44話 13歳 1月3日 錬金陣の秘密、錬金術師の究極、食文化の錬金術師
明水寮の自室からおはようございます。今日は1月3日です。どうも、ヘルマンです。朝、いやまだ夜11時半頃なんだけど、起きたし朝でよし。朝から水を浴びるぜー。寒いけど、今まで体を拭くだけだったからな。今世では朝シャンなんてしたことなかったけど、水は蛇口をひねれば出るんだからやるよね、朝シャン。シャンプーなんて無いけど、体を水で流し、布で体を拭く。ふー、さっぱりするね。さて、朝ご飯を食べに行きますか。
食堂にはもうすでに何人かいた。…やっぱり貴族様は朝早いな。男ばっかりだな。女性は時間が掛かるのかもしれないな。まあそんなことはいい。今日のご飯はどうしようかな。…パンとスープにしよう。お願いしまーす。…と、パンは2個皿の上に乗っている。スープも温かいので温めてくれているんだろうな。有り難く頂いて、適当な場所に座って食べる。…パンは硬いな。酵母なんて入っている感じはしない。…が、とりあえず麦粉があることは確定なんだよな。これをパスタにしたいよね。そんでスープに入れて食べたい。スープはオーク肉のスープ。こっちは普通に美味しい。…でも骨で出汁を取っている感じはしないな、肉の油で美味しいのは美味しいが、ブイヨンもないだろうし、大変だもんな、出汁引くのも。10分も経たないうちに食事を終わらせて自分の部屋に戻る。
時刻は朝の1時、…早く行く分にはいいよね。学習棟の見学もしたいし、そんな訳で、明水寮を出て黎明派の5番棟0802号室に向かう。…ちょっと畑兼実験場も見てみたいので先に行ってみよう。学習棟の直ぐ裏だし、解らないことは無いからね。
そんな訳で、畑兼実験場に来てみました。…畑は何処だろう。なんかわからない建物が沢山あるんだけど、何の建物か解らない。中を覗いてみると普通の住宅みたいだ。…家を建てる実習かなんかで作ったまま放置してあるのかな。見本みたいな感じで。ちょっと奥まで行ってみよう。色んなところに色んな建物が建っている。2階建ての冒険者ギルドのような建物や5階建ての倉庫のような建物もある。色々あるなあ。こんなのを作るようになるんだな。黎明派も面白そうだな。
いい時間になって来たので0802号室に向かう。8階にあるのか1階にあるのか。多分1階だと思うんだよ。地下が09だったんだから。そんな訳で学習棟5番棟にやってまいりました。やっぱり1階が0800番台だ。直ぐに0802号室を見つけたので早速入る。お邪魔します。…誰もいない。まあ、まだ30分前だし、こんな早く来ないか。さあ、待っていよう。
そんな訳で現在授業開始5分前。…誰も来ねえ。先生すら来ねえ。まあ待つしかないよな。…そうして時間丁度、先生が教室に入ってきた。
「おや、なんだもう学生がいるのかい。なら授業をしなきゃいけないね。さて、1人なんだしこっちに来な。こっちで魔力操作の訓練だ。…しかしなんだね。最初の授業で魔力操作を選んでくるあたり、情報収集してきてるねえ。他の錬金術師に聞いてきたんだろう? 普通は永明派や幻玄派、造命派に行くのが多いんだ。でもここで正解だよ。魔力操作は基礎中の基礎。何をするにも魔力の操作が必須だ。ここでの訓練は絶対に無駄にはならないよ。」
「お察しの通り錬金術師の方におすすめされました。まずここだと。…ではよろしくお願いします。」
「ああ、―――これが魔力操作を学ぶ道具だ。ここに魔石があるだろう? ここに手を当ててみな。それでなんとなくでも解れば後は説明するより早いからね。」
「解りました。」
大きな水槽に半分くらいの土が入った物、大体大きさは2m×2m×2mの立方体だ。外側はガラスみたいな透明な素材で囲ってある。格子があるのではめ込んであるのか、くっついているのか知らないが、その透明な部分に不自然に魔石が埋まっている。とりあえずこれを触れば何か解るのだろうか。…ああ、成る程、土に自分の魔力が吸われている感じがする。これを手を動かす様に動かせれば、…!!! 動いた! おおなんだなんだ楽しいなこれ。土がうねうねと動いている。
「おっ、流石に情報収集をしてきている平民だけある。偶にいるんだよねえ、君みたいな平民が。この錬金アイテムの使い方が直ぐに判ったようだね。そうだよ。これはこの魔石の部分が魔杖の役割を持っている。さあ、自分の錬金陣をイメージしてみな。何かは解らないと思うが、とりあえず自分の才能に話しかけてみな。錬金陣を出してくれと。そうしたら浮かんでくるはずだよ。」
…いきなりそんなことを言われても、才能に話しかける? 身を任せろって事か? …ちょっと違う気がするな。剣の才能の時は身を任せて振るう感じだったが、今回は呼びかけないといけないような気がするぞ。…僕の才能さん、錬金陣を出しておくれ。…駄目だ解らん、才能に深く深く触れようとする。…これか、これが話しかけるって事なのか? 解らないけど、深く深く潜って行ってみよう、僕の才能の奥深くに。錬金陣を教えておくれ。
「…早いな。なかなかの才能だ。…円に六芒星。それも特殊型だな。君の錬金術師の才能は7つか。なかなかに振られているようだ。見てみな。これが君の星7つの錬金陣だ。」
目を瞑っていたのでどう動いたのか解らないが、とりあえず言われるがままに僕の錬金陣を見てみる。円があり、その中に六芒星、正三角2つの六芒星ではなく、三角形の底辺、平行になっているところが、1つ中心でクロスしている。しかも頂点が枝分かれしている。絵を言葉にするのは難しいがそんな感じの六芒星だ。しかし、なんで才能が星7つだって判ったんだ? しかも特殊型とは何だろう。
「どうして、僕の才能が7つだって判ったんですか?」
「ああ、これから説明していこう。まず、錬金陣というものは才能が1つの場合は円だけなんだ。そして才能が2つ3つと増えていく毎に円の中に線が増えていく。君のは円に直線が6本だから星7つの才能だと言ったんだ。…稀に自分の才能よりも辺の少ないものがいるが、そんなのは特殊な例だ。星を振られていてもそれよりも辺が多いことはないが、少ないことは偶にある。そういったものは錬金術師に向いていないと神に言われたのと一緒なんだ。まあ、これで才能が8つ以上だと言われたら神を恨んだ方がいい。それでも素晴らしい才能だがね。特に中心でクロスしているのが良いな。6つの直線がある場合、線が交わる数が一番多いのはどういう場合だと思う?」
「…えっと…形はめちゃくちゃですが15点ですか?」
「そうだ。15点だな。その交点の数が重要だと言われている。」
「僕のこの六芒星だと13点ですね。」
「そうだ、この交点が多ければ多いほど、恵まれた才能だということだ。星の数が多い方が確かに良い。しかし、交点が少ない錬金陣を貰ったものは錬金術師としてはそれほどではないと言われている。魔力回復ポーションの特徴を知っているな? それの回復量に影響が出たとの報告がある。同じ星3つの錬金術師でも線がクロスしていた錬金術師の方が、平行線の錬金術師よりも回復量が多かったのだ。魔力操作の実力だけでは説明が付かない位に回復量の差があった。その実験から、交点が多い錬金陣の方が出力が大きいことが導き出せた。そして君の錬金陣は六芒星だ。六芒星は交点が6つが普通だ。だが君のは13点だ。15点の錬金陣よりは小さいかもしれないが、普通の六芒星よりは出力がかなり大きい。交点が13点だからね。だから才能としてはかなりいい方だ。星7つの才能では上から3番目の才能だ。…稀に六角形とかいう0点の者もいる中で、13点とはいい才能を貰った方だと私は思うよ。それに六芒星の錬金陣の方が美しい。効率を重視する15点の錬金陣よりもいい錬金陣だと言えるな。特に刺繍した際には映えるだろう。」
「ありがとうございます。…これを刺繍しないといけないんですね。」
「ああ、星の多いものは皆悩むんだ。君も大いに迷いたまえ。しかし、しっかりと刺繍したものを持っておくのをおすすめしておこう。特に13点の錬金陣だ。簡易刺繍とは出力が全然違うぞ。」
「簡易刺繍とは出力も変わってくるんですか…。」
「ああ、変わる。劇的に変わると言っていい。魔力操作を錬金陣に割くことが無くなるからな。才能が多い奴ほどしっかりと刺繍をしたものを持つ価値が大きい。…まあ、言いたいことは解る。皆それで悩むからな。持つ者の悩みと思ってしっかり刺繍することをおすすめしておこう。」
「解りました。頑張って刺繍します。」
「ああ、ぜひそうした方がいい。さて、錬金陣の呼び出しができたから後は自由に形を変えてみろ。永明派の授業も幽明派の授業もこれで半分は終わったと思っていい。さあ、今からは遊びの時間だ。実験場を一度でも観たか?」
「観ました。沢山建物が建ってました。」
「あれも錬金術で作った物だ。強度を補強するために魔石を使ってはいるが、素のままの強度でいいならこの箱庭でも建てることができる。何か建物を作ってみろ。そうだな、自分のいた家なんかをイメージするといい。そんな感じで魔力操作を使って土を動かすんだ。」
そんな訳で30分程魔力操作で土遊びをした。めっちゃ楽しい! やっと錬金術している感じがする。新しいものを作っては壊し作っては壊しと遊ぶ。まるで自分が創造神になったかのようにパノラマを作っては壊す。すごく楽しい。でも30分はやりすぎた。魔力不足でふらふらになりそうだ。先生は笑っている。色んなものを作ったからな前世にあった三角のタワーのミニチュアなんかも作ったりした。いやー本当に楽しかった。魔力が足りないのが恨めしい。
「いやー沢山作ったね。中々にいい想像力をしているな。特に三角のタワーは良かった。あれは面白いな。何かに使えないか考えてみたくなった。」
「疲れました。魔力がこんだけしかないのが恨めしいです。もっといろいろ作ってみたかったんですが。もう少しで空っ欠です。」
「魔力の量は通常よりも少し多い程度だな。君で大体45分位この錬金アイテムを触っていたことになる。少ない奴は10分でバテるし、多い奴は3時間触っていてもケロっとしてやがる。普通の奴は30分って所だろう。まあ、いい錬金陣を貰ったし、魔力も通常より多いとなればいい方だろう。」
「そうですか。後2時間くらいは何をすればいいですか?」
「そうだなあ、自由に質問してくれていいよ。錬金術に関することでもそれ以外でも何でもいいよ。遠慮はしなくていい。」
「解りました。先生は貴族ですか?」
「元がつくがな。」
「貴族の食事って美味しいですか?」
「美味しいかどうかと言われれば、余り美味しくなかったな。食堂のスープは飲んだか? あれの方が美味いと感じた。」
「貴族の食事って香辛料を沢山使った料理ですか?」
「なんだ、知っているんじゃないか。そうだよ、香辛料をふんだんに使った料理だ。私は平民の食事の方が舌にあったな。あの辛すぎるのは苦手だった。」
「やっぱりそうでしたか。」
「ん? 知らずに言い当てたのか。君はそれほどに食に入れ込んでいるのか。料理の才能でももらったか? …それとも暴食に呑まれたかな?」
「料理の才能は持っていないですし、暴食に呑まれる以前の問題です。もっとおいしいものがあっても僕はいいと思っているんです。」
「食事を豊かにするのも錬金術師の仕事の一つだよ。私たち黎明派のね。しかし、料理をどうのこうのという奴は黎明派でもいなかったと思うな。」
「なら僕は黎明派に入ろうと思います。今よりも美味しい食事を食べたい、色々なものを食べたいので。そんな理由でもいいんでしょうか?」
「いいと思うよ。錬金術師が10人いれば10人とも何を成そうとするものも違うからね。」
「黎明派って基本的には何をする派閥なんですか? 僕は基本的にどの派閥も究極的には寿命を失くすことを考えているって聞いたんですが。」
「ああ、それで合っていると思うよ。永明派は簡単だね。不老不死の霊薬を作れないかが究極的な目標だ。あそこほど解りやすい所は無いと思うよ。造命派はちょっと変わっているんだけどね、新たな命の創造をしようとしているんだ。それで自分の複製を作り出す。そうすれば自分が何代にも渡っていけるって考えているんだ。鉄迎派は魔物を討伐することによって肉体と同時に魂も鍛えられると考えている。魔物を討伐する限り、肉体と魂は若いまま維持されるんじゃ無いかと仮説を立てているんだ。…本当かどうかなんて答えはまだ出ていないが、鉄迎派には戦闘に関してだけだけど、星を超えさせる装飾品も作り出しているから、あながち間違っていないんじゃないかって言われているよ。幻玄派も中々に特殊だとは思うね。幻獣を理解し解析しきれば、人類も幻獣に昇華できるんじゃないかって考えている。幻獣には寿命が存在しないと言われているんだ。だから人間を幻獣にしたい、そう考えて永遠の命をって感じだね。幽明派はアンデッドになれば寿命なんてなくなると考えている派閥だ。だから高位のアンデッドを召喚しようとしたり何かとお騒がせな派閥だけど、一番不死に近いんじゃないかって言われているよ。不老不死では無く不死なだけだから永明派とは相容れないんだよね。そして私ら黎明派は豊かに楽に生活していれば、人の寿命はそもそも伸びるんじゃないかって考えている派閥だ。一部上の人たちは伸びるじゃなくてそれが永遠に続くんじゃないかと考えてるみたいだけど、私は人間は寿命というものがあるに1票だね。それでも、永遠の命は無くとも生活を豊かにしたいとは思っているけどね。」
「じゃあ、僕の目指すところは食生活を豊かにするって所ですかね。今のところは。」
「それでいいんじゃないかい。もし暇だったら私たちのゼミに来な。1年の間は授業で忙しいのかもしれないけど、1年でも派閥のゼミに出てもいいんだ。暇ならおいでよ。」
「管理棟の5階から8階の所にある奴ですよね。なんていうゼミ何ですか?」
「豊穣会だよ。年中とれる農作物や香辛料、治水なんかを主にやるゼミだ。君が来るんなら料理もゼミの内容に入れてしまえばいいんだから。作物も美味しく食べられる方がいいだろうし、それに黎明派にも新たな風を吹かせたいんだ。内容を追加するのも丁度いい。」
「新たな風ですか?」
「そうなんだよ。幻玄派が今盛り上がっているんだ。ほんと最近、幻獣の寿命が少なからず長いことが証明されたんだよ。たしかジュディ=メンドーサが論文の発表をしたんだ。」
「え⁉ ジュディさんですか?」
「おや? 君に錬金術師のイロハを教えたのは彼女だったのかい?」
「そうです。マルマテルノロフの研究をやってて、僕が大きなマルマテルノロフの鱗を見つけたんです。」
「あらー、幻玄派に新たな波を立たせたのは君の発見だったのか。…幻玄派には入らないんだね?」
「そっか、ジュディさん上手くいかなかったら会うかもしれないって言ってたけど、上手くいったんだ。…僕自体は幻獣にはそれほど興味が無いので、黎明派の方がいいです。」
「そうかい、研究職になるのかい? それとも3年で何処かの領に行くのかな?」
「3年かは解りませんが、何処かの魔境でお店をしたいと考えています。」
「成る程成る程、まあ資格は十分、君のやりたいことがしっかりしているんだし、研究テーマもゼミの内容と遠からずだし、良いことじゃないか。8日後位だったかな。集まりがあるんだ、新年のね。そこに君も来るかい?」
「お邪魔じゃ無ければ行きたいです。」
「そうかい。私はメラニー=カッセルだ。君は?」
「ヘルマンです。」
「ヘルマン君ね。じゃあまた5階に予定を張ってあると思うから、良かったらきて頂戴。」
「はい分かりました。」
「さあ、まだまだ授業中だよ。次の質問は何かな?」
長々と質問会に付き合ってもらって、時間一杯で授業は解散。さて午後は幽明派の授業だ。場所は 6番棟0703号室移動時間は1時間あるけど隣だし、走らなくても間に合うだろう。さてさて、次はどんな授業になるのかな。
面白かった面白くなかったどちらでも構いません。
評価の方を入れていただけると幸いです。
出来れば感想なんかで指摘もいただけると、
素人読み専の私も文章に反映できると思います。
…多分。