60話 13歳 4月12日 帰って来たケビン、人類の歴史・錬金術の歴史、鉄迎派の有名人
PVが増えるたびに誤字報告が沢山届きます。
…見直してるつもりなんだけどなあ。
皆さんありがとうございます。
5番棟0304号室からおはようございます。4月12日、ゼミの日でございます。どうも、ヘルマンです。男性陣は全員揃っています。ケビンさんもいます。予定よりも早かったかなって所ですね。順調に仕事が終えられたのでしょうか。女性陣はまだ20分前ということで、獣人組とハーフリング組しかいません。元貴族組とセレナさんはいつもギリギリですからね。しかし、待っている間は皆会話しないんですよね。律儀なのか何なのか知りませんが。そんな訳でガブリエラさんにまたガン見されている僕ですが、…今日は何でしょう? 色爪液も使ってないですし、ガン見されるような物は身に着けていないはずなんですが…。また色爪液みたいなのを期待されているのでしょうか? そう簡単には色々とできないと思いますよ?
同じハーフリング仲間であるデボラさんもちらちら見てるんですよね。でも獣人組はこっちを見ている気配はなし。…何なんでしょう。ハーフリング的に通じ合うものがあったんでしょうか。男性陣もこっちを見ている気配はない。見られているのは解ったんですが、何で見られているのかが解らない。そんな気まずい空気が若干漂っている空間に、他のメンツも揃って、セレナさんが到着して座ったころにブルースさんから時間だな、といういつもの宣言が入り、豊穣会が始まった。
「さて、四月の集まりな訳だが、私からは特にはない。…セレナ女史、前回の報告書があれば提出してほしい。」
「ルールーテルヒの水飴の件ね。ちゃんと報告書は作ったわよー。」
「有り難い。これを連名で提出しておく。」
「…俺がいない間に何があったんだ? ルールーテルヒの件とは?」
「ああ、ケビンがいない間、セレナ女史の育てていた作物から砂糖飴に似た味の水が取れたという話になってな。煮詰めたら砂糖が出来上がったため、報告書をまとめて貰っていた。王族案件だと考えたため、私との連名で出す予定だ。」
「砂糖⁉ …砂糖ならしょうがねえ。確かに王族案件だ。こっちに流れてくるのにも時間が掛かりそうだな。」
「その辺りは公爵家が上手いことやるだろう。…暴利をむさぼるようなら暗殺対象になりかねん。」
「だろうなあ。気長に待つしかねえか。」
「まあ、そんなところだ。他に話があるものは、というより皆はケビンの報告を聞きたいだろう。先に話していいぞ。」
「おう。…つってもそんな難しい話じゃ無かったがな。基本的には皆の持ち寄った種は農家の連中に育てて貰う事になった。年中育つ作物だっつったら喜んで育ててくれると言っていたな。そんで種油、ユガルヒの実の件だよな。…一応育ったし種がなるのも確認した。食べられないが高額で買い取ることを条件に作って貰う事にしたからな。…とりあえず9人分の種油は確保してきたから安心してくれ。2か月に1度、錬金素材として家の領から送ってもらう様にはしてある。だからこれからは遠慮なく使ってくれ。領の錬金術師にはレシピは配って来たから平民でも使える様になるはずだ。…暫くは貴族が独占するだろうが、その余りが平民に行くようになるだろ。」
「早く帰って来たから今回分はないものと諦めかけていたけど、あるのね?」
「そうね。予想では2か月で収穫でしたから、こんなに早く帰ってくるとは思っても見ませんでした。」
「種を育てようと思ったらもう少し置いておく方がよかったんだけどな。油を絞るなら多少早くても問題ないみたいだったからな。ついでに色々と実験してきたんだ。そうそう、粉砕機付きの粉ひき所だがな、平民も結構使っているようだったぜ。色んなものを粉にできるって触れ込んできたからな。とりあえず領都では流行っていたからこのまま他の町や村にも設置する予定だ。…スケルトンの材料ならあっちにも一杯あるし問題ないはずだ。それとヘルマンの言っていたことだな。各村々に種を配るのと同時に教会で文字の読み書きを教えて貰うように触れまわって貰った。あと教会で祈る効果もな。こっちは後20年ほどは経過を見ないと結果が解らんが、昔やった時にはあまり効果が無かったみたいなんだよな。まあ、やることには決まったが。…後は物価が異常に上がるような事があったり、素材の相場が崩れるようなら考えると言っていた。まあ当面はそんなに変わるもんでもないとは思うがな。後は物流網だったか。あれは面白いからやってみるとの事だったな。まあ、村から作物を町へ運ぶのにどうしても人手がいるからな。これからは町でも大量の野菜が安くなるからどうなるか解らんが、給金との兼ね合いがどうのと悩ませていたが、代官屋敷の仕事が増えると悩んでいたくらいだ。問題はなかろう。」
「僕の変な妄想が役に立ったんなら有り難いです。でも本当にやってきてくれたんですね。」
「おうよ。…まあ急激な変化を望まない貴族も多いからな。その点家は結構大きめの伯爵家だがドワーフの家系だからな。長命種の中でも短い方だ。その位の変化には対応してやると言っていたな。…平民が何処まで言いつけを守るか解らんが、守らなくても冒険者になるだけだからな。町の物価の事は気にしていたが、野菜類が安くなるからその分で何とかするとの事だった。要は家には下地になるものがあったってだけの話だ。妄言は沢山聞いたが、実行できたのはその位だ。後は平民の頑張り次第だ。」
「いえ、少しでも役に立ててよかったです。」
「俺からは以上だが聞きたいことがあったら聞いてくれ。」
「作物の種は基本的には連作するより他の物と交代の方が良いということは伝えてきてくれたかしら?」
「その辺もぬかりない。なるべく別種を育てる様に村長に触れまわらせるようにしてある。無理して連作をした奴らの事は知らん。…まあ失敗すれば覚えるだろうし、あいつらには農家の才能があるからな。育てる分にはこっちよりも上だ。才能が上手く誘導してくれるだろう。」
「農家の才能も大概不思議よね。まあ、才能全てが不思議だけど。」
「まあ、神様が作った物だからな。詳しくは知らんが大体1万年前だったか?」
「そうね。才能のシステムが始まったのは1万年前からよ。それ以前はどんな生活をしていたのかしらね。」
「才能って1万年前以前は無かったんですか⁉」
「ええ、…そう言えば平民はその辺知らないのかしら?」
「知らないわね。…セレナさん辺りは知ってそうよね。」
「私も貴族程詳しくは知らないわよー? 錬金術師の才能が初めて現れたのが8000年前位だったってことくらいしか知らないわー。」
「…才能が現れた当時は錬金術師の才能が無かったの?」
「無かったらしいわよー? 詳しくは神様しか知らないでしょうけどー。」
「僕は正直その辺の知識が全くないので、教えて貰えるなら教えて欲しいです。」
「私も知らないから教えて欲しいわ。」
「では、私から簡単に説明しよう。人間種が産まれたのが凡そ5万年前だと言われている。そして、才能のシステムが誕生したのが1万年程前だ。これは教会の記録からそうなっている。当時最初に世界各地で聖者や聖女の星10の者が生まれたそうだ。その時は年齢も何も関係なかったって記録が残っているが、唐突に神の啓示を受けた者たちが居たそうだ。そして教会を作った。その時にはすでに文字は開発されていたからその当時から書物を残すことが教会の役目になっていたらしい。そして、今でも見る教会を聖者聖女が作ったことで、星振りの鐘が作られて、6歳の子供に聞かせれば星という才能が振られるようになった。」
「鐘の音を聞けば良いんですか? 教会に入らなくとも?」
「そうだ。基本的に聞こえないのは不味いということで教会近くや中にいれる様になったが、鐘が聞こえる距離であればいい。王都の教会では入りきらないから外に子供がいることもあるが才能はちゃんと振られているからな。まあ、話を戻そう。そして才能が振られる中に星が10個振られるものも多かったんだ。何故かは解らんが、星が10個振られたものは才能の事を事前に知っていたかのような知識も得たと言われている。農家の才能しかり裁縫の才能しかりだな。これらの星10個の者たちは才能の力を始めから100%使えたという話だ。そして、錬金術師の才能が星10個で誕生したのが凡そ8000年前、当時の錬金術師は錬金釜も魔杖も錬金陣も無しに錬金術を使っていたそうだ。そして星が10個でないもの達にも使える様にしたものがその3つの道具という訳だな。改良は加えられてきているが、基礎を作ったのは星10個を貰った者たちだということは解っている。…確かこの当時に星10個の賢者も誕生している。エクステンドスペースは当時の賢者が使っていた魔法の模倣物だ。星10個の賢者のエクステンドスペースに似た魔法は容量の制限もなく、時間すら停止していたと記録されている。それで才能の力を得たことで人間種の活動範囲が広がりを見せ、一部は対立しながら国というものを作り上げた。それが凡そ5000年前だ。この国が生まれたのもその頃だな。そして国が生まれると統治の才能と呼ばれるものが誕生した。そしてその統治の才能を持つものが国を治めると、その者が治めていると認識した範囲の土地が豊かになり始めたのだ。何でかは聞くな、そう言う才能としか言えん。そして多くの錬金術師たちと共にこの王都を作った。そしてその時の血筋が今の7公という訳だ。何故かは知らんが、その血筋にしか統治の才能は継がれなかったらしい。」
「因みに、今の7公が代わる代わる王を出しているのは統治の才能が多いものが王に座るという同盟を組んでいるからよ。統治の才能もちも結構な数いるんだけどね。確か今の王は統治の才能星6つだったはずよ。」
「そういう訳だ。その王が有能であろうが無能であろうが、統治の才能を沢山振られたものが治めることになっている。そうして才能で負けた者たちが血を広げ今の貴族たちがいる訳だ。…何故か知らないが貴族、公爵以外のだな。侯爵以下の貴族家からは統治の才能が出なくなった。この辺は神しか解らないからどうでも良いんだが、貴族もその7公の血筋という訳だ。」
「あれ? 7公って全員人間だったわよね? エルフやドワーフの貴族はどうして生まれたのよ?」
「それも不思議な話なんだが、7公からは純粋なエルフやドワーフも生まれたそうだ。生まれていない種もいるそうだが、間違いなく貴族の血は7公と繋がっている。不思議な事なんだがな。そんな訳で、貴族にも長寿種はいる。ただ長寿種には必ず統治の才能が出ない。統治の才能が出るのは人間種のなかで人間だけだ。…話を戻そう。国が貴族たちに才能を十全に使わせようとしたんだ。その時に貴族学校が誕生した。そして100年程したときに、効率が悪いということで魔術師学校が作られ、その後に錬金学術院ができた。昔は貴族だけが通っていただけだったんだが、4000年程前に貴族が増えすぎてきてな。これ以上増えない様にと平民に落とすことを始めた。が、学校というのは効率がよかったんだ。4000年前に初めて平民も金さえ払えれば学校に通わそうということになった。そうして魔術師学校と錬金学術院に平民を入れることとなった。…そうすると数が増えてきてな。貴族が中心となった派閥ができ始めた。それが今の6派閥だな。どの派閥も同じ時期にできたと言われている。そして平民が学校に通い続けるだけの金が無くなってきて市井に出かけて行って店やギルドというものを作った訳だな。そうしてそのギルド網を使おうと思った錬金学術院が位置把握の錬金アイテムを作って各錬金術師に持たせるようになった。そうすれば素材が集まりやすくなるだろうということから黎明派の誰かが開発したらしい。名前は記録に残っていないことから恐らく平民が考えたんだろう。貴族が考えたら意地でも名前を残しただろうからな。そうして6派閥が幅を利かせて今の授業形態になったのが凡そ3500年前だ。教える内容もその頃から余り変わっていない。基本、どの派閥も自分の所の派閥の基礎を教える方針になった。まあ、ある程度は調整されたみたいだがな。…この時幻玄派だけは教えることなどない、自分で見て感じたことだけが答えだと訳の分からんことを言ったせいで、幻玄派だけはあんな授業内容なのだ。基礎を全て押し付けようとしたこともあったらしいが、放り出すのが関の山ということで、このままのようなのだ。大体は1年間基礎を教えて、その後は何処かの派閥に入り、応用を教わるというシステムになっていった訳だな。そんな派閥でも人が増えすぎたせいで内部で考えも違う者たちも出てきて今のゼミシステムが生まれた。これが凡そ3000年前だ。豊穣会もそのゼミの黎明期にできたゼミだな。その辺りはセレナ女史の方が詳しい。」
「やっぱり歴史あるゼミなんじゃ無いですか。しかもほぼ最古の。」
「当時と同じものは年中とれる農作物をってだけねー。香辛料なんかは貴族が国外から輸入を始めたころだから1000年程前だし、治水も2000年前位に追加した項目だもの。当時と一緒ってわけではないのよー。」
「それでここまで回ってきた感じだな。3000年程は殆ど授業内容も変わっていないし、当時のままだと思う。…セレナ女史、変わった項目で大きなものはありましたか?」
「そうねえ。変わったといえば鉄迎派位かしら。あの訳の解らない錬金アイテムね。」
「…ああ、あれがありましたか。あれは1500年程前でしたか?」
「大体その辺りだったと思うわよー?」
「あれとは?」
「ここにいるヘルマン君以外は作っただろう? あの星を超えさせる錬金アイテムだ。しかも戦闘関連の才能しか突破できないというあれだ。」
「ああ、星の川ですか。あれは確かになんでああなるのか解りませんね。」
「できるんだけど、何でできるか理屈が解らないのよね。」
「? そうなんですか?」
「ああ、12月を楽しみにしているといい。鉄迎派が誇る理屈ではない錬金アイテムだ。恐らく錬金術の技の領域なんだろう。理屈を説明できれば不老不死にも近づくと言われているからな。」
「星の川のせいで元貴族は鉄迎派に行く子が多いのよね。私は戦闘系の才能が無かったので無意味だったが。」
「俺もそうだな。戦闘系があれば鉄迎派に行きたくなるのも解る錬金アイテムだからな。」
「…星1つでも騎士爵位に着けるくらいの星が増えると聞いたんですが、本当なんですか?」
「私も戦闘系の才能を持っていないから解らないが、聞いたところによるとスティナラニアのソーサリーアメジストがあるだろう? あれを使えば星7つ分才能が増えるらしい。」
「…それだと僕の場合、星10個になっちゃうんですけど。」
「ヘルマン君は戦闘系の才能に星が3つ振られているのかい? …確か錬金術師が星7つだったね。鉄迎派に行けと言わんばかりの才能の振られ方だ。しかし、ヘルマン君の答えは間違っている。星が10個になるんじゃなくて、9つと1つになるんだ。」
「あの、意味が余り解らないんですけど、9つと1つは10個とは違うんですか?」
「ああ、違うんだよ。鉄迎派の有名な方にカール=ヴィレックという男が居たんだ。人間でありながら142歳という歳まで生きたんだが、死ぬ最後の1日前まで魔境で戦闘をこなしていたと言われている。その人は槍使いの才能を8つ貰っていたんだが、スティナラニアから作った星の川を装備していたんだ。その人が言っていたのは「俺の才能は星9つと6つだ。星10個は次元が違う。」と言葉を残している。実際その当時は星10個の人なんて居なかったんだけど、9つと6つでもまだ先がありそうな感じがしていたらしい。そういう訳で、10個とは数えないんだよ。」
「ちょっと待って、人間でしょう? 142歳なんてあり得るの?」
「実在はした。それはセレナ女史が確認している。」
「ブルースも生きていたでしょう? まだ死んでから500年位しか経ってないもの。」
「死に際が有名になりすぎましたね。確か「槍先が数ミリずれた、明日は休む。」と言った次の日に亡くなったって聞いているわ。貴族の間では有名な人よ。」
「だな、俺も知っているくらいだからな。武器を扱える才能があれば鉄迎派に入れられていただろうよ。」
「人間でそれだけの寿命を持つのは魔境で魂を修練したからだと鉄迎派の教義そのままの人だったという話は聞いたことがありますが、それ程の方だとは知りませんでしたね。」
「…成る程、貴族が鉄迎派を推す理由の一つがそれなのか。」
「我らの友もまた鉄迎派に身をやって果てたものも多いが、いずれの御仁も長生きしておる。それ程、鉄迎派の教義が不老不死に近いということなのだろう。」
「…話が大分ずれてしまったが、才能の歴史と錬金術師の変遷はこんなところだ。」
「貴族学校ではそんなことまで習うのね。勉強になったわ。」
「僕も知らないことが聞けてよかったです。」
「それで、何の話だったか?」
「…俺がやってきたことに対して質問があるかどうかの話をしてただろ?」
「そう言えばそうだったわね。」
歴史の授業はこれでお終い。興味深かったけど結局才能ってなんだろうね? って話で終わってしまった。錬金術師も最初は存在していなかったのか。なんで途中からこんなシステムを導入したんだろうね? 世界のアップデートを担当している神様の考えることなんて解りませんが。
「質問が無ければ違うものの報告に移ろう。他に報告するものはいるか?」
「―――はーい。ヘルマン君が報告することがあると思います。」
「…ガブリエラ、何故そう思った?」
「いえ、ガブリエラの言ったことは正しいでしょう。また何か作りましたね?」
「そうね。男性陣や獣人族は誤魔化せても、そうはいかないわよ。」
「なんだ? また女性に関係あるもん作ったのか? 今度は何を作ったんだ?」
なんかまたやったか? 身に覚えが無いんですが…。パンの報告はしようと思ってましたが、それ以外に報告することなんてあったか? 疑問に思いながらそのまま考え耽るのだった。
面白かった面白くなかったどちらでも構いません。
評価の方を入れていただけると幸いです。
出来れば感想なんかで指摘もいただけると、
素人読み専の私も文章に反映できると思います。
…多分。