51話 13歳 2月11日 ゼミの日 オーモンド伯爵領は実験場? 髪を洗う錬金アイテム、月に惹かれた子
なんかPVが一気に増えたので、もしかしたらと思って確認したんですが、
日間ファンタジー異世界転生/転移ランキングBEST300にランクインしてました。
読んでくれている方、評価をくれた方ありがとうございます。
…ランキング低いからか知らないけど、こういうのって通知来ないんですね。
お茶会中のゼミからこんにちは。まだまだ2月の11日ですよ。どうも、ヘルマンです。まだまだゼミの真っ最中。さてさて、小腹も膨らんだことですし、続きといきましょうか。…と言っても中々に難しい話をしている。治水なんかは解らんことが多すぎてふんふんと聞いているしかできない。セレナさんが淹れてくれたお茶は美味しい。その位しか解らない。まあ、僕は解る話だけ参加しましょう。特に食物の話。こっちは解りやすい。
「今育てている芋は土地が肥える特性を持っていることが解ったわ。ただし、その芋を連続で育てると豊作にはなるんだけど、今度は痩せ過ぎるということが解った。だからこの芋を育てる場合は何かの作物を挟む必要がある。そうすると土地が肥える、他の野菜が豊作になる。土地が肥える、他の作物が豊作になるというのを繰り返す作物ね。これも何処かの畑で実践したいわ。今空いている村は無いかしら?」
「王領を借りる訳だからそう簡単にはいかんだろ。麦には効果がないのか?」
「残念ながら麦には効果が無かったわ。耳にタコだろうけど、あれは一定以上の土地であれば必ず豊作になるっていう品種よ。一定以下にする方が難しいもの。芽生えの時期に快命草を放置しすぎなければ豊作になる品種なのよ? その麦をこれ以上豊作にすることはできないわ。」
「であれば申請をしても通るかどうか。今の王は農作物というより錬金術を軽視していらっしゃる。魔術師学校の方に注力しているという話だ。王領を借りるのは難しいだろう。」
「無能が王になると下が苦労するのよね。…暗殺とかできないかしら。」
「物騒なことを言うもんじゃないよ。今の王でも2代前の王よりまだましなんだから。」
「貴族至上主義を唱えた王だっけ? 何でそんな無能を担いだのよ7公は。…統治の才能があったからでしょ。解ってるわよ。統治の才能が無いと土地が痩せるんでしょ? しかもちゃんと王国だけ認識するんだから本当に才能って謎よね。」
「まあ、これに関してはオーモンド領でどうにかできないか?」
「家の領はこれから種油の生産に掛かるんだぞ、実験場を選ぶ手間がさらに掛かるんだが?」
「3つも4つも一緒でしょ? 野菜を主に作って貰うことになるだけよ。そうだ、いっその事、香草や香辛料も育ててもらいなさいよ。ヘルマンじゃないけど食文化が豊かになるわよ。」
「麦の配分もあるんだ。中々に難しいんだぞ、調整をすることは。農家にもいきなり他の作物を育てろと言うんだからな。中々に骨が折れる。それを野菜もやれというのは流石に無茶だ。」
「麦の供給さえ途切れなければ問題ないのであれば、行商人を多く抱えれば良いんじゃないでしょうか。各村に麦と野菜を交換するようにすれば、野菜を作っても良いという村も出てくるんじゃ無いですか? どちらにしろ麦は余っているんですし。」
「麦が余っているからと言っても、いきなり他の野菜を育てろと言われるんだ。反発が無い訳じゃない。」
「なら巻き込む村を増やしなさいな。麦を作る農家と野菜を作る農家に村の中で分けるのよ。そうすれば村の中で回るじゃない。納得する農家だけを抱えるのよ。そうすれば9つくらいの村で収まるでしょ。」
「それだと機密がなあ。独占期間が短くなってしまう。種油の貴重性を考えれば余り独占しない方がいいのかもしれないが…。」
「いっその事、領内全ての村で種油を育ててみませんか? 冬の間は麦の育てる期間では無いんですし、冬の間に種油の実が沢山取れるんじゃ無いですか? 専業で無くとも良いならやってくれるんじゃ無いでしょうか?」
「流石に機密も何も無くなるだろう。種油も只じゃ無いんだから。」
「いえ、平民にも使わせればいいんですよ。顧客が貴族だけじゃ無いなら採算は取れませんか?」
「平民にも油を使わせるのか⁉ …平民の女性でも髪をテカテカにさせたいのか?」
「できるならしたいわよ? 費用と手間が掛かるだけで。」
「そうよね。綺麗になれるんだもの。安ければ買うわよ。」
「錬金アイテムを作れないんですか? 種油を使って髪を綺麗に洗うことができる錬金アイテム。」
「良いわねそれ。油を付けるんじゃなくて髪を洗うっていうのがいいわ。それなら大量に作れる方法があるかもしれないわ。髪が光るように輝けば良いんだもの。油を付けるんじゃなくて洗うだけでいいならそっちの方が良いわ。」
「今から作るのか? 流石に直ぐにはできんぞ。」
「一応、構想はあるんですよ。種油と水流草か水泡茸かを使えば髪を綺麗にする錬金アイテムが作れるんじゃないかとは考えていたんですが、無理ですかね?」
「ちょっと待て、材料まで指定されたら流石に解るかもしれん。ブルース何か思いつくか?」
「…効果が出るかは解らんが、何通りかはできそうな気がするな。恐らくだが水泡茸の方が良いと思われる。」
「そうねー。種油と水泡茸ならできると思うわねー。効果のほどは1日待って欲しいわー。流石に構想を一度に処理するのは無理よー。」
「セレナ女史がいけるというなら問題あるまい。流石に星9つで無理なら無理だが、ヘルマン君、なかなかいい発想だよ。」
「そうねー。まあまずはこの種油を濾してみましょう。保存瓶で幾つあるかしら?」
「絞ったのは保存瓶5つ分だ。水泡茸はウーゼ塩湖で取れるから問題あるまい。5人に分けて結果は2日後なんてどうだ? 1瓶は俺が担当する。」
「ならば星が多いもので担当しよう。私とセレナ女史、ケビンにガブリエラ、それにメラニーだ。私とケビンも今日作ったら明日明後日と使用してここの0304号室に集まろう。セレナ女史とガブリエラ、メラニーも使って使い心地や感想を頼む。特にメラニー、君は元貴族だから成功してほしい。」
「私だってそこまで素材を指定されたらできるさ。…初めての錬金だからムラがあるかもしれないし、色々と調整しないといけないこともあるかもしれないけれど、できないってことは無いな。完成形のイメージはなんとなくだけどできている。」
「水泡茸と種油でできれば保存瓶当たり中銀貨3枚で取引出来るはずです。これはオーク油よりも安くなりますね。できれば大変ありがたいですわ。これなら平民でも手が出るでしょう。」
「匂いが無いなら獣人の女性にだって需要ができるよ。オーク油の香油は獣人からすれば匂いがきつすぎるんだ。匂いも錬金過程で付かないなら需要の拡大もできる。私だって憧れてたんだから。」
「ですね。この油の匂いがそのままならば獣人でも使えます。私も使いたいです。」
さてさて、僕の構想のせいで、あらぬ方向に議題が飛んでいったぞ。土地を肥やす芋の話から、実験場の話になって、野菜の話になり、オーモンド領で実験できないかの話になり、種油の生産の話になり、僕が爆弾投下で平民にも使える錬金アイテムの話になり、材料的にいけると判断した人たちがじゃあ実験しようって話になり、匂いが無いなら獣人も使いたいとの話になった。着地点は、とりあえず、髪を綺麗に洗う錬金アイテムを作ることに落ち着いてしまった。どうしてこうなった。
「ならば2日後、13日の朝2時にここに集まろう。とりあえずこの話はここまでだ。」
「うふふー。楽しいことになって来たわね。やっぱり新しい人が増えると活性化するわねえ。」
「やっぱり君を誘ってよかったよ。なんたって幻玄派に新しい風を巻き起こした張本人だからね。」
「何と、あの発見はヘルマンが見つけたものだったのか!」
「運もありましたけどね。」
「運も錬金術師には必要よ。どんな材料と巡り合うか、どんな素材と巡り合うかは運だからね。」
「じゃあ、他の議題がある人は申告してねー。」
「じゃあ、私から。私の作っていた野菜の実験が終わったのよ。味も安定したし、年中とれるようにも調整した。後は畑と農家が欲しかったんだ。私の作物もついででいいからオーモンド領で試させて欲しい。あくまでついでに広げるだけでいい。」
「お前も俺に仕事を振るのか…、まあいい。その件は2日後の錬金アイテムが成功してからだ。成功したら他の作物もついでに一切合切畑を貸してやる。この際領地が豊かになるんなら全部持って行ってやらあ。」
「おー、オーモンド領が大発展するんじゃないか? …ついでに聞いておきたいが、オーモンド伯爵領は水属性の霊地か魔境、水泡茸が取れる場所はあるのか?」
「ああ、ある。水の魔境も霊地もある。水泡茸も取れるから心配すんな。この事業で大儲けしてやるつもりだ。」
「ならついでに物流網も作ってしまいませんか? 行商人を領主付けにしてしまって領内各地を麦や野菜を運んでもらうんです。領主様が大商会を運営する形にしてしまうんですよ。」
「なんだそれは? 行商人を領地に紐つけるのはまあ解った。物流網ってのは?」
「村なんかだと、肉なんかは中々食べられないんです。だから麦や野菜を売った金で肉を買うようにさせれば良いんです。どうせ香辛料なんかは麦よりも高く買って運ぶんですから。買った分を村にネズミ肉や鶏肉、兎肉を売りに行けばいいんですよ。そうすれば、農民の食事も改善されます。」
「そういや、村で肉なんて殆ど食べて無かったな。狩人が偶にお裾分けしてくれる時くらいだ。」
「ですね。殆ど麦粥と焼き野菜でした。」
「そんな中、僕はこの度粉ひき所を作りました。それを村まで普及させるんです。そうして村の食生活も改善していけば村も余裕が産まれるし、子供もその分産まれるでしょう。…そして、平民にも文字の読み書きを覚える様に領主様からお触れを出すんです。そうすれば最低ラインの冒険者の数が減るし、人口も増えるしで万々歳になると思うんです。」
「ちょ、ちょっと待て待て。色々と家の領を引っ掻き回し過ぎだ。…だが、面白いじゃねえか。人口が増えるってことは才能が多いものも産まれやすくなる。そうすれば、家の領の魔境で騎士爵や魔導爵が出やすいってんだろ? 村なんかで文字を教えるのは教会くらいしかねえ。そこでついでに祈らせろって話だな。なら冒険者の質が上がるから誰も損しねえって話なわけだな。…だがよ、今町でやっている雑用はどうする? 低価格で受けてくれる冒険者が少なくなるぞ。」
「そこは勉強しない奴もある程度出てくると思いますからそう言う奴らにやらせます。…そして、小金を持った冒険者がいれば町の物価が多少上がったって金払いのいい冒険者の方が多くなると思うんです。金を払う方だって出すよりも入ってくれば良い訳です。」
「だんだんお前の頭ん中が読めてきたが、とんでもないことを考えてやがるな。最終的には冒険者を無職と扱わない様に、税金を行商人程度の価格の感覚に変えさせるつもりだな。そのための物流か。確かに使える冒険者が増えるんなら衛兵に雇ったっていいし、行商人にしたっていい。領都だって空き家が無くなるどころか広がる可能性まである。…何なら村と村の間に町を新たに作ることもできるかもしれねえ、将来的にな。まあまずは村を町にすることからだろうがな。…なんだよお前の頭ん中は。おもしれえ。全部が全部できるとは思うなよ。だが、話はしてきてやらあ。何かは導入できるかもしれねえからなあ。」
「僕だってこんな夢物語、全部が全部上手くいくとは思っていませんよ。一部が上手くいけば、それでも少しだけ、大きく回っていくと思うんです。」
「ま、確かに夢物語よ。…話だけはしておこう。おもしれえ発想だからな。家の領が大きくなればそれでいいんだからよ。」
夢物語をああでもないこうでもないと話し合っている間に、年長者組がひっそりと話し合っている。
「ふむ、ヘルマン君は本当に平民か? 思考が領主貴族寄りではないですかね?」
「偶にこういう才能以外に飛び出た人間がいるのよー。ヘルマン君はそういう星以外の、月に惹かれてしまったのねー。長寿種には殆どいないのよ。人間だけ。思考が才能以外に飛び出ている子を久しぶりに見たわー。」
「…成る程、星以外の月に惹かれたですか。ならヘルマン君は料理の月にも惹かれたのかもしれませんね。」
「うふふー。月に惹かれたものは面白いのよー。常人とは違う、星10個と同じ意味で常軌を逸しているの。それが吉と出るか凶と出るか、それは受け取り手次第、月に惹かれたものは惹かれ続けるから、目に見えない何かに惹かれ続けるの。生き急ぐ人間の中でも特に生き急ぐ事が多い。波乱万丈の人生を送ることが月に因って定められているの。それを上手く捕まえれば莫大な富を得るかもしれない。進んだ文明を手に入れるかもしれない。そんな存在よ。」
「ふむ。…では、太陽神以外に星を振った者がいるかもしれないと言うことですか。」
「そう言っても過言では無いわねー。ただ何の神に幾つ星を振られたのか解らないから、月に惹かれたと表現するのよ。本当に人間は面白いわねー。」
「長寿種に少ないのは何故なのでしょうかね。」
「長寿種にも月に惹かれたものはいるらしいのよ。ただ、人間ほど生き急いでないから、激流のような流れが起きないの。私たち長寿種には生き急ぐという感覚が余りないから。…でもいるでしょう? 長寿種で生き急いでいる者たちが。」
「…不老不死を求める者たちですか。成る程、確かに人間よりも遅いが生き急いでいる。」
「そうよー。月に惹かれたものが近くに現れたときは、その流れに身を任せる方がいいの。その方が楽しいし、上手くいくことが多いの。」
「成る程、このゼミが大きく動き出したのも彼のおかげということにしておきましょう。これからどう行くかは見守っていきましょう。」
「そうねー。それが長寿種の役目でもあるのよ。激流の世の中を一部を切り取って残すものが必要なのよ。生き急ぐ彼の残滓をしっかりと取りこぼさずにいけばいいのよ。」
長寿種には長寿種にしか解らないというが、短命種には短命種以外にも解る者たちがいる。そして、その激流の中、波に身を任せながら見守る存在もいるということだ。ヘルマン君の激流のような人生はまだまだ続く。…途中で凪ぐかもしれない嵐が吹き荒れる。
面白かった面白くなかったどちらでも構いません。
評価の方を入れていただけると幸いです。
出来れば感想なんかで指摘もいただけると、
素人読み専の私も文章に反映できると思います。
…多分。




