52話 13歳 2月13日 ゼミの日、爆誕髪洗液、初めての錬金術、理論派と感覚派
5番棟0304号室の中からおはようございます。今日は2月の13日ですよ。どうも、ヘルマンです。さてさて、僕が錬金術師になってから広めようと思っていた、錬金アイテム、前世の知識も応用したリンスインシャンプー構想、種油が発見されていなかったため断念していたんですが、見つかったなら放出してしまってもいいかなー、程度に構想を発表したら、錬金アイテムができるという話じゃないですか。…自分の手でやりたかったですが、技術が追いついていません。他の方の手を借りましょう。それに女性陣の食いつきがもの凄く良い。やっぱり美容系統は当たりじゃ無いですかね? そっち方面にもう少し研究もしてみますか。
…そして、いつも2時ギリギリの女性陣がすでに到着している。…セレナさんはまだ来ていないけれど、元貴族の3人は20分前には流石にメラニーさんしか来ていなかったが、15分前には来ていた。…そしてリンスインシャンプーの効果をこれでもかという感じで、髪を輝かせている5人。他の元貴族の2人、エレーナさんとマヌエラさんも何か言いたげな様子。…そりゃあそうだろうな。メラニーさんの髪質がオーク油では出せないつややかさとさらさらヘアーをしていたら、一言言いたくなるのも分かる。錬金術の星で選んだから仕方ないけど、自分も試してみたいと目を輝かせている。…一回に保存瓶全部を使っているとは思わないから暫く分はあると思われるが、どうだろう。
そして時間ギリギリに凄まじくご機嫌なセレナさんが入って来て、ブルースさんが時間だな、と一言発し、豊穣会が始まった。
「さて、皆言いたいことは解るが、まずは錬金が成功したかで言ったら、みればわかるだろうな。皆成功したと言っていいな? 各報告書を出してくれ。こちらで一応全て確認する。」
ブルースさんは自分の報告書を持っていて、他にセレナさん、ケビンさん、ガブリエラさん、メラニーさんが報告書を提出した。それを10分程見比べて頷いた。…何か解ったんだろうか。
「ここに至る作成過程は皆同じだな。ちゃんと濾した種油に水泡茸を魔石にせずにそのまま使い、全体になじませるように魔力操作で水泡茸を行き渡らせると、若干泡が立つようだな。そして使い方も皆同じように使ったわけだ。桶一杯の水に手のひら分ほどの量を溶かして髪に付けた、そうすると髪が泡立ち、髪のくすみや汚れが落ちて日光で光るように見えるようになる、と。」
「付け加えて言うなら、その後は水で髪の泡を落として放置した結果がこれだもの。今までのオーク油とは違うわ。付けっ放しじゃなくて落とすから髪の毛が軽いし、べたつきもなし、頭を動かすと髪の毛も一緒に動かしていたのと全然違うわ。さらさらなままだもの。」
メラニーさんが髪の毛をファサーっと掻き上げて揺らす。今までにない柔らかさを持った髪だ。オーク油という重しを取り除いた純粋な髪だ。テカテカじゃなくてサラサラピカピカな髪だ。擬音が多いが、まあ、解ってくれるだろう。
「それに今までとは違って、オーク油を大量に付けていた時と違って頭が軽いのが良いわね。これは絶対に流行るわよ。間違いないわ。」
「…見ていて解ります。ガブリエラの髪が太陽を反射して眩しいくらいですからね。…ただでさえ長いガブリエラの髪が、若干くすんでいた金髪がこうまで綺麗になりますか…。正直なところ、自分にもう少し錬金術の才能があれば、あの時選ばれていたのかと思うと後悔しかありません。」
「私もです。いつもオーク油は保存瓶半分ほど無くなるんです。…それがたったの一掬いでこれだけ綺麗な髪になるんですもの。…ブルース、ケビン、譲ってもらう訳にはいきませんか?」
「あ、ああ。余っているから使うといいぞ。私は一度試しただけで十分だ。それにケビンの方も今後領で沢山作るんだ。問題あるまい。」
「お、おう。だからそんな血走った目で見るな、エレーナにマヌエラ。ちゃんと量も考えて使ったからまだまだ余っているんだからよ。」
「うふふー。それ程に良いものなのよー。私の髪もつやつやなのよー。くるくるするのは治ってないけど、サラサラになったのよー。…それに、良いことはそれだけでは無いのよー。これはポーションなんかと違って大量生産ができそうなのよ。」
「そう! そうなんだ! これは錬金術師ならという限定的な所はあるが大量生産が可能な錬金アイテムなんだ! それだけでも日々のポーション大量生産に喘いでいるものを苦しめずに一気に普及できる代物なんだ。ケビン、これは村3つじゃ本当に足りなくなるぞ。ほぼ全ての村の農閑期に育てさせないと生産が間に合わん。」
「獣人からの意見を言わせてもらいますと、殆ど匂いがしなくなりました。これなら獣人の女性にも受けます! 絶対に!」
「むしろ獣人の男性にもこれで体中洗わせたいですね。女性以外にもかなり活用できると思いますよ。」
「ケリーに同意します。これなら男臭い匂いも取れると思うので男性にも需要がありそうです。それに、これだけ手軽ならば貴族男性にも売れますよね。むしろ女性の方が貴族男性にも薦めるとみました。そうじゃないですか? マヌエラ。」
「…そうね。マーサの言う通り、貴族女性が貴族男性にもこの錬金アイテムを押し付けるわね。今の女性の義務の様に男性にも義務化されると思うわ。くすんだ髪なんかで社交に出る女性がいない様に、男性も立場のあるものは毎朝手入れをしているもの。上の方から使い始めるでしょうから、下も使わざるを得なくなりそうね。」
「私も髪がつやつやになったので姿見が欲しくなってきますね。金色の髪だと他の髪よりも光り方が本当に違います。…もしも銀色の髪の方がいたらもっと映えたでしょうね。」
「ケビン、私たちの分だけでも早めに生産できないか? 正直これを知ってしまうとオーク油には戻れる自信がない。」
「メラニー。流石にそこまでは無茶言わんでくれ。この後ここを出て領に戻るんだからよ。農閑期までどれだけあると思ってんだ。今はまだ種まきの前だから交渉次第で2か月先だ。流石にそれ以上は早くできん。…保存瓶1つで、毎日使って1か月持たないくらいだろうから、2か月後には2か月分ここの女連中の分は確保してやる。それで我慢してくれ。」
「…仕方ないか。オーク油と交互に使ってみましょう。それなら何とか持つでしょうし。」
「私もお茶会の日にはこれを使って参加しましょう。…他の子たちが目の色を変えるのを笑ってやるわ。」
「エレーナ、面白そうな事をしようとしているな。私も混ぜろよ。豊穣会のライバルゼミの奴らの所に行ってやるか。」
「メラニーも鬼ね。でも、面白そうね。次のお茶会は何時だったかしら。」
「お前ら俺の言ったことも忘れんじゃねえぞ。種油が供給されんのは最低でも2か月先だからな。見せびらかすのは良いが、供給元をしゃべるんじゃねえぞ。ブルース、こいつの報告書は何時頃学術院に提出するつもりだ? 遅らせんだろ?」
「ああ、5年後に報告書を出すつもりだ。それまでに種油は盗まれるだろうが、相手もまさか錬金アイテムを使っているとは思うまい。精々種油がバレる程度で済むだろう。私もまさか美容系統の錬金アイテムを作ることになるとは思ってもみなかったからな。」
「うふふー。このまま美容系統も何か考えてみましょうかー。ヘルマン君も何かいい案があったらいうのよー? まだ錬金はできないでしょうけど、案を出すくらいならできるくらいには才能があるみたいだし。この構想もヘルマン君の構想だったもんね。」
「僕も早く錬金術を使ってみたいんですよね。刺繍糸がそろそろ足りなくなってきたので早く錬金をやってみたいです。」
「あらあら、それなら今ここでやっちゃいましょうよ。幸いにも先生は沢山いるもの。糸と魔力茸があればできるわよー。ヘルマン君、準備はしてそうだから持っているでしょう?」
「持ってはいますがいいんですか?」
「後輩の指導もゼミの仕事の一環だもの。さあさあ錬金陣を出して出して。」
先に教えて貰えるのであればラッキーだな。早速机の上に簡易刺繍の錬金陣を敷く。その上に20mの糸と魔力茸を一つ乗せた。後は魔杖を持って準備完了だ。
「ほう、六芒星の変則形か、…交点は13と。中々に良い錬金陣を貰っているじゃないか。」
「あー、私の錬金陣と似ているけど、私のは交点が12だから出力ではちょっと負けかな。」
「そう言えばガブリエラも六芒星だったか。私は五芒星だからな。星7つなんだから贅沢言わないの。」
「さあさあ準備ができたみたいね。それじゃあまずは魔力茸を魔石に変換するのよ。こうくるくるーって魔力操作で魔石に固めるのよ。」
「セレナ女史、流石にその表現は…。ヘルマン君、魔力茸にある魔力をまずは引き出して操作するんだ。魔力茸に一度君の魔力を流し、それから素材から魔力を引き出すんだ。それを1か所に留める様にして魔石に固める。失敗しても問題無いから頑張って見るといい。」
感覚派と理論派と色々とありそうだな。…まあそれはさておき、魔力茸に魔杖の先を当てて魔力を魔力茸に流し込む。…これが魔力茸の魔力だな。これを引き出す様にしてっと、おお、なんかもやもやとしたものが出てきたぞ。…そんで魔力茸は塵も残さずに消えて行った。…まだ失敗はしていないよな? このもやもやを1か所に集めて固める。押し込む…違うな。…くるくるーっだっけか。回してみようか。おっなんかいい感じだぞ。そのまま回し幅を狭めていき、最後に一気にドンとして何とか魔石になったみたいだ。
「ほう、はじめてにしては上出来だ。さて、ここからは魔石に魔力を流し込んで魔石を液体のように溶かすんだ。先ほどは気体のようになっていただろう? 今度は液体だ。水をイメージしなさい。そしてその水で糸を濡らす様に魔力を浸みこませれば刺繍糸の完成だ。さあ、やってみなさい。」
「そうそう、魔石をさらさらーっとして糸にぎゅっとして最後にばっとして終わりなのよー。」
「ねえ、セレナさんって先生として授業に出てたっけ?」
「…確か出ていたはずだ。これでは超感覚派の人間しか解らんのではないか?」
「まあ、できなければある程度の授業を熟すでしょうから良いんじゃないかしら。この教え方が合う人もいるはずよ。」
「? セレナさんの教え方って解りやすいでしょ?」
「…ほらね。」
「…であるな。マーサも感覚派とは。」
外野はほっといて魔石に魔力を流して液体にするっと、おっと放っておくと気体になりそう。液体になれー、液体になれー、っと僕は理論派と感覚派の合いの子っぽいな。セレナさんは超感覚派っぽいけど。そして糸にじわりじわりと浸み込ませていく。んで最後にばっとして終わりなんだろ。一気に圧を掛けてみようばっと、っとと終わったかな。
「ふむ、初めてにしては上出来だな。基本はその感覚を忘れないことだ。…教え方は人それぞれだからできなかったからと言って自分を責めるようなことはせずに何度も講義に出てみればいい。恐らく自分に合う教え方の者がいるはずだ。」
「解りました。…なんとなくですが僕は理論派と感覚派のハイブリッドのような気がします。」
「そうか。まあ、できたんなら大丈夫だろ。さて、今日の集まりでこの種油は早々に準備しないといけないってなったわけだから、明日には俺はいったん学術院を出る。その間の運営はブルースに任せる。…まあ俺も副ゼミ長としては何もやってないんだけどな。」
「ああ、任されよう。今日の集まりはこれで仕舞いだな。他に何かある奴はいるか?」
「じゃあ私から。ケビン、私の作った作物の種も持って行っていいよ。農村で育てて結果だけ教えてくれたらいいから。領の発展に繋がれば良いんだけど。」
「あ、私のも持ってって実験してきて。」
「明日の1時までに正門に持って来い。一切合切面倒見てやるって約束だったからな。」
ケビンさんに何を渡すのとやいのやいのと言い合っている。そう言えば畑の物は勝手に取って行ったら駄目なんだよな? 実験場も兼ねているから。幻玄派の所に沢山快命草があったから取りたいんだけど、駄目なんだろうか。…聞いてみるか。
「すみません、この畑兼実験場について聞きたいことがありまして。」
「なになにー?」
「何処までが勝手に使っていいラインなのか解らなくて、幻玄派の所に快命草が沢山生っていたのでとってもいいのかと思いまして。」
「…えっとね、ブルース。」
「…ああ、基本手前半分に生えている素材や作物は採ってもいい決まりになっている。幻玄派の快命草は授業でも使うから勝手に採っていい。ただし、奥の物は実験で育てている奴だとか色々あるから支柱か何かを建てて名前を書いてあるから解ると思うがな。あとは、手前の建物も壊すのは禁止だ。授業で使うから、また作り直すのは面倒だという判断だな。奥のものは壊しても文句を言わない約束になっている。授業の前に更地にするから重要なものは授業をやっていない時期に実験をするといい。」
「解りました。ありがとうございます。」
幻玄派の快命草はとってもいい快命草っと。ポーション作ったり色々とやってみよう。この後時間あるから採取していこう。そうしよう。奥でケビンさんが容量オーバーだー、とか言っているが、まあいいだろう。リンスインシャンプーは名前を何にしたんだろうか。報告書の名前は個人個人で違うんだろうし、僕はとりあえずリンスインシャンプーとして覚えてしまおう。そのうち錬金術大辞典に載るかもしれないし、その時考えればいいや。そんな訳で、快命草を採取しに、5番棟0304号室を後にするのだった。
面白かった面白くなかったどちらでも構いません。
評価の方を入れていただけると幸いです。
出来れば感想なんかで指摘もいただけると、
素人読み専の私も文章に反映できると思います。
…多分。