれると準備が楽になるってものなんだよね。」
「であるな。黎明派の基礎は建物の構築である。それさえできれば後はゼミで好きなことを研究すればいいのである。ここの派閥も建物は殆ど関係ない故に。」
「私としては見直したいんだがな、…そうすると生徒側の負担が大きい。何分建物を建てるのに素材の量など個人個人で違うからな。特に魔力茸なんかは大量に消費する。ヘルマン君には作るところを見せただろう? 魔杖を使って錬金陣を地面に描き、魔力操作で周囲の土を盛り上げさせるんだが、基本は魔力操作だけでいいんだ。」
「そうなのよねえ。その形を保つために多くの魔力茸が必要なのよー。2階建てにするんだったら魔力だけじゃ不安だから鉄と土属性の魔石も必要になるし、土属性の魔石は買わないといけないものね。安いとは言っても、苦学生には痛い出費だもの。」
「それに造命派がな。馬車を作らせるからなあ。あれはどうにかならんのか?」
「どうにもならないらしいな。錬金術師がギルドに雇われるにしても馬車があって欲しいらしい。…保存瓶の存在を隠すのに必要なんだ。」
「どうして保存瓶の存在を隠すんですか? 前から思ってたんですけど、入れるだけで良いものが多いのに公開しない理由が無いと思ったんですが。」
「それもなあ、解ってる奴が保存瓶を使うのと解ってない奴らが保存瓶を使うのとで違うだろ? 色んな素材が混ざっている奴を一々査定しなきゃならんのだ。これは使えるがこれはだめだとかなってみろ。行商人になる奴が出る訳ねえ。そうすっと素材が集まらねえだろ。事情があるんだよ、隠す側もな。」
「草刈り冒険者の素材を買い叩くのもしょうがないだろう? あれ以上高く買ってしまうと普通の生活が出来てしまう。それではこちらも困るのだよ。こちらが欲しいのはちゃんとした素材なんだ。普通に採取ができる冒険者が欲しいのだよ。」
「はあ、色々あるんですね。」
「ああ、特にケビンなんかはよく悩んでいるからな。冒険者がもう少しまともにならないかとな。」
「ああ、ヘルマンが言ったように教会で祈るのも文字を覚えんのも昔に言ったことらしいからな。皆やらなくなっちまっただけでよう。定期的に言うって事で落ち着いたがな。まあそこは平民次第だ。やらなくて困るのは自分とこの村だからな。それよりも冒険者だな。もうちっと使いもんになってくれるとこっちもやることが一杯あるんだがなあ。正直なとこ、いまん所の冒険者なら魔境以外の冒険者は殆ど要らねえ。文字の読み書きをハードルにしたって飛ぶ奴が少なすぎるんだよなあ。もう少しいたって良いと思うんだがよう。それにいつどんな時に祈らなくなったのかが判らねえからな。原因があるはずなんだが、それが判らねえとどうにもならん。」
「あれ? そのための代官屋敷付きの行商人なんじゃ無いですか?」
「まあそうなんだがな。村長だって村を全部把握できてるわけじゃねえからよ。報告から漏れてを繰り返してるうちに祈らなくなったって感じだから異常とも思ってねえ場合もある。後は代替わりをするからなあ。こればっかりはしょうがねえから数年に1回は言うっつう事に決めたからな。」
「そろそろ向こうも落ち着きそうだからな。…セレナ女史はあちらに回らなくてもよかったんですか?」
「私は使えればいいのよー使えれば。」
「まあ、使えりゃいいよな。作れることは解ってんだし。」
「…理屈を詰めたい時もあるさ。何故かが解れば改良点が見つかるからな。」
「であるな。突き詰めることは良いことである。しかしな、獣人にはあれは要らなんだのか?」
「顔のつやより毛並みでしょ? まあ、こっちでも面白い話が聞けたし、私はよかったわよ?」
「ですね。髪洗液の時は毛並みにも関係したもの。あれは獣人の顔には合わないわ。」
「肌に行く前に毛に付くだけで終わりそうですからね。」
「…女性も解らん。錬金術よりも解らん。」
「…だな。」
「ふむ、鱗竜人の女性でも必要なさそうであるな。ドライアドは比較的人間に近い故に使えるであろうが、効果は解らんな。」
「そうねー。使ってみてからよー。」
「そろそろ落ち着いたか? では他の報告がある者は報告してくれ。」
その後も色々と報告会は続きましたが、僕の報告はこれで一旦終わりでいいです。もうおなか一杯です。…パンの報告は次回にしましょう。次回の話のネタも準備できましたし、色んなアイディアも欲しいので、他の人の報告もじっくりと聞いていくのだった。
面白かった面白くなかったどちらでも構いません。
評価の方を入れていただけると幸いです。
出来れば感想なんかで指摘もいただけると、
素人読み専の私も文章に反映できると思います。
…多分。




