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48話 13歳 1月8日 黎明派ゼミ豊穣会、いきなりの粉ひき所

 地下の部屋からおはようございます。今日は1月8日です。そうです、豊穣会ゼミの日です。どうも、ヘルマンです。朝の日課の水浴びを終わり、食事をして今は部屋にいます。簡易刺繍も終わりまして、ちゃんとした刺繍、本刺繍としましょうかね、本刺繍は手を付けていますが、まだまだ終わりそうもないですね。魔杖の方の精霊樹の苗木は順調に育ってまして、1mを超えました。持ち手になりそうな部分はそこまで太くないので、僕のは長く細い魔杖になりそうです。楽しみですね。まだ葉っぱが付いているので、出来上がりではないので、出来上がったらどうなるのか分かりませんが。


 鉄迎派の講義もあれから毎日受けています。…まだ3時間ぶっ続けでは体力が持たないので倒れて気絶して授業を終わっているんだが。まだまだ鍛錬が足りませんね。鉄迎派には入ることはしないけど、鍛錬は確かに身になる。魔境に向けてしっかりと体力づくりをしていかないとね。


 さて、初めてのゼミなので少し早いですが、5番棟の0304号室にやってきました。時刻は1時40分、20分前だ。まあ、メラニーさんがいないと話がややこしくなりそうなんだけど。まあ、中に入って待つことにしましょうかね。


「お邪魔します。」


「はーい。あら、初めましての子ね。入って入って。」


 犬獣人だと思うんだけど、その人に案内されて空いている席へ、…メラニーさんはまだいないな。いてくれると有り難かったんだけど、まあいないのは仕方ない。借りてきた猫のように大人しくしていましょうか。部屋にいるのは9人、まだ増えるんだよね、始まってないんだもの。…まだかな、まだかな。


 2時になりました。メラニーさんは本当にギリギリに来ました。おー来たんだ、みたいな顔をされたのがなんでなんだろうね? 誘ったのはメラニーさんだぞ? まあいいか。それよりも時間だ。ここにいるのは僕を含めて15人。男6人に女9人という人数構成だ。女性の方が多いんだね。まあ、皆錬金術師、性別を考えているのか解らないが。時間だなという言葉と共に、男が話をし始めた。


「さて、新年の集まりだが、新顔がいるな。新年に新顔がいるのは珍しいが、一応自己紹介をしておこう。私はこのゼミの長、ブルース=キャンベルだ。君の名前を教えて欲しい。」


「はい、僕の名前はヘルマンです。今回はメラニー=カッセルさんに紹介されてここに来ました。1年生です。」


「ほう、1年生とは本当に珍しい。メラニー、彼にはこのゼミがどんなゼミか説明したのかい?」


「まあ、簡単にはね。年中とれる農作物や香辛料、治水を主とするゼミだとは伝えたよ。本人の錬金術師としてのあり方がこのゼミに近かったから誘ったまでだ。」


「まあ、伝えているのなら問題ない。ゼミの内容も知らないのに誘ったわけではないということは解った。…それで、1年生が錬金術師としてのあり方を持っているのは珍しいが、君は錬金術を何に使いたいんだい?」


「僕は錬金術で食生活を豊かにしたいと思ってます。」


「ふむ、食生活を豊かにか、確かにこのゼミとは遠からずといった感じだな。セレナ女史、彼も加えてよろしいか?」


「いいわよー。それにしても食生活ねー。農作物を作れればいいかなとは思っていたけど、具体的に食生活って所にはいったことが無いわねー、このゼミも。他のゼミでも知らないわー。でも食生活っていうのは確かに黎明派の教義の内容に含まれると思います。」


「では、セレナ女史の許可も出たこともあるが、反対の者は挙手を―――無いな。ではヘルマン君だったね。君の豊穣会入りを歓迎するよ。このゼミに残って研究するもよし、外に出て広めるもよし。錬金術師としてのあり方は色々だ。そのあたりは拘束するつもりはない。」


「はい、ありがとうございます。」


「では、去年から新たに着手したことや継続していることの報告があれば各自お願いする。」


「では、俺からよろしいか―――では、始める。」


 皆の研究の内容を聞いている。治水の方法、効率のいい水路の作成とかため池の作成活用方法とかわかりにくいことから、作物の種の作成とか今育てている作物の特性とかを色々言ったりしている。聞いていると錬金術って何でもできそうな気がするからやばいよね。色んな人が色んな事を発表すること4時間くらい。聞き専の僕も楽しくて4時間があっという間だった。というかそんな作物があるならなんで普及させてくれていないのかと思ったものもあったりした。冬でも育つ芋とかいいじゃん。芋は蒸したり焼いたり色々使えるよ。…蒸す料理ってまだ食ったことないんだけど。


 そんで一通り終わったのか僕に話が振られた、研究なんてまだ何もしていないんだけど⁉


「ヘルマン君は食文化を豊かにしたいといっていたが、今の食生活が不満なのか? 貴族のあれはともかくとして、平民の食事はまあ割と食えると思うんだが。」


「貴族の食事は食べたことないんですが、香辛料マシマシのお金が掛かった料理って事でいいんですよね? メラニーさんにも聞いたんですけど。」


「ああ、あれは酷いものだな。口の中が痛いし、臭いもきつい。もう少し量を加減してくれればいいとは思うんだけどな。」


「そうなんです。香辛料は加減をちゃんとすれば美味しい料理になるんです。それなのに香辛料って高いしで、平民食になっていないんです。」


「香辛料は年中とれるが、貴族用くらいにしか作っていないんじゃなかったか? 平民は痛いし辛いで余り食べていなかったと思うんだが。」


「まあ、あの味なら食べたくないのも解るがな。癖が強すぎる。保存には向いてるんだがな。」


「獣人にとっては匂いがきついものはそもそもきついんです。少量でさえ無理なものもあります。」


「それに麦粉だって平民には普及していないんです。麦粉って今はどうやって作っているか知りませんか?」


「麦粉か? 麦粉ならパンを作っている時に作るだろう? 確かゴーレムで砕かせていたんじゃなかったか?」


「ああ、寮の料理担当の者にゴーレムを貸し出していたと思うんだが?」


「そのあたりは他のゼミがやっていたんじゃないかね? 手作業だと面倒だと言っていたか。」


「メラニーさん、魔力操作の授業で使った奴を貸して欲しいんですが?」


「練習箱かい? いいよ。ここに出してもいいかい、ブルース。」


「ああ、許可しよう。」


「これで、こんなものを作るんです。この円柱の間の所にこうやって溝を彫って、で、支柱を伸ばしてここを車輪のようにしてこうです。そうすると、ここを回せばこの円柱の穴に麦が入って行って溝で砕かれて麦が粉になって出てくるといったものです。動力はアンデッドでもいいと思います。アンデッドの方がメンテナンスは要らないんですよね?」


「確かに回すだけであれば非力のアンデッドでも回ると思うが、…これでそんなに簡単に粉になるのか? 今のゴーレムよりも効率がよくなるのか試してみるか。よし、実験場で試してみよう。…そうだった、ヘルマン君はまだ1年生だったな。もう少し、詳しく解説してくれ、我々で作ってみようじゃないか。」


 そんな訳で、建屋2階建て位の風力式じゃなく、人力…、アンデッド動力の石臼を作ってみたんだが、思ったよりも食いついてくれたな。これが普及できれば平民でも粉物を簡単に作れるようになればって思うんだよね。そんな訳で、詳しく解説した。溝の向きを逆向きにした方がいいとか上の円柱をすり鉢状にして麦が入りやすいようにと色々と。そんで30分位説明したと思ったらさあ実験場に行こうと言うことで実験場に。すぐ裏にある奴は潰したら駄目な奴らしく、ある程度奥に行って魔杖を使って建物を改装していった。魔力茸や魔石をポンポン投げて魔杖を使って錬金陣を魔力で描きつつ、なんかよく解らんことをやっている。凄いことなんだけど、これが言葉にできない。語彙力が欲しい。


「さて、これでヘルマン君が言っていたものができたな。早速麦を入れて試してみよう。アンデッドは私の物でいいだろう。麦を持っているものは居るか?」


「麦なら僕が持ってます。」


「じゃあヘルマン君。麦を入れて見てくれ。」


 そんな訳で、不思議パワーでできたアンデッド動力の石臼が完成した。…早すぎるよ錬金術。便利すぎるよ錬金術。上手く行ってくれるといいなあ。


 アンデッドが上の階層で石臼を回す。とりあえず4体で回る様だ。すり鉢状になったところに麦を流し込む。…これで放っておいたら麦が粉になって出てくるはず。…出てきた。実験は成功だな。粉の受け口も斜めにしてあるから何とか1か所に集まってくれている。とりあえず保存瓶に入れているが、僕の麦粉だ、何に使おうかな。


「粉になったな。…効率はどんなもんだ?」


「正直解らん。ゴーレムでの効率を知らんからな。」


「食堂の方を呼んできましょうか。明水寮ならここから一番近いですし。」


「頼む。大急ぎで行ってきてくれ。」


 そんな訳で30分程待っていた。今も麦粉をどんどん生産してくれている。僕も保存瓶に沢山の麦粉ができてホクホクだ。とりあえずパスタを作ってみたいよね。卵は購買に売っているだろうか? 食材も結構売ってたからあるといいんだけどな。


「来たな。すまんが確認してほしい。これで麦を粉にしているんだが、効率はどうだ? 今までのゴーレムで作っているのとどのくらい差がある?」


 沈黙している食堂の人。これの効率の話をしているんだが、悪いんだろうか?


「どうした? 悪いなら悪いと言ってくれて構わん。」


「とんでもない! 何ですかこれは! 凄まじい効率です! 今までのゴーレムの何万倍も早いです。それにこんなに細かくなって、これがあればパンも作りたい放題です!」


「そ、そうか。それは何よりだ。」


「これの! これの実装は何時ですか?」


「うむ、実装は直ぐにでもできるが、幽明派の助力も欲しい。何しろアンデッドでも動力として使えるのだ。彼らの力も借りた方がいいだろう。」


「それなら私が行きましょう。アンデッドを沢山持っているものもいるでしょうし、この食堂の方の言い方ですと、他の食堂、延いては他の寮にも実装した方が良さそうですからね。」


「なら各自これの実装を各寮に行おう。…名前が欲しいな。ヘルマン君、これの名前は何にするかね?」


「え⁉ …そうですね。粉ひき所でいいんじゃないでしょうか。」


「粉ひき所か。…解りやすくていいじゃないか。では各寮の第3食堂近くの空き地に粉ひき所をとりあえず3箇所作ってくるように。」


「「「「「「了解。」」」」」」


 さあ、なんか規模の大きい話になって来たぞ。食事改革の始まりだな。粉が余ってくるってことは料理研究にも使えるだろうし、さあさあ料理人よ。張り切ってくれ。できれば美味しい料理を寮で振舞って欲しい。そうだな、麺とかいいよな。どうなるだろうか。しかし、即日実装か、行動が早いって素晴らしいな。


「さて、ヘルマン君には荷が重いだろうから、私の方から錬金学術院には報告しておこう。ヘルマン君の名前も入れておくから安心してくれたまえ。」


「何を報告するんですか?」


「この建物を錬金学術院の学術図書館に作り方なんかを詳細に描いたものを納品しに行くんだ。そして有用と思われれば、各錬金術ギルドに普及を願いに複写物が配達される。これの開発者のヘルマン君の名前が残ることになるな。賞金も多少出る。…半分は豊穣会に納めて貰う事になるが。本当はその辺の説明もした方が良かったんだろうがな。流石に今日来てこんな影響のあるものを作り出すとは思わなかったからな。」


「うふふー、ゼミ長の予想を超えて行ったのねー。でもうれしいわー。ここの所、報告の必要なものは作っていませんでしたもの。」


「そうだな。25年ぶりか? 私の記憶している範囲でだが、この前は香辛料の種の登録だったと思うが。有用なものが作られるのはいい。黎明派に所属していて一番気持ちがいい瞬間だからな。」


「今日はこのまま解散かしらねー。各寮に行くにも時間が掛かるでしょうし、作るにも1から作るでしょうから、恐らくもう一度集まる頃には夜になってしまうわねー。」


「…そうしましょう、セレナ女史。教室の方には私が残ります。一応帰ってくる可能性もありますからね。それに報告書も早めに書いてしまいたいですし。」


「任せるわー。それじゃあヘルマン君もまたねー。できればこんな発明をどんどんしてくれると嬉しいわー。」


「は、はい。全力で何かしら考えます。」


「そんな肩肘張らなくてもいいのよー。…でも人間だものねー。生き急ぐのも無理もないわねー。」


「セレナさんは…ドライアド、ですよね?」


「そうよー。人間よりも寿命が長いからねー、私たちは。」


「セレナ女史は豊穣会の創設者の1人でもあるそうだ。…当時の者たちはすでに亡くなっているから確認が取れないのだが、本人がいるからな。」


「私たちが最初に豊穣会を作る前は野菜だって種類が原種だったのよー。色々と改良して今の物になっているんだから。…年中とれるものだって簡単には作れないのよ。作れるけど味が悪かったりするのよ。なかなか思う様には行かないわー。私が作った物で広まっているもので有名なのは大綿花ね。あれはいい仕事したと思うわー。」


「大綿花も錬金術でできたものだったんですね。不思議な植物だと思っていたんですよ。」


「うふふー。そうよねー、不思議よねー。でも便利な物だし、布の生産も昔は難しかったから作った物なのよー。平民は昔は上半身に服を着てなかったのよー。私もそれが不便だと思ったのよ。だから作ったのが大綿花。平民だって着飾りたいものね。」


「成る程、歴史あるゼミなんですね。」


「そうでもないわよー? 長いだけなら沢山あるもの。爪跡を残せるゼミが少ないだけで。失くなってしまったゼミもあるもの。新しいゼミだって沢山有るでしょう? それもどれだけのゼミが次の世代にも受け継がれるかは解らないものなのよー。このゼミだってどうなることやら。」


「…次のゼミは何時とか決まってるんですか?」


「まだ決まっていない。次の予定は1か月後位だな。次のゼミの用紙を張るのも決まりがあるんだ。今のゼミが終わらないと用紙を張ってはいけない決まりになっている。…面倒だがそうしないと用紙で埋まってしまうからな。基本的にはその月の中頃に豊穣会はやるようにしているがな。今回は少し早かったんだ。」


「そうだったんですね。時間が合えばまた来ます。それまでに何か考えときます。」


「ああ、発表内容がある方がいいからな。無ければ無いで勉強になるだろう。」


 そんな訳で初めてのゼミは無事どころかいい感じに終了した。次のゼミまでに何かしら便利な物を考えておかないとな。現地解散になってしまったので寮に戻って本刺繍の続きをやりましょう。…ああ、晩御飯のパンの札が沢山になったのを見てにやけてしまったが、パンももっと進化してほしいんだよな。エールを混ぜるだけでふっくらパンになるんだもん。料理人よ、気付いてくれ。美味しいパンが食べたいんだ。

面白かった面白くなかったどちらでも構いません。

評価の方を入れていただけると幸いです。

出来れば感想なんかで指摘もいただけると、

素人読み専の私も文章に反映できると思います。

…多分。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いよいよ始まった感がありますね 人間は楽なほうに流れますから、食材が腐らなきゃ料理なんて発達しないでしょうね
[良い点] だんだんと新しいキャラクターが増えてきましたね。 [気になる点] 香辛料が高価だったのは、遠隔地から運ぶ物珍しさに加え、貴族の見栄の為や、商人が持ちあって出し惜しみ価格を吊り上げたからなん…
[気になる点] 主人公、最初はゴーレム作りたいっていってませんでした? 何の為に錬金術を頑張るのかは、はっきりさせた方がわかりやすいですよ。
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