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5話 2歳 初めての中金貨、お祈りを始めました。

誤字報告ありがとうございます。

 あれから20日ほどたっただろうか。今日も沢山採って帰って来たぞと村に帰ってくると、1台の幌馬車が置いてあった。…よく見ると馬の部分にケンタウロスのようなゴーレムが鎮座している。間違いない、錬金術師の行商人だ。さっさと成果物を売ってしまいたい。『エクステンドスペース』の容量はまだまだあるんだけど、小心者なので、捌けるのならば捌いてしまいたい。


 それにお金になるのは初めてではないが、まだ大銀貨までしか見たことがない。今の手持ちの量なら間違いなく小金貨まではいくのだ。初めての金貨獲得に心を躍らせながら、錬金術師の行商人の元まで向かった。


「すみません。錬金素材を売りたいんですけど、今時間いいですか。」


「ああ、いいよ。その歳で『エクステンドスペース』持ちかい? 手ぶらの様だが。」


「はい。『エクステンドスペース』は使えます。ちょっと待ってください。大量にあるので―――」


「ちょいと待ちな。大量にあるんなら明日にしておくれよ。今から1時間も2時間もだと日が暮れちまうよ。明日から数日この村にいるから、明日またおいで。」


「そう…ですね。明日また来ます。」


 …そうか。今のこの量の検品を済ますだけでかなりの時間を喰うのか。僕的には頑張って採取した物の成果が見れると逸っていたが、時間も時間だ。多分あの量を検品してたらすっかり夜になってしまう。逸る気持ちを抑え、帰路へと就く。そして家に帰ったらまた何時もの仕事だ。こればっかりは、末っ子の仕事なので僕に弟か妹が出来ないと代われない仕事なのだが、どうも僕で打ち止めのようだから、6歳の星振りの儀まではずっと僕の仕事だろう。仕方ないがこれも試練だ。試練を乗り越えた先には、必ず錬金術師の才能に少なくとも星1つは振ってもらえるだろう。こればかりは神に祈るほかない。


 次の日の朝、いつもと変わらぬ朝食を食べて、朝の仕事を終え、錬金術師の行商人の元にやってきた。今から初めての大規模買取に昨日から冷めやらぬ興奮を抑え、元気よく機嫌よくここまで来た。


「おはようございます。錬金術師の行商人さんいますか?」


「ああ、いるよ。ちょいと待っておくれよ。」


 よいしょっとっという掛け声とともに幌馬車の奥から顔を覗かせた。髪がぼさぼさで今起きましたと言わんばかりの顔だったが、問題なく買い取りは行ってくれるようだ。安心して素材を出そうとすると「ちょいと待っておくれよ。」と僕の首に何かを掛けた。…? 何かのアイテムなのだろうか? どんな効果があるのだろう。


「それは嘘を吐くと赤くなるアイテムだ。大量の検品の時は一応着けさせるのさ。万が一嘘を吐かれると、こっちが大損をこいちまうからね。さあ、沢山あるんだろう? さくさく行こうか。」


「はい。えっと、順番に出していきますね。まずは魔力茸から―――」


 山のようになる保存瓶をどんどんと積み上げていく。全部10ずつ入っていると説明しながら、『エクステンドスペース』から保存瓶を出していく。まだ、手に取らないと『エクステンドスペース』から取り出せないと謝りつつ、土竜の爪草、黄鐘茸と次々に素材を出していく。それを楽しそうに出す僕と、これまた楽しそうに数を数える行商人。最後の網目蔓茸の保存瓶を出して「以上です。」と言いやり切った感が出る。こう、今までの成果って感じですごく楽しい。…素材を検品しながら出す作業で2時間かかっているのだが、それはご愛敬と言う奴だろう。


「いやー、久しぶりの大商いだねえ。やっぱり霊地ヨルクの林の採取物って言えばこうでないとね。せっかくの採取地が今まで泣いていたんだから。やっぱりこう笑顔にさせてくれんとね。…さて、査定だったが、中金貨1枚と小金貨2枚で手を打とうじゃないか。特中の特は無いにしても、これだけの素材だ。多少は色を付けておいたよ。」


「中金貨! わかりました。それでお願いします!」


 首に掛けられたアイテムを返しながら、中金貨1枚と小金貨2枚を貰う。おお、これが金貨か。初めて見たな。と悦に入りつつ、保存瓶にお金を入れる。もうこの保存瓶が財布のような物になってしまっているが、しょうがないじゃないか。便利なんだから。中のものが劣化しづらくて、割れにくいとあれば、誰だって財布代わりにしたくなるだろうさ。現にこの行商人さんも各瓶にお金を分けていれているらしく、中身いっぱいの中金貨の保存瓶からお金を出していた。…この錬金術師の行商人さん、凄く儲かってるんだね。


 さて、無事売買を済ませた僕だが、気になったことを聞いてみたいと思います。なんで錬金術師が行商人をやっているのか。人生いろいろあるだろうが、なんでまた行商人なんだろうか。もっと違う道があったのではないか、そう思うのだ。


「なんでって、それが親との約束だったからね。僕はね、商家に産まれたんだよ。それが錬金術師の才能に星が振られてね。舞い上がった父が王都の錬金学術院に僕を入れたんだ。そして錬金術を学んで商売に活かせってね。そんな訳で考えた結果、行商人をやることにしたんだ。元々旅行なんかを趣味にしたいと思っていたんだ。今はこうやって趣味の旅行をしながら商売をやっているって感じだね。あ、商売も本気でやっているよ。こう言ってはなんだけど、錬金術は使うのにも維持するのにも金金金だからね。貴族でもない限り、何か商売をやっていかないと食っていけないよ。」


 ふーん、商家に産まれたから行商人ねえ。行商人も楽しそうだな。将来錬金術師になって何がしたいかってのも考えとかないといけないからな。どんなことが錬金学術院で学べるかは解らないけれど、きっと楽しいものになるだろうさ。


 商売の話はもう終わりにして、今日も今日とて採取採取と行きましょうか。最近は指方魔晶石の首飾りがあるおかげで帰り道がわかる。だから今まで北にしか行けなかったのが東に西にずれても問題ないし、林の切れ目も気にする必要もない。


 それに、採取の要領だって20日もしていれば覚えるってもんだ。さしあたっては、泥濘蔓苔の採取は一切しなくなった。だって干すのが面倒なうえに金にならないときた。今後、錬金術師として活動するのに必要かもしれないので、自分で使う用に数十程瓶に詰めておけばいいかと最近は思っている。だから笊の数は10から増えていない。乾かす3日間、10以上あっても邪魔なだけなのだ。だから笊があるときだけ採取するようにしている。


 後は魔力茸の見極めが上手くなったことだろうか。比較的遠くからでも魔力茸は見つけられるようになっているし、属性の見極めは簡単だからさくさくと魔力茸を収穫している。まあ、属性があっても殆ど闇属性だけどね。後していることといえば、木の北側の付け根辺りを確認することにしたってことくらいか。


 このヨルクの林の苔の中に闇暗中苔というのがある。これは日光に弱く、少しでも太陽に当たらない場所に生すようだ。真っ黒な苔だから見分けがつきやすいし、だから木の北側の付け根部分を観察する癖がついた。この苔は瓶1つで行商人価格で大銀貨2枚からという破格の価値を持っている。今回は売らなかったが、現在1瓶だけその苔を持っている。幽明派に売れば金貨にでもなるかもしれないと言われてとっておいてあるのだ。


 行商人が特中の特がないって言っていたのも、かなりの高値が予想されるものはキープしてあるからだ。特中の特のなかのもう一つが闇甲穴茸という真っ黒な傘に白の斑点があるのが特徴のキノコだ。これも闇属性が強いらしく、これまた幽明派に高く売れるというお墨付きを貰っている。一応、行商人価格で1本当たり大銀貨4枚というこれまたいい値段で取引されている。これも5本ほどキープしてあるのだ。…この林は幽明派の聖地なんではなかろうか。幽明派が涎を垂らしそうな素材ばかりがあるのだが。


 まあ、そんな訳で必然的に魔力茸を大量に採取するのだが、一向に無くなる気配はなし。沢山湧いてくるお金を瓶に詰め、今日も木の北側に目を向ける。もうこれは癖の領域まで昇華させた。採取からの確認。これさえ怠らなければ、この林で億万長者も夢じゃない。


 …そろそろまた保存瓶のストックが心もとなくなってきたから、明日当たり、ジュディノアに顔を出そう。そして保存瓶を注文して、またその次の日に顔を出そう。ここのところそれの繰り返しだ。保存瓶の注文と同時に雲母茸の買い取りも行うのだが、毎回かなりの量を納品しているのだが、それでも余裕の表情で買い取りを行ってくれる。大変ありがたいことだ。


 錬金術師は金が要るということは、行商人さんからも聞いた。錬金術師だけじゃない。何をするにしたって金は必要だ。…この村で生きていくというのなら、もう十分に稼いでいるに違いない。だが、錬金術師として生きると、星振りの儀が終わる前から決めているのだ。この努力は、必ず神様も見てくださっているはず。必ず錬金術師の才能をくれるはずだ。


 そう信じながら、いそいそと魔力茸を回収する作業に戻る。夢を語るのは若者の特権。されど、力なくばその夢も脆く崩れ去るだろう。金なくばその夢も遠く遠くまで行ってしまうだろう。全ては錬金術師になるために。今日も今日とて金という力を貯める日々を送る。


 そういう努力家には、必ず天にいる神様が見ていてくださる。今日もまた、良いものを発見した。闇暗中苔の上に生える真っ黒なキノコ。闇天紋茸だ。闇暗中苔という珍しい苔に生えるさらに珍しいキノコだ。特徴は闇暗中苔の上に生えることと、真っ黒なこと。聞いている行商人価格で1本当たり小金貨3枚。かなりラッキーな日だ。出すところに出せば、これ1本で今日の稼ぎ以上になる可能性を秘めているキノコ。有り難く苔ごと回収し、次のキノコ探しに精を出すのだった。


 そこら中の素材を根こそぎ頂戴いたしまして、そろそろ帰る時間だ。僕は指方魔晶石の首飾りに魔力を流し、母さんの持つもう片方の方へ歩いていく。林の切れ目や方角を気にしなくてよくなったのは大きい。好き勝手に移動しても必ず帰る方角を示してくれるアイテムがあるからだ。錬金術師になればこんな不思議便利なアイテムが、僕にも作れるようになるんだろうから、早く錬金術師になりたいなあ。


 家に帰ってきて、いつも通りの仕事をこなし、…今日は麦粥に肉が入っているな。猟師さんと野菜かなんかと交換したんだろう。何時もより少し豪華な夕食を食べ、『エクステンドスペース』を空中に浮かべる訓練をしながら、そのまま意識を手放した。


 次の日の朝、昨日と同じ麦粥を食べて、自分の仕事をこなし、ジュディノアに向かって走る。今日は保存瓶の補充のことをジュディさんに伝えないといけない。…まだ余裕はあるけれど、後4日も持たない量しかない。なるべく早く補充しておきたい。まかり間違って今日で使い切ることはないとは思うが、なるべく空き瓶をキープしておきたい。…前世の性格のせいなんだろうな。在庫がないと恐怖に駆られるというのは。


「ごめんください。」


「ちょっと待っとくれ!」


 いつも通りの返事が帰って来た。僕もいつもの定位置に移動して椅子に座る。…この店って成り立っているのだろうか。錬金術師の行商人さんが言っていたのは錬金術師はとにかく金がかかるとのことだったが、この店はお世辞にも繁盛しているとは言えない。ポーションにしたって買いに来た人を1人とて見ていない。それともなんか派閥によって違うのだろうか。


「いらっしゃい。行商人が来てただろう? 素材を売ってみたかい。いい値段になっただろう?」


「はい。中金貨1枚と小金貨2枚になりました。この調子で行けば錬金学術院の学費も払えそうです。…それとは別に、保存瓶1000個お願いします。」


「はいはい。小銀貨2枚よ。―――はい確かに。明日までには作っておくわね。」


「あの、錬金術師ってお金が沢山いるんですよね? …その、この店ってお客さんが殆ど来ないと思うんですけど。」


「ん? ああ、行商人に聞いたのかい。んー金は別に無くても私は何とでもなるかな。私の錬金術師としての仕事はマルマテルノロフの研究だし、研究結果、論文から研究資金を得ているのよね。それにここの林の素材を行商人に下ろすだけで十分な生活費になるのよ。マルマテルノロフの脱皮した皮なんかも土属性と風属性の素材として優秀だし、維持しないといけないゴーレムなんかもない。この店は半分この村のために開いているようなものだし、別段金がなくて困るってこともないのよ。」


 マルマテルノロフって前に見せてもらった幻獣だよな。それの生育研究で食っていたのか。…いろんな錬金術師がいるんだなあ。幻獣の研究なんかも仕事になるくらいには、錬金術師の世界は広いのか。…他にはどんな派閥があるのだろう。僕が知っている派閥は幽明派位なもんなんだけど…。


「あの、錬金術師の派閥ってそんなに色々あるんですか?」


「え? 派閥について? そうねえ、色々あるわよ。私は幻玄派よ。幻獣の飼育、生態調査、その他諸々の研究を主にやっているわ。王都にある錬金学術院にも偉い人たちがいるけど、大抵どこかの霊地にいるはずよ。私みたいに幻獣を飼っているのも結構いるんじゃないかしら。…マルマテルノロフの研究だけでも私の知る限りでは3人いるもの。このヨルクの林の周囲にある村に住んでいるわよ。他の派閥は、錬金学術院に行ってから知っても遅くないわよ。それか、大きな町の錬金ギルドにでも聞いてみるといいわ。その方が詳しく聞けるだろうし。」


 幻獣の生態調査をする派閥、そんなことも錬金術師の仕事になるのか。なんか幅が広いな錬金術師。行商人もいれば研究者もいる…僕はどんな錬金術師になれるのだろうか。


「まあ、坊やの場合はまず最初に星振りの儀だろうさ。…星振りの儀は神様が才能を振り分けるんだから、今のうちに祈っときなさい。強く祈れば望んだ才能を得たっていう研究も教会にあったはずよ。だから君のやることは、素材集めと資金作り、後は錬金術師への強い願いっていった所かしら。手伝えることは手伝ってあげるけれど、基本は自分でしかできないわね。」


 けらけらと笑いながらアドバイスをくれた。…星振りの儀は神様に願いが届くのか。採取に行く前と帰りに教会に寄って祈っておこう。錬金術師の才能が振られなければ何のために今まで、これからも努力をするのか分かったものじゃない。早速今日の夕方から祈ることを始めよう。


 それはともかく、今日は採取の日だ。雨が降らない限りは採取を続けている。…最近雨が少なくて両親は水やりが大変だと嘆いていたが、僕は採取ができるから雨なんて降らなくてもいいと思っている。しかしながら適度には降ってくれないと休みの日が出来ないし、キノコなんかは雨が降った次の日の方が沢山あったりするので、やっぱり適度には降って欲しい。この世界には雨季なんてものは無いから安心して採取ができるしね。


 …問題は冬だ。冬は多少雪が積もるくらいには寒い地域だ。この前の冬は兄弟皆で固まって過ごしていたものだ。今年は金もあるのだし、何か準備が出来ないかジュディさんに相談してみよう。何かあっても素材さえあれば何とかできるというのが錬金術師という認識でいる。困った時の強い味方、素材と金さえあれば問題を解決してくれるだろう。


 午前午後と沢山採取できた。昨日のように闇天紋茸が見つかったなんて幸運はなく、普通に魔力茸の大量採取といった感じだ。あ、闇甲穴茸は2本見つけた。こっちも高いが闇天紋茸は桁が1つ違うからな。高ければ高いほど見つかりにくい。これはどこでも真理だよなあ。


 採取の後に教会によってお祈りをする。まだ教会の扉が開いているから入って大丈夫だろう。礼拝堂の前に神父…シモンさんだったかな。礼拝堂の飾りや像なんかの掃除をしている。…ここの聖職者の人たち、1日中掃除してんじゃないか? 朝も掃除してたよな。ちゃんと回っているのか心配になるな。


「おや、お久しぶりですね。今日はどのようなご用件でしょうか。」


「はい。今日はお祈りに来ました。錬金術師になりたいので。」


「そうですか。それは良いことです。必ずや願いは神に届けられるでしょう。」


「はい。あの、これから雨の日以外の朝と夕方にお祈りに来ても大丈夫ですか?」


「はい、大丈夫ですよ。神の裾野はいつも開いておいでですから。」


 教会は太陽が上る前に開き、太陽が沈んで少ししてから閉じるそうだ。なら大丈夫だな。これから朝夕毎日来よう。…雨の日以外は。雨の日はなあ、仕事も休みにしてほしいんだけど、ダメなんだよなあ。濡れると寒いし、採取に行けないしでいいことがあまりないのがね。


 そのあと家に帰り、いつもの仕事をした後、肉の無くなった麦粥と焼き野菜のサラダを食べてから、『エクステンドスペース』を空中に出す訓練をしつつ、明日に備えて寝るのだった。明日はジュディノアで冬支度の話を聞いてこないとなあ。


 次の日の朝、いつも通りになった朝ごはんを食べて、朝の仕事をこなして教会に行く。昨日からの習慣だが、これからはかなりの頻度で来るはずだ。ジュディノアまでの通過点だし、行くのも簡単。ただお祈りだけはしっかりとする。どうか錬金術師に才能を振ってください。お願いします。


 お祈りをこなし、ジュディノアまで一直線。お祈り分だけ少し遅くなるが、それくらいなら何にも問題なし。鐘の音がなる扉を開けて。


「ごめんください。」


「ちょっと待っとくれ!」


 いつも通りの返事を貰った後、直ぐに保存瓶を仕舞いにかかる。前に500個の注文をしたときに、先に入れていていいよとの事だったので、片端から『エクステンドスペース』に仕舞い込んでいく。僕はまだ、『エクステンドスペース』を使いこなせていない。使いこなすと、空中で使えたり、物の出し入れに手を使わないでもよくなるのだ。…1000個もの保存瓶をしまうのも、手でやるには一苦労なのだ。早く手を使わないで出せるようになりたいものだ。瓶を『エクステンドスペース』に仕舞い込んでいる時にジュディさんが顔を見せた。


「大変だねえ。手での作業となると。早く使いこなしなさいな。」


「もちろんです。…この作業の後時間いいですか? ちょっと相談したくて。」


「相談? もちろんいいが、面倒じゃないと有り難いねえ。」


 そう言ってけらけらと笑いながら雑談をしつつ保存瓶を片づける。1000個の保存瓶を片付けるだけで小一時間もかかる。本当に、手を使わないで回収できればどれだけ楽か。


「んで、相談って何だっけ?」


「まだ言ってませんよ。あのですね、この辺冬に雪が積もるじゃないですか。林の中には冬に素材はあるのですか?」


「林の中には雪は殆ど積もらないよ。素材も年中とれる。その辺は問題ないさね。」


「それで、冬に採取に行くと寒いじゃないですか。寒さをどうにかする方法はありませんか?」


「んー、あったか布を首に巻いて服の中にも入れておけば多少はマシになるんじゃないかな。…作るかい?」


「はい、お願いします。…えっと、素材と材料が必要なんですよね?」


「よくわかってるじゃないか。布2メートル位につき火属性の素材1つで出来るよ。多分今回の行商人が扱っているだろうから、火属性の素材は手に入るだろう。布を扱っているかどうかは知らんが。」


「早速買ってきます。」


 けらけらと笑っているジュディさんを置いて急いで錬金術師の行商人の元へ、数日いるとのことだったし、さっき通った時にもいたからダッシュで向かう。今日出て行ったとかではないことを祈ろう。10分ほど走ってたどり着いた時には、まだ開店準備をしている途中だった。


「おや、素材を売ってくれた坊やじゃないか。今日もまた素材売りかい?」


「いえ、今日は普通に買い物です。あの、2メートル位の布を3枚と火属性の素材を3つください。」


「布と素材ね。ってと、あったか布の材料って訳か。いい着眼点だねえ。冬に近くなるとどうしても火属性の素材の需要が上がるからね。今から確保しておく方が賢いってもんだ。はい、布3枚に火炎草を3つだ。〆て中銅貨9枚ってとこかな。」


「わかりました。―――どうぞ。」


「はい、確かに―――おつりはこれね。またどうぞ。」


 そう言われ荷物を渡される。素材はちゃんと保存瓶に入れ替えてくれた。これらを『エクステンドスペース』に仕舞い込んで、またダッシュでジュディノアに戻る。これで冬の対策もばっちりだ。ジュディノアに駆け込んで作成の依頼をする。


「ジュディさん買ってきました。早速作ってください。」


「わかったわかった。でも先に雲母茸の方の買取査定をしようかね。浮かれてて忘れてたろ坊や。」


「あ! 忘れてました!」


 けらけらと笑いながらサクッと査定を済ます。基本10本ずつ入れてあるから査定も楽でいい。そして布3枚と素材3つを渡して作成費を引いてもらう。すると、おやって感じの顔をされた。


「坊や、3つも作るのかい?」


「はい。2つは家族にあげようかと思って。」


「そうかい。いい坊やだね。」


 本当は人数分用意しようと思ったんだけど、それはやめた。布も決して安い訳でもない。麻か木綿かはちょっと詳しくないので解らないが、もしかしたらこっちの世界の不思議植物の可能性もある。が、結局のところは平民が簡単においそれと着飾れないのに家族分のあったか布を作ってもらったら、ねえ。他の人に何やそれやと聞かれるのが常ってもんだろう。


 特に子供。自慢から始まり、僕も私も欲しいと駄々をこねる。そういう未来が簡単に見通せる。だから両親の分だけだ。冬場になったら貸してもらうって感じで皆で使いまわすことだろう。…母さんにあげた、というか持ってもらっている指方魔石晶の首飾りの対の方も普段から着飾れない母さんにしてみたら嬉しかったみたいで、最近機嫌がいい。


 それが自分だけあったか布を持っていったらどうなるか。母さんの機嫌は家の中の居心地に直結するのだ。父さんはついでだ。多分兄姉用に取られてしまうだろう。しかし、僕がしっかりと自活できているという証明にもなるはずだ。…錬金術師を目指しているのをやめさせられたくはないので、っていう下心もありありなのだが。


 5分もかかってないだろうか。若干黄土色に近い白色だった布が、薄いピンクに染色されて出てきた。…むう、布の色も変わるのか。多分あれだ、火炎草の赤いのが着いたんだろう。属性の赤かもしれないな。…本当に錬金術って面白い。


「ほら、作製費小銀貨3枚を引いてこんなもんだよ。大銀貨に届いてたんだから大したもんだねえ。また沢山取ってくるんだよ。」


 お金を受け取って、あったか布を3枚受け取る。…本当にあったかい。なにこれ。凄い不思議。布本体にほんわか温かみがある。2枚を『エクステンドスペース』に仕舞ってマフラーのように巻いてみる。まだ、身長が無いから1重だと地面を擦るな。確かにこれは服の中を通せば冬でもあったかそうだ。


 それはそれとして、採取はしっかりと行う。今日は色々と時間を取られたが、挽回しないと。魔力茸を回収しては移動し、黄鐘茸を回収しては移動し、また魔力茸を見つけては移動する。キノコってちゃんと探せば足元にも沢山あるってことが常だ。ただし、余りに小さいのは取らない。その見分け位は簡単だ。まあ、迷ったら取らないのが確実なんだけど。


 なんだかんだいいつつ、キノコ狩りをしていると時間が経つのを忘れる。そろそろ帰って教会に行かないと。…そんなときに限って、新しく魔力茸を見つける。サクッと採取するとまた視界に魔力茸が。帰ろっかなーと思うとつい素材を見つけてしまうな。…おっ今日もついてるじゃないか。闇天紋茸を発見。闇暗中苔も一緒に採取っと。帰ると思っても素材を見つけては採取してしまう。それもこれも貧乏が悪い。金持ちは金で解決するが、貧乏人は手と足で解決しないといかんのだ。産まれは選ぶことが出来んからな。


 採取しながら教会まで帰ってきました。時間はいつも通りのぎりぎりになってしまったが教会はまだちゃんと開いている。礼拝堂の奥まで行って、膝をついて祈る。どうか錬金術師に星をいっぱい振ってください。しっかりと祈ったら、自宅に帰り、いつもの仕事をして家の中に入る。


「母さん、はいこれ。あったか布。冬用の布だよ。父さんと母さんの分」


「まあまあ、今度は何かしら。あら、暖かいわね。いいじゃないこれ。でもまだまだ冬は先だから仕舞っておきましょうか。」


 そう言って母さんは押入れに仕舞い込んだ。うんうん、機嫌がいいことは良いことだ。これで冬場もぬくぬくなのを気にせず採取ができる。兄姉には我慢してもらおう。…どうせ父さんは剥ぎ取られるんだろうけど。


面白かった面白くなかったどちらでも構いません。

評価の方を入れていただけると幸いです。

出来れば感想なんかで指摘もいただけると、

素人読み専の私も文章に反映できると思います。

…多分。

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[良い点] 面白いです。どんどん読めていきます。
[良い点] ここまで読んでの感想 頑張った分だけお金が貯まって、少しずつ生活が豊かになって行くのは読んでいて楽しいです。 最初は確かに現実と照らし合わせて2歳と言う所に違和感はありましたが、作者が…
[良い点] 規則正しい生活、たゆまぬ努力、向上心、全てにおいて、2歳児に劣っている自分を鑑みてちょっと反省しましたww 異世界転生にありがちなチートが無くて、コツコツ努力してるところがとても好ましく感…
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