54話 13歳 3月10日 ゼミの日、爪紅の秘密、才能が伝えるもの、砂糖ができた
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皆さんありがとうございます。
書き溜めもまだまだありますので日刊更新で行きますよ。
…実は錬金学術院編はもう書き終わりました。
なのでどんどんストックを溜めていっています。
出来る限り日刊更新で頑張ります。
表示される文字数って予約投稿の分もカウントされてます。
なので思ったよりも文字数が少ないと思います。
その位書き溜めがあると思っていただければ。
季節感の全くない地下からおはようございます。地下って寒くもあったかくも無いんですよね。どうも、ヘルマンです。今日は3月の10日、豊穣会の日です。あれからも色々と素材を無駄にしながら色々と頑張ったんだけどね、駄目だったよ。基本的には属性素材なんかを使っていない、生活雑貨や食料品を素材にしていたのがまずかったんだろうな。色爪液はビギナーズラック、そう思うことにした。まあ、4月からは月に1回授業内容が変わるので、そっちに期待かな。…鉄迎派の戦闘訓練だけは毎日やっているそうだ。なので鉄迎派だけは講義が2つある。他のももっとあっても良いじゃないと思うんだけど、1年目に基礎をやって、2年間ゼミで揉まれて羽ばたくのが一般的らしい。研究課題が残っている人はもう1,2年頑張ってから出ていく人もいれば、居着く人もいるんだってさ。僕は3年で出ていく予定でいる。居着く予定は今のところない。不老不死の研究なんてする予定も無いからなあ。
そんな訳で、ゼミの方にやってきましたよ。今回も5番棟0304号室、多分ここが指定部屋とかなんだろう。知らんけど。さてさて今日僕は黒の色爪液を使っています。見る人が見れば凄まじく目立つ訳だ。とりあえず10分前に到着して待っているわけだが、男性は気付いた素振りはない。まあ、こういうのに敏感なのは女性の方だよね。ハーフリングで髪の毛長すぎ問題状態のガブリエラさんが僕の爪をガン見しているわけなんだが。元貴族組はまだ来ていないので解らないが、貴族の方がそういうのに敏感だろう。すぐ気づくはずだ。そんな訳で、ケビンさん以外全員揃ったところで、ブルースさんが時間だなといつも通りの宣言と共に豊穣会が開催した。
「さて、今月の豊穣会を始めるか。今回は私からは特にない。ただ、ケビンの出していた報告書の査定が返って来た。大魔金貨10枚分の改良だということで半分を豊穣会に納めて、残りはケビンに渡したかったんだが、いないからな。とりあえずこの件は私の方で預かっておくから他に報告があればそちらを頼む。」
「はいはーい。私からじゃないんだけど、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいい?」
「私は問題ない。他は―――ないな。どうした、ガブリエラ。」
「ヘルマン君、いったいどこでその爪紅手に入れたの? しかも知らない色の。」
「⁉ 黒⁉ ちょっと待ちなさい。あれは赤しかなかったはずよ!」
「そうよ! しかもあれは大魔金貨からしか売ってなかったはずよ! ヘルマン君は…先の25枚を持っているのか。買える…買えるけど…黒はなかったわよね? メラニー、あなた爪紅について詳しいの? 私は高くて手が出ない位しか知らないわ。」
「公爵家の一つの秘匿技術よ。私も知っていることといえば、大魔金貨からしか売って貰えないことと、赤しか作れないって事しか知らないわよ。それが黒? いったい何をしたの?」
「ちょっとまてメラニー、エレーナ。少し落ち着け。とりあえず絶句しているマヌエラ、私は正直その辺の知識は薄い。詳しく話してくれ。」
「…はい。爪紅は爪に塗る装飾品よ。公爵家の1つが数が作れないし入荷も不定期だって言って高く売っているものよ。水で洗っても落ちにくくて、オーク油でこすると落ちる物なんだけど、その公爵家が火属性の魔境を囲っているから騎士爵、魔導爵が出ないといけないくらいの魔物の素材を素に作っているって噂があるくらいよ。火属性だから赤くなる。だから赤しか無いって言われていたんだけど、ヘルマン君のは黒よね? 闇属性の物でも開発したのかしら?」
「私も気になったから聞いたのよ。赤い爪紅は平民でも知っている人は知っているわよ。ものすっごく高い装飾品だって事くらいしか知らないけど、ヘルマン君がしているのがおかしいのよ。黒があるにしても、買う伝手がないもの。」
「…そうなのよね。平民に公爵家に伝手なんかあるはずない。…貴族じゃないわよね?」
「はい、正真正銘平民です。今日の持ち込みはこれです。爪紅はどうやって作っているのか正直解りませんが、これは錬金術で作った物です。」
「まって! 猶更おかしいじゃない! ヘルマン君が錬金術をまともに使ったのはこの間の豊穣会の時よね? それが高級品の錬金に成功するってあり得るの⁉」
「ヘルマン君、今あなたが持っている素材で一番高価なものを言ってみなさい。」
「? 満月茸ですが…?」
「満月茸⁉ …そうか平民なら霊地回り位はできるのか。…闇の霊地に行ったことは?」
「あります。というかその霊地の村の出身ですが。」
「なら高価な闇属性の素材を持っていてもおかしくないのね。…因みに作り方は確立しているの?」
「作り方なら問題なく確立してます。これ以外にも全部で10色作りました。」
「まってまって! 情報量が多過ぎよ! 10色ってどういうことよ! 属性が関係するなら6色が限界でしょ!」
「…つまり、その新たに作った爪紅は属性に関係なく作ったのか?」
「そうです、ブルースさん。属性は関係ないです。」
「…とりあえず作ったというものを出してくれるか? 色も色々とあるなら見てみたい。女性陣は一旦落ち着け。ヘルマン君が気楽にしている以上、それほど高い素材を使ったとは思えん。」
「あ、ブルースさん正解です。貴重なものは使っていません良くて中銀貨までで作れてます。そして―――これが僕が作った色爪液です。」
「成る程、確かに色々あるな。黒に白、青に赤に緑に黄色、オレンジ、ピンク、紫、水色と確かに10色あるな。」
あれからも花の色が違うものも採取して液を増やしてある。…これ以上は見つからなかったんだよ。その花の色が。
「保存瓶じゃなくてポーション瓶なのは理由があるのか?」
「材料を集めたらポーション瓶が丁度いい感じだったんです。保存瓶ですと結構な量の材料を集めないといけなくて。」
「…数がいるタイプなのか、報告書は書けるか? 一応代筆するならその者にレシピを教えないといけないが、もちろん出す必要もない。義務では無いからな。というか今回は出さない方がいい。公爵家と喧嘩をしたいなら出しても構わんが。」
「あ、報告書なら書いてきました。…けど、公開するつもりは無いです。公爵家と喧嘩なんて叩き潰される未来しか見えません。」
「賢明だな。平民なら公開してから7日もつかどうかだ。」
「ですよね。…ここにいる女性陣くらいには良いですか?」
「ヘルマン君が良いなら良いんじゃないか? ここだけの秘密にしておけば価値も大魔金貨から落ちる訳じゃないだろうからな。」
「あ、ついでにこれがレシピです。」
「どれ、ふむ。…しっかりと書かれている。報告書としても問題ないだろう。…しかしこれは、流石にこのレシピではないだろう。安く出来すぎる上に量産も可能ではないか。それにこんな材料を混ぜようとする他の錬金術師がいるかどうか…。まあ、我々のゼミでは混ぜるかもしれないが。しかし、赤だけは簡単にできそうだな。」
「農作物の種とか作っている派閥ですもんね。そうなんですよね。赤は簡単なんですよ。」
「赤が簡単とかどういうことよ⁉ ちょっと、ブルースが見てるんなら私たちも見ていいんでしょ?」
「構いませんけど、このゼミの秘密にしておいてくださいね。まだ生きていたいので。」
「任せなさい。…エレーナもマヌエラも良いわね?」
「「もちろん。」」
「あ、ずるい! 私が目を付けたんだから私も見たい!」
「ガブリエラずるい! 私も見せて見せて。」
「うふふー。ヘルマン君、この緑の色、塗ってみても良いかしら?」
「あ、どうぞどうぞ。これ毛筆です。」
「ありがとー。―――――――――いいわねー。高級品を扱っているみたいでいいわねー、うふふふふー。」
「…獣人には向きませんね。基本的に爪は隠れてますから。」
「ですね。でも匂いは良いですね。…匂いで大体の色の素材の見当がつきましたが、確かに赤の匂いは嗅ぎなれています。」
「まさか快命草を使って大魔金貨と同じものが作れてしまうとは…公爵家が同じレシピで作っていた場合はぼろ儲けと思っていそうです。」
「正解です。流石獣人の鼻は誤魔化せないですね。レシピに染料が必要なんですが、花を使っています。赤は快命草です。」
「こんなレシピは世に出せないわ…。まさか属性素材を一つも使っていないとは…。」
「染料って液体になれば何でもいけるんでしょうか。しかし、その色の花を100本分…快命草と言うと確かに赤だけは簡単すぎます。安く買えますもの。」
「しかし、これだけの色の花をよく集めたわね。…何処に咲いていたの?」
「幻玄派の雑草畑です。」
「そんな身近な雑草でいいのね…。これもお茶会でしていったら目立つわよね?」
「赤なら怪しまれずに素材を揃えられます。…問題は卵ですか。」
「購買で買ってもバレない様に他の野菜も買えば問題ないわ。…卵が材料だなんて絶対にバレることはなさそうね。」
「おいおいお前たち、公爵家に喧嘩を売るんじゃないぞ。ヘルマン君の命が懸かっているんだからな。」
「ええ、お茶会で自慢するだけに留めるわよ。」
「髪の毛もまだ自慢していないからな。同時にやったらその分まぎれるだろう。…豊穣会が確実に目を付けられるが、それはこれまでも変わらなかったからな。」
「そうよねー。色々と作っているもの。ねえ見て見て、綺麗に塗れたのよー。」
「何⁉ セレナ、先に使うのはずるいぞ。」
「ヘルマン君私も使っていーい?」
「どうぞどうぞ、使ってください。」
「ガブリエラ!」
その後、獣人以外の女性陣が各々の爪に色を付けるまでに時間が掛かったが、まだ豊穣会は始まったばかりなんですよ? 良いんですか、そんなに飛ばして。…男性陣は諦めていそうだな。ブルースさんも暫く待ちの姿勢を保っているし。
「しかし、ヘルマン君は面白い発想をしているな。魔鉄に卵を混ぜるとは思っても見なかった。」
「僕も近くにあった物で作りましたからね。色々と失敗もしまして、あれだけが仕上がった感じです。」
「何、成果が上がるだけ上々ではないか。しかし、選んだというよりかは、才能がレシピを見せた方が近いのかもしれんな。」
「テオ、そんな事があるのか?」
「稀にあるぞ。近くに置いてあったりするとこれを入れれば成功するとなんとなく解るものがある。だから我も関係ない素材も錬金釜の周りに置いてある。」
「テオのそれは正しいぞ、アルベルト。ヘルマン君の髪洗液が正にそうだった。ヘルマン君は水泡茸と種油で何かができるとすでに構想があったと言っていただろう。才能が何かを伝えるときがあるのだよ。」
「…成る程な、それで錬金釜の周りが広いのか。俺も色んなものを置いておいて見るか。」
「僕も色んなものを置いてみます。…人が思いつかないようなものも置いた方が面白そうですかね?」
「錬金術は何が材料になるか解らんからな。卵なんかを混ぜる錬金術師は少ないだろう。」
「…いない訳じゃないんですね。」
「人間誰しもが同じように常人が置かないものをと置いていたりするものだ。」
「…成る程。」
「さて、そろそろあちらも落ち着くだろう。こちらもゼミに集中するとしよう。」
やいのやいのと騒がしかった女性陣も落ち着き、報告会は続く、今度は誰の何の議題だろうか。
「うふふー。私の報告でいいかしら? ケビンの改良した粉ひき所で色んなものを粉にしてみたのよー。そうしたら砂糖飴に近い味の液体が採れたのよー。とりあえず飴みたいに甘い水だから水飴って名前にしてみたわー。」
「何の作物を粉にしようとして水飴になったんだ? 砂糖みたいに粉じゃねえんだな?」
「そうよー。甘い水よ。寒い地方の作物を温かい場所でも育つように改良したものよ。もちろん年中採れる様にしてあるわー。普通に食べたらえぐみの強い甘いものだったんだけど、粉にしたら甘いだけの水になったのよー。」
「粉にしたというよりも絞ったという表現の方が近いのでは?」
「煮詰めたら砂糖になりそうですね。」
「煮詰めると砂糖になるのか? 砂糖は南側の王国からの輸入品だけしかなかっただろう?」
「砂糖が溶けているだけの水じゃないかと思ってます。なので煮詰めてみれば砂糖になるんじゃないかと思ったんですが。」
「現物があるからやってみましょうねー。」
保存瓶に入った白色の液体を保存瓶そのままにスライム燃料で過熱し始めた。豪快だな。…1時間くらい雑談をしながら待っていると、保存瓶の周りに砂糖らしきものが付着し始めた。そして2時間もする頃には完全に砂糖が結晶化し始めている。雑談では他の人の治水がどうのこうのや新しい水路の構造がどうのこうのと言っていたので全然解らなかった。治水は難しすぎるよ。
「あらあら、大分粉になって来たわね。これが砂糖か確かめてみて頂戴。」
「瓶の周りの物をスプーンで掬えば良いか。…確かに砂糖だな。砂糖はこうやって作るものだったのか。」
「砂糖菓子の砂糖とは少し風味が違うけど、確かに砂糖ね。…これは公爵家、ましては王家に出す案件ではないか? ブルースはどう思う。」
「わが国で砂糖が採れるとなっては貿易の仕方が変わってくる可能性がある。確実に王族案件だな。流石に錬金術を軽視している無能でも、輸入に頼っているものが手に入るとなれば王領を貸してくれるだろう。」
「ケビンを待ってそっちにやって貰った方が確実じゃないか?」
「いやマーク、砂糖の独占は流石に伯爵家と言えどもまずい。7公が敵に回るからな。今回のは大人しく王族に上申した方が良いだろう。」
「そうか、そう言う決定ならしょうがないな。報告書はセレナ女史に任せる形でいいのか? 元貴族を通した方が良いならブルースがやった方が良いんじゃないか?」
「…それはそうかもしれん。セレナ女史、連名になるがよろしいですか?」
「よろしいわよー。面倒ごとを押し付けてごめんなさいねー。」
「まあ、それがゼミ長の仕事ですので。では報告書が上がればこちらに寄こしてください。」
「次のゼミまでには仕上げるわよー。」
「助かります。さて、これで報告は出そろったか? ―――ならば今回もこれで解散だ。次回はまた張り出しておく。…4月の10日を目安にしてくれ。」
なんだかんだとありましたが、これにて豊穣会は閉幕。さて、次の豊穣会までに何か作れないかな。そろそろ属性素材も使っていいとは思うんだけど、何か面白いものができないだろうか。
面白かった面白くなかったどちらでも構いません。
評価の方を入れていただけると幸いです。
出来れば感想なんかで指摘もいただけると、
素人読み専の私も文章に反映できると思います。
…多分。




