45話 13歳 1月3日 刺繍の授業、ゼミの日にち
6番棟0703号室の中からこんにちは、今度は幽明派の授業ですよ。どうも、ヘルマンです。時刻は6時50分、10分前ですがすでに先生がいて凄く残念そうな顔をしている。生徒は他にいない。授業をしたくないのか、それとも人が少ないのが悲しいのか。…よく解らん、解らんぞ。
7時になりました。先生は動く気配はなし。…どうしよう。
「あの、時間なんですけど…。」
「そうねえ。はあ、授業をしないといけなくなってしまったわ。…はあ。」
「…。布に刺繍をするんですよね?」
「そうよー。これが魔布、こっちが魔糸よ。簡易刺繍ならこの量で十分だと思うわ。…あなた、錬金陣は?」
「六芒星の特殊型と言われました。交点は13です。」
「…いい才能ね。魔布に魔力を流してちょうだい。」
「はあ、では。」
そうして魔力操作をし、魔布に錬金陣を映し出す。…うんさっきと一緒だな。流しているうちに刺繍をしないといけないのか? …いや錬金陣消えないね。これでゆっくり刺繍できることは判った。後はいつでも刺繍をすればいいだけだな。
「ねえ、もう帰ってもいい? 研究の途中なのよー。授業面倒なのよー。」
「魔布と魔糸をもう1セットください。後、簡易刺繍の方法とちゃんとした刺繍の方法を教えてください。」
「いいわよー。簡易刺繍は―――こう。わかった?」
「はい分かりました。」
「ちゃんとした刺繍は――――――こう。わかった?」
「はい分かりました。」
「ねえ、もう帰ってもいい? 研究の途中なのよー。」
「…僕も自分の部屋でゆっくり刺繍したかったところです。」
「話の解る新入生で助かるわー。部屋のライトを消すから部屋から出てねー。」
「…解りました。では、失礼します。」
なんだか帰りたそうだったので部屋で刺繍しますか。別に見られながら刺繍する趣味があるわけでもない。さっさと帰ろう。…先に闇管理棟に行こう。明日の準備とメラニーさんが言ってた豊穣会の予定を確認しよう。
そんな訳でやってきました闇管理棟。字面が圧倒的に敵役。さてまずは1階から明日の予定と、明後日のも見とこうかな。明日は1番棟の永明派と2番棟の造命派の授業に行こうと思っています。理由は早い所錬金釜と魔杖が欲しいから。…我ながら単純だと思う。…しかし、錬金術をやっている感がどうしても他2つより強いんだよ。鉄迎派の戦闘訓練はどう間違っても錬金術というより練筋術だし、幻玄派の霊地の素材の扱い方って、さんざんやってきた採取方法の解説って事でしょ? それに1度でいいと言われる永明派と造命派の授業は早めに行っておいた方がいいんじゃないかっていう理由もある。…決して錬金釜と魔杖に引っ張られただけではない。少しは認めるけど。
そんな訳で探しましょ。えっと、お、造命派の早い方の授業を発見、1月4日、造命派講義基礎、準備物無し、2番棟0801号室、朝3時から6時。これだな。…永明派はこれか。1月4日、永明派講義基礎、準備物無し、1番棟0802号室、朝7時から10時。幻玄派と鉄迎派はーっと。こっちの方かな。うん、1月5日、幻玄派講義基礎、準備物無し、4番棟0701号室、朝3時から6時。んで鉄迎派、1月5日、鉄迎派講義基礎、準備物自身の武器、修練場、朝7時から10時。うんうん、まあ、修練場だろうね、鉄迎派は。一々教室に集合する意味は無いもんな。…これから修練したいときは朝3時か7時に修練場に行こう。鉄迎派の講義をやっているだろう。多分刺繍だけじゃあ辛いと思うんですよ。体を動かすことは良いことだと思います。
さて、5階にもやってきましたよ。…こっちも結構な皮紙張ってあんじゃん。皮紙って多分オークの皮紙なんだろうな。ゴブリンだったら緑になるっしょ? 色的に、後解体するのってオークが多い訳だし、必然的にオークになる気がする。…油落とすの面倒なんだろうな。オークの脂身は美味しいんだけど、皮紙にしようとすると面倒な気がする。…錬金術大辞典に皮紙用液があったんだよね。それに浸けてんのかな。大変だなあ。多分冒険者ギルドだよね。大量に解体とかやってるし。魔境の冒険者ギルドは普通の所とは違うんだよ。王都の北の冒険者ギルドもそうだったんだけど、無茶苦茶大きかったんだよね。東側は普通の大きさだったんだけどさ。
メラニーさんが言ってた豊穣会の皮紙もあった。8日後位じゃなくて1月8日だったけど、まあ誤差よな。8だけ覚えていたんだろうな。場所は5番棟の0304号室だ。結構上の階層だな。上の階層だからって何かあるのかは解らないけれど、おっきいゼミなのかな。何人ぐらいいるんだろうね。ゼミって言うか研究者っていうのは貴族が一杯ってイメージなんだけど、どうなんだろう。テーマ的には年中とれる農作物や香辛料に治水って言っていたし、平民がいてもいいようなテーマなんよね。一応、2時から11時と書かれている。…長いね? まあいいけど。
さて、確認も終わったし、帰ってチクチク刺繍しますか。とりあえず簡易刺繍は早めに終わらせるぞ。ちゃんとした刺繍は糸が絶対に足りないから錬金術大辞典から糸のレシピを後でちゃんと確認しておかないといけない。…まあ、初歩の錬金術ですら使えないのでそのあたりはちゃんと授業を受けて行けば解るんだろう。基礎さえ何とかなれば後は才能さんが何とかしてくれるんじゃないかな。
さて部屋に帰ってきましたよ。作業用の机に布を広げ、沢山ある椅子を重しにして魔布を押さえる。魔布がピンと張ってないと刺繍しにくい。この世界、刺繍枠も無いんだぜ? まあ、2m×2mの魔布に刺繍するのにどのくらい刺繍枠が役立ってくれるのか疑問ではある。頻繁に移動しないといけないからね、簡易刺繍だと。ちゃんとした刺繍の時は刺繍枠が欲しい。切実に。さて、針もちゃんと貰ってきているからチクチクしましょうね。………しゃべるとずれるので無言になります。では後程。
4時間ほど刺繍をひたすらしてました。簡易刺繍はそこまで細かくしなくていいんだよ。だから意外と早く終わりそう。もう外周の円の刺繍を終わらせたぞ。後は直線を6本刺繍するだけ。あと2日もあれば終わるんじゃない? …授業のある日は無理だけど、ゼミまでは終わりそう。いい感じじゃないか。
そして第一食堂にて夕飯を食べる。…すでにパンの札がない。仕方ない。粥とスープにするか。…まだ人が少ないからそれぞれ作るのも少ないんだろうな。そしてパンは麦粉がいる。どうやって粉にしているのか知らないが、石臼なんてあるのか? 無かったら悲惨だぞ。もし無いならゼミで早速発表できる材料ができることになる。食事を豊かにする錬金術師、あの時勢いで黎明派に入ってしまったけど、余り後悔はしていないんだよね。むしろ年中とれる農作物とかすでにあるなら教えて欲しいものだ。香辛料も研究しているなら何でそんなに高いんだ? まだできていないのかな。それとも貴族様だけが使っているのかな? その余りが市場に出てきている、そんなはずは無いよなあ。貴族が自分の使う分だけ作らせているというのが濃厚だな。そんで香辛料を作っている農家が行商人にも売っているんだと思う。そんで少量で貴族様が使っているからと行商人も高くして売っていると。…そして高いから小量しか使わない。そうすると美味しいものができるといった感じなのかな。想像だけどそんな気がする。香辛料だらけのご飯が貴族のご飯という絶望を知ってしまったからな。メラニーさんからの情報で。美味いもんを食えよなあ。なんで香辛料ばかりの料理が流行ったのか。
ご飯も食べ終わり、さあ刺繍の再開だ。チクチクするぞ、目指せゼミまでに簡易刺繍の終了。部屋が明るいから時間を勘違いしがちだけど、もうすぐ夜なんだよなあ。地下だし、明かりもあるしで徹夜余裕じゃないか? …眠いの我慢してまで刺繍はやりたくないけど。そんな訳でいい時間まで刺繍を頑張り、寝た。明日からまた授業に出るぞ。
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素人読み専の私も文章に反映できると思います。
…多分。