46話 13歳 1月4日 魔杖の授業、錬金釜の授業
明水寮09001号室からおはようございます。今日は1月の4日ですよ。どうも、ヘルマンです。さて、朝シャンしたし、朝食を食べに行きましょうね。朝の食堂にはやっぱり何人かすでに人がいる。僕の分のパンは残っているのだろうか。…残っているな。じゃあパンとスープにしよう。粥とスープって微妙よな。汁物に汁っぽいものを食う。やっぱりパスタが欲しい。パンも酵母使ってない硬パンだし、食生活の向上は必須だと思うんですよ。エールをパン生地に入れるって発想が無いんだろうね。それか木の実の酵母を作るにも瓶が必要なんだよなあ。保存瓶で余裕なんですが、流行らせるってなると本当に伝手が欲しい。…豊穣会に貴族様がいると勝手に思っているんだが、農作物を流行らせようとした貴族様はいないのか? …そう言えば大綿花って年中とれる不思議な綿だったよな。もしかして過去の錬金術師の産物だったりするのか?
食事も終わって自室に帰る。さあ刺繍だ。空いた時間は刺繍を進めるぞ。ちゃんとした刺繍までに到達するのだ。そしたら授業よりも先に豊穣会で錬金術を教えてくれたりしないかなって思っていたり。そしてさっさと刺繍を終わらせてしまうのだ。毎日毎日刺繍をするのは辛いのです。
時刻は朝2時55分、2番棟0801号室に来ております。他に生徒さんも20人程いる。魔杖は憧れるよね。でも20人って多くないか? こんなもんなのか? 昨日の授業は2つとも僕一人だったのに。造命派の授業は人気なんだなあ。さて、先生も今来たし、授業を始めてくださいな。
「この中で新入生だけ手を挙げな。…正直にな。」
…どういうこっちゃ? ああ、2年生か3年生、はたまたそれ以上の人たちが精霊樹の苗木目的に来ている可能性があるわけか。その辺の確認なのね。…新入生は僕を入れて4人、結構在学生がいるじゃないか。
「在学生のは作るつもりは無いよ。自分で素材を買いな! それくらい自分で買えるだろうに嘆かわしい。さあさっさと部屋を出な。自分で素材を買え! 作り方を教えて欲しいってんなら残りな。」
ぞろぞろと出ていく在校生。…教えてくれた錬金術師さん、もう対策されているみたいです。…まあ、作り方さえ分かれば自分でも作れるんだから頑張ってね。先輩たち。
「さあ、残ったのは4人だね。そこから鉢植えを好きなの選んで持ってきな。持ってきたやつから精霊樹の苗木を作って教えるからね。」
さて、好きなの持って来いったってな、色々あるんだが、5日間の付き合いなんだよね。…どれでもいいよな。一番近場にあった口が丸い鉢植えを手に取って並ぼうと思ったらすでに4番目だった。早すぎじゃね? そんなに慌てなくてもいいんじゃないか? …まあいいけど。
「これが精霊樹の苗木だ。この根に魔石を抱かせて鉢植えに植える。一番初めの奴は詳しくやり方を教えてやるから後の3人は見ているように。」
…まあ、植木鉢があるじゃろ? それに魔石を置くじゃろ? その上に苗木を土に突っ込む様に置くじゃろ? 以上なんだが。何も難しいことはない。根っこをどうとかもない。とりあえず置いていくだけ。…難しくも何ともない。ほんとにこれでいいのか?
「簡単だろう? 簡単なんだよ。まあ1日目は苗木が落ちない様に気を付けな。後は5日間魔力をたっぷり吸った水をやるだけだ。人によってさまざまな形になるんだが、魔石の品質は低い。だからいい魔石を手に入れたら作り直すことをお勧めする。精霊樹の苗木の葉っぱが無くなったらそこで終わりだ。勝手に杖の形になる。短かったり、太かったりするが、それが自分の杖だ。まあ、今日の上級生の様に作り直しをするまでの間しか使わないだろうが、基本的には2個目も殆ど同じ形になるはずだ。それが不思議と持ちやすかったりするんだから不思議なもんさ。」
不思議だ、何で同じになるんだろうか。自分の魔力の質なのだろうか。まあそれはどうでもいい。4番目の僕にもしっかりと精霊樹の苗木が行き渡る。その場で錬金してくれた出来立てほやほやだ。だが平民寮は地下なんだが太陽の光は要らんのか? 光合成なんてものが必要じゃないのかと前世の僕が聞いてくる。
「日光に当てなくても平気なんですか?」
「ああ必要ない。平民寮でも不便なく育つ。そう言うものだからね。」
聞いてみたが、必要ないそうだ。植物なのに不思議だ。
「水の量もたっぷりあげていいんですか?」
「ああ、足りないと6日目7日目と葉っぱが残るからたっぷりやればいい。根腐れなんておこりゃしないよ。まあ、限度はあるが。ちゃんと土についてりゃ問題ない。良くて5日間で終わると考えていた方が良いかもしれないな。まあ、7日間掛かったとしても杖の効果はかわりゃしないよ。」
水もたっぷりで問題ないのね。むしろ足りない方を気を付けた方がいいんだろうか。
「まあ、2つ目からは自分で色々試行錯誤をやってみるものいいさね。まあ、それでも外見はあまり変わらなかったって研究結果が出てるがね。」
まあ、効果が一緒ならいいか。とりあえず『エクステンドスペース』にしまう。部屋に帰ってから水をたっぷり上げよう。魔力操作で魔力を水にやる感覚は黎明派で受けた魔力操作を参考にすればいいだろう。…魔石が無いから操作しにくいかもしれないが。まあ、なるようになるか。…あれ? 他の3人はもう帰ったのか? いないんだが。
「あの、もう帰ってもいいんですか?」
「ああ、いいよ。というより君待ちだ。君が帰れば私も帰れる。別にここで質問会をしてもいいんだが、さっさと水をやりたいだろう? 行ってもいいよ。」
「解りました。ありがとうございます。」
そんな訳で、1時間もしない内に授業が終わってしまった。…寮に帰って水をあげよう。鍋でもいいよね? このためだけに水差しを買うのもなんだし。お茶用の鍋を使おう。次は永明派の授業だから残っても良かったんだけど、特に話したいことも無かったしな。
寮の部屋に帰って来まして、お茶の葉を置いた横に植木鉢を設置。天井に届くまで伸びるようなら考えよう。とりあえず水をやろう。蛇口をひねり、鍋に水を貯めて、魔力操作で魔力をぐっと沢山入れる。…押しが弱いのか水の限界なのかあまり入って行かない。あの時の土にはガンガン入って行ったんだけどな。まあいいか。鍋一杯の水を植木鉢にゆっくりと注ぐ。ちょっと水はけの悪い土なのか…粘土っぽいのかな、余り浸透していかない。まあ、たっぷりって言っていたし、これでいいか。後の残った時間は刺繍だ。永明派の講義まで3時間ほどあるからね。授業にだけ遅れない様にすれば大丈夫。さてどんどん進めていくぞ。
時刻は6時55分頃、1番棟0802号室にやってまいりました。ちょっとギリギリを攻めすぎた。もうちょっとで遅れるところだったよ。まあ間に合ったのでセーフセーフ。今回も6人ほど受講生がいるな。2日目だからね、1番棟や2番棟から回るのが多いのかな? 僕は5番棟6番棟を1番先にいったからな。珍しいのかもしれない。…やる気が無かった幽明派の人もまさか初日に授業があるとは思っていなかったんだろうな。研究の方が気になっていたし。
さて、時刻は7時を指しました。まだ先生が来ていません。…他の受講生もざわついています。こんだけいるんだから教室を間違えたってことは無いよな? 皆見てきているはずだもの。まあ、待てば来るだろう。やる気の無かった幽明派の人は遅れずにいたんだけどな。それよりやる気のない人なのか。はたまたドジな人なのかどっちだろうね? そんな中ドン! と扉が開き。
「ギリギリセーフ! だよね⁉」
などと宣う先生、いやギリギリアウトですから。今は7時2分、まあ許そう。心は広くあるべきです。
「ギリセーフなので始めてください。」
そんな中ナイスなフォローが飛ぶ。満場一致のようですし、さっさと始めてくださいな。
「セーフならいいのよ! さ、授業を始めるわ!」
中々に豪快で元気な先生だ。人数を確認すると『エクステンドスペース』から大釜を7つ出す先生。7人分ちゃんとあってよかった。これで無いとかだったら取りに行かせただろう。…他の誰かが。
「さあ、1人1つ錬金釜を選んで頂戴。それから選び終わったらこの魔布とインクを持って行ってね。」
さて、一番奥に座っている僕は自動的に余り物を選ぶわけですが、大きさも殆ど一緒だし、選ぶ必要性があるのかすら解らない。余り物なので関係ないけど。そしてインクと魔布を貰う。魔布はあれだ。幽明派の時にやったあれだろう。刺繍するときに気が付いたんだが、徐々に薄くなっていくんだよね、錬金陣。持って帰った時に消えてたから驚いたんだよね。何故かずれもせずに同じ位置に錬金陣ができる仕様でよかったけど。でないと一度に刺繍をやらないといけないとか、適宜魔力を足さないといけないとかなら罠すぎる。インクは多分だけど、錬金釜用インクだろうね。錬金術大辞典に載っていたのを覚えている。でも大変だよな錬金術師も。誰が始めに錬金術を使い始めたのか知らないけど、釜も錬金陣も魔杖も無い所から始めたんだろう? 手探りでさ。素直に凄いと尊敬するね。僕なんて才能は貰ったけど、使い方すら解らなかったんだからね。
「さあさあ行き渡ったかな。それじゃあ魔布に錬金陣を映し出してみよう。魔力操作で魔布に魔力を流し込んだら浮かび上がってくるはずさ。そしたらその錬金陣をインクを付けた指で釜の底に描いてね。描けたら言ってくれたらいいよ。」
そう言う訳で、ささっと錬金陣を浮かび上がらせて釜の底に錬金陣を描いていく。こういう時は決まって才能に任せるといいと経験則だが解っている。魔布に錬金陣を浮かび上がらせる時も才能に任せたし、描くぐらいはやってくれるんじゃないかと思ってます。そして、思った通り才能さんが仕事をしてくれて、見事な錬金陣が描きあがりました。円も綺麗に描けているし、上等上等。これで刺繍も才能さんがやってくれれば文句は無かったんだが、刺繍は才能の範囲外だった。残念。
「先生、描けました。」
「はいはい、君は4番目ね。覚えておいて。今他の子見てるから。」
どうやら僕より先にできていた人がいたみたい。僕もそこそこいいペースでやったと思ってたんだけどな。4番目だったか。貴族様たちは先に錬金陣を知っていたのかな? ま、そんなに時間は掛からないみたいだし、いいか。…直ぐに来たし。
「はいはい、おー7つ星ですか。しかも交点が13点も。いい錬金陣を貰ったね。さて、まだ魔杖は持ってないよね。はいこれ魔石。これにありったけ魔力を注いで、釜に放り込んで。」
言われるがままに魔力を限界ギリギリまで注ぎ込み、釜の中に入れる。…なんか虹色の液体が湧き出てきたんだけど。…止まった。溢れはしなかったな。
「はいこれで錬金釜の完成だよ。この液体はこうして―――横にしてもこぼれないの。不思議でしょう? 君の授業はこれで終わり。次の子見てくるから帰っていいよ。」
そういって次の生徒の所に行ってしまった。…何とも忙しい先生である。まあいっか。終わったならさっさと帰ろう。そして刺繍の続きをしよう。刺繍も簡易刺繍の方は終わりが見えてきたんだよね。中々にいいペースで刺繍ができていると思うんだ。ちゃんとした刺繍はしばらく時間が掛かるとは思うけどね。さてさて帰りましょうね。
そんな訳で。時刻は8時過ぎ、絶賛刺繍の真っ最中だ。錬金釜も所定の位置に置いて錬金術師の工房みたいになってきた感じがするよ。授業のときは持ち運ぶんだろうけど。精霊樹の方はもう水が無くなってたので追加で鍋からだばーしました。足りないより多い方がいいみたいだからね。ちょくちょく確認した方が良さそう。昨日夕飯が11時を回っていたらパンがなくなっていたから、今日はちょっと早くいってパンを確保しましょう。粥にスープは合わない。切実にそう思う僕であった。
面白かった面白くなかったどちらでも構いません。
評価の方を入れていただけると幸いです。
出来れば感想なんかで指摘もいただけると、
素人読み専の私も文章に反映できると思います。
…多分。